この話は作者の「クールな霊夢とクールなアリス」の続き物です。
また、「どぎまぎ霊夢とクールなアリス」のアリスサイドです。
先に読んでおかないと訳が分からなくなると思います
アリス・マーガトロイド様へ
明日、菓子をご馳走になりに行くから覚悟しておいて下さい。
博麗霊夢
こんな簡潔だけどへんてこりんな手紙が来たのは昨日の夜頃だった。
玄関の下にぽつりと置かれていたその手紙は何故か開けるのが惜しくなるほどの豪華な封筒に入っていた。
神綺様からの伝令かと思っていたけどまさか霊夢とは。
「なにかしら、これ。」
期待を裏切られた形にはなるけど霊夢からの手紙なら嬉しい期待外れだ。霊夢から手紙をもらったのなんて初めてだしそもそも霊夢が手紙を書く事自体知らなかった。
しかしへんてこな手紙だ
あんだけ豪華な封筒に入っているから何の用事かと思っていたら蓋を開ければただの「明日私の家に来る」と言うだけの簡潔な用事。ただ口頭で言えばいいだけの簡単な…
ん?
…待て、何か見忘れている
何か重要な、とても重要な事を…
「菓子を食べに行く」
いや違う、これも重要だがここでは無い。
「覚悟しておけ」
これも違う、人に料理を出すのは確かに注意が必要だがこれでも無い。
「博麗霊夢」
霊夢が格好良いのは分かるがそこではない。
「明日 家に 来る」
…ん?
明日 家に 来る
………
家に 来る
………
誰が?
霊夢が
何処に?
家に
誰の?
私の
私って?
アリス・マーガトロイド
アリス・マーガトロイドって?
私
ここ、何処?
私の家
霊夢が、何処に、来る?
ここに
ここに?
うん
本当に?
本当に
………
………
「…っええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!?」
夜の森に絶叫が響き渡った瞬間だった。
◇◇◇
「オレルアン!西蔵!掃き掃除を!急いで!露西亜!水汲んで!そこの十体!雑巾持って拭き掃除!」
今、私は家の掃除、整頓、内装、飾りつけ、模様替え、補修を急ピッチで行っていた。
導入している人形は百体単位、なにせ霊夢が来ると思われる朝まで後半日と少ししかない。
「京!鍋の用意を!倫敦!材料を出して!」
作る物は決まっていた
チョコレート
最近紫から聞いて興味半分で材料を仕入れてもらっていた、ためしに試食してみるとこれが存外に美味しい。霊夢が来るというのなら最適なお菓子だろう。
人里にチョコレートは無いが霊夢の事だ、紫に見せられていることはあるだろう。
ならば霊夢が食べたことも無い程美味なチョコレートを、茶色の賽子を作って見せよう。
腕によりをかけて。
丁度良い、久々に本気を出したかった所だ。
体に力が満ちてゆくのを感じる
久々の充足感
周りの物がゆっくり見えてゆく感覚
ふーっと息を吐くと『完成』したのを感じる
『本気の私』が
「―――アリス、行きます」
そして私は材料を手に取って―――――――――――――
◇◇◇
「――――――疲れた。」
三時間後、私は絨毯の上に倒れていた
疲れた、それしか言える事が無い
私の全てを注ぎ込んだチョコレートは見事な出来栄えで完成した、これならばあの幼い吸血鬼も舌を巻かざるを得ないだろう。今度批評してもらおうか。
その代わりと言っては何だが私は疲れ切っていた、今すぐにでも寝てしまいそうに。
氷室の中には茶色い賽子と透明な賽子がある一緒に出せば納涼にもなるだろう。演出にも気を使うのが都会派だ。
眠い
しかし眠りこけるわけにはいかない。もうすぐ霊夢が来るのだ、まだやりたい事がある―――。
◇◇◇
しかし、それからいくらたっても霊夢は現れなかった。
「遅いわね…」
私は玄関で待っていたのだが霊夢は一向に姿を見せない。
勘違いしないで欲しいが霊夢が着た瞬間ドアを開けて出鼻を挫こうなどという事は考えていない。
寧ろ霊夢が来たらすぐにリビングに引き返しクールに待つつもりだ、都会派はクールでなくてはいけない。
しかし、待てども待てども来ない。
頭の中を嫌な想像ばかりがよぎる
もしや忘れている?
他の人と話し込んでいる?
異変?
それとも…遊びで手紙を出した?
ありえない、信じない、信じたくない。
だけど、もしそうだとしたら…
最悪な予想、しかもそれを否定できない自分に嫌気がさす。
そうだよね、根暗な自分に友達なんてできないよね
そうだよね…
まただ、またそんな事を考えている自分が居る、予防線を張り、逃げ腰になり傷つかない様にしている自分が居る。
駄目だ、そんな事では変われない。そんな事では霊夢の前には出れない。
信じる、霊夢を、自分を。
そう思っていると向こうから紅白が現れた。
霊夢だ
安堵が体を包む、膝から倒れ込みそうになる
だがそれではいけない、これではいけない。
急いでリビングに戻る、用意していた人形作業をすることで『今まで人形を作っていたクールな人形遣い』を演出する。
しかし霊夢は来ない
いくら待っても来ない
おかしい、そう感じて再度玄関に赴く。
そっと霊夢の方を見ると
何だかよく分からない踊りをしていた
いや、あれは準備体操?
しかし霊夢が準備体操とはなかなかに滑稽な光景だ、滅多にみられるものでは無いのでしかと目におさめておこう。
そう思った瞬間霊夢がこちらを見た
なんとなく後ろめたいので反射的に身を潜める
しかし霊夢はこちらに向かってこない
代わりにまた準備体操を始めた。
……?
何だか知らないけど霊夢はこちらに入ってこれない様だ、もしや私が招き入れるのを待っているつもりか。
霊夢にも律儀な所があるなと思いつつも霊夢を迎え入れようとドアを開けた。
「…霊夢、何してるのかしら」
その瞬間の霊夢の顔を私は忘れないだろう。きっと
◇◇◇
霊夢はこちらが声をかけた瞬間びくっと身を震わせてこちらを見た。
「あらアリス、お邪魔するわよ。」
そう切り返したがさっきびびっていた事が分からなかったらそいつの目は節穴だろう。
何故あんなにびびっていたのだろう。
霊夢の顔を見ると「なんで出て来た」といった表情をしていたので先手を打つことにした。
「霊夢がなかなか来ないから玄関に出ようとしたら霊夢が変な運動をしてるんだもん。」
そう言うと霊夢は再びびくっとした、何だか可愛い。
じゃなくって
霊夢はあーとかうーとか言いながら困ったように切り返してきた。
「ん?どうして私が来るって分かったの?魔法か何か?」
「あなたから手紙をもらったのが魔法だって言うのならそうでしょうね。」
何を言ってるんだと切り返したらとたんに霊夢が唸りだした。
え?何?今の言っちゃいけない言葉だったの?
霊夢の顔を見ると何故か険しい顔になっている。
もしかして…具合が悪い?
堪らずに私は霊夢の方に駆け寄る、もし具合が悪いなら横にして安静にさせないと。
そう思って霊夢の顔を近寄ってよく見る。
やはり険しい顔をしているが特に具合が悪いわけでは無い様だ。
しかし、こうして見ると霊夢はやはり格好いい
くっきりとした、しかしくど過ぎない顔の輪郭
鼻はすっきりと通っていて適度に高く
口はきりりとしっかり結ばれていて
まるで等身大の人形を見ているかのようだ
私は面食いではないがそれでもどきっとする様な顔を持っている。
「…どうしたの?」
そんな事を考えているのは私が人形師だからだろうか。
そこまで考えて霊夢が何か言っている事に気が付いた。
よく見ると顔が紅潮している。やはり風邪か?
「アリスさん…」
「はい?」
「近すぎます…」
「へっ?」
へっ?
もう一度心の中でそう思ってしまった。
状況をよく見てみると霊夢と私の距離おおよそ数センチ。
数メートルじゃないよ、数センチ。
数セン…
反射的に距離を取ってしまった
「ああ…」
何と言う事だ
「あの…アリスさん?」
「…ごめんなさい。」
霊夢は「また」面倒に思ってしまったに違いない。
魔界に居たあの時と同じだ
◇◇◇
あの時、私は侵入者の一報を受けて迎撃に向かったあの時
見てしまったのだ
数々の魔界人を蹴散らしながら進む紅白
残酷な、勝利しか見ていないかの様な戦乙女
しかしその奥に隠された確固たる理性、知性
凄い
そう思った
そして素晴らしいとも
興味が湧いた
いくら待っても泉は枯れず、水が溢れそうになった。
見に行きたい
また見たい
あの強さを
あの知性を
あの紅白を
究極の魔法をもって、また戦おう
そして私は向こうに赴き、全力を出して負けた
壁は、思ったより固く、厚く、高かった
私は、自分の無力を痛感した
その後罰として博麗神社で雑用をしている時の霊夢は戦っているときには見えない優しさとか可愛さがあって。
何でか胸がときめいた
魔界を出て、幻想郷に行きたい
強いては、もっと強くなりたい
神綺様はしぶったが許可が下りた、たまに顔を見せるとの条件で。
そして、霊夢は私の事を完全に忘れていた。
それでいい、当然だ、霊夢にとって私は昔のただの敵、取るに足らない者。
ならば忘れていても何ら問題ではない。
それでこそまた、戦える
やはり負けたが、これで霊夢との繋がりができた
会いに行けるんだ
いつだって
◇◇◇
「アリス」
霊夢の声が聞こえる
迷惑、かけちゃったかな。
「なんでしょう霊夢さん?」
あ、思わず敬語になってしまった。
「家、上がらせてもらってもいかしら」
「ああ、もちろん良いわよ。」
…あ、忘れてた
今日は霊夢が家に上がる日だ!
そう思うと途端に焦りが生まれてくる
とっさに巡回用人形に周囲の様子を伝達させる
箒に乗る黒い影、無し
台所の黒い影、無し
隠密警備用人形、システムオールグリーン
チョコレートの具合、最高
霊夢、OK
愛のメモリー、松崎しげる
迎撃用人形及び魔帝7つ道具、待機状態
ベッド、ダブルベッドデスゼマスター!
上海、シャンハーイ
蓬莱、ホウラーイ
オールグリーン
オールグリーン
オールグリーン
…若干ノイズが入ったが良いだろう、上海は後でしめておこう。
私は霊夢に向かってにこりと笑みを浮かべた、さっきのお返しだ。
◇◇◇
「そういえばアリスの家に上がるのってこれが初めてよね。」
「え?そうだったかしら?」
霊夢が私の家に来たのはこれが初めてだ、いつも「私の家に来て」の一言が言えなかったから分かる。
だからこそあんなに張り切って準備をしたのだ。
「不気味ね…」
家に入って霊夢はそう言った
「…人形…不気味…か…。」
確かに壁一面の人形は不気味だろう、求聞史記にもそう書かれたし。
しかしこの人形は自分の努力の結晶だ、不気味でも構わない。
「そうよね…不気味よね…。」
不気味、か
肝試し?もうすぐ夏だし。
霊夢に提案して肝試し大会、少し細工を加えて霊夢と私がペアを組む事にする、私ならできるだろう。
ふむ…これは一考に値する考えだ。
もしかしたら霊夢は怖がりかもしれない、可能性は限りなく0に等しいが。
「いや、人形だけっていうのもアリスらしくていいわよね!」
霊夢が何か言っているが今は肝試し大会だ、霊夢がこちらに倒れてきたりしたらどうしよう、思わず「ふう…」とか言ってしまいそうだ。
「研究者って感じで格好いいと言うか、とにかく人形師らしくて素敵よ。」
「…本当?」
「ええ、私は嘘をつかないわ。」
そう言うと
何故か霊夢は
こちらの手を握ってきた
………
……………
…………!!?
いかん、今の一瞬で意識が持っていかれていた。
霊夢!近い!近い!
「信じて、アリス。」
いや!信じるから!何をかは知らないけど!
やばい、近い、霊夢がこっち見てる!
霊夢の黒い艶やかな髪が
真っ直ぐな瞳が
霊夢が
近くに
すぐ近くに
いけない、冷静さを取り戻さないと。
心の中で深呼吸をし、冷静さを取り戻す。
後に残ったのは「いつもの冷静なアリス・マーガトロイド」
「あのー…」
「何かしら。」
よし、何とかうまくいった様だ
「ごめんなさい」
「…?」
何を謝っているのだろう。
「あの…手。」
ふと手元を見ると霊夢と手を繋いだままだった
!!
「ああ、繋いだままだったわね。」
一瞬気が乱れかけたが冷静さを取り戻した、おそらく気が付かれていない。
「さて、じゃあダイニングにでも行きましょうか」
これ以上この状態が続くとまずい、非常にまずい、早く霊夢にお菓子をご馳走しないと。
◇◇◇
「ヘーイ、シェフ、今日のメインディッシュは何かな。」
ダイニングに入ると霊夢がソファに座りこんなことを言い始めた、横文字から察するに紫に刷り込まれたのだろう。
「霊夢、また紫から外の世界の単語を聞いたの?」
「何か料理が来るときはこう言うものだって。それで料理が旨かった時には『シェフを呼べ!』と言うんだって。」
…あの隙間妖怪め。
「…霊夢、完全に紫にからかわれてるわね。」
「むう、外の世界の事は分からないわ。」
「だったら誤っているか分からない知識を無暗矢鱈に使わないことね、余計な誤解を招くわよ。」
「余計な誤解が付いたところで私には関係が無い話だと思うんだけどね、それにそもそも外の世界の事なんてほとんどの幻想郷の奴らは知らないと思うわ。」
確かにそうだろう、この幻想郷にそんな些細な事を気にする輩は皆無といっても良い。
だがその中にも「小難しい奴」と言うのは存在するわけであって。
例えば…
「紅魔館とかなら通用しそうだけどね。あんたあのちびっこに笑われたいのかしら。」
あの吸血鬼達、瀟洒な従者と知恵の林檎ならぬもやしとか
どうやら私はあそこにあまり良い感情を持っていないらしい。
それは向こう方も同じ様だが
レミリアもパチュリーも私を無視するようにプイと顔を向けてしまうし咲夜は咲夜でにやにや笑っているし。
「ふうん」
霊夢は何やら考えている、おおかた「レミリアに馬鹿にされると面白くない」とでも考えているのだろう。
どうやら霊夢はあの頃に比べて成長した様だ、当たり前の話だが。
「あんたも少しはそういう事考えるようになったのね。」
ずいとあちらに向けて顔を突き出した
黒い目が私を見据えている
烏の濡れ羽色をした髪と同じ漆黒が。私を映している。
「そういう事って、何を。」
「だから、恥って物をよ。」
恥?
霊夢は分から無いと言った風な目で見てくる。
やはり成長はしていないかな。
「あんた、レミリアに笑われるのが面白くないって思ったでしょ。」
どうやら図星らしい。
「それが恥よ。」
「恥、ねえ。」
「信じられないわ、何の躊躇も無く魔界に攻め込み、多くの魔界人を踏みつけて行った奴とは思えない。」
そう、あの遠慮容赦のない侵入者達は恥も何も無かった。
蹴散らし、踏み潰し、ただ前に進むだけ
そこに目的達成以外の僅かの物も入る余地はない。
恥であっても。
やはり霊夢は成長していた
「ふむ」
ふふん
良い事を思いついた
霊夢に一泡吹かせる格好の言い訳。
人形の持ってきた盆に乗っていたチョコレートを摘まんで霊夢に差し出す、あくまで手放さない。
霊夢はこちらの意図がまだ掴めない様だ
「ん、チョコレートよ。」
わざと意地悪をする、ここまで散々恥ずかしい思いをさせてくれた仕返しだ。
「いや、そうじゃなくて、何で手に持ってるのかなって。」
「食べさせる為でしょ。」
あくまで冷静に、クールに、何でもないかのように
霊夢は一瞬目を見開いたかと思うともじもじと躊躇し始めた。
その表情良い、すっごく良い
どうやら自分にはSっ気があるようだ。幽香ほどでは無いけど。
「ほら、夏だからチョコが解けちゃうでしょ、早く食べなさいよ。」
ここぞとばかりに催促をする、へへーんどうだ、恥ずかしいだろ、できないだろ。
そう、これは霊夢が折れるのを見て心の中でからかって楽しもうという考えだった
しかし霊夢は
「じゃあ…頂きます。」
え?霊夢何でチョコレートに口を近づけてるの?いったい何で…
その次に指に訪れる暖かい湿った感覚
ちょ、霊夢?おーい?霊夢さーん?
霊夢は私の指ごとチョコを咥えこんでいた
しかもそのまま動かない
何をする気だ
「んむっ」
「んっ!?」
何と霊夢はこちらの指を舐め始めた。
舌の粒々が指に当たる感覚
それがまるで鑢の様に指をなぞっていく感覚
人形師にとって指は敏感だ
特に私は人形の異変を素早く察知しようと指の感覚が殊更敏感になっている
そんな箇所を舐められたらどうなるか
「んっ!?ん~っ」
身悶えする
まるで全身が指になってしまったかのような感覚がする。
しかも舐め取っているのは霊夢だ
やばい、なにがやばいってとにかくやばい
表には出していないけれども誰も居なかったら床に倒れ込んでいるだろう。
そんな地獄のような夢のような時間が過ぎて
霊夢が指を舐めるのを止めたようだ。
指を離すと茶色い唾液が糸を引いていた
あの糸を舐めればチョコレートの味がするのだろうか。
そんな馬鹿な事を考えた
霊夢の方を見るとしてやった顔でこちらを見ている
…面白い
今ので火がついてしまった
笑みを浮かべる
自分の中で一番妖艶な笑みを
「それじゃあ霊夢」
霊夢、お仕置きの時間よ。
「次は霊夢のチョコを私が食べる側ね。」
◇◇◇
それからの私は何かに憑かれていたとしか思えない
普段はやろうとは思わない事をやってしまったり言ってしまったりで穴があったら入りたい心境だ。
「チョコ、美味しかったわ。」
「作った人が言う言葉じゃないでしょ。」
「霊夢は美味しくなかったの?」
「…美味しかったわ」
しかし今は霊夢の前だ、そんな事は出来る筈も無い
「お菓子のみなら毎日食べに行きたい位。」
霊夢が毎日来てくれる、それはとても嬉しい事だとは思うけどそんな事をされたらこちらの気力が尽きてしまうだろう。
「毎日来られたら家のお菓子ストックが無くなちゃうわよ。」
「じゃあ、あまり来れないわね。」
でも、けれどもなるべく来て欲しい、そんなジレンマ。
「そうね、私としてはそれでもいいんだけど。」
「アリスのお菓子は美味しいかったからそれは困るわね…。」
美味しいと言ってもらえた
「ふふ、冗談よ、お菓子なんか幾らでも作れるから。いつでもいらっしゃい。」
「ありがとう」
霊夢はそう言って帰って行った
ねえ霊夢
私がお菓子を他人に向けて作ったのは霊夢が初めてなの。
家もいつもは薄暗いんだけど頑張って模様替えしたのよ?
分からなくても良い
分かってくれなくとも良い
霊夢は人間だ、妖怪の自分よりも先に逝ってしまうだろう。
それはどんなに辛い事だろう
それでも
私は
貴方の事が気になって仕方がない
貴方と一緒に居たい
向かい合って生きるのではなく傍にいるのでもなく、見続けているだけでもいい
だから、私の家に居る時だけは
夢を、儚い夢を見させて
お願い
霊夢
博麗の巫女
私の憧れの人間
これからどうするのだろうか
神社に帰り、宴会をするのだろうか
すぐに床に就くのだろうか
これまでも、そしてこれからも
変わらぬ生活を送り続けるだろう霊夢に向かって思わず呟いた
「本当に、鈍感なんだから…」
また、「どぎまぎ霊夢とクールなアリス」のアリスサイドです。
先に読んでおかないと訳が分からなくなると思います
アリス・マーガトロイド様へ
明日、菓子をご馳走になりに行くから覚悟しておいて下さい。
博麗霊夢
こんな簡潔だけどへんてこりんな手紙が来たのは昨日の夜頃だった。
玄関の下にぽつりと置かれていたその手紙は何故か開けるのが惜しくなるほどの豪華な封筒に入っていた。
神綺様からの伝令かと思っていたけどまさか霊夢とは。
「なにかしら、これ。」
期待を裏切られた形にはなるけど霊夢からの手紙なら嬉しい期待外れだ。霊夢から手紙をもらったのなんて初めてだしそもそも霊夢が手紙を書く事自体知らなかった。
しかしへんてこな手紙だ
あんだけ豪華な封筒に入っているから何の用事かと思っていたら蓋を開ければただの「明日私の家に来る」と言うだけの簡潔な用事。ただ口頭で言えばいいだけの簡単な…
ん?
…待て、何か見忘れている
何か重要な、とても重要な事を…
「菓子を食べに行く」
いや違う、これも重要だがここでは無い。
「覚悟しておけ」
これも違う、人に料理を出すのは確かに注意が必要だがこれでも無い。
「博麗霊夢」
霊夢が格好良いのは分かるがそこではない。
「明日 家に 来る」
…ん?
明日 家に 来る
………
家に 来る
………
誰が?
霊夢が
何処に?
家に
誰の?
私の
私って?
アリス・マーガトロイド
アリス・マーガトロイドって?
私
ここ、何処?
私の家
霊夢が、何処に、来る?
ここに
ここに?
うん
本当に?
本当に
………
………
「…っええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!?」
夜の森に絶叫が響き渡った瞬間だった。
◇◇◇
「オレルアン!西蔵!掃き掃除を!急いで!露西亜!水汲んで!そこの十体!雑巾持って拭き掃除!」
今、私は家の掃除、整頓、内装、飾りつけ、模様替え、補修を急ピッチで行っていた。
導入している人形は百体単位、なにせ霊夢が来ると思われる朝まで後半日と少ししかない。
「京!鍋の用意を!倫敦!材料を出して!」
作る物は決まっていた
チョコレート
最近紫から聞いて興味半分で材料を仕入れてもらっていた、ためしに試食してみるとこれが存外に美味しい。霊夢が来るというのなら最適なお菓子だろう。
人里にチョコレートは無いが霊夢の事だ、紫に見せられていることはあるだろう。
ならば霊夢が食べたことも無い程美味なチョコレートを、茶色の賽子を作って見せよう。
腕によりをかけて。
丁度良い、久々に本気を出したかった所だ。
体に力が満ちてゆくのを感じる
久々の充足感
周りの物がゆっくり見えてゆく感覚
ふーっと息を吐くと『完成』したのを感じる
『本気の私』が
「―――アリス、行きます」
そして私は材料を手に取って―――――――――――――
◇◇◇
「――――――疲れた。」
三時間後、私は絨毯の上に倒れていた
疲れた、それしか言える事が無い
私の全てを注ぎ込んだチョコレートは見事な出来栄えで完成した、これならばあの幼い吸血鬼も舌を巻かざるを得ないだろう。今度批評してもらおうか。
その代わりと言っては何だが私は疲れ切っていた、今すぐにでも寝てしまいそうに。
氷室の中には茶色い賽子と透明な賽子がある一緒に出せば納涼にもなるだろう。演出にも気を使うのが都会派だ。
眠い
しかし眠りこけるわけにはいかない。もうすぐ霊夢が来るのだ、まだやりたい事がある―――。
◇◇◇
しかし、それからいくらたっても霊夢は現れなかった。
「遅いわね…」
私は玄関で待っていたのだが霊夢は一向に姿を見せない。
勘違いしないで欲しいが霊夢が着た瞬間ドアを開けて出鼻を挫こうなどという事は考えていない。
寧ろ霊夢が来たらすぐにリビングに引き返しクールに待つつもりだ、都会派はクールでなくてはいけない。
しかし、待てども待てども来ない。
頭の中を嫌な想像ばかりがよぎる
もしや忘れている?
他の人と話し込んでいる?
異変?
それとも…遊びで手紙を出した?
ありえない、信じない、信じたくない。
だけど、もしそうだとしたら…
最悪な予想、しかもそれを否定できない自分に嫌気がさす。
そうだよね、根暗な自分に友達なんてできないよね
そうだよね…
まただ、またそんな事を考えている自分が居る、予防線を張り、逃げ腰になり傷つかない様にしている自分が居る。
駄目だ、そんな事では変われない。そんな事では霊夢の前には出れない。
信じる、霊夢を、自分を。
そう思っていると向こうから紅白が現れた。
霊夢だ
安堵が体を包む、膝から倒れ込みそうになる
だがそれではいけない、これではいけない。
急いでリビングに戻る、用意していた人形作業をすることで『今まで人形を作っていたクールな人形遣い』を演出する。
しかし霊夢は来ない
いくら待っても来ない
おかしい、そう感じて再度玄関に赴く。
そっと霊夢の方を見ると
何だかよく分からない踊りをしていた
いや、あれは準備体操?
しかし霊夢が準備体操とはなかなかに滑稽な光景だ、滅多にみられるものでは無いのでしかと目におさめておこう。
そう思った瞬間霊夢がこちらを見た
なんとなく後ろめたいので反射的に身を潜める
しかし霊夢はこちらに向かってこない
代わりにまた準備体操を始めた。
……?
何だか知らないけど霊夢はこちらに入ってこれない様だ、もしや私が招き入れるのを待っているつもりか。
霊夢にも律儀な所があるなと思いつつも霊夢を迎え入れようとドアを開けた。
「…霊夢、何してるのかしら」
その瞬間の霊夢の顔を私は忘れないだろう。きっと
◇◇◇
霊夢はこちらが声をかけた瞬間びくっと身を震わせてこちらを見た。
「あらアリス、お邪魔するわよ。」
そう切り返したがさっきびびっていた事が分からなかったらそいつの目は節穴だろう。
何故あんなにびびっていたのだろう。
霊夢の顔を見ると「なんで出て来た」といった表情をしていたので先手を打つことにした。
「霊夢がなかなか来ないから玄関に出ようとしたら霊夢が変な運動をしてるんだもん。」
そう言うと霊夢は再びびくっとした、何だか可愛い。
じゃなくって
霊夢はあーとかうーとか言いながら困ったように切り返してきた。
「ん?どうして私が来るって分かったの?魔法か何か?」
「あなたから手紙をもらったのが魔法だって言うのならそうでしょうね。」
何を言ってるんだと切り返したらとたんに霊夢が唸りだした。
え?何?今の言っちゃいけない言葉だったの?
霊夢の顔を見ると何故か険しい顔になっている。
もしかして…具合が悪い?
堪らずに私は霊夢の方に駆け寄る、もし具合が悪いなら横にして安静にさせないと。
そう思って霊夢の顔を近寄ってよく見る。
やはり険しい顔をしているが特に具合が悪いわけでは無い様だ。
しかし、こうして見ると霊夢はやはり格好いい
くっきりとした、しかしくど過ぎない顔の輪郭
鼻はすっきりと通っていて適度に高く
口はきりりとしっかり結ばれていて
まるで等身大の人形を見ているかのようだ
私は面食いではないがそれでもどきっとする様な顔を持っている。
「…どうしたの?」
そんな事を考えているのは私が人形師だからだろうか。
そこまで考えて霊夢が何か言っている事に気が付いた。
よく見ると顔が紅潮している。やはり風邪か?
「アリスさん…」
「はい?」
「近すぎます…」
「へっ?」
へっ?
もう一度心の中でそう思ってしまった。
状況をよく見てみると霊夢と私の距離おおよそ数センチ。
数メートルじゃないよ、数センチ。
数セン…
反射的に距離を取ってしまった
「ああ…」
何と言う事だ
「あの…アリスさん?」
「…ごめんなさい。」
霊夢は「また」面倒に思ってしまったに違いない。
魔界に居たあの時と同じだ
◇◇◇
あの時、私は侵入者の一報を受けて迎撃に向かったあの時
見てしまったのだ
数々の魔界人を蹴散らしながら進む紅白
残酷な、勝利しか見ていないかの様な戦乙女
しかしその奥に隠された確固たる理性、知性
凄い
そう思った
そして素晴らしいとも
興味が湧いた
いくら待っても泉は枯れず、水が溢れそうになった。
見に行きたい
また見たい
あの強さを
あの知性を
あの紅白を
究極の魔法をもって、また戦おう
そして私は向こうに赴き、全力を出して負けた
壁は、思ったより固く、厚く、高かった
私は、自分の無力を痛感した
その後罰として博麗神社で雑用をしている時の霊夢は戦っているときには見えない優しさとか可愛さがあって。
何でか胸がときめいた
魔界を出て、幻想郷に行きたい
強いては、もっと強くなりたい
神綺様はしぶったが許可が下りた、たまに顔を見せるとの条件で。
そして、霊夢は私の事を完全に忘れていた。
それでいい、当然だ、霊夢にとって私は昔のただの敵、取るに足らない者。
ならば忘れていても何ら問題ではない。
それでこそまた、戦える
やはり負けたが、これで霊夢との繋がりができた
会いに行けるんだ
いつだって
◇◇◇
「アリス」
霊夢の声が聞こえる
迷惑、かけちゃったかな。
「なんでしょう霊夢さん?」
あ、思わず敬語になってしまった。
「家、上がらせてもらってもいかしら」
「ああ、もちろん良いわよ。」
…あ、忘れてた
今日は霊夢が家に上がる日だ!
そう思うと途端に焦りが生まれてくる
とっさに巡回用人形に周囲の様子を伝達させる
箒に乗る黒い影、無し
台所の黒い影、無し
隠密警備用人形、システムオールグリーン
チョコレートの具合、最高
霊夢、OK
愛のメモリー、松崎しげる
迎撃用人形及び魔帝7つ道具、待機状態
ベッド、ダブルベッドデスゼマスター!
上海、シャンハーイ
蓬莱、ホウラーイ
オールグリーン
オールグリーン
オールグリーン
…若干ノイズが入ったが良いだろう、上海は後でしめておこう。
私は霊夢に向かってにこりと笑みを浮かべた、さっきのお返しだ。
◇◇◇
「そういえばアリスの家に上がるのってこれが初めてよね。」
「え?そうだったかしら?」
霊夢が私の家に来たのはこれが初めてだ、いつも「私の家に来て」の一言が言えなかったから分かる。
だからこそあんなに張り切って準備をしたのだ。
「不気味ね…」
家に入って霊夢はそう言った
「…人形…不気味…か…。」
確かに壁一面の人形は不気味だろう、求聞史記にもそう書かれたし。
しかしこの人形は自分の努力の結晶だ、不気味でも構わない。
「そうよね…不気味よね…。」
不気味、か
肝試し?もうすぐ夏だし。
霊夢に提案して肝試し大会、少し細工を加えて霊夢と私がペアを組む事にする、私ならできるだろう。
ふむ…これは一考に値する考えだ。
もしかしたら霊夢は怖がりかもしれない、可能性は限りなく0に等しいが。
「いや、人形だけっていうのもアリスらしくていいわよね!」
霊夢が何か言っているが今は肝試し大会だ、霊夢がこちらに倒れてきたりしたらどうしよう、思わず「ふう…」とか言ってしまいそうだ。
「研究者って感じで格好いいと言うか、とにかく人形師らしくて素敵よ。」
「…本当?」
「ええ、私は嘘をつかないわ。」
そう言うと
何故か霊夢は
こちらの手を握ってきた
………
……………
…………!!?
いかん、今の一瞬で意識が持っていかれていた。
霊夢!近い!近い!
「信じて、アリス。」
いや!信じるから!何をかは知らないけど!
やばい、近い、霊夢がこっち見てる!
霊夢の黒い艶やかな髪が
真っ直ぐな瞳が
霊夢が
近くに
すぐ近くに
いけない、冷静さを取り戻さないと。
心の中で深呼吸をし、冷静さを取り戻す。
後に残ったのは「いつもの冷静なアリス・マーガトロイド」
「あのー…」
「何かしら。」
よし、何とかうまくいった様だ
「ごめんなさい」
「…?」
何を謝っているのだろう。
「あの…手。」
ふと手元を見ると霊夢と手を繋いだままだった
!!
「ああ、繋いだままだったわね。」
一瞬気が乱れかけたが冷静さを取り戻した、おそらく気が付かれていない。
「さて、じゃあダイニングにでも行きましょうか」
これ以上この状態が続くとまずい、非常にまずい、早く霊夢にお菓子をご馳走しないと。
◇◇◇
「ヘーイ、シェフ、今日のメインディッシュは何かな。」
ダイニングに入ると霊夢がソファに座りこんなことを言い始めた、横文字から察するに紫に刷り込まれたのだろう。
「霊夢、また紫から外の世界の単語を聞いたの?」
「何か料理が来るときはこう言うものだって。それで料理が旨かった時には『シェフを呼べ!』と言うんだって。」
…あの隙間妖怪め。
「…霊夢、完全に紫にからかわれてるわね。」
「むう、外の世界の事は分からないわ。」
「だったら誤っているか分からない知識を無暗矢鱈に使わないことね、余計な誤解を招くわよ。」
「余計な誤解が付いたところで私には関係が無い話だと思うんだけどね、それにそもそも外の世界の事なんてほとんどの幻想郷の奴らは知らないと思うわ。」
確かにそうだろう、この幻想郷にそんな些細な事を気にする輩は皆無といっても良い。
だがその中にも「小難しい奴」と言うのは存在するわけであって。
例えば…
「紅魔館とかなら通用しそうだけどね。あんたあのちびっこに笑われたいのかしら。」
あの吸血鬼達、瀟洒な従者と知恵の林檎ならぬもやしとか
どうやら私はあそこにあまり良い感情を持っていないらしい。
それは向こう方も同じ様だが
レミリアもパチュリーも私を無視するようにプイと顔を向けてしまうし咲夜は咲夜でにやにや笑っているし。
「ふうん」
霊夢は何やら考えている、おおかた「レミリアに馬鹿にされると面白くない」とでも考えているのだろう。
どうやら霊夢はあの頃に比べて成長した様だ、当たり前の話だが。
「あんたも少しはそういう事考えるようになったのね。」
ずいとあちらに向けて顔を突き出した
黒い目が私を見据えている
烏の濡れ羽色をした髪と同じ漆黒が。私を映している。
「そういう事って、何を。」
「だから、恥って物をよ。」
恥?
霊夢は分から無いと言った風な目で見てくる。
やはり成長はしていないかな。
「あんた、レミリアに笑われるのが面白くないって思ったでしょ。」
どうやら図星らしい。
「それが恥よ。」
「恥、ねえ。」
「信じられないわ、何の躊躇も無く魔界に攻め込み、多くの魔界人を踏みつけて行った奴とは思えない。」
そう、あの遠慮容赦のない侵入者達は恥も何も無かった。
蹴散らし、踏み潰し、ただ前に進むだけ
そこに目的達成以外の僅かの物も入る余地はない。
恥であっても。
やはり霊夢は成長していた
「ふむ」
ふふん
良い事を思いついた
霊夢に一泡吹かせる格好の言い訳。
人形の持ってきた盆に乗っていたチョコレートを摘まんで霊夢に差し出す、あくまで手放さない。
霊夢はこちらの意図がまだ掴めない様だ
「ん、チョコレートよ。」
わざと意地悪をする、ここまで散々恥ずかしい思いをさせてくれた仕返しだ。
「いや、そうじゃなくて、何で手に持ってるのかなって。」
「食べさせる為でしょ。」
あくまで冷静に、クールに、何でもないかのように
霊夢は一瞬目を見開いたかと思うともじもじと躊躇し始めた。
その表情良い、すっごく良い
どうやら自分にはSっ気があるようだ。幽香ほどでは無いけど。
「ほら、夏だからチョコが解けちゃうでしょ、早く食べなさいよ。」
ここぞとばかりに催促をする、へへーんどうだ、恥ずかしいだろ、できないだろ。
そう、これは霊夢が折れるのを見て心の中でからかって楽しもうという考えだった
しかし霊夢は
「じゃあ…頂きます。」
え?霊夢何でチョコレートに口を近づけてるの?いったい何で…
その次に指に訪れる暖かい湿った感覚
ちょ、霊夢?おーい?霊夢さーん?
霊夢は私の指ごとチョコを咥えこんでいた
しかもそのまま動かない
何をする気だ
「んむっ」
「んっ!?」
何と霊夢はこちらの指を舐め始めた。
舌の粒々が指に当たる感覚
それがまるで鑢の様に指をなぞっていく感覚
人形師にとって指は敏感だ
特に私は人形の異変を素早く察知しようと指の感覚が殊更敏感になっている
そんな箇所を舐められたらどうなるか
「んっ!?ん~っ」
身悶えする
まるで全身が指になってしまったかのような感覚がする。
しかも舐め取っているのは霊夢だ
やばい、なにがやばいってとにかくやばい
表には出していないけれども誰も居なかったら床に倒れ込んでいるだろう。
そんな地獄のような夢のような時間が過ぎて
霊夢が指を舐めるのを止めたようだ。
指を離すと茶色い唾液が糸を引いていた
あの糸を舐めればチョコレートの味がするのだろうか。
そんな馬鹿な事を考えた
霊夢の方を見るとしてやった顔でこちらを見ている
…面白い
今ので火がついてしまった
笑みを浮かべる
自分の中で一番妖艶な笑みを
「それじゃあ霊夢」
霊夢、お仕置きの時間よ。
「次は霊夢のチョコを私が食べる側ね。」
◇◇◇
それからの私は何かに憑かれていたとしか思えない
普段はやろうとは思わない事をやってしまったり言ってしまったりで穴があったら入りたい心境だ。
「チョコ、美味しかったわ。」
「作った人が言う言葉じゃないでしょ。」
「霊夢は美味しくなかったの?」
「…美味しかったわ」
しかし今は霊夢の前だ、そんな事は出来る筈も無い
「お菓子のみなら毎日食べに行きたい位。」
霊夢が毎日来てくれる、それはとても嬉しい事だとは思うけどそんな事をされたらこちらの気力が尽きてしまうだろう。
「毎日来られたら家のお菓子ストックが無くなちゃうわよ。」
「じゃあ、あまり来れないわね。」
でも、けれどもなるべく来て欲しい、そんなジレンマ。
「そうね、私としてはそれでもいいんだけど。」
「アリスのお菓子は美味しいかったからそれは困るわね…。」
美味しいと言ってもらえた
「ふふ、冗談よ、お菓子なんか幾らでも作れるから。いつでもいらっしゃい。」
「ありがとう」
霊夢はそう言って帰って行った
ねえ霊夢
私がお菓子を他人に向けて作ったのは霊夢が初めてなの。
家もいつもは薄暗いんだけど頑張って模様替えしたのよ?
分からなくても良い
分かってくれなくとも良い
霊夢は人間だ、妖怪の自分よりも先に逝ってしまうだろう。
それはどんなに辛い事だろう
それでも
私は
貴方の事が気になって仕方がない
貴方と一緒に居たい
向かい合って生きるのではなく傍にいるのでもなく、見続けているだけでもいい
だから、私の家に居る時だけは
夢を、儚い夢を見させて
お願い
霊夢
博麗の巫女
私の憧れの人間
これからどうするのだろうか
神社に帰り、宴会をするのだろうか
すぐに床に就くのだろうか
これまでも、そしてこれからも
変わらぬ生活を送り続けるだろう霊夢に向かって思わず呟いた
「本当に、鈍感なんだから…」
人形達もいい味出してますよ~ごちそうさまでした。
両方読むと、倍以上のおもしろさでした。
最高な糖分補給させて貰いました!
二人とも可愛いねえ。
もっと糖分増やしてくれてもいいのよ?
二人とも可愛すぎます!
もどかしいけど、もっとこのままの二人を見ていたい気もするし、でも早くくっついて欲しい気もするし……。
レイアリ最高です
次は甘さ10倍でお願いします(^O^)/
勿論その後もレイアリは続いて欲しいですが。
それにしても、本当に作者はアリス好きだな。
私も勿論大好きさ!