某日、某刻
魔法の森で、都会派魔法使いは人形たちとアフタヌーンティーを嗜んでいた。
ささやかに光が差し込み心地よい風が吹く中、それは上から来た。
空気を切り裂くと言うよりは押し飛ばすような巨大な質量を持った何か、そう魔法や妖術ではない圧倒的なエネルギーで落ちてくる『巨大な物質』は結界を張らせる間もなくアリスの家に直撃し粉砕した。
「…は?」
アリスは驚愕した
それもそのはず、心地よい空間でリラックスしていたあの状況でこのような状況に陥るこの惨状を誰が想像できよう。出来ぬ。
我が家が次の瞬間にオブジェに変えられれば誰しも冷静でいられようか。
食器も食料も棚も机も屋根も衣服も材料も道具も人形m…人形?
首が音を立てそうな動きで旋回させ跡地を見つめる。
そこには丁度オブジェとなった跡地の真ん中に見るも無残な姿で発見された精巧に作られた人形、だったものがあった。
―――持ってくぜー!
―――コラ、それはダメよ。
―――いいじゃないか、他にもいろいろ持ってるだろ。
―――その中でも特にダメよ
―――えー…だってこれ結構細かく装飾されてるじゃないか…ってあー、もしかしてこれ売りに出すのか?
―――そういう訳じゃないけど…それにまだ作りかけよ
―――…じゃあ出来たらくれよ
―――いいわよー
―――すんなりだな、意外と
―――女の子だものねー人形欲しいよねー
―――…帰る
―――じゃあねー…あ、でもどうしよう。せっかくあげるなら種類もいっぱいあったからなぁ…
そう何日か前に魔理沙と約束していた人形なのだ。
帰り際にぶっきらぼうだったが口元が緩んでいた魔理沙の姿を思い出して頭を抱えてしまう。
別に問題は無いはずなのだ、魔理沙は出来たらと言っていたからもう一度作り直すなり方法はいくらでもあるのだ。
そう、だが、だからこそ。
問題はそれだけではない、人形も大事だが他のものも大事なのだ。
それを容赦なく潰した相手に復讐する。
復讐、これ博麗、いや幻想郷の常識。
ならば私もルールに乗っ取ろう。これは自分だけの問題、Jihadの開幕だ。
その狼煙に私は跡地に刺さっていた『アンカー』を粉々に粉砕した。
まずは命蓮寺、話はそれから。
こうしてふわりと浮きあがりアリスは移動を開始した。
それを見て笑う者も木の上で一人、動く。
―――命蓮寺
先日も裏手の墓、そして直下の霊廟で一悶着あった場所でもある。
そこでとりあえず目に入ったナズーリンを縛り上げたアリスは例の船幽霊を呼ばせた、ちなみに後になって縛り上げたことに意味を感じなかったのは秘密である。
「…それで?ウチのナズーリンが縛られていたので驚いて解いたら私を呼んでいるって…一体何の用です」
「家にいきなりアンカーが降ってきたんだけどあれは何?こっちは人形やら家財道具やら一切合財全部瓦礫の下で明日からどうしろと?ああ!?」
「いや…そのような事を言われましても…。そのような事は存じないのですが」
「とぼけるな!」
アリスはスナップを使い人形を正面に呼び、赤いレーザーを照射した。
一瞬の判断で首を反らしレーザーを回避するが、頬を掠めた箇所の皮膚をほんの少し抉り血が流れた。
「…貴女が手を出したから、やられても文句は無いわよね」
「そうね、その前に叩き潰すけど」
「もしも、もしも私がやってなかったら?」
「ストレス解消に叩き潰す」
「救いが無い…ああ、救いようが無い!!いくらなんでも貴女のような方はお久しぶりだ!!」
「あらそう、でもこっちはもっとイライラしてるのよ、魔女裁判でも何でもいいからやらせてもらうわよ」
「最後にもう一度だけ言って置きます、私は何も知りません」
「じゃあ私も最後に言っておくわ、正直どうでもいいから潰すわ」
「どうしても潰したいんですね」
「それくらいイライラしてるのよ」
「みたいですね。ならどうぞ、何処からでも。さすがに貴女は一回叩き潰した方がいいかもしれない」
「構わないわよ、出来るものならね…上海、蓬莱」
「………」
正直言えば戦うのは初めてだ、魔理沙から話は聞いていたが詳しくは聞かなかった。
だが先手を取られるのは嫌なのでアリスは
「 偵符「シーカードールズ」」
―――クールに一帯を焼き払うことにした。
上に大量の人形を配置し地面に向けて網のようにレーザーを照射する。
これをどう対応するか構えながら待つと人形を全て飛んできた一本のアンカーで吹き飛ばされ、レーザーは全て想定外の方向へ反らされた。
アンカーに付いてきた小弾が拡散しアリスに向かって降り注いだ。
その間にアンカーはムラサのもとに戻っておりアリスは回避に専念した。
「 転覆「撃沈アンカー」 …どうしました?それともこれで終わりですか?」
「そうね…やり方を変えさせてもらうわ」
そう言ってthe Grimoire of Aliceを脇に抱え直すと正面から突撃を開始した。
「ハッ!!」
そしてある程度の距離まで入ると再び人形を展開した。
ある人形は剣を持ち特攻した後に剣を振り回す。
ある人形はある距離まで進んだ後にレーザーや弾幕を展開する。
「おっと」
武器を持つ人形をアンカーを振り回して弾き飛ばし、レーザーを避け柄杓を振るう。
柄杓を一回二回三回と振るたびに水は湧き出て流れとなり波となって人形を吹き飛ばした。
アリスは弾幕をガードしながら再び微妙な距離を取る。
人形使いは人形操るが故に遠距離タイプと思われがちだが実は遠中近どの距離でも対応できる。
遠距離なればこそレーザーなり人形を飛ばすなり出来るし中距離なら人形を動かすのに最適だ。
ちなみに近距離はと言うと想像通り戦いづらいというより不利だ。
人形使いであり魔法使いのアリスは体が弱く(とはいえ人間達が勝つことは到底かなわないが)正直なところ接近戦に向いていない。
「行きます!!」
村紗はそこを突きアンカーを構えて特攻した。
「!!…大江戸爆薬からくり人形!!」
通常より多量に爆薬を詰めた人形を投げつけるが
「甘い!!」
やはり弾き飛ばされる。
ちなみに記述しておくが先ほどの説明で矛盾があることにお気づきであろうか。
確かにアリスの技やスペルは遠距離戦向けで実際に接近戦では戦いにくい。
だがそれは『アリスが接近戦を仕掛ける場合』でだ。
アリスの本領は多彩な攻撃手段と自由に配置される人形からの相手の行動を抑制する圧倒的な攻撃。
つまり相手側から接近戦を持ち込まれれば
「甘いのは貴女…人形伏兵」
にとりのものとは少し違う擬態のマントを脱ぎ捨て4体の人形が村紗に奇襲を掛ける。
「!?」
慌ててアンカーを振り回して回避したが
「人形千槍」
アリスの背後から人形を複数召喚し槍を以て連続で突貫した、これを避ける術は無く村紗は数発ほど喰らってしまう。
「人形置操」
「!!」
さらに間髪いれずに上から人形による刺突攻撃をバックステップで回避。
「人形帰巣」
それを追うように今度は剃刀の様な武器を持った人形が回転しながらこちらへ飛んでくる。
すぐさま右に飛び回避するがすでにアリスの準備は終わっていた。
「人形SP 人形振記 人形弓兵 シーカーワイヤー」
レーザーが走る糸には触れないようにしながらレーザーと矢を避け切り、向かって来る人形を回避し弾き飛ばす。
「 魔符「アーティフルサクリファイス」 」
「 危なっ…!!湊符「幽霊船永久停泊」!!」
飛んでくる爆弾人形を左に回避し周囲に大量のアンカーを展開し射出し―――
「!?…カハッ…」
――ようとしたその時、後ろから人形が『戻ってきた』。
「人形帰巣を忘れてたでしょう?何の為の糸だと思ってるのかしら。喰らいなさい 槍符「キューティ大千槍」 」
そのままアリスの許に牽引された村紗に人形千槍とは比べ物にならない威力と量と速度で叩き込みそして
「御仕舞よ!!」
鳩尾に蹴りを入れそのまま後ろに吹き飛ばした。
「くっ…は…溺符「シンカブルヴォーテックス」!!」
アリスを檻の如く包む様に水の弾幕が形成されるが
「ふぅ… 人形「未来文楽」 」
精密機動の人形を高速で高速でムラサに向かって刺突した。
ダメージを受けたムラサの弾幕が消え去った。
「さて、止めね。犯人も探さなきゃいけないし」
「くっ…「ディープシンカー」!!」
一帯にアンカーを打ちこみ自分を相手に干渉されない状態へと変質させ周囲のアンカーと自分から水の弾幕を放ち相手を物量で押しつぶす村紗の上位スペルカードだ。
「喰らえ!!」
「…量より質よね 騎士「ドールオブラウンドテーブル」」
大きな円陣を組み槍を構える人形を二隊召喚し一隊でアンカーを破壊しもう一隊で弾幕を全てローテーションではじき返した。
「さて今度こそ御仕舞よ 人形「セミオートマトン」」
弾幕を発射した後に降り注ぐ爆弾人形を大量に展開したその時
「―――そこまでです」
背中に七色の蓮を展開した聖のレーザーによって全て焼き尽くされ爆発することなくその場に落ちた。
「…聖?」
「あら、お久しぶりね白蓮」
「…本当に二人とも一体どうしたのです。葬式で少し出かけて帰ってきたらこの騒ぎですし…」
「ご主人!!避難は完了させたよ!!」
「ありがとうざいます!後は倒壊しかけてる部分を抑えてる部分を支える木材などをお願いします!!」
「了解!!」
「星、本堂とか重要なとこは一応なんとかしたよ。貴重品と偶像とかは雲山に護らせた」
「はい」
「虎っ子」
「虎っ子言わないでください、どうでしたマミさん」
「マミさん言うな、とりあえずなんとか出来なさそうな所は無く無く無いかのう」
「ありがとうございます」
「門の損壊部分は一応補強しておきましたー…」(エコー)
「ありがとうー!!響子ー!!!」
「どういたしましてー…」(エコー)
「はうぁ!!いったい何事?」
「お、小傘、丁度いいところに!!慧音さんに頼んで人員を呼んで来てくれないか!?」
「え、あ、うん?」
「…慧音さんを呼んできてくれ」
「うん、言って来る!!」
「本当に何事ですか」
「いきなり家にデカイアンカーが降ってきたのよ。おかげで家の物が全部グチャグチャよ、だから問い詰めに来たのよ」
「…ムラサどういうこと?」
「ケホッ…知りませんよ…まず家の中の物を全部潰してしまえる程のアンカーなんて持ってないですし…」
「ふむ…ん?ぬえ?」
ガサッと木が揺れる。
「…ぬえ、出て来なさい」
暫くしてぬえが縮こまって聖の許にやってきた。
「もしかして、アリスさんに何かしましたか?」
「え、えーと、ヤッテマセン」
「…ぬえ」
「…私がやりました…」
とりあえず要約すると家にアンカー(実際は巨大な岩)が落ちてきた日の朝、ムラサがぬえのデザートを食べたことが原因で仕返しとばかりにやったらしい。
「ぬえ…貴女ねぇ…」
「ヒッ…」
「いい加減に…しろー!!!」
「許して!!村紗!!アリスさん!!!!」
「幽霊「忍び寄る柄杓」!!!!!」
「試験中「ゴリアテ人形」!!!!!!」
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」
「さて…あたたたた…傷だらけだ…」
「…ごめんなさいね、さてこれからどうしようかしら…」
「そうねえ…意外と生活スペースは無事みたいなのでアリスさん、是非泊って行ってください」
「聖…マジ?」
「ええ、本気ですよ」
「…じゃあ遠慮なく」
「ええー…うう…よろしくお願いします…」
ムラサがちょっと可愛いと思ったアリスだった。
こうして命蓮寺で一時的に泊ることになったアリス。
「うう…此処何処ー…」
「此処は僕の香霖堂だ」
ちなみに小傘は迷いました。
「あ…人形どうしよう」