※注意
百合だろうね
※あらすじ
新コーナー「八雲紫の突撃人形師」
しかし魔法使いらしくない台所だと、お粥を作りながら食材の入っている戸棚を見て紫は考えた。
◆◆◆
どうやらアリスの病気の原因は有害物質の溜め込み過ぎだと分かった。
溜め込んでしまったのは魔法使いとして新人だからと言うのはあるがここまで溜め込むとは。
こんなに短期間でここまで蓄積するのは想定外だった、もう少し様子を頻繁に見るべきだったか。
しかし己に科した週一のルールを破るわけにもいかず、結果としてアリスは倒れてしまった。
ううむ、アリスはもう「ゆかりん☆刷り込み大作戦」に気がつき始めたかもしれない。
最初にアリスに家を与えたのは間違いだったか、八雲家で保護するべきだったか。
―――――――――アリスに何かあったら・・・腕の二本や三本飛んでも仕方ないわよね?
・・・それもいかんか、あれは何かあったら平然と殺りかねない
ともかくアリスは見かけや行動に反してなかなかの努力家だ、あの霧雨魔理沙と同じように。
だからこそ、こんなに蓄積してしまうまで気がつかなかったんだろう。
しかしアリスと魔理沙には決定的な差がある
少なくとも魔理沙は漠然とし過ぎではあるが目標に向かって努力をしている
それに比べてアリスは目標を持たない、目標が無い。
「自律人形を作ってしまった後のビジョン」がいまいち持てていない感じがする。
「自律人形を作ってしまってしまった後」のアリスはどうなるのだろうか。
そのまま研究に励むか、それともそのエネルギーの矛先を見失うか。
何かに向かって研究していたり何かを退治する為に鍛錬を積んでいた者にはよくある事だが目標を失ってしまった時放心状態に陥ってしまう事がある。
それは、中々恐ろしい事だ
そう言えば、アリスは自律人形を作って何がしたいのだろう。
人形師としての誇りか、それとも別の事か、聞いたことも無かった。
一度聞いてみるか。
お粥が出来上がった様だ、アリスは・・・寝ているか。
今日はアリスの家に泊まり込むつもりだし、どうするか。
◆◆◆
それから数刻後、思惑入り乱れる紫のダブルベットに降り立ったアリスだがここで紫が待ったをかけた。
「眠るのはまだ早いわよ、ついでに今夜は寝かさないわ。」
「冗談も大概にしてくれないかしら。」
アリスは紫を睨みつけるが紫はたいして動じていない様だった。
「可愛い顔が台無しよ?」
「魔女に可愛さなんて必要ないわね、いざとなれば魅了の魔法を使えばいいし。」
「ふーん・・・」
紫は少し考えた風な仕草を取った
「そうしなくともアリスは可愛いと思うけどね」
アリスはいつの間にか自分が紫の方を向かされていた事に気がつく。
くい とアリスの顎を持ち上げた紫の目にはアリスが映っていた。
そして、紫もアリスの蒼い目の中の自分を見ていた。
暫く見ていると自分が見ているのが果たして相手なのか自分なのか分からなくなる錯覚を抱く。
もしかしてアリスが見ているのはやっぱりアリスなのかもしれない
もしかして紫はアリスでアリスは実は紫なのかもしれない
「・・・ふふ」
不意に紫が笑った
その声でアリスはやはり自分はアリスなのだと気がつく
「何をしたのかしら。」
「私はただアリスを見ていただけですわ。」
アリスは納得できなかったが、紫が見ていただけと言うのは本当のような気がしたので何も追及はしなかった。
◇◆◇
そんなやり取りに疲れたのでさっさと寝てしまおうとするアリスに紫はしっしっとまた手を振った。
「さて、就寝の前にやる事が在り〼。」
「在り〼?」
「細かい事は気にしたら負けのルールよ。」
「ふぅん・・・確かに歯は磨く事?さっきやって来たわよ。」
「・・・アリス、最近埃っぽくない?」
「あー・・・、確かに最近掃除もできなかったし風呂も入れなかったわね。」
アリスはそこまで言って沈黙した
「・・・・・・ん?」
「と、いう訳で一緒にお風呂に入りましょう。もう用意はしてあるわ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「What ?」
「You must go to bathroom with me.」
「・・・who?」
「You」
「・・・me ?」
「Yes!」
「”I must go to bathroom?”」
「Yes of course !」
「With you?」
「Yes!」
「・・・really?」
「・・・」
「・・・」
ガタガタッ
ガシッ
立ち上がって逃げようとするアリスの腕を紫が掴んだ。
何とかして逃げようとするアリスだが当然逃げ切れるわけも無く無駄なあがきをするだけだった。
「・・・私一人では入れるわ。」
「さっきまで可愛い寝顔を見せていたのがよく言うわ。さあ、行くわよ。」
「・・・・・・」
ぐぐぐ・・・
「・・・・・・」
「ほら、やっぱりいつもより力が出てない。まあ全力で来られても負けないけどね。」
「・・・駄目?」
「駄目、さあ強情張ってないでさっさと来なさい。」
すとん
アリスと紫はそのまま風呂場に通じるスキマに落ちていった。
◇◆◇
少女入浴中・・・
(描写はスキマ送りにされました)
◇◆◇
「良いお湯だったわね。」
再びベッドの上に戻ってきた二人はそんな会話を交わしていた
ほこほことまだ湯気を立てているアリスは水色を基調とした淡色系のパジャマを
一方紫の方は控えめな装飾が施されたネグリジェを身に着けていた。
「無理やり体の隅々まで洗っておいてよくもまあのうのうと・・・」
アリスはそこまで言って語尾を濁らせた
「アリスの体って白いわよねー、肉付きも思ってたより悪くないみたいだし。感心感心。」
「・・・はぁ」
にひひと間の抜けた紫の笑い声を聞いたアリスは怒る気力さえも失せてしまったようでぐいと枕を抱きしめた。
「どうしてあんたはそう人の心に軽々しく踏み込めるのかしらねえ。」
アリスは憮然とした様子でそう呟いた
「勝手に家に入って来るし勝手に料理を手伝うし勝手に修行の助言をするし落ち込んでる時も勝手に励ましてくるし・・・」
ぶつぶつと呟き続けるアリスとは対照的に紫はアリスの事をじっと見つめていた
その目はアリスを見ていると言うより寧ろアリスそのものを見ているような眼差しだった。
どこか儚い物を見ている様な寂しげなその表情は、しかし長くは持たなかった。
「ふっふ~ん」
「うわっ ちょ、離しなさいよ。」
紫はがばっと体勢を起こしたと思うと唐突にアリスを後ろから抱きしめた。
いきなりの行動に枕を手放してしてじたばたとするアリスを紫はどうどうと静める。
「良い匂いね~」
「あ、ちょっ、嗅がないでよ」
「ういい奴めういい奴め!髪の毛もふわふわでまるで小動物の様ね。これは果たして子犬か子猫か、ううむ。」
後ろから頬をすりすりと髪の毛に擦り付ける紫にアリスは溜息とやる気を吐き出した
「犬はどっちよ。」
「はぅ~わんわん。」
「・・・やっぱあんたには似合わないわ、それ。」
「む、酷いことを言うわね。」
紫はむくれていたが、アリスはやはり似合わないと思った。
◇◆◇
「さ~て、今回の目玉人形紹介の時間がやってまいりました。」
「その前にそろそろ離れてもらえないかしら。」
「却下」
「即答?」
相変らず背中に張り付いたままの紫に向かってアリスは嘆願したが敢え無く却下されてしまった。
もう今日の所はしょうがないと割り切ったアリスとは対照的に紫はてーれってれーと妙な擬音を付けながらスキマを開き始めた。
現われた人形は白髪に白いスーツを着た人形だった
にこやかな表情のその人形は、人形と呼ぶには些か大き過ぎた。
「これは見かけによらず呪いの人形として外の世界ではとても有名な人形です。」
「・・・外で有名な人形を気軽に幻想郷に持ち込んじゃっていいの?それと呪いの人形なんて洒落にならないから家に持ち込まないでくれるかしら。あとその大きさじゃとても人形とは言いにくいわね。」
「お、全箇所に突っ込んだわね、合格合格。」
紫は偉い偉いと言いながらアリスの髪をくしゃくしゃと撫でた
一方のアリスはやはり憮然とした表情を崩さなかった。
「この人形は朝には返す予定だから安心なさい、確か道頓堀とか言う地名の所にあった店の看板人形で呪いの効果は低迷ね。」
「呪いの人形が看板人形なんて聞いたことが無いわ。」
アリスはやはり憮然とした口調でそう呟いた。
「いやいや、どうやら人間が罰当たりな事をしたらしくてその結果人形に憑いてた何かの性質が悪質化したらしいわ。」
「付喪神ってやつ?」
「厳密には違うけどそんな感じね。」
「何でそんな物うちに持って来るのかしらね。」
アリスは納得出来ないといった表情だった。
◇◆◇
それから紫は様々な人形をアリスに見せた
「で、これは夜毎に髪が伸びる日本人形でね。」
「ふーん・・・」
しかしアリスはやる気のない声を出すのみで紫の声に反応しない風だった。
どこか宙に浮いた風な声で返事をするその顔は何か違う事を考えているように感じられた。
「・・・何かあった?」
「いや、何でも?」
そう言って紫の方を見つめるアリスは、紫を見ている様で見ていない様だった。
もっと深く 深く 紫の奥底を見つめるような視線だった。
――――幻視の目、ね
紫は愉快そうに目を細めたかと思うとそのままアリスを後ろに押し倒して頭を膝の上に乗っけさせた、所謂膝枕の体制だ。
「・・・何すんのよ。」
「いいから、そのままの姿勢で聞きなさい、何かあったの?」
紫はアリスの顔を覗き込んで聞いた。
一時の沈黙が辺りを支配する
「・・・あんたってさぁ」
暫くしてアリスは口を開き始めた
「私の家に勝手に来るわそれで勝手に物事進めるわするけど不思議と腹が立たないのよ。魔理沙とか幽香とかなら文句の一つも言いたくなるけど、それが不思議なのよね。」
白い腕がするすると上に伸びてゆき、華奢な指が紫の頬を捕えた。
紫もアリスの白い頬を撫でた
「何なのかしらね、人の心にするりと入って来るというか、何と言うか。」
少し虚ろな青い瞳は何かを回想しているように揺らいでいた。
「私は他人の侵入を許すつもりはないのにいつの間にかあんたが居るの、そしていつの間にかそれが普通になっている。」
まるでそこに居る紫を確かめる様に
アリスはゆっくりと紫の顔を撫でつけた。
「ねえ、あんたは何なの?何が目的で、何をしようとしているの?」
その問いに対して紫は、やはり薄い微笑を浮かべるだけだった。
「私はあんたが分からないの、あんたが怖いのかもしれない、それすらも分からないの。自分の事すらもはっきりとは理解できないのよ。」
「アリス」
両手でアリスの頬を包み込むようにして、紫はアリスの目を覗き込んだ。
蒼い鏡の奥底にはアリスが眠っている様な気がしたが、残念ながら紫は自分自身しか見る事はできなかった。
「あなたの心はもう人じゃない、私と同じ妖怪のものよ。」
それはきっと求めていた答えでは無い
明確でも無い曖昧な答え
「あなたは人間じゃない、もう私達と同じ妖怪なのよ。それで十分だと思わない?」
だが紫は、それ以上の事は語らない
もうそれ以上語るつもりが無い事をアリスは知っていた。
それが八雲紫と言う妖怪である事をアリスは良く知っていた。
「そうかもね」
だからアリスはそう言う事しかできなかった。
◇◆◇
暫く話しているとアリスが眠そうに眼をこすり始めた。
「そろそろ寝ましょうか」
「ん・・・」
アリスはやけに大人しく紫の隣で横になった
「何か不思議な感覚ね、寝るときに隣に誰かが居るのって。」
アリスは誰に言うでもなくそう呟いた
紫は不思議そうな顔をしていた
「神綺は隣で眠らなかったの?あれの事ならそれぐらいしそうだけど。」
「うん、何度か言われたけど断った。」
ゆっくりと
明りに向かって白い腕が伸ばされた
「強く なりたかったから」
その眼には決意の炎が揺らいでいる様で
「頼っていたらそうなれないと思ったから」
紫は、知らず知らずのうちに息をのんでいた
「何の為にかは今でも分からないの、とにかく強くなりたかった、強くなったつもりだった。」
でもね、と
アリスは少し寂しげで悔しそうに濁した
「弱かった、私は何よりも弱かった、究極に頼っても勝てなかった。それほどまでに私は非力で無力だった、それが悔しかった。」
あの日、巫女と魔法使いと悪霊と妖怪が攻め込んできたあの日
少女はそれを否応無に自覚した。
「その為に、強くなるために、自律人形を?」
「馬鹿ね、そんな不毛な事をするわけないじゃない。」
くすくすとアリスは紫に微笑んだ
「人形師としてそれは一つの通過点よ、そこに行けば何かが見えてくるかもしれないと思ってるの。それに復讐なんてもう考えてないわよ、それは一度目に済ませたわ。」
結局勝てなかったけどね、そう続けるアリスの表情は、紫には何故か穏やかに見えた。
「じゃあ、もう寝るわ」
部屋の電気を消してうつらうつらと微睡みの中に落ちてゆくアリスに紫は一言だけ、優しく声をかけた。
「アリス、あなたがどこに行こうと、私は―――――」
――――――傍に、ずっと傍にいるから
もうその時には当の本人はすうすうと穏やかな寝息を立てていた。
普段の突き放す様な冷たさを感じない少女の寝顔を見て紫はいつもの様にくすくすと笑う。
まるで自分を押し隠すかの様に
くすくす くすくす
そうして紫はゆっくりと顔を下げてゆき
「ん――――」
二つの影は 一つになった
.
全てを滅ぼしてまだ余りある力を暴走させるアリス・マーガトロイド先生の次回にご期待くださいw
もちろん、って意味ならof courseですね
話はサクサク読めて楽しかったです
うっおー!くっあー!ざっけんなー!
何のためのスキマだよてめー!
良いゆかアリでした
次回作はゆかりんが一緒に寝たのに嫉妬した
神綺様の話ですね!
白い服白い髪でどんな人形かと思ったらまさかのカーネルさんでしたかwwww
神綺様が出てくる次回作がとても楽しみですw
まったく、アリスはひどい娘だ。いろんな人を妖を勝手に魅了して放置する。無自覚だから一層タチが悪い。
ならばこそ、ゆかアリを心ゆくまで堪能させていただきます。アリスかわいい。
ユカアリも珍しくていいかも