※一行目から濃い百合展開ですのでご注意ください。
「なあ、アリス……キス、しようぜ」
「ぶほっ」
優雅に過ごすはずのお昼時に放たれた、恋人からの突然の一言。
そんな驚きを前にすればたとえ都会派と言えど、お茶を吹くなどという淑女としては恥ずべき行儀悪さを披露してしまうのも仕方がないことだろう。
しかしもちろん、その言葉自体に納得がいったわけではない。
思春期の少女とはいえ、この子はいったい何を言い出しているのやら。
「あんた、いつから野良魔法使いからキス魔に転向したのよ」
「ば、馬鹿、違う!」
隣に座ってぼんやりと夢想に耽っていたはずの少女に、今日の湿度よりもじとりとした視線を向けてやると、彼女はすぐにバツが悪そうな赤ら顔をこちらに晒した。
「何がどう違うのよ」
「私はただ、その、まだ……」
「まだ?」
「こ、恋人同士なのにまだキスしたことないなんて、どうかなと思っただけで」
「え……?」
ああもう、どうしてこうも頬の熱って、風邪のようにうつされやすいのかしら。
いや、むしろ風邪なんて生温いほどに顔中が火照ってきてしまっているような気がする。
夏風邪って確か、馬鹿しか引かないんじゃなかったっけ。
「魔理沙……あの……っ」
「お、おまえまでしどろもどろになってどうする」
「ご、ごめん」
でも、それも仕方ないじゃない。
好きな相手に急にこんなことを言われたら、思春期の少女でなくたって焦ってしまう。
「なあ、アリス」
「何?」
「だからさ……キスしてみようぜ」
急にこんな、可愛くも真面目な顔で言われたら、誰だって。
「……わかった」
誰だって、頷かざるを得ないのではないか。
「へ?」
「したいんでしょ、キス」
「あ……お、おう」
逸らしたくなるほど、恥ずかしい表情をしていても。
逃げ出したくなるほど、恥ずかしい行為をしようとしても。
すでにもう、彼女と絡ませた視線を外すことは出来なくなっていた。
だって二人とも、好奇心が生業の魔法使いですから。
「で?」
「え?」
「どっちから、するの?」
それでも今まさに破裂しそうな心臓を持っている身としては、これ以上の好奇心は身体に毒であった。
だから彼女の方から初めの一歩を踏み出してもらえると、非常にありがたかったのだが。
みるみるうちに顔をトマトにしていく様子を見ていると、それもちょっと期待出来そうになかった。
「……言いだしっぺは私だからな」
――はずだったのだが、彼女はこちらが拍子抜けしてしまうくらいにあっさりと決意を固めてくれた。
何よ、これじゃあ私の方が我侭を言ってるみたいじゃない。
積極的な彼女らしいはずの行動に、先ほどの算段とは矛盾を孕んだ気持ちが、なぜか沸々と湧き上がってきた。
やっぱり私、けっこう動揺してるのかしら。
「よし、アリス」
けれどそんな私の迷いを置き去りに、真剣な目をした彼女が、するぞと掠れるように囁くものだから。
戸惑いや動揺なんてちっぽけなものは、すぐに緊張の彼方に消えてしまった。
さっきまでぼんやりと青空を見つめていたはずの夢見がちな乙女の姿は、もうそこにはなかった。
「う……ん」
頷くとともにすかさず、少しせっかちな唇が目と鼻の先に近づいてきて。
慌てて目を閉じると、身体中で今一番熱くなっているだろう部分に、同じく熱く潤んだ彼女のそれがそっと触れてきた。
思わず、閉ざした瞼が開く。
「……やわらかいな、アリスの」
「魔理沙、のも」
余韻に浸る暇なんてなくて、小さく返事するのが精一杯だった。
二人きりでする、二人にとっては初めてのキス。
これは秘密だけど、個人的にも他人する初めての口づけ。
ああ、もう絶対に心臓は破裂している。
耳に届く鼓動の音が、すでに洪水のようになってしまっているのだもの。
「何だか私ら、すごく恥ずかしい奴らだな」
彼女の苦笑いを含んだ言葉でようやく我に返る。
夢見がちだったのは、本当は私の方だったのかもしれない。
「でも――恥ずかしくても、幸せだぜ」
今一度見つめた先にあったのは、目を細めてしまうほど眩しい満開の笑顔だった。
「……うん」
恥ずかしさでまともな返事が紡げなくとも。
それには最大限の笑顔で、答えてあげたかった。
「そりゃあ、夕方に帰ってくるって言ったのは私だけどさ」
神社の縁側で繰り広げられている、目を逸らしたくなるほど暑苦しい光景に。
「……早めに帰ってくる可能性も考慮に入れといて欲しかったわ」
諦めの溜め息をついたのは、わずかに膨らんだ買い物かごをぶら下げた紅白巫女であった。
「なあ、アリス……キス、しようぜ」
「ぶほっ」
優雅に過ごすはずのお昼時に放たれた、恋人からの突然の一言。
そんな驚きを前にすればたとえ都会派と言えど、お茶を吹くなどという淑女としては恥ずべき行儀悪さを披露してしまうのも仕方がないことだろう。
しかしもちろん、その言葉自体に納得がいったわけではない。
思春期の少女とはいえ、この子はいったい何を言い出しているのやら。
「あんた、いつから野良魔法使いからキス魔に転向したのよ」
「ば、馬鹿、違う!」
隣に座ってぼんやりと夢想に耽っていたはずの少女に、今日の湿度よりもじとりとした視線を向けてやると、彼女はすぐにバツが悪そうな赤ら顔をこちらに晒した。
「何がどう違うのよ」
「私はただ、その、まだ……」
「まだ?」
「こ、恋人同士なのにまだキスしたことないなんて、どうかなと思っただけで」
「え……?」
ああもう、どうしてこうも頬の熱って、風邪のようにうつされやすいのかしら。
いや、むしろ風邪なんて生温いほどに顔中が火照ってきてしまっているような気がする。
夏風邪って確か、馬鹿しか引かないんじゃなかったっけ。
「魔理沙……あの……っ」
「お、おまえまでしどろもどろになってどうする」
「ご、ごめん」
でも、それも仕方ないじゃない。
好きな相手に急にこんなことを言われたら、思春期の少女でなくたって焦ってしまう。
「なあ、アリス」
「何?」
「だからさ……キスしてみようぜ」
急にこんな、可愛くも真面目な顔で言われたら、誰だって。
「……わかった」
誰だって、頷かざるを得ないのではないか。
「へ?」
「したいんでしょ、キス」
「あ……お、おう」
逸らしたくなるほど、恥ずかしい表情をしていても。
逃げ出したくなるほど、恥ずかしい行為をしようとしても。
すでにもう、彼女と絡ませた視線を外すことは出来なくなっていた。
だって二人とも、好奇心が生業の魔法使いですから。
「で?」
「え?」
「どっちから、するの?」
それでも今まさに破裂しそうな心臓を持っている身としては、これ以上の好奇心は身体に毒であった。
だから彼女の方から初めの一歩を踏み出してもらえると、非常にありがたかったのだが。
みるみるうちに顔をトマトにしていく様子を見ていると、それもちょっと期待出来そうになかった。
「……言いだしっぺは私だからな」
――はずだったのだが、彼女はこちらが拍子抜けしてしまうくらいにあっさりと決意を固めてくれた。
何よ、これじゃあ私の方が我侭を言ってるみたいじゃない。
積極的な彼女らしいはずの行動に、先ほどの算段とは矛盾を孕んだ気持ちが、なぜか沸々と湧き上がってきた。
やっぱり私、けっこう動揺してるのかしら。
「よし、アリス」
けれどそんな私の迷いを置き去りに、真剣な目をした彼女が、するぞと掠れるように囁くものだから。
戸惑いや動揺なんてちっぽけなものは、すぐに緊張の彼方に消えてしまった。
さっきまでぼんやりと青空を見つめていたはずの夢見がちな乙女の姿は、もうそこにはなかった。
「う……ん」
頷くとともにすかさず、少しせっかちな唇が目と鼻の先に近づいてきて。
慌てて目を閉じると、身体中で今一番熱くなっているだろう部分に、同じく熱く潤んだ彼女のそれがそっと触れてきた。
思わず、閉ざした瞼が開く。
「……やわらかいな、アリスの」
「魔理沙、のも」
余韻に浸る暇なんてなくて、小さく返事するのが精一杯だった。
二人きりでする、二人にとっては初めてのキス。
これは秘密だけど、個人的にも他人する初めての口づけ。
ああ、もう絶対に心臓は破裂している。
耳に届く鼓動の音が、すでに洪水のようになってしまっているのだもの。
「何だか私ら、すごく恥ずかしい奴らだな」
彼女の苦笑いを含んだ言葉でようやく我に返る。
夢見がちだったのは、本当は私の方だったのかもしれない。
「でも――恥ずかしくても、幸せだぜ」
今一度見つめた先にあったのは、目を細めてしまうほど眩しい満開の笑顔だった。
「……うん」
恥ずかしさでまともな返事が紡げなくとも。
それには最大限の笑顔で、答えてあげたかった。
「そりゃあ、夕方に帰ってくるって言ったのは私だけどさ」
神社の縁側で繰り広げられている、目を逸らしたくなるほど暑苦しい光景に。
「……早めに帰ってくる可能性も考慮に入れといて欲しかったわ」
諦めの溜め息をついたのは、わずかに膨らんだ買い物かごをぶら下げた紅白巫女であった。
魔理沙とアリスが初々しくてかわいらしくて微笑ましい。
頬が緩みました。
甘くて良かったです