まだ朝の早い時間
地底の橋の下にある家…にはとても見えない小屋(しかし家と表記させて頂く)で、寝息を立てている少女が居た。
彼女──水橋パルスィ──は「すぅすぅ……」と、穏やかな眠りについていた
………のだが、
「ふ~んふ~ん♪」
パルスィの家に鼻歌を歌いながら近づく少女が、
「ま~だ…寝てるよね?」
そしてその少女は、我が家同然の如くパルスィの家に入っていく
「お、やっぱりまだ寝てる!」
家に入った少女は、自分の体重を掛けない様にしてパルスィに馬乗りする。
「あ~、本当にパルスィって可愛いわ…今から私のペットになってくれるなんて…まるで夢のようね…!」
その少女は、若干息を荒げながらポツリと呟いた。
そしてその右手には、シンプルなデザインの赤い首輪を所持していた。
「この首輪を着ければ、パルスィは…私のペット…!」
ウットリとしながらパルスィの首に、所持していた首輪を着けようと手を伸ばす…が、
「今日も何してんのよ、こいし」
「へ…?」
パチッ、なんて擬音が付くくらいハッキリと目を開けたパルスィ
「え?なんで?寝てたんじゃ…」
「あんなにブツブツ言ってたらうるさいし、アンタは体重掛けない様にしてるみたいだけど、
意外と違和感を感じるモノなのよ」
「へ、へぇ~ そ、そーなのかー」
いきなりパルスィが起きた事に動揺している少女──古明地こいし──は完全に目が泳いでいた。
「さぁて…今回もアンタがやろうとしていた事を包み隠さず全部教えてもらおうかしら?」
「い、いやだな~ 私はただ単にパルスィを起こそうとしただけで…」
「あ、そう…じゃあその首輪は何かしら?」
「え!?い、いやあのコレはえっと」
「どうしたのかしら?言えないの?」
「す、素直に言ったら許してくれたり…」
「内容によるわね」
ビクッ、っとこいしが体を強張らせ冷や汗をかき出した。
「パ、パルスィをペットにしようとしてました~…」
「………」
「なんて…」
「………」
「あ、あはは~…」
「ふふっ…」
「あはは~」
「ふふっ…ふふっ…」
二人が笑いあって何秒後、人一人が頭をぶん殴られた音が朝の地底に少しだけ響き渡ったという…
☆
地底に住む大方の妖怪が、各々の活動の準備をしている頃…
「む~痛い~」
「うるさいわね」
「痛いよ~」
「あんまりうるさいと朝ご飯アンタのだけ炊いてないお米だけにするわよ」
「もう痛くないです生米は勘弁してパルスィ」
「ったく…」
妙な事をしでかそうとしていたこいしにはパルスィが拳骨をもって制裁を下した。
しかも、週に何度かは来るものだから尚一層性質が悪い。
毎回、その後はこいしに説教していた訳だが、今回その内容は割愛させて頂く。
そして今現在は、恒例の様に自分とこいしの分の朝ご飯を作っている最中である。
「なんで私がアンタの分まで作らなくちゃならないのよ…」
「いいじゃん別に~」
「こいし、アンタさっき『痛い』って言ってたわよね?別の所にもう一つ痛みの根源を作れば相殺されるかもしれないわね」
「スイマセンもう痛くないですし別の根源作るのも勘弁してください」
「はぁ…」
朝っぱらから随分な事をしでかした挙句、その張本人の朝ご飯までつくっている…
「私は何をやってんだか…」
そう呟かざるを得なかった。
そんなこんなしてる間に、
「ほら、ご飯できたから運ぶの手伝いなさい」
「え~」
「熱々のお味噌汁、頭から鍋ごと浴びせるわよ?」
「スイマセンでした是非運ばせてもらいます」
「全く…働かざる者食うべからず、よ」
「ちぇっ、は~い…」
不満げに口をアヒルの様に尖らせながらもこいしは朝ご飯を運んで行く。
「………よし!運び終わったよ!早く食べよ!」
「はいはい…」
そして、二人で手を合わせ
「「いただきます」」
挨拶をし、食べ始めていく
朝ご飯の内容としては、白米・豆腐のお味噌汁・焼き魚・漬物…といった和の朝ご飯である
「ん~!やっぱりパルスィがつくる料理は美味しい!」
「ん、どうも」
「ぶー、もうちょっとリアクションしてくれてもバチは当たらないと思うよ?」
「別に…結構他の連中にも言われてるから…慣れちゃったのかしら?」
「ほ、他のって?」
「地底の入り口付近に居るヤマメとキスメでしょ、宴会やった翌日に高確率で来る勇儀でしょ、
極稀に何か書かれた看板持ってやってくるアンタの姉とそのペットの猫と烏…」
「え?え?そ、そんなに?」
「えぇ、確実にアンタよりは来てる回数は多いわね」
「ぐぬぬ…」
「何悔しがってるのよ…」
呆れ顔のパルスィに対し、
「意外とパルスィを狙ってる人は多いって分かってたけど…
ていうか、パルスィの家に行くならお姉ちゃん何で誘ってくれないのよ…」
こいしはブツブツと何か言っていた。
(こんな調子じゃ、何言っても無駄ね…)
そう思い、朝ご飯を食べ進めるパルスィであった。
☆
「「いただきました」」
二人が朝ご飯を食べ終え、こいしはゴロッと寝転がり、パルスィは使用した食器を洗っていた。
「ね~パルスィさ~」
「何よ?」
「何でペットになってくれないの?」
「お皿の破片って結構鋭利そうよね」
「ふざけて聞いてる訳じゃないよ!」
ふと、パルスィがこいしの方を向くと真剣な眼差しでパルスィを見つめていた。
「私はさ…本気だよ…?」
「あっそ…」
「あ、あっそ…って!」
「第一、仮にペットになったとして私に何か良い事でもあるの?」
「私といつでも居られるし、私がパルスィを幸せにしてあげる!」
「尚一層ペットになりたくなくなったわ」
「え!?何で!?」
「別に一緒に居たい訳でもないし、私は今充分、幸せよ」
「そ、そんなぁ…」
「それに…」
「そ、それに?」
「ペットってアンタの部下的立ち位置でしょ?」
「え…?」
「アンタの下に付くなんて私は御免よ」
そう言ってパルスィはこいしから視線を外す。
こいしは動揺していた。
そんな意味で言ったわけでは無いのに、別にペットになってほしい訳ではないのに、
「ち、違うよ!そういう事じゃ…」
「それに、アンタと対等ってのも気に入らないわね」
「た、対等ならいいの…?」
こいしは恐る恐る聞いてみた
「じゃ、じゃあ…友達なら…」
「…イヤよ」
「え…」
いや、イヤ、嫌、拒絶されたのか、私は嫌われてしまったのか
そりゃそうか、来る度あんな事をすれば当然か…
そう思うと涙がこみ上げて来る
パルスィの前では泣きたくない
泣きたくないのに涙が勝手にこみ上げて来る
「何で既に友達の奴とまた友達になんなきゃいけないのよ」
「へ…?」
こいしは唖然としていた
「ん?何よ、『へ…?』って?」
「え?私とパルスィが友だt…へ?」
「何?何か問題でもあったかしら?」
今日のこいしは動揺の嵐である。
こいしは明らかに嫌われたと、思っていたのでパルスィの言葉に動揺しまくっていた。
「だって朝頭ぶった…」
「友達じゃない奴だったら、至近距離で弾幕放ってるわよ」
「ペットが嫌なのは…?」
「既に友達のアンタのペットになるって事は、友達以下の立ち位置になるって事じゃないの?私は、ソレが嫌なの…それに…」
「な、何?」
こいしは少しビクビクしながら、パルスィの言葉を待った。
「友達でもない奴の分の朝ご飯なんて作らないし、食べさせもしないわよ」
そう言った瞬間にこいしは再び涙がこみ上げてきた
さっきとは違った涙だって事位は、こいしも分かっていた
「ほ、本当?」
「本当よ」
「本当に本当?」
「本当に本当よ」
「本当に本当に本当に…!」
「しつこいわね…本当だって言ってるで…」
こいしの方を向いて言おうとしたが、その言葉の先をパルスィは言えなかった
それは、こいしがパルスィのお腹に腕をまわして背中に顔を埋めているからであった。
「こいし…?」
その時、パルスィはこいしの肩が僅かながらに震えてるのが見て取れた。
「こいし…」
「コレは無意識でやってるんだからね、他意なんて無いんだからね」
少し涙声のこいしの声を聞いて、"やれやれ"といった様子でパルスィは
「あっそ、じゃあ治まるまでそうしてなさい」
そう言って暫く、こいしに背中を貸していた。
☆
パルスィが食器を洗い終わり、こいしが背中から顔を離して少し経ち…
「ねぇ、一緒に居るのは嫌ってどういう意味?」
「友達と毎日顔を合わせるのはいいけどペットとして顔を合わせるのは嫌、って意味よ」
そんな会話をしていた。
他にもポツポツと喋っていた二人であったが
「さて、そろそろ橋に向かおうかしらね」
「えー」
「私はアンタと違って仕事があるの」
「いいじゃん別にー」
「よくないわよ…」
「仕事が無かったら何しようとしてたのよ」
「パルスィと遊ぼうかなって」
「はぁ…悪いけど無理ね」
「そっか…お仕事があるなら仕方ないよね」
そういってこいしは諦めようとした、が
「そういえば最近、橋渡る奴ってあんまり居ないのよね」
「へ?」
「暇になりそうだから…こいし、話相手になってくれない?」
「え…いいの?」
「アンタに頼んでるんだけど…駄目かしら?」
パルスィがそう聞くと、
「ま、まっかせなさい!このこいしちゃんが、豊富な話題を駆使してパルスィの話相手になってあげるよ!」
こいしは元気よく引き受けた。
「頼んだ私が言うのも変だけど…退屈させないでね?」
「大丈夫、大丈夫!地底と地上の話題に精通したこいしちゃんに死角は無いんだからね!」
そんな会話をする二人は、傍から見れば『友達』ではなく『親友』に見えるほど仲良く喋りあっていたという。
パルスィがイケメンすぎてぼくばくはつ
パルスィもってもてww
この天然ジゴロめ!
皆との絡みもみてみたいw
・・・だけど、もしパルスィの前で、他の地底メンバーがかち合ってしまったら、血で血を洗う光景が<キャー!
このイケメンっぷりこそが、嫉妬心を操る程度の能力なのかもしれないですな・・・。
「いただきました」
2人がどんな風に出会ったかの描写があったらもっとよかったかな
まさに逆転の発想。お次の作品も楽しみにしています。