※注意
百合かもしれない
最初はどこか体がだるいとだけ思っていたけれども、それが日に日に酷くなってきているのでアリスは自分が病気になったことを知った。
◆◆◆
病気なんていつぶりだろうか、熱の所為で朦朧とする頭にそう尋ねた。
だけど熱暴走を起こした頭はすっかりショートを起こしてしまっていて私の問いには答えてくれなかった。
さてさて、こういった場合はどうすればいいのか。私にはそれが分からない。
前に熱を出した時は忘れるぐらい昔だった筈だ、だったら魔界に居た頃の話になる。
あの時は神綺様やら夢子さんやらが看病してくれた気がする、何かを食べさせて、何かを聞かせてくれた。
でも幼く、しかも今と同じようなぼーっとした自分の頭でそんな事を覚えていられる筈も無く。結局私はさしたヒントは得られなかった。
人形も正確に使えないので自分の看病ができない、氷は既に水になってしまっているが魔法が使えないので氷にすることもできない。
魔法が使えないと言うのは言葉通りの意味では無く単に魔法の制御がし辛いと言う意味だ。
これが厄介な状態で魔法の威力が軽減されてしまうのはまだ良い、でも威力が大きすぎるとこの家、あるいは私ごと凍らせてしまいかねない。
あれ、これって結構まずい状況じゃないか?私がそう感じたのは動けなくなってから三日が経過した時だった。
誰も見舞いに来る人がいないし、それはまあ当然と言えるが流石に衰弱したままと言うのは厳しい、研究もできないし本も読めない、手作業と言うのもできないから暇を持て余す。
ああ、誰か見舞いにでも来てくれないものか。
◇◆◇
とうとう寝込み始めてから一週間が経過した。
でも誰も来ない、流石に寂しくなる。
ううむ、人付き合い妖怪付き合いが悪かったのが災いしたか。最近研究詰めで外に出るのを忘れていた。これから気を付けよう。
なんとかシーツなどを取り換えているが部屋の掃除はできない。
従って部屋にはどんどん埃やら何やらが溜まってきている。
うう、不潔極まりない。病気が治ったら一斉に家を掃除してやる。
そういえば食事をとっていない、魔法使いだから流石に食事を抜いた程度では死にはしないがこのまま動けなかったならどうなるのだろうか。
◇◆◇
コンコン
家にドアをノックする音が響いたのは私が日にちを数えるのを止めてから数日後の事だった。
「んぅ・・・来客?」
寝たきりになってからすでに何日経ったのかすらも分からなくなっていた脳はその音で目覚める事となった。
コンコン
コンコン
ガチャ
相変らずノックの音が鳴り響いていたがしばらくするとドアの開く音が聞こえた。
入って来た来客はどうやら私の居る部屋を探っているようで一階あたりをうろうろしている。
その行動から来客を推理する
魔理沙 侵入率No1だがノックなんてしないしうろうろもしない、家に勝手に入ってきて勝手に何か食ってるか何か盗んでいる、後でトラップを設置しておこう。
霊夢 ありそうだがこれも無い、霊夢なら目的も無く神社は離れないしもし用事があったとしたならご自慢の勘で二階に上がって来るだろう。
幽香 考えたくないがこれも無い、奴の前ではドアなどあって無いような物だし気配を探る事に特化しているからやはりうろうろもしない。居座るか迷わずこの部屋に入って来るだろう。
もしかして:優曇華院か永琳 後者は忙しそうだし仕事柄無いとして前者はありそうな話だ、だが彼女は薬の素材を手に入れる為現在放浪の旅に出ているそうだ。たしかT-レックスたる猛獣を討伐してくるとか言ってた。
射命丸 窓から入って来る
パチュリー 外に出ない
「ふむ」
相変わらず働きが鈍い脳に命令を送り込む
どうやら常連客、自分がよく関わっている妖怪や人間ではなさそうだ、とすると人間、迷い人か自分を頼りに来た人間となる。
とすると、最悪な時に来たものだ、私は動けないし家の中はめちゃくちゃ。品も何もあったもんじゃない。こんな家を見られたんじゃ都会派の名折れだ、無理やり人形を送り込んで出直してもらおうか。
体の中の魔力を絞り出して人形を動かせるだけの動力を捻出する、持って一分だがそれで十分だろう。
トントントン
そんな事を考えていたら誰かが階段を昇ってくる音が聞こえた、
丁度良い、この部屋に入って来たなら丁重にお帰りいただこう。
コツコツ
ガチャ
しかしその来客者は人間ではなかった
常連客でもないが門前払いにもできないししようもない妖怪だった。
「はろん、アリス。元気にしてた?」
妖怪の賢者にして個人的に胡散臭さNo.1の妖怪、八雲紫が部屋に入って来た。
◇◇◇
「で、なんであんたが私の家に居るのよ。」
部屋に入った紫はスキマから取り出した椅子に腰かけていた。
「アリスの寝顔かつ様子を見に来ただけよ。」
「どうしてそう口から湯水のごとく嘘が飛び出るのか不思議ね、今度御教授願えないかしら。」
「あらあら、ゆかりんそんなこと言われて悲しいですわ。」
紫はおよよと泣き真似をした後手元にハンケチを取り出して涙をぬぐう仕草をした。
無論真似なので涙の姿は見えないし仕草なのでハンケチが濡れる訳も無い。
大仰な仕草、見えない本心、隠蔽される理由
そういった事の一つ一つががアリスの心を苛立たせる種となる。
「・・・そんな理由なら即刻帰って欲しいんだけど。」
「あらら、お姫様は私を嫌われてしまわれた御様子。」
「いい?今私はこんな調子なの、無意味な事に体力を使いたくないの、分かるでしょ?妖怪の賢者さん。」
突き放すようにアリスが言う、だか当の紫はくすくすと扇で口元を隠して笑っている。
くすくす くすくす
悪意の無いように見える笑み、親しい友人に向けられるような笑い声、しかしアリスは自分の背筋が凍ってゆく感覚を明確に感じていた。
紫は、八雲紫は大妖怪、それも世界を想像できるレベルの妖怪なのだ。
たかが人間上がりの成りたて魔法使いの人形遣い、しかも療養中のそれが敵う筈も無い相手なのだ。
一瞬で喉元を切り裂かれても。食い千切られても何ら不思議では無いだろう。
無論紫がそんな事をするとは到底思えないが、それでもそれ程の実力は悠に擁している。
アリスの思考はすぐさま戦闘のそれへと移転する、無論戦闘なぞ出来る状態ではないししたとしても手も足も、子指一本眉一本たりとも動かせないであろう相手だ。
「それとも私の恐怖がお望み?残念ね、私はいつだってポーカーフェイスなの。」
それでもアリスは冷静を装う、冷静と言う名の仮面を被る。
しんとした空間に緊張の糸が張り巡らされる
「・・・紫様、掃除終わりました。」
「あら藍、早いわね。」
糸をぶちぎりながらやってきた藍のあんまりな一言にベッドに居ながらアリスはずっこけそうになった。
やって来たと言うより既にドアの前に待機していたが、少しは気配を出せ。
本人はそんなこと知ったものでは無いと言った様子で紫に報告を続ける。
「お取込み中でしたか?」
「そうね、もっとアリスの顔を見ていたかったわ。」
「さいですか」
「可愛いったら、もう堪らないわね。」
「ははあ」
藍はアリスを一瞬憐れむような眼で見た後アリスのシーツと布団を器用に取り換え始めた。
全ての仕事が終わった後彼女はまた紫の方に向き直った。
「では私はマヨイガに戻りますよ、掃除洗濯料理に庭整理、やる事が山積みです。」
「今日はアリスの家に泊まって行くわ、あなたも来る?」
「いえいえ、では私は橙と一緒に白玉楼に遊びに行きますよ。今夜はすき焼きと言っていました。」
そう言うと藍は部屋から出て行った。
後にはにこやかに笑っている紫と憮然とした表情のアリスだけが残された。
「・・・私がいつあんたを家に泊まらせると?」
「アリスは動けないからやりたい放題できるわね。」
「ちょっと待ちなさい、ちょっと!」
紫はスキマを出してどこかに行ってしまった、どうやらアリスの居る部屋を飛び出して一階へと向かっていったようで台所付近でがたがたと音がしている。
「・・・頭痛い」
アリスは顔を顰めた後こめかみを抑えた、所謂「考える人」のポーズである。
無論頭痛の原因は違うが
◆◇◆
「あぅ・・・疲れた」
いきなり急展開やらなんやらで一気に疲れが噴き出たアリスは取り敢えず横になって紫について考える事にした。
藍が掃除を全部やってくれたらしく家からは埃っぽい気配が一切しない、ついでに藍の気配も一切しなかった。
紫が来たのは意外だったが別にアリスの家に紫が来たのはこれが初めてではない。
初めて来たのは確かアリスが幻想郷に移ってきた時だった。
「おいでませ幻想郷」とかかれた旗(これはのぼりと呼ばれるものだと最近学んだ)を振っている変てこなガイドだと思ったら幻想郷を創った妖怪だと聞いて驚愕したのが良い思い出だ。
「どこに家を建てたい?」とか聞かれたから「森の中に人形の家みたいな洋風の白い家が欲しい」とか言ったらお茶を一杯飲んでいるうちに出来上がっていた、後々聞いてみたら「藍が1時間でやってくれました」と言っていた、可愛そうに。
それから一週間に一度は家に来るようになり、宴会の席などで外界の事を話してくれたり、「外の人形が欲しい」とか言ったら度々渡してくるようになり・・・
「あれ?紫って結構この家に来てるわね。」
アリスはそこで思い出した、紫はもしかしたら、もしかしなくとも家に一番来ている。
なぜ今まで気付かなかったのだろうか、アリスは先程のリストに当てはめて考えてみる。
魔理沙 侵入頻度:不定期(多い時は週五 少ない時は月一)
侵入方法:どこからでも
侵入目的:主に強奪
霊夢 侵入頻度:不定期(主に異変が起こらない時)
侵入方法:主にドアから
侵入目的:主に食べ物
幽香 侵入頻度:不明(たまに何もせずにドアだけ破壊して帰って行く)
侵入方法:玄関から(ドアは無いものと考える)
侵入目的:不明
薬屋 来客頻度:月一
来客目的:薬の販売
射命丸 侵入頻度:僅か(大抵は新聞だけ投げ入れる、たまに空腹のあまり窓から突っ込んでくる)
パチュリー 外に出ない 偶に使い魔が来る
紫 侵入頻度:定期的 週一
侵入方法:いつの間にか食卓についているか研究中に横に居る
侵入目的:雑談 人形のプレゼント
「・・・自然過ぎた。」
アリスは気がついた、紫はアリスの日常になんの警戒も抱かせないほど自然に侵入していた事に。
他の侵入者に比べて穏やかに、静かに、そして定期的に侵入してくる事で「紫がいる事が普通の事」と無意識に刷り込む。流石妖怪の賢者だ、鮮やかで抜かりの無く、かつローリスクハイリターンな手口。
負けたくない、紫のその策にわざわざただで乗る様な女でない事を思い知らせてやると決意した。
アリスはだんだん混乱してきたらしく、思考がやや都会派らしからぬ思考になってきた。
ちなみに都会派らしからぬと書いて「やや暴走気味」と読む。
つまるところ、それはアリスの疲労がピークに達してきたことを意味し。
「くぅ・・・」
アリスの意識が途絶える寸前である事も意味していた。
◆◇◆
アリスが目覚めた時、すでに窓からは夕日が差し込み紫が傍でアリスを観察していた。
「こんばんは、もしくはおはよう?お姫様。」
寝ぼけ眼のアリスはしばらくどういった状況か判断するのが遅れた
遅れた
遅れて
状況確認 状況判断 状況把握を一瞬で完了した。
その瞬間顔が、白から青へと変わった。
「つまり・・・あんたはずっと私の寝顔を見ていたと?」
「そうね」
「ずっと?」
「ずっと?」
「本当に?」
「本当に?」
目まぐるしく変わるアリスの顔、青から赤へ、赤から真っ赤へ。
「何だか知らないけど凄く屈辱的な感覚ね。」
「失礼失敬千万な言葉ね、悲しいわ。それよりこれを食べなさい。」
紫はアリスの横の机に一人用の土鍋をとんと置いた。
ちなみにこの土鍋は霖之助が無縁塚で拾ってきた物を魔理沙が強奪し霊夢に貸し出し宴会で行方不明になっていた物を三妖精が拾った物をチルノがじゃんけんで勝ち取ったが何に使うか分からず紅魔館の美鈴に聞きに行ったはいいがその中途で飽きて彼女に飴玉一個と交換された物を咲夜が珍しく「今夜は鍋が食いたい」と言ったレミリアに和風大蒜鍋を出したところ大変不評だったのでパチュリーに渡された物を小悪魔がマンゴドラの植木鉢ならぬ植木鍋にしていた物をアリスにその植物ごと渡された物である。
そしてその大変長大なる冒険をして来た土鍋の中には今現在白い御粥が入っていた。
この粥は守矢の神が作った物ではなく私が作った物だと言う事は紫の表情が実に雄弁に物語っていた。
そしてお粥と言うものは外の世界では一般的レンゲかスプーンに乗せて食べるかだがアリスの周りにあるそういった食器は今まさに紫がお粥をよそってふーふーと息を吹きかけている最中だった。
「はい、風邪にはお粥が良いと聞いたわ。」
「・・・下に居る間中これを作ってたの?」
「隙間妖怪お墨付きのお粥よ。」
アリスはお粥を食べるのを拒否しようとした、少なくとも自分で食べようとしていた。
しかしよくよく考えると魔法使いと言えど食事を習慣としているアリスの一週間何も物を入れられていないその胃袋はお粥を今すぐに食うように要求していたし紫の作ったその粥は実に旨そうだった。
また「誰かが自分に物を食べさせてくれる」と言う状況に拒否をしがたい何かを感じていた、普段のアリスにしてみればあり得ない思考だが今はそれが酷く誘惑的な物の様に感じられた。
それらはある種の強制的な意思をアリスに植え付けた。「この粥は食わねばならない、しかも目の前のこの妖怪の手によって食べさせられなければならない」という命令がアリスの脳からくだされた。
アリスは覚悟を決めた、腹が減っているのは事実だしこの粥は旨そうだ。後者に関しては知らないし自分はそんな幼児じゃない、絶対ない。
かくして土鍋の粥は全てアリスの腹の中に無事納まりその様子を微笑ましげに見ていた紫の顔を見たアリスが枕に顔を埋める事となった。
紫から薬を渡されたアリスが「ひょっとするとお粥の件は要らなかったのではないか」と思うのはそれから数十分後の事となる。
◆◇◆
「今夜はこの部屋に泊まるわよ。」
紫がにこやかな笑顔のままベッドをアリスのベッドの隣に出そうとした時にはすでに日が地平線より下にあった。
「結局家に泊まるのね。」
「有言実行よ。」
満面の笑みでそう言う紫を見ながらアリスは胸を撫で下ろした。
もうすぐ睡眠時間、さすがにベッド越しにちょっかいは出して来れない筈だとたかを括っていた。
そんなアリスの目の前に現れたベッドは普通のベッドではなかった。
縦と高さは普通のベッド
横は普通の二倍
そう、所謂ダブルベッドである。
紫は当然のごとくベッドをばしばし叩きながら催促する。
「さあ、いらっしゃい」
「いやいやいやいや」
どう見ても死亡フラグのオンパレード
どうあがいても絶望
そんな空気をその物体は纏っていた
当然アリスは拒否しようとするがここで昼間の思考が頭をよぎった。
―――「紫がいる事が普通の事」と無意識に刷り込む―――
もし紫がアリスに近寄ろうとしているのであれば、これは絶好のチャンスだ。
むしろアリスが拒否しようとしたならば紫は無理やり引きずり込む事も十分に考えられる。
もしそうなってしまったならはアリスが優勢に浮かび上がる事は出来ないだろう。
だとしたならばこれは寧ろチャンス、自分が懐に飛び込み反撃するチャンスとなる。
「いいわ、行ってあげるわよ」
かくしてアリスは紫のダブルベッドに降り立った。
やるか、やられるか
アリスと紫の熱い戦いはまだ終わりそうになかった
.
とても良いゆかアリでした
続きはもちろんアリスと紫さまの熱い戦いですねw
是非とも続編おねがいします
さあはやく続きを書く作業に戻って下さいお願いします
萃夢想でのアリスの勝ちセリフ、ここから私のゆかアリが始まった。
マイナーなんて関係ない、さあ続きを書くんだ!!
とても素晴らしかったです
誤字報告を
始めて来たのは確か~
初めてが始めてになっています
もっとはやれ!!!!
でもこのことを神綺さまが知ったら……ガクブル
自分もかねてより考えてはいたんだけど書ききれなかったために放置だったわけですよ
いやぁまさか書く人がいるとは……
大好きです!ゆかアリ!
まさに俺得!!
アリスさんまじ総受け
続きも楽しみにしてます
ゆかあり…ガクッ
このカプは新鮮、だけど納得ってことで
へい、続きを書く作業にGO
くっそワロタ、ゆかアリいいじゃないか!もっと妄想をぶちまけたまへw