Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夏、屋根の上にて

2011/08/09 22:58:58
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 蝉の鳴き声が愈々激しくなって来た今日のこの頃、僕は何時も通り誰も来ない店で本を読み漁っているはずだった。

「これが焼きそばだろ、それから綿あめ。あ、かき氷は溶けそうだから持ってこれなかった、すまん」

「いや、別に頼んでないから怒りもしないが」

 今目の前には満面の笑みで屋台で出ている食べ物類を袋から取り出し並べている慧音。
 彼女が来たのはつい数分前、早めに店を閉じ早めの湯浴みを終えたくらいだった。
 今日は里の祭りだから持って来た、そう言う慧音に用事は無いのかと問うと

「そんなもの誰かにやってもらえば良いだけだからな。そんな事より食べよう、冷めるぞ」

 と返して来た、それで良いんだろうか。
 兎も角も割り箸を差し出されたら受け取るしかないと食べ始める。

「懐かしいなぁ、祭りの焼きそばなんて久しぶりだよ」

「あぁ、これだよこれ」

 ソースが焦げて麺にへばり付いてるのが良いんだよなぁ。
 キャベツもニンジンも短時間で火を通すために小さく切ってあって、これがまた旨い。
 そう言えばこういうの食べる時『これだよこれ』って言うけど、これのこれってどういう意味なんだろうなぁ。

「綿あめは……いいや、甘いのは苦手だ」

「じゃあ私が食べる」

 持って来てくれた食べ物を粗方食べ終えた頃、慧音は急に素っ頓狂な声を上げた。
 何事か聞いてみると、ラムネを買い忘れただけのようだったらしい。

「変わってないなぁ、どうでも良い事を真剣に悩むなんて」

「どうでも良いとはなんだ、ラムネが無ければ祭りじゃないぞ」

「まぁ、それはそうだが……コーラならあるぞ」

「御免被る、代りの奴があるからな」

「代り?」

 彼女は頷いて風呂敷包みを取り出した。
 
「酒か」

「あぁ、ラムネの代わりにこいつを飲もうじゃないか」

 僕は台所へ行き、グラス二つを持って戻る。
 何時の間にか空は暗くなっていた。

「まぁまずは一杯」

「ありがとう」

 栓を開け僕は慧音のグラスに注ぐ。
 注ぎ終えると今度は慧音が僕にグラスに注いだ。

「それじゃ、乾杯」

「何にだい?」

「何も無い……平凡な一日にだ」

「そうか」

 僕と慧音しか居ない店内にグラスとグラスが交わる音が木霊する。
 一杯飲み終えるか終えないかした頃、慧音は突然口を開いた。

「そろそろ時間か」

「ん?どうした慧音」

「霖之助、ここは屋根に上がれるか」

「上がれない事は無いが、何故だ」

 答えらしい答えをしないまま、慧音は屋根へ上がる。僕もそれに続く。
 普段は修理や布団干し位にしか上がらない屋根、僕がそこに到達した瞬間夜空が俄かに明るくなり、遅れて爆発音。

「………花火か」

「あぁ」

 まぁ座れよと言う慧音の言葉に従い、座る。
 先程の続きとでもいいたいかのように慧音は僕のグラスの酒を注いだ。
 閃光と爆音を聞きながら、酒を飲む。

「綺麗だなぁ」

 静かに呟いて慧音は僕の肩に頭を預ける。
 花火で五月蠅いはずなのに、彼女の言葉だけははっきりと聞き取れる。不思議だ。

「花火って綺麗だけど、寂しいなぁ」

「寂しい?」

 慧音が言うには、夜を眩しいばかりに照らしている間、その光に酔えるけれども終わってみれば後に残るのは虚無感の様なもの。
 夜空に棚引く花火の煙が薄暗い中に風に攫われていく様を見るのが、寂しいのだと。

「………終わった」

「あぁ」

 話が終わった頃、最後の大きな一発が空に輝き、花火の終わりを告げた。
 立ち上がり下へ降りようとする僕は、慧音に引き留められた。黙って服の袖を掴んで上目づかいでこちらを慧音に何事か問うと、彼女は小さく呟く。

「……霖之助ぇ、今夜一晩で良いから泊めてくれ」

 やっぱり、寂しい。と慧音は呟いた。
 僕は袖を振り払い、慧音を抱きしめる。

「良いよ………僕も寂しいからさ」

 夜の空に咲いた花の残滓は、夏の風に乗ってゆっくりと何処かへ旅立とうとしていた。
『常念岳から横尾までの範囲でかくれんぼをして見つかったのが多い奴が何かを書く』
と言う勝負を雑居さんと幼馴染のF氏他数十名でやって負けたので。

慧音先生はなんだかんだ言って寂しがり屋さん、んでそれを優しくしてあげるのが霖之助さんのポジションじゃないかと。

それでは投げ槍がお送りしました。
投げ槍
コメント



1.削除
やっぱり慧霖はいいなぁ
ちょっとだけ風邪の事忘れられました
2.名前が無い程度の能力削除
こんやは おたのしみですよね
3.奇声を発する程度の能力削除
和めました
4.名前が無い程度の能力削除
このシリーズ大好きです!良い作品ありがとうございました。