誰にも知られていないが、花果子念報の発行者 姫海棠はたてはバイトで覆面作家をしている。
寄稿先は文々。新聞。「悔しいが感性の繊細さに関してははたてに敵わない」とは文の評だ。
素性を隠してではあるが評価もよく(主に文からの)、そのおかげで最近いらいらすることが減ってきたのは良いことではあった。
以前のように、見向きもされない新聞の不良在庫を背に酒を呷って泣きながら三日三晩くだをまき、その部屋で生成されうるありとあらゆる液状のものをかぶった後四日目に椛と文が訪れて説教がてら大掃除をしてくれるだとか、そんなことはもうしなくなっていた。相変わらず新聞は評価されないが。
少なくとも前向きな気持ちになれるようにはなっていた。
しかしその代償のように、彼女は別の苦しみを味わうことになる。
彼女が得意とするのは、外の世界でいうジュブナイルやライトノベルといったたぐいのもので、恋だとか愛だとかの、内容がとても若い文章を書く。
広くもない自室で感性の流れを原稿用紙に湛えながら、瑞々しい妄想を繰り広げる己の残念さといったらない。
彼女の現実は枯れていた。
そして潤いを求め、自分の妄想に飲まれていった。
その結果、彼女はしばしば非常に倒錯的な欲望に襲われ、悩まされた。
たとえば、今彼女はベロチューがしたくて堪らなかった。
彼女にそのような経験などあるはずもない。まず文と椛以外の天狗と会話をしたことすら稀である。
そして今の彼女にそのような恋愛だとかはどうでもよかった。ただベロチューがしたい。
さながら砂漠で水を求める飢えた旅人のように、想像で補った口の中の感触を現実にすることを求めた。
しかしこれを現実になどできるはずもない。そもそも思考が不純であり倫理のかけらもない。いくら文や椛でもこの事実を知ったらそれはそれはドン引きすること請け合いである。
私への接し方がぎこちなくなることは間違いない。断定できる。
ならばわたしはこの渇きをどうすればいいのだ!
不毛なる妄想が満たされない渇望を生み
欲望の渇きが不毛なる妄想を思い出させる。
穴の開いた杯に酒は注がれ続け、だれも止める術を知らない!
「おお神よ…!」
「無駄に芝居がかったな嘆きをどうもありがとうございます。外にまで漏れてますよ?」
気が付くとそこには文がいた。
呆れた目をしている文にはたては恐る恐る質問した
「いいいいいいいいいいつからそこに……!」
「床をのた打ち回った後あなたが三文芝居を始めたあたりからですね。いったい何に飢えているのか知りませんが、少々大げさではないですか?」
「こちとら真剣に悩んでるのよ!」
「はあ……」
はたては焦っていた。文が詳しい事情を知らなかったことは幸いにしても、このまま文がのこのこ帰るとは考えづらい。おまけに、普段見せない当惑した表情の文が尋常ではないくらい可愛い。「この子、こんな表情もできるんだぁ…」とかそんなレベルではない。これは兵器である。普段、私より何倍も大人びて見える文が、一瞬、思春期の女の子のようにすら見えてしまったのだ。やばいやばいやばい。作為なく開かれた口が可愛すぎてやばい。本気で唇を奪いたいとすら考えてしまうほどに。
はたての脳内では非常警報が鳴り響いていた。なるべく速やかに怪しまれずに文さんにお帰りいただかないと私は一線を越えてしまう。
「あのー…はたてさん?」
「何?」
「なんか目がものっすごい怖いんですけれど…私なにかしましたか?」
「いや!何もしてない!何もしてないけれど!」
軽い怯えまで入ってしまったらよけい可愛く見えてきたでしょうがこのタラシあややめ!
「けど?」
「その!わたしの精神状態が非常にまずいというか!ヘンな方向に行ってしまったというか!」
「ほほう」
先ほどまで不安などが入り混じっていた文の顔が、一転して取材モードに切り替わった。
「いやあよもやとは思いましたが、さては姫海棠さん恋ですね?!ずっと姫海棠さんを見ていた身として素直にうれしいです!あぁ…立派になって…――などという前置きはさておいて、よければそのお相手はどんな方か教えていただけますか?!大丈夫です。不肖、わたくし射命丸文が全力で応援いたしますから!ちょっと情報だけでも教えていただけませんか?!」
「わー?!」
矢継ぎ早に喋りながら文がぐいと詰め寄ってきた。視界いっぱいに文の生き生きとした顔が寄ってきて、なんというか、近い。
この暴走パパラッチを止めるべく咄嗟に手が出たが、引きこもり暮らしの弱い足腰が先に負けた。勢いに負けて、後ろによろめいてしまったのだ。
「え?」「あっ」
――運命の神は変なところでノリノリだ。
まあ、勢いに任せてその呆然と開かれた門に攻め行ったのは自分なのだけれど。
寄稿先は文々。新聞。「悔しいが感性の繊細さに関してははたてに敵わない」とは文の評だ。
素性を隠してではあるが評価もよく(主に文からの)、そのおかげで最近いらいらすることが減ってきたのは良いことではあった。
以前のように、見向きもされない新聞の不良在庫を背に酒を呷って泣きながら三日三晩くだをまき、その部屋で生成されうるありとあらゆる液状のものをかぶった後四日目に椛と文が訪れて説教がてら大掃除をしてくれるだとか、そんなことはもうしなくなっていた。相変わらず新聞は評価されないが。
少なくとも前向きな気持ちになれるようにはなっていた。
しかしその代償のように、彼女は別の苦しみを味わうことになる。
彼女が得意とするのは、外の世界でいうジュブナイルやライトノベルといったたぐいのもので、恋だとか愛だとかの、内容がとても若い文章を書く。
広くもない自室で感性の流れを原稿用紙に湛えながら、瑞々しい妄想を繰り広げる己の残念さといったらない。
彼女の現実は枯れていた。
そして潤いを求め、自分の妄想に飲まれていった。
その結果、彼女はしばしば非常に倒錯的な欲望に襲われ、悩まされた。
たとえば、今彼女はベロチューがしたくて堪らなかった。
彼女にそのような経験などあるはずもない。まず文と椛以外の天狗と会話をしたことすら稀である。
そして今の彼女にそのような恋愛だとかはどうでもよかった。ただベロチューがしたい。
さながら砂漠で水を求める飢えた旅人のように、想像で補った口の中の感触を現実にすることを求めた。
しかしこれを現実になどできるはずもない。そもそも思考が不純であり倫理のかけらもない。いくら文や椛でもこの事実を知ったらそれはそれはドン引きすること請け合いである。
私への接し方がぎこちなくなることは間違いない。断定できる。
ならばわたしはこの渇きをどうすればいいのだ!
不毛なる妄想が満たされない渇望を生み
欲望の渇きが不毛なる妄想を思い出させる。
穴の開いた杯に酒は注がれ続け、だれも止める術を知らない!
「おお神よ…!」
「無駄に芝居がかったな嘆きをどうもありがとうございます。外にまで漏れてますよ?」
気が付くとそこには文がいた。
呆れた目をしている文にはたては恐る恐る質問した
「いいいいいいいいいいつからそこに……!」
「床をのた打ち回った後あなたが三文芝居を始めたあたりからですね。いったい何に飢えているのか知りませんが、少々大げさではないですか?」
「こちとら真剣に悩んでるのよ!」
「はあ……」
はたては焦っていた。文が詳しい事情を知らなかったことは幸いにしても、このまま文がのこのこ帰るとは考えづらい。おまけに、普段見せない当惑した表情の文が尋常ではないくらい可愛い。「この子、こんな表情もできるんだぁ…」とかそんなレベルではない。これは兵器である。普段、私より何倍も大人びて見える文が、一瞬、思春期の女の子のようにすら見えてしまったのだ。やばいやばいやばい。作為なく開かれた口が可愛すぎてやばい。本気で唇を奪いたいとすら考えてしまうほどに。
はたての脳内では非常警報が鳴り響いていた。なるべく速やかに怪しまれずに文さんにお帰りいただかないと私は一線を越えてしまう。
「あのー…はたてさん?」
「何?」
「なんか目がものっすごい怖いんですけれど…私なにかしましたか?」
「いや!何もしてない!何もしてないけれど!」
軽い怯えまで入ってしまったらよけい可愛く見えてきたでしょうがこのタラシあややめ!
「けど?」
「その!わたしの精神状態が非常にまずいというか!ヘンな方向に行ってしまったというか!」
「ほほう」
先ほどまで不安などが入り混じっていた文の顔が、一転して取材モードに切り替わった。
「いやあよもやとは思いましたが、さては姫海棠さん恋ですね?!ずっと姫海棠さんを見ていた身として素直にうれしいです!あぁ…立派になって…――などという前置きはさておいて、よければそのお相手はどんな方か教えていただけますか?!大丈夫です。不肖、わたくし射命丸文が全力で応援いたしますから!ちょっと情報だけでも教えていただけませんか?!」
「わー?!」
矢継ぎ早に喋りながら文がぐいと詰め寄ってきた。視界いっぱいに文の生き生きとした顔が寄ってきて、なんというか、近い。
この暴走パパラッチを止めるべく咄嗟に手が出たが、引きこもり暮らしの弱い足腰が先に負けた。勢いに負けて、後ろによろめいてしまったのだ。
「え?」「あっ」
――運命の神は変なところでノリノリだ。
まあ、勢いに任せてその呆然と開かれた門に攻め行ったのは自分なのだけれど。
清清しいまでに変態妄想を垂れ流してくれました。まあ、暑いから変態でもしょうがないと思います。
しかし怯える文ちゃん可愛い。
もう少し考えてコメントしてくれ
さて次は何に悩むんでしょうねぇ~?チラチラ
あややもはたても可愛い!可愛いは正義!