Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

壊れるぐらいに

2011/07/24 20:56:09
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   「可愛い」


  ストレートの黒髪を風に揺らして私の頬を撫でながらそう告げた彼女は、私から目を離さない。
  その言葉がどういう意味なのか、なんて今更尋ねる気にもならない。
  どちらにせよ、彼女は答えてくれないだろうし。これが一度目ではない。
  
   「ありがとう」

  前回と同じように答えると、頬にあった手の力が強くなり顔の向きが固定される。
  彼女の方を見て、観て、視て、みて。見続けて。
  そして、悲しそうに笑うのは…彼女だった。

   「…咲夜」

  愛おしそうに髪を撫でられる。体の全てを、愛おしそうに。狂おしいぐらいに。
  
   「霊夢」

  私は、動かない。 
  悲しげな顔をしている彼女に、何もできない。できやしない。

   「好き」
   「うん」
   「あいしてる」
   「うん」

  彼女の護符で身動きがとれない私にできることといったら、相づちを打つことぐらいしかない。 
  


  悲しそうな顔をしないで、と頭を撫でてあげたくても。
  愛おしいその唇にキスをしたくても。
  全てを、受け止めることしかできない。


 
  私と彼女の愛は、道が二つあるのに、いつでも一方通行だった。




   「咲夜」
   「ん……ふぅ……っ」
 
  唇をふさがれる。
  お互いの存在を確かめるような、そんな長いキス。
  体が動かない私に拒否権はない。終わらせる権利もない。こちらからする事もできない。



  二回目のじゃれ合いの時に気づいた。
  彼女は、歪んでいると。

  全てから浮く存在。だからなのかもしれない。
  自分が浮くのを、誰かを縛ることによって止めたかったのかもしれない。
  彼女は、私の全てを独占した。

  護符で動きを封じられた。
  何度も自分の物だと証明するように、傷をつけられた。
  彼女なしでは生きられないほど、愛された。
 
  お嬢様は、何も言わない。
  私が去る運命が見えた、と言ってもその表情の意味は私には理解できなかった。

  支配されていた物がだんだんと薄れていき、新たな支配がそれを埋めていく。
  皮肉なことに、私はそれを心地よく感じてしまっていた。
  
  


   「んっ」
   「っ!」
  がりっ、と噛まれて、血が出る。犬歯が頬に突き刺さっていて、血が伝う。
  人間なのに、よく刺さるものだ。

   「考え事してた」
   「…ごめんなさいね」
  許さない、と言う感じで縁側に押し倒される。 

  右頬の血は全て彼女に舐めとられていく。
  全て無くなったと思えば、首筋に朱い花が咲くように痕をつけられる。

  歪な愛でも、受け取る方が歪んでいれば、それはきっと素敵な事なんだろう。

  結局は、二人とも狂っていて、歪なのだ。
  支配したい、支配されたい。そんな欲望の基に生きている二人だっただけ。
  


   「咲夜」 
   「…霊夢。……っ!?ごふっ!!かはっ!」
  私に貼られた札が電流の様な衝撃を発生させる。
   「霊撃を体内に叩き付けてるの。痛い?」
   「がっ、いっ…!!」
  答えることなんてできない。 
  ただ、この痛みを受け続けることしかできない。
   「動けないよね。痛いのに、ね。」 
   「っ!?――――!!!」
  札の力が強くなる。
  肺機能が停止したように、息ができない。

   「今の咲夜、すごく可愛い」
   「――っ!!」 
  
  言葉がでない。
  恍惚の笑みを浮かべている彼女の顔が、だんだんと霞んでいく。 
 

  多分、私の顔も彼女と同じような物だと思う。
  だって、彼女からなら、痛みでさえ心地よい快感へと変わる。
  

  この触れ合いは、私の気が遠くなるほど何時間も続けられた。
  弱めて、強めて。 
  傷つけられて、痛めつけられて、どうしようもなく、狂おしく堕とされていく。  

  
  
  意識が薄れゆく中、痛みが引いていくのがわかった。 
  続いて、暖かいものが私を抱きしめる。 

  
   「ごめんなさい」
 

  そう呟いた彼女はきっと、優しく泣いていたんだろうか。 
  

  優しくなんてしなくていい。私は、貴方の物でいいから。  
  だから、正気にもどった瞬間に、優しくなんてしないで。

  私は貴方に傷つけられるだけでいい。

  体は痺れて動かせなくて、意識は朦朧としているけれど。
  それも、幸せの余韻になるから。

   「咲夜、ごめん。どこまでいくかわからない」
 
  ゆっくりと体をまた噛み始めた彼女を、私はやはり愛おしく思う。

    ねぇ、霊夢。
  
  声は喉が痙攣してて出たかわからないけれど。 
  目はあまり開かないけれど。 
  体は動かないけれど。


  どうせならいっそ。




  「壊れるぐらいに」
  

  

  愛してよ。
壊れるぐらいに抱きしめて。
壊れるぐらいにキスをして。

それが、私達の幸せ。



ありがとうございました。
LAW
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
このカップリングは咲夜が攻めで霊夢が受けのイメージがありましたが、こういうのも中々に良いものです。
2.奇声を発する程度の能力削除
狂ってる感じが丁度良い
3.名前が無い程度の能力削除
これは好みなレイサク。
前後が読みたいなー。続くなら期待してます。