涼を求めて命蓮寺を彷徨っていた私がたどり着いたのは、それなりに日が当たる縁側だった。
当然、風が通り抜けても日の当たる場所なんて涼を取るには不適切で、そのまま通り抜けるはずだったのだけど。
「……ん、すぅ」
気持よさそうに眠っているムラサを見つけたから、そんなことはどうでもよくなった。
取り敢えず、安らかな寝顔を眺めつつどうしようか考える。
悪戯してやるのも悪くないけど、折角寝てるのだから今しか出来ないことをしたい。
「どうしようかな……」
帽子をどけて見えた黒髪をぐしぐしと撫でるとくすぐったそうに体を震わせる。
けれど、彼女の眠りは深いからこれくらいでは起きないし、むしろ深くなるくらいだ。
ぬえに撫でてもらうのは気持ちいいから、なんて恥ずかしいことを言うから思わず殴ったけど。
「あ、そうだ」
いつか早苗が小傘にしていたことを思い出す。
組んだ脚の上に座らせて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
照れくさそうに、だけど嬉しそうな小傘を内心羨ましく思っていたものだ。
……二人きりのときにしろよとも思ったけど。
まあ、それはいい。
今の私は二人きりの状況なんだから別に構わないし。
ムラサも丁度座りながら寝てるし。
つまりまぁ、そういうことで。
「ムーラサ」
彼女の胸もとに背を預けようとして、
「あだだだだだっ!?」
叫びに慌てて飛び退いた。
◇
「ご、ごめん……その、ちょっと驚かそうとしただけで……」
「ん、大丈夫。ちょっと刺さっただけだし、悪気がないのもわかってるよ」
そう言ってムラサは屈託なく微笑み、小さく血が滲む傷に絆創膏を貼りつけていく。
「けど、驚いた。その羽根、刺さるほどだとは思ってなかったよ」
「うん、ごめん……」
「責めてるわけじゃないってば」
そう言われても、彼女を傷つけてしまったことは事実に違いない。
私のことを嫌いになったりはしないだろうけど、それで気が軽くなるわけでもない。
「……ぬえ。こっち来て」
「……?」
座り込み手招きするムラサに、重い動きで近づく。
どうしたんだろう。実は怒っているのだろうか。
そう考えたとき、首に腕を回されそのまま引き寄せられた。
――一思考停止。
「これなら大丈夫だよ」
間近にあるムラサの顔と、彼女特有の低い体温で自分が正面から抱きしめられていることを理解する。
それを理解して、どうしてこうなるのか理解できなかった。
「後ろからじゃ羽根刺さるから。正面からなら大丈夫でしょ?」
得意げに言う馬鹿船長。
そういう問題じゃないんだよ。どうして私が眠っているときを選んだのか考えてみろよ!
どうせわかりっこないんだろうけどさ! この馬鹿!
「……ぬえ? どうかした?」
「うるさいハゲ」
「だからそれ地味に傷つくんだってば」
うるさいうるさい。さっきからどきどき鳴っているのは何なんだ。
本当にどうして素面でこんな事ができるんだ。
ちくしょう。くやしい。くやしい。
怒りと羞恥と何かが混ざり合う思考は殆ど意味を成さない。
このままだと悔しいからムラサを困らせてやりたい。
溶けた思考はただそれだけを考える。
「……私は涼を取りに来たんだ」
「……ん、あ、それじゃあ、このままだと暑いかな」
そう言ってムラサを抱きしめる腕を緩めようとする。
だが、反比例するように私は強く抱きしめる。
「ぬ、ぬえ? あのちょっと痛い……」
「だから、あんたの体は冷たいから、このまま抱き枕になってろ」
吐き捨てるように言って、彼女の胸もとに顔を埋める。
顔を合わせたら、体温が際限なく上がっていきそうな錯覚が本当になりそうだった。
ムラサは呆けたように「あー」だの「むー」だの漏らしていたいたが、
「ん、わかった。ぬえが涼しくなるまでこうしてる」
嬉しそうにそう言うと、さっきよりも強く抱きしめ返してきた。
……余計に暑くなったじゃないか。馬鹿ムラサ。
当然、風が通り抜けても日の当たる場所なんて涼を取るには不適切で、そのまま通り抜けるはずだったのだけど。
「……ん、すぅ」
気持よさそうに眠っているムラサを見つけたから、そんなことはどうでもよくなった。
取り敢えず、安らかな寝顔を眺めつつどうしようか考える。
悪戯してやるのも悪くないけど、折角寝てるのだから今しか出来ないことをしたい。
「どうしようかな……」
帽子をどけて見えた黒髪をぐしぐしと撫でるとくすぐったそうに体を震わせる。
けれど、彼女の眠りは深いからこれくらいでは起きないし、むしろ深くなるくらいだ。
ぬえに撫でてもらうのは気持ちいいから、なんて恥ずかしいことを言うから思わず殴ったけど。
「あ、そうだ」
いつか早苗が小傘にしていたことを思い出す。
組んだ脚の上に座らせて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
照れくさそうに、だけど嬉しそうな小傘を内心羨ましく思っていたものだ。
……二人きりのときにしろよとも思ったけど。
まあ、それはいい。
今の私は二人きりの状況なんだから別に構わないし。
ムラサも丁度座りながら寝てるし。
つまりまぁ、そういうことで。
「ムーラサ」
彼女の胸もとに背を預けようとして、
「あだだだだだっ!?」
叫びに慌てて飛び退いた。
◇
「ご、ごめん……その、ちょっと驚かそうとしただけで……」
「ん、大丈夫。ちょっと刺さっただけだし、悪気がないのもわかってるよ」
そう言ってムラサは屈託なく微笑み、小さく血が滲む傷に絆創膏を貼りつけていく。
「けど、驚いた。その羽根、刺さるほどだとは思ってなかったよ」
「うん、ごめん……」
「責めてるわけじゃないってば」
そう言われても、彼女を傷つけてしまったことは事実に違いない。
私のことを嫌いになったりはしないだろうけど、それで気が軽くなるわけでもない。
「……ぬえ。こっち来て」
「……?」
座り込み手招きするムラサに、重い動きで近づく。
どうしたんだろう。実は怒っているのだろうか。
そう考えたとき、首に腕を回されそのまま引き寄せられた。
――一思考停止。
「これなら大丈夫だよ」
間近にあるムラサの顔と、彼女特有の低い体温で自分が正面から抱きしめられていることを理解する。
それを理解して、どうしてこうなるのか理解できなかった。
「後ろからじゃ羽根刺さるから。正面からなら大丈夫でしょ?」
得意げに言う馬鹿船長。
そういう問題じゃないんだよ。どうして私が眠っているときを選んだのか考えてみろよ!
どうせわかりっこないんだろうけどさ! この馬鹿!
「……ぬえ? どうかした?」
「うるさいハゲ」
「だからそれ地味に傷つくんだってば」
うるさいうるさい。さっきからどきどき鳴っているのは何なんだ。
本当にどうして素面でこんな事ができるんだ。
ちくしょう。くやしい。くやしい。
怒りと羞恥と何かが混ざり合う思考は殆ど意味を成さない。
このままだと悔しいからムラサを困らせてやりたい。
溶けた思考はただそれだけを考える。
「……私は涼を取りに来たんだ」
「……ん、あ、それじゃあ、このままだと暑いかな」
そう言ってムラサを抱きしめる腕を緩めようとする。
だが、反比例するように私は強く抱きしめる。
「ぬ、ぬえ? あのちょっと痛い……」
「だから、あんたの体は冷たいから、このまま抱き枕になってろ」
吐き捨てるように言って、彼女の胸もとに顔を埋める。
顔を合わせたら、体温が際限なく上がっていきそうな錯覚が本当になりそうだった。
ムラサは呆けたように「あー」だの「むー」だの漏らしていたいたが、
「ん、わかった。ぬえが涼しくなるまでこうしてる」
嬉しそうにそう言うと、さっきよりも強く抱きしめ返してきた。
……余計に暑くなったじゃないか。馬鹿ムラサ。
ナズ星も見たいです。
ぬえちゃんの羽刺さるのかww迂闊に後ろから抱きしめられないな。