Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

姉がおかしくて困る

2011/09/01 17:08:14
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 姉の静葉が最近少しおかしくて困っています。

「秋ですよぉー!あははははははははは!!!!」

 満面の笑みで秋を告げる弾幕を人里に放っています。弾幕といっても備蓄してあったドングリですが。
 鬱陶しそうに見上げる人間たちの視線が痛いです。
 そもそも唐突に秋を告げていますが、今はまだ残暑厳しい八月です。あと数日で九月ではあるわけですが、
流石に秋だと言い張るのは難しい気もします。山の木々はまだ青々としているわけですし。
 そのあたりを問い質してみたところ

「いいこと、私や私の仲間は、秋が来る、とは言わないの。何故なら秋が来ると思った時にはもう既に秋が来
ているのだから……秋が来た、なら使ってもいいわ」

 などと訳の分からないことを言い始めました。つまり、どういうことなのでしょう?

「つまり、私が秋が来たと言ったら、その瞬間から秋になるということよ」

「そんなの無茶苦茶だよお姉ちゃん」

「いいじゃないちょっとぐらい、どうせすぐに冬が来ちゃうんだから!少し秋が長くても誰も困らないんじゃ
ない」

 私たちの都合で季節の移り変わりを左右するのも迷惑な話ですし、少しも秋らしくない気候なのに秋だと宣
言されても人間たちは戸惑うだけではないのでしょうか?
 やはり迷惑だったみたいですね。東の空から妖怪退治に定評のある巫女が飛んできました。

「お姉ちゃん、巫女が来た!」

「やばっ、逃げるわよ穣子!!」

 私たちはスカートの端を摘まんで一目散に逃げました。
 
 こんな具合に、以前は物静かだった姉が最近なんだかおかしいのです。なんででしょう?困りました。





「秘蔵のドングリをばら撒いて春告精の真似をしたんですもの。私たちの人気も上昇したんじゃないかしら」

 姉の奇行はどうやら春告精の真似だったようです。しかも人気獲得を目的とした行動だったみたいですね。
 しかしそもそもの春告精の人気が微妙な気もしますので、残念な成果しか得られないような気がしてなりま
せん。

「春告精の人気が微妙?まあいいわ、あんなのは所詮ウオーミングアップですもの。日本語でいうと準備運動
ドイツ語だとBaumkuchenね」

 それは木の年輪っぽいお菓子です。準備運動はEin Aufwarmenらしいですね。(エキサイト翻訳)

「とにかくここからが本題よ穣子。私たちの人気がイマイチなのは何故か!?」

 びしっと指をさされてしまいました。いつもはおっとりとした表情の姉ですが、今は眉のあたりに力が込も
っています。

「え、えっと」

 私としては、普段は人気がどうとかいう尺度で物を考えないわけですので、急に問われても返答に困ってし
まいます。私たちの人気がイマイチだなんて別段気にしていませんでしたし。
 
「人気が無いかどうかは分からないけど、私たちのことを好きだって言ってくれる人たちもちゃんといるんだ
から、その気持ちを大切にしていけばいいかな、って」

「確かに、蟹だとか芋だとか呼ばわりされるのも愛情の裏返しだと受け取れなくもないわね」

「だから人気とか気にしなくてもいいと思うんだけど」

「……甘い!」

 甘かったみたいです。

「いい、穣子?私たちは風神録だけでなく有り難いことにダブルスポイラーでも出演の機会を与えられました。
運が良かったとしか言いようが無いのだけれど。でもね、これから先の作品で、はたして私たちの出番がある
と思う?」

「それは……」

「いまいち微妙な私たちの人気で、出番があると思う?」

 力説する姉の頬は落葉の椛のように真っ赤です。そんな様子で問い詰められると、なんだか私にも今後は出
番も無くて、ただただ忘れ去られるだけなんだという危機感が湧いてきました。

「ど、どうしようお姉ちゃん!」

「慌てる必要は無いわ。幸運なことに私たちには、生まれながらにして人気キャラになれる素質があるんです
から」

「人気キャラになれる素質?」

「ええ、よく考えて穣子。私たちは秋姉妹、つまり姉妹キャラなのよ。スカーレット姉妹に古明地姉妹。ここ
幻想郷で姉妹キャラというは、絶大な人気を得られる属性のひとつなのよ!」

「……綿月姉妹」

 呟いた次の瞬間、私は空を見上げていました。どうやら姉の電光石火のフルネルソンスープレックスホール
ドに組み伏されてしまったようです。後頭部がとても痛いのです。





「姉妹キャラという強力な属性があるにも関わらず、なぜ私たち秋姉妹は人気がイマイチなのか?この暑い夏
の間、姉はひたすら考えていたのよ」

 まだ後頭部が痛いです。

「穣子が子供用プールではしゃいでいる時も、穣子がだらしない顔でスイカバーを食べている時も、姉はひた
すら考えていたのよ。そして姉は長い長い思考の末に、ひとつの結論に思い至ったのです」

「思い至りましたか」

「思い至りました。不人気の原因は穣子、あなたにあったのよ」

 衝撃的な結論です。子供用プールが狭くて姉が入れなかったことを恨んでいるのでしょうか?それとも姉の
分のスイカバーを私が買ってこなかったことを恨んでいるのでしょうか?

「スカーレット姉妹や古明地姉妹と比べてみれば明白なことです。これら姉妹の人気の秘密は、妹が狂ってい
るという点。それに比べて穣子、秋姉妹の妹であるあなたはどうですか?」

「え、えっ!?」

「あなたは狂っていない、それが不人気の原因。つまり裏を返せば、あなたさえ狂えばそれだけで秋姉妹も大
人気キャラになるという理屈」

「ほ、ほら見てお姉ちゃん、両方左足だよっ!」

「善は急げというわけではないけれど、今から穣子に狂ってもらいます」

 コンプレックスを地味に抉る私の捨て身のアピールも姉にはこれっぽっちも効きませんでした。このまま姉
に流されて、私は狂い系キャラの仲間入りをしてしまうのでしょうか?

「親切な天狗さんがフランドールとこいしの狂ってるポイントを資料に纏めてくれました。この資料に従えば
自然と穣子も狂えて、人気沸騰間違いなし」

 嫌な予感しかしません。親切な天狗といったあたりとか。
 人の気も知らずに、姉は暢気に資料を捲っています。

「ふんふん、なるほど。具体的にどうすればいいのか書いてあるのね」

「具体的に?」

「そ、まあとりあえずやってみましょうか。えーとなになに…………目を潰します」

「ちょっと待って!!そんな、無理無理無理無理!!!!」

「なに言ってるの、無理かどうかなんてやってみないと分からないじゃない」

「いや分かる、全力で分かるから」

「だらしないわね。そりゃ少しは痛いかもしれないけど、それで人気キャラになれるんだったら安いもんじゃ
ない」

 少しは痛い程度で済むはずがありませんよ常識的に考えて。

「じゃ、じゃあもしお姉ちゃんが私の立場だったら、できるの?」

「絶対に嫌!!」



「自分だって出来ないんじゃん、ずるいよ」

「私は姉だからいいんです。妹じゃないのだから」

「それによく見たらこれ、第三の目を潰すって書いてあるし」

「穣子、それじゃあなたの第三の目はどこにあるのかしら?」

 先ほどから大ピンチです。うっかり魚の目とか口を滑らしたら、膝から先をごっそり持っていかれそうなほ
どのピンチです。

「……ありません」

「じゃあ第一の目を」

「いや、だから駄目だって!そんなの絶対無理!!そんなバイオレンスに満ち溢れた方法じゃなくって、もっ
と平和的な方法無いの!?」

 姉は心底残念そうな顔で、今一度天狗の資料を捲ります。なんで残念そうなのでしょう?

「他には、えーと、四人に分裂します。かっこいい剣からすごい炎を出します。背中から枝が生えています。
夢枕にご先祖様が総立ちします」

「どれもこれも無理そうなのばっかり。最後のなんて訳が分からないし」

「あ、ねえ。これなら穣子でもできそうじゃない?」

 微笑みながら姉が指差すところには「腕が短い」と書いてありました。
 姉がノコギリを握り締めているのは何故でしょう?気の効いた冗談のつもりなのでしょうか?冗談にしては
目が真剣なのですが。
 左手にはアロンアルファを持っていますね。ノコギリとアロンアルファで一体なにをするつもりなのでしょ
うか?というか、やめてそれ絶対無理だから。

「お、お姉ちゃん……この資料デタラメばっかで役に立たないよ……たぶん」

「デタラメだなんて言ったら天狗さんに失礼じゃない!」

「そ、それより狂った妹さんを直接見て参考にするほうがいいと思うな」

 私の説得が功を奏したのか、姉はノコギリを仕舞ってくれました。不満そうに舌打ちしたのが少し気になり
ますが。

「わかりました。なら早速、紅魔館へ……」

 姉のスカートを掴んで引き止めます。フランドールさんを見学するのはできることなら遠慮させて欲しい所
です。部屋に入った途端にきゅっとされてドカーンとされてしまう運命が私にも見えます。ドカーンとされて
しまっては、おくりびとの方もどこから手を付けていいのやら途方に暮れてしまうことでしょう。死に方を選
べるのならば、やはり肉塊よりもちゃんと五体揃った形のほうがいいです。というか死ぬのは御免です。

「こいしさんのほうが参考になるよ、きっと」

「……そうですか」




 そういったわけで、私たち姉妹は守矢神社にやって来ました。
 古明地こいしさんはここの神様、諏訪子様と神奈子様のお二人と、なにやらお喋りしています。
 諏訪子様は私たち姉妹の上司にあたる稲田姫様のご両親を役使している方ですので、正直苦手です。上司の
親の上司といったところでしょうか?
 神奈子様は注連縄を背負うというレディー・ガガでも尻込みしそうなファッションセンスのお方ですので、
できればあまり近づきたくな……
 とにかく私たちは藪の中に身を隠して様子を伺うことにしました。

「前にさぁ、ペットに神様の力を与えて欲しいって言ってたよね。あれやってあげようか」

「えっ、本当に?恋焦がれるような陰惨な神様の力を私のペットに与えてくれるの?」

「いや、ご期待に沿えるかはわからないけど……」

「ありがとう!じゃあカーくん連れてくるね」

 こいしさんは嬉しそうに小躍りしながら神社を後にします。そのカーくんというのがこいしさんのペットの
名前なのでしょう。名前からすると河童か烏かカーバンクルかといったところでしょうか?さとりさんの言う
ところのペットが人間に化ける烏や人間に化ける猫だったことを考えると、油断なりませんが。

「連れて来たよー!」

 早いです。こいしさんが手に持つリードの先に繋がれているのは、薄いピンク色をしたカマボコのような形
状の……というか、カマボコでした。カマボコだからカーくん……。
 河童やら烏やらだなんて全くもって甘い予想でした。練乳苺にメイプルシロップをかけたかのような甘さで
す。リードに繋がれ、板の上に張り付いている一匹の寡黙なカマボコ。生物ですらありません加工食品ですど
う見ても。

「それが……こいしの言うペット?」

「うん、可愛いでしょー」

「……は、はぁ」

「あれ、カーくんどうしたの?え、お腹が空いたから餌が食べたい?駄目だよ、お家に着くまで我慢するの、
わかった?」

 カマボコと会話する少女というのは初めて見ました流石に。

「じゃ、じゃあその……それに神様の力を与えれば……いいの?」

「うん、お願いしまーす」

 諏訪子様がカマボコに向かって真剣な表情でなにやらムニャムニャやっています。記念撮影をしたくなるよ
うなとても微笑ましい光景です。
 やがて諏訪子様が立ち上がって、終わったよと呟きました。どうやら無事、カマボコに神様の力が与えられ
たみたいです。

「わぁ、ありがとう!よかったねカーくん」

 こいしさんはカマボコを胸に抱きしめて、跳ねるように帰っていきました。

「成り行きでカマボコに倭大国魂神の力を与えちゃったけど……これで良かったのかなぁ」

「カマボコって、生き物じゃなくて食べ物だったわよね」

「たぶん……」

「早苗が支度して待ってるわ、とりあえずご飯にしましょうか」

「……うん」

 諏訪子様と神奈子様は不可解な表情を顔に張り付かせたまま、神社の中に帰ってしまいました。
 不可解な表情はきっと私も同じです。実際に目の当たりにしたこいしさんは、狂っているというかなんとい
うかそういう生易しい表現のものじゃなくて、とにかくあれは私にはハードルが高すぎます荷が重いです。
 そんな混乱中の私の肩を、姉が力強く叩きました。

「あれなら穣子でもできそうよね」

 あれというのは具体的に何を指しているのでしょうか?考えたくありません思考を止めたいです。

「……お姉ちゃん」

「ん?」

「もう、こんなの止めようよ」

 言いながら声が震えてしまいました。頬をなんだか熱い物が伝っていく感触もあります。

「私、人気なんて無くても、出番なんて無くてもいいよ……お姉ちゃんさえ元気でいてくれたら。二人で笑っ
て暮らせたら、他にはなにも要らない。私はお姉ちゃんさえいてくれたら……それだけでいいの」

「穣子……」

 姉は私の涙を拭ってくれました。そして優しく抱きしめてくれました。

「ごめん、ごめんね穣子。お姉ちゃんが間違ってた」

「お姉ちゃん……」

 危ないところでした。あのまま流されていたら、紐に繋いだカマボコを引き摺って人里を闊歩する羽目にな
っていたかもしれません。そんなことしたら一体どうなってしまうのでしょう?恐らく私の胸のときめきメモ
リアルに黒いヒストリーが刻み込まれるのは確実でしょう、ああ恐ろしい!
 カマボコを引き摺り歩くことによって背負うはずのリスクを考えたなら咄嗟の嘘泣きだって全然安いもので
す。

「帰ろっか、穣子」

「うん」

 姉の物静かで優しい笑顔を見て安心した私のエプロンから、何かが落ちました。

「あら」

 エプロンのポケットには何を入れていたのでしょうか?待ってください今から思い出します……あ、あれか。
あれ、はちょっとヤバいかもしれませんね。

「招待状?」





   
 秋 穣子 様

 謹啓

益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
今年もお陰様で収穫の季節を無事に迎えることができました
つきましては収穫における豊作祈願の願いを込めまして
心ばかりの祝宴を催したいと存じます。
ご多用中誠に恐縮ではございますが
ぜひご臨席を賜りますよう お願い申し上げます。

               幻想郷 人間の里 一同


 日時    9月11日(日曜日)
       開演    19時00分
      (開演20分前までにお越しください)


 場所    ヒルトン東京  4階 菊の間




「……そうですか収穫祭ですか。ヒルトン東京で豪勢に」

「あ、あのねお姉ちゃん」

「招待されているのは穣子だけよね。私は招待されてないのよね」

「だってお姉ちゃんはほら、収穫の神じゃないから……」

「……」

「……」

「…………目を潰します」

「えっ、ちょっ、待っ……いやー!!」




  終









 
気がついたら既に九月になっていました。

春を売る商売があるのなら、秋を売る商売があってもうわなにをするやめろ!
生煮え
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
カーくんwww
ちょくちょく入るボケが面白かったですw
2.名前が無い程度の能力削除
秋姉妹は大好物もとい大好きです、可愛いです。

実際なんで人気がないのかわからない。
3.名前が無い程度の能力削除
静葉さまにどんぐり投げつけられたい
4.名前が無い程度の能力削除
「……夢幻姉妹」



痛い痛いごめんなさい栗のイガぶつけないで
5.名前が無い程度の能力削除
「……プリズムリバー姉妹」


あ、やめて!つぶれた銀杏を投げつけるのだけはやめて!
6.名前が無い程度の能力削除
個人的に、静葉の能力は大地に力を与える能力だと思っていますね。
紅葉→落葉→腐葉土→作物の栄養って事で。

静葉が仕事をしないと、5~10年のサイクルで収穫にダイレクトに響きそうだなぁと、この手の話を見る度に思うのですよ。
……そんな事を考える人もいるんだよ!
だから静葉様、落ち着いて!
7.名前が無い程度の能力削除
ホント、秋姉妹はどうして人気が無いのかわかりませんねー(棒)
ところで豊姫さまはともかく、依姫さまに人気がないとは頂けませんなうわちょ豊姫さま扇子をお仕舞い下さ(原子レベルで分解
8.ぺ・四潤削除
ちょっとずつスクロールして読んでたもんだからまず微妙にリアルな招待状の文面に笑ったのち
日時 9月11日「ほうほう、例大祭SPか。」
開演 19時00分「ほうほう、アフターイベントか。会場はやっぱりビッグサイトだろうな。(スクロール)」
場所    ヒルトン東京  4階 菊の間   ←画面をウエットティッシュで拭くことになった。
この微妙な行間が狙ってやったものだとしたら完敗だ。
9.oblivion削除
なんでヒルトン東京なんだ……!(ダイワハウスっぽく)
10.名前が無い程度の能力削除
特徴がないのが特徴
11.名前が無い程度の能力削除
宴会は明日ですね!
穣子ちゃん健康に行けるといいね!
12.名前が無い程度の能力削除
ヒルトン東京でトドメ刺されたw
秋姉妹って秋以外で輝いてる気がしてならない