Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夢見る愚者

2011/08/30 18:44:24
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 夜空に輝く星は、どこまでも明るく、数多く瞬いている。
 星が輝く夜空は、余すところなく暗く、覆いつくさんと広げている。
 切っても切り離せない関係。隣にあり続けるもの。当たり前のように傍にいて、互いを魅せるのに必要な物。
 
 私たちの関係を表すのであれば、きっとこんな感じ。
 離れることなく、どこまでも一緒で。どれだけ時が過ぎようと、互いの時が終わるまで傍に居るものだと。
 無邪気に、無闇に、そう思っていた。





 雲一つない空。虫の声が合唱を奏でる妖怪の時間。
 月に照らされ、星が煌めく夜を私は見上げていた。十分、二十分。夏独特の生温い風が通り過ぎるたび溜息を吐いては、たった一つの姿を待つ。夜空を切り裂くように翔る魔理沙の姿を。
「……遅いわね」
 漏れ出そうになる欠伸を押さえながら、呟く。もう少し、もう少し。そう言い聞かせながら、来ないかもしれないと、ふと片隅で思ってしまう。
 そもそも約束なんてしていなかった。こんな時間に、普段の彼女は来ない。
 ただ何となく、来るかもしれない。
 そんな予感めいたものが、私をこの場に立たせていた。

 暫くして、魔理沙はやってきた。
 トレードマークの帽子を飛ばないように押さえながら、軽やかに目の前に降り立つ。
「よう。こんな時間に起きてるなんて、昼間暇すぎて時間の感覚でも狂ったか」
「こんな時間に来る暇人に言われたくないわよ。ちなみに素敵な賽銭箱はあっちよ」
「残念だな。今日は手ぶらなんだ」
「そう、なら――」
「霊夢」
 普段通りのやりとり。他愛もない軽口は、呼ばれた名前に遮られてしまう。
「何よ」
 小さく答えながら、けれど視線は合わせない。一瞬だけ盗み見た覚悟を決めた表情に、告げられる言葉が微かに想像できてしまうから。
 耳を塞ぎたくなる衝動を抑えながら、言いづらそうに紡がれる言葉をじっと待つ。
「私は魔法使いになろうと思うんだ」
 力強さを秘めた決意に、浮かんだ笑顔に、返事をすることもままならない。息苦しさが胸を圧迫して、呼吸の音が頭に響く。
 足下が覚束なくなる。しっかりと立っているのか、それとも座り込んだのか。自分がどうなっているのか分からない。
「まだまだ研究したいこともあって、やってみたいことがあるんだ。だから――」
 声が遠い。魔理沙の声が遠い。
 それでも竜巻のように、告げられた言葉が思考を掻き乱す。ぐるぐる、ぐるぐると。
 魔法使いになる。それは、あの子達のようになるってことで。人間を辞めるってこと。長く生きる。長く、永く。私を置いて。私が追いていく。私だけ人間で。
「私は魔法使いになるよ」
 私は一人になる。 

 それからどんな話をしたのか、あまり覚えていない。魔理沙が去った空を一人、気が付けば見上げていた。
 視界一杯に映るのは、手が届きそうな程大きく、瞬く星々。夜空を彩る煌めき。
「ああでも、だからって異変解決をしないってつもりじゃないし、ここに来ないなんてつもりもないぜ」
 変わらない。そう言って魔理沙は嬉しそうに笑っていた。人を辞めても、自分は自分だと、私たちの関係は変わらないと。
「魔理沙」
 呟いた名前は風にさらわれて、どこかへと飛んで行く。誰にも届かない。答える声もない。
「私たちの関係は、きっと変わるわよ」
 真っ直ぐに前を見据える彼女はきっと、いつか来る離別も覚悟している。それでも尚、魔法使いになると決めたのだろう。
 でも私は。
 一生、魔理沙の傍に居たかった。魔理沙が生きている限り、ずっと彼女の人生に居たかった。
 ――魔理沙も私にとってそんな存在で在りたいんだと、無条件に思いながら。
「私は、人間でいてほしいよ」
 けどその願いはもう、叶わないのだと思い知らされる。身勝手な想像だったと、突きつけられ現実が言い放つ。
 一方通行の思い。
 私は夢見る愚者だった。





 切っても切り離せない関係。当たり前のように傍にいて、互いを魅せるのに必要な物。
 けど星は、空よりも高く、遠い場所に在って。
 空の中に星は一つもない、空っぽなのだと。
 あの時初めて、私は知った。 
はじめまして、カノンと申します。
今までは読む専門でしたが、一念発起し書いてみました。
至らないところがたくさんあると思いますが、生暖かい目で見てもらえると嬉しいです。

苦情や意見、誤字脱字の指摘など書きこんでもらえたら幸いです。
カノン
http://twitter.com/kanon_wk
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ミジカイカナー?
2.名前が無い程度の能力削除
もうちょい色んな所を掘り下げて描写した方が良いかな?
何だか、急展開になりすぎて少しついていけなかったです…