夜が好きだった。
人と殆どすれ違う事も無く、頭の中を余計な想いが交差しない。
自分だけの時間を保てる。
そんな夜が私は好きだった。
夏という季節に地底は合わない。今夜は涼みに地上へ出てみよう。
そう思い立ち、寝静まった地霊殿を後にし、地上へ飛び立つ。
ここから地上へはそう遠くなく、ほんの数分で月の光が明るく見える場所まで出る事ができる。
「今夜は満月ね」
そう一人でつぶやく。
周りには誰もいない。
自分の思念以外聞こえない。
決してそれらが辛いわけでも無い。
ただ自分だけの時間が欲しかった。
ふと丘の上から周りを見渡すと暗闇の中に少し黄色く見える一角を見つけた。
「何かしら」
飛んでいけばすぐにでも見れる距離だが、あえてその手段を選ばなかった。
近付くにつれ、夜風に乗っていい香りが漂ってくる。
暗闇に徐々に目が慣れてきた頃、遠くからでもその黄色い物を確認することができた。
「花・・・か」
名前は知らない。その花は私の背よりも高く、そして無数に咲いていた。
これはいい場所を見つけた、と心の中で呟いた。
「綺麗ね」
「そうでしょう」
思わず口にした言葉に返答が来た。
「あなたは?」
「人の花畑に勝手に入り込んで自分からは名乗らないのね」
「ごめんなさい、遠くから見えたものでつい」
「まあいいわ、地底の妖怪じゃ知らないわよね」
「あなたは私の事を?」
そんな不意打ちに私は彼女の心を読む事を忘れていた。
呆けていると彼女が語りかける。
「綺麗でしょう、丁度今が見頃かしら」
「これは貴方が育てているの?」
「ええ、そうよ」
「綺麗ね、まるで太陽の様な花ね」
「太陽の様な花だもの」
それからは特に会話も無く。
いや、あったのかもしれないが私は太陽の様な花に見惚れてしまっていた。
月を見上げると少し傾いてきている。結構な時間を過ごしたのだろう。
「またお邪魔させて頂いてもいいかしら?」
一応断りを入れておこうと彼女に声をかける。
しかしいつの間にか彼女の姿はそこにはなかった。
ー
翌日。
昨晩見た太陽の様な花について調べてみた。
向日葵と言うらしい。
またこの花は、日まわりと言う俗説もあり、日中は太陽の方に向くのだとか。
「さとりさまー?何を調べられているのです?」
机に広げている百科事典に興味をそそられたのか、ペットのお燐が話しかけてきた。
「ええ、ちょっと向日葵という花の事をね」
「とても綺麗ですね、なんか太陽みたいなお花で!」
「うん、太陽みたいな花だったわ」
「え?さとり様見られた事あるんですか?」
「地上に出た時に少しだけ」
「私も見てみたいですー!」
そう言うお燐の頭を撫でながらそのうちね、と声をかけ仕事に戻らせた。
夜になり皆が寝静まった頃、妹程ではないが無意識に地上へ向かって行った。
昨日会った花畑の所有者の彼女から、また来てもいいか、という問いかけに返答はなかったのだが、
途中で追い返されなかったと言う事はそこまで迷惑ではなかったのだろう。
そんな事を考えている内に月が見え、丘の上から黄色い一角を探す。
すぐに見つけると飛ぶのを止め、歩いてその場所へと向かう。
そしてその中にあの彼女を見つけた。
「こんばんは、お邪魔します」
「あら、また来たのね」
「ええ、とても気に入りまして」
「そう、それはよかったわ。この花はね」
「向日葵と言う花ですよね」
彼女の言葉を遮る様に花の名前を言った。
「あら、調べてきたのね」
彼女は驚く素振りもなく淡々と話す。
「それだけ魅せられたと言う事です」
挨拶代わりの会話が終わり、花を見て回る。
一本一本きちんと手入れされているのだろう、悲しそうな花は一つも無い。
しばらくすると彼女が声をかけてきた。
「明日も来るのかしら?」
「お邪魔じゃなければ」
「構わないわよ、古明地さとりさん」
また昨日の様な不意打ち。
「どうして私の名を」
「貴方が向日葵の事に興味が出て調べた様に、私も貴方に興味が沸いた。おかしい事ではないでしょう」
返す言葉がすぐに見当たらず、私は黙り込んでしまった。
「またいらっしゃい」
そう言うと彼女は花畑の奥へと姿を消していった。
ー
そして翌日。
彼女の事について調べようと地霊殿にいるペット達に聞くも誰も知る者はいなかった。
わかりきった事ではあったが。
それにしてもすごく夜が待ち遠しい。
仕事は捗っているはずなのに時間が全然経過しない。
今日はどんな会話を交わすのだろう、私の興味は自ずと彼女の方に移っている。
こんな日に限って星熊勇儀が遊びに来て宴会を始める。
ちまちま飲んでいるはずなのに時間が早く経過して行く。
早く酔いつぶれてくれないかしら、そんな葛藤が頭を過ぎる。
「でさー、ここに来る前に地上に行って花畑に行ってたんだよ」
咄嗟にペットに話しかけている勇儀の言葉に反応する。
「そしたら幽香にこんなところで酒飲まないでって追い出されちゃってさ、ここに来たんだよね」
ゆうか・・・?
「勇儀、花畑の事知っているの?」
「お、さとり、ノリ悪いと思ってたのに食いついてきたな」
「さとり様は最近花を調べてたりしてましたしね」
「へーそうなのか」
お燐と勇儀が会話を交わす、けど大事なのはそこじゃなくて彼女の事。
「彼女の名前はゆうかって言うの?」
「そうだよ、風見幽香。地上は雨が降ってたんだけどさ、傘差して手入れしてたんだ。偉いよな」
「雨?」
「うん、まあそんなところで飲もうとしてた私も私だけどな!はっはっは」
勇儀の言葉の最後は耳に入ってこなかった。
昨晩の会話がフラッシュバックする。
「明日も来るのかしら?」
「お邪魔じゃなければ」
「構わないわよ、古明地さとりさん」
「どうして私の名を」
「貴方が向日葵の事に興味が出て調べた様に、私も貴方に興味が沸いた。おかしい事ではないでしょう」
「またいらっしゃい」
地霊殿を飛び出すまでに時間はかからなかった。
「どこへ行かれるのですか!」
などの声も聞こえたが構っている余裕などなかった。
地上の丘へ出ると月が薄っすらとしか見えない雨空で、あの花畑を見つけるとそのまま飛んで行く。
その花畑には、彼女が、風見幽香が立っていた。
「遅かったわね」
「ごめんなさい」
「待ってたわけじゃないわよ」
そう言う彼女の赤いチェックのスカートの裾はかなり水分を含んでいる様に見える。
もしかしたら私を待っていてくれていたのかもしれない。
それもずっと。
「傘も差さずに来るとはね、狭いけどお入りなさい」
彼女は自分の傘の下へと私を誘ってくれた。
断る理由もなく私は彼女が差す傘の中へと入る。
すると頭の中にふと、一つの声が聞こえてくる。
『来てくれてよかった』
今まで何で気付かなかったんだろう、彼女の気持ちを読む事くらいいつでも出来たのに。
「風見幽香さん」
「あら、名前教えていないのに」
「私も貴方に興味が沸きました、おかしな事ではないでしょう?」
彼女が言った言葉をそのまま返す。
「ふふっ、全くその通りね」
初めて見た彼女の笑顔は周りの向日葵よりも太陽の様だった。
「今日はね、貴方に見せたいものがあるの」
「えっ、私に?」
「こっちに来て」
案内された先には、白い花びらに淡く黄色がかった向日葵が咲いていた。
「天気が良ければもっと元気なんだけどね」
「こんな種類もあるんですね」
「ええ、二日前くらいに育ててみたのよ」
「綺麗ですね」
「昼間だともっと綺麗よ、貴方明日は昼間に来なさい」
「えっ、わ、わかりました」
夜が好きだった。
待ち遠しくなるほど好きだった。
けれど彼女に誘われて出掛ける昼が今はとても待ち遠しい。
人と殆どすれ違う事も無く、頭の中を余計な想いが交差しない。
自分だけの時間を保てる。
そんな夜が私は好きだった。
夏という季節に地底は合わない。今夜は涼みに地上へ出てみよう。
そう思い立ち、寝静まった地霊殿を後にし、地上へ飛び立つ。
ここから地上へはそう遠くなく、ほんの数分で月の光が明るく見える場所まで出る事ができる。
「今夜は満月ね」
そう一人でつぶやく。
周りには誰もいない。
自分の思念以外聞こえない。
決してそれらが辛いわけでも無い。
ただ自分だけの時間が欲しかった。
ふと丘の上から周りを見渡すと暗闇の中に少し黄色く見える一角を見つけた。
「何かしら」
飛んでいけばすぐにでも見れる距離だが、あえてその手段を選ばなかった。
近付くにつれ、夜風に乗っていい香りが漂ってくる。
暗闇に徐々に目が慣れてきた頃、遠くからでもその黄色い物を確認することができた。
「花・・・か」
名前は知らない。その花は私の背よりも高く、そして無数に咲いていた。
これはいい場所を見つけた、と心の中で呟いた。
「綺麗ね」
「そうでしょう」
思わず口にした言葉に返答が来た。
「あなたは?」
「人の花畑に勝手に入り込んで自分からは名乗らないのね」
「ごめんなさい、遠くから見えたものでつい」
「まあいいわ、地底の妖怪じゃ知らないわよね」
「あなたは私の事を?」
そんな不意打ちに私は彼女の心を読む事を忘れていた。
呆けていると彼女が語りかける。
「綺麗でしょう、丁度今が見頃かしら」
「これは貴方が育てているの?」
「ええ、そうよ」
「綺麗ね、まるで太陽の様な花ね」
「太陽の様な花だもの」
それからは特に会話も無く。
いや、あったのかもしれないが私は太陽の様な花に見惚れてしまっていた。
月を見上げると少し傾いてきている。結構な時間を過ごしたのだろう。
「またお邪魔させて頂いてもいいかしら?」
一応断りを入れておこうと彼女に声をかける。
しかしいつの間にか彼女の姿はそこにはなかった。
ー
翌日。
昨晩見た太陽の様な花について調べてみた。
向日葵と言うらしい。
またこの花は、日まわりと言う俗説もあり、日中は太陽の方に向くのだとか。
「さとりさまー?何を調べられているのです?」
机に広げている百科事典に興味をそそられたのか、ペットのお燐が話しかけてきた。
「ええ、ちょっと向日葵という花の事をね」
「とても綺麗ですね、なんか太陽みたいなお花で!」
「うん、太陽みたいな花だったわ」
「え?さとり様見られた事あるんですか?」
「地上に出た時に少しだけ」
「私も見てみたいですー!」
そう言うお燐の頭を撫でながらそのうちね、と声をかけ仕事に戻らせた。
夜になり皆が寝静まった頃、妹程ではないが無意識に地上へ向かって行った。
昨日会った花畑の所有者の彼女から、また来てもいいか、という問いかけに返答はなかったのだが、
途中で追い返されなかったと言う事はそこまで迷惑ではなかったのだろう。
そんな事を考えている内に月が見え、丘の上から黄色い一角を探す。
すぐに見つけると飛ぶのを止め、歩いてその場所へと向かう。
そしてその中にあの彼女を見つけた。
「こんばんは、お邪魔します」
「あら、また来たのね」
「ええ、とても気に入りまして」
「そう、それはよかったわ。この花はね」
「向日葵と言う花ですよね」
彼女の言葉を遮る様に花の名前を言った。
「あら、調べてきたのね」
彼女は驚く素振りもなく淡々と話す。
「それだけ魅せられたと言う事です」
挨拶代わりの会話が終わり、花を見て回る。
一本一本きちんと手入れされているのだろう、悲しそうな花は一つも無い。
しばらくすると彼女が声をかけてきた。
「明日も来るのかしら?」
「お邪魔じゃなければ」
「構わないわよ、古明地さとりさん」
また昨日の様な不意打ち。
「どうして私の名を」
「貴方が向日葵の事に興味が出て調べた様に、私も貴方に興味が沸いた。おかしい事ではないでしょう」
返す言葉がすぐに見当たらず、私は黙り込んでしまった。
「またいらっしゃい」
そう言うと彼女は花畑の奥へと姿を消していった。
ー
そして翌日。
彼女の事について調べようと地霊殿にいるペット達に聞くも誰も知る者はいなかった。
わかりきった事ではあったが。
それにしてもすごく夜が待ち遠しい。
仕事は捗っているはずなのに時間が全然経過しない。
今日はどんな会話を交わすのだろう、私の興味は自ずと彼女の方に移っている。
こんな日に限って星熊勇儀が遊びに来て宴会を始める。
ちまちま飲んでいるはずなのに時間が早く経過して行く。
早く酔いつぶれてくれないかしら、そんな葛藤が頭を過ぎる。
「でさー、ここに来る前に地上に行って花畑に行ってたんだよ」
咄嗟にペットに話しかけている勇儀の言葉に反応する。
「そしたら幽香にこんなところで酒飲まないでって追い出されちゃってさ、ここに来たんだよね」
ゆうか・・・?
「勇儀、花畑の事知っているの?」
「お、さとり、ノリ悪いと思ってたのに食いついてきたな」
「さとり様は最近花を調べてたりしてましたしね」
「へーそうなのか」
お燐と勇儀が会話を交わす、けど大事なのはそこじゃなくて彼女の事。
「彼女の名前はゆうかって言うの?」
「そうだよ、風見幽香。地上は雨が降ってたんだけどさ、傘差して手入れしてたんだ。偉いよな」
「雨?」
「うん、まあそんなところで飲もうとしてた私も私だけどな!はっはっは」
勇儀の言葉の最後は耳に入ってこなかった。
昨晩の会話がフラッシュバックする。
「明日も来るのかしら?」
「お邪魔じゃなければ」
「構わないわよ、古明地さとりさん」
「どうして私の名を」
「貴方が向日葵の事に興味が出て調べた様に、私も貴方に興味が沸いた。おかしい事ではないでしょう」
「またいらっしゃい」
地霊殿を飛び出すまでに時間はかからなかった。
「どこへ行かれるのですか!」
などの声も聞こえたが構っている余裕などなかった。
地上の丘へ出ると月が薄っすらとしか見えない雨空で、あの花畑を見つけるとそのまま飛んで行く。
その花畑には、彼女が、風見幽香が立っていた。
「遅かったわね」
「ごめんなさい」
「待ってたわけじゃないわよ」
そう言う彼女の赤いチェックのスカートの裾はかなり水分を含んでいる様に見える。
もしかしたら私を待っていてくれていたのかもしれない。
それもずっと。
「傘も差さずに来るとはね、狭いけどお入りなさい」
彼女は自分の傘の下へと私を誘ってくれた。
断る理由もなく私は彼女が差す傘の中へと入る。
すると頭の中にふと、一つの声が聞こえてくる。
『来てくれてよかった』
今まで何で気付かなかったんだろう、彼女の気持ちを読む事くらいいつでも出来たのに。
「風見幽香さん」
「あら、名前教えていないのに」
「私も貴方に興味が沸きました、おかしな事ではないでしょう?」
彼女が言った言葉をそのまま返す。
「ふふっ、全くその通りね」
初めて見た彼女の笑顔は周りの向日葵よりも太陽の様だった。
「今日はね、貴方に見せたいものがあるの」
「えっ、私に?」
「こっちに来て」
案内された先には、白い花びらに淡く黄色がかった向日葵が咲いていた。
「天気が良ければもっと元気なんだけどね」
「こんな種類もあるんですね」
「ええ、二日前くらいに育ててみたのよ」
「綺麗ですね」
「昼間だともっと綺麗よ、貴方明日は昼間に来なさい」
「えっ、わ、わかりました」
夜が好きだった。
待ち遠しくなるほど好きだった。
けれど彼女に誘われて出掛ける昼が今はとても待ち遠しい。
好きです、こういうの。ときめいちゃいます。
なかなかにチャレンジャブルなカップリングでした
SSの技巧とかそういうのは解らないけど
>「綺麗ね、まるで太陽の様な花ね」
>「太陽の様な花だもの」
こういう場合って、相手の言葉をそのまま返すんでなく
例えば「太陽だもの」とか相手の例えたソノモノなんだよ~って返すほうが印象的じゃないですかね
今回の場合だと流石に大げさかも知れないけど
後々幽香に対しても「太陽の様な~」って評価してる所で、もう「幽香はさとりにとっての太陽なんだー!」って吹っ切れるくらいのほうがニヤニヤ出来たかな、とも思いました
フィーリングの話なんで、そういうのもあるんだ程度に見ていただければ幸い
おお、ブラボー…