Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

私が幻想郷の盾になる

2011/07/18 22:12:20
最終更新
サイズ
5.54KB
ページ数
1

分類タグ

轟音が空気を震わせ、砂塵が舞う。
地面を抉った衝撃の中から、影が飛び出した。
長い金髪は、後ろに向かって飛んでいるために前に流れ、
強い意志の灯る瞳は射るように前方を睨んでいた。

ザザザ、と地に足をこすりつけて止まったのは、
妖怪の大賢者、八雲紫。
身に着けている道士風の服は所々が裂けていたり破れていたりして、赤紫に染まった肌を覗かせていた。
風に砂塵が流されていくのを前に、紫は荒い呼吸を繰り返しながら、
億劫そうに上げた腕で、額に浮かんだ汗を拭った。
ついでに切れた口の端から流れる血も指先で拭って、それから、勢い良く前方に腕を振る。
手から飛び散った少量の血液はいつしか鋭い槍となり、
未だ残る砂煙の中にある影を穿つために飛んでいく。


硬い物同士がぶつかり合うような高い音が響いて、直後、紫は後ろに跳んだ。
爆音。
紫の目の前の地面が爆ぜて、土が飛び散る。
それから顔を庇って着地した紫は、いつでも攻撃を受けられるように体を固くした。

しかし、追撃の手は、来ない。
一瞬の後、目の前の砂は全て落ちて、視界が空いた。
右の拳を握りしめて、そこに妖力を集める紫の耳に、重く地を踏みしめる音が届く。
一定のリズムを刻む足音。

そいつは、悠々と歩き、紫の前へと姿を現した。
不敵な笑みに、体が震えだしてしまいそうになるほどの気迫。
揺れる尻尾は、しかし当たればひとたまりもなく、そのボディの硬さは、外の世界のどんな物質とも比べ物にならない。

悪夢のようだった。

紫は、長い時を生きてきたが、こんな奴に出会ったことなど一度たりとて無かった。
長い時間を生きてきて、ここまで鮮明に命の危機を感じたことは無かった。
まだ若い頃、自身の能力の把握も出来ていない時に、力の強い大型の妖怪に襲われたときも、
実力をつけ始め、見聞を広めるために大陸を旅する前に現れた妖狐と戦ったときも、
年を経て、理想郷を作り上げ、月に攻め行って戦ったときも、
これほどまでに、圧倒的な存在に出会ったことはなかった。

「きっ!」

口の端から息を漏らし、力一杯腕を振る。
溜めに溜めた妖力を、光弾として放つ。
そいつは、動かない。
光弾が二つに割れ、四つに割れ、八つに割れ、十六に割れても、動かない。
散弾のように広がった小さな、されど一粒一粒が並の妖怪ならば消し飛ばせるほどの威力を持つ光弾を、
全てその身に受け切ってなお、動かない。
どころか、よろめきさえもしなかった。

そいつの体からは煙が上がっているが、金属で出来ているかのような体には傷など見当たらない。
先程から、そうだ。
紫が放つ全ての攻撃を避けもせずに受け、そして、平然として立っている。
化け物、と、口の中で紫は呟いた。

妙な沈黙が流れ、場を支配する。
紫は、必死に気持ちを落ち着けようとして……できなかった。

瞬きもしない間に、そいつが目前に…鼻と鼻がくっついてしまいそうな、それこそ目前に立っていたからだ。
驚く前に、体が反応する。横振りに腕を振ってそいつのほおを殴ろうとするが、
そいつが視界から消えた。

肉を叩くような、鈍い音が響いた。
下方から掬い上げるように放たれたそいつの拳が紫の腹に突きたったのだ。
衝撃に紫の体は浮き、視界はぶれ、意識が一瞬飛ぶ。
妖怪でなければ、いや、紫でなければ、腹をぶち抜かれていただろうが、そうならないのは幸いだった。

「その程度では勝てんぞ?」

そいつは冷ややかにそう言って、頭の上で組んだ両手を紫の頭に叩きつけた。
人を殴るような音は、しない。
かわりに、轟音。
空気が打たれ、衝撃波が発生するのと共に、紫の頭が地面へと吸い込まれていく。
瞬間、紫の背後に回っていたそいつが紫の足を掴み、ぐるんと反転して腕を振り抜いた。

流れる。
紫の視界に、景色が流れていく。
地面に激突したとき、視界は白く染まった。


それでも、立ち上がる。
よろよろと立ち上がって、そいつを睨みつける。
倒れるわけにはいかない。
こんな奴を、野放しにしてはならない。
その意気だけで、紫は意識を繋いでいた。

愛する楽園が、活気に満ち溢れ続けるためにも。
この理想郷が、終わらないためにも。

絶対に、絶対に勝たなければならない。

足は、震える。
意識はぶれる。
だけど、立ち向かう。
それは、意地だ。
負ければ全てが終わる。

何もかもを守るために、戦わなければならない。


つぅ、と、糸のような光が紫の胸にぶつかり、
一瞬のうちに肥大して紫を包み込んだ。

光を突き破って、苦痛に顔を歪める紫が、煙を纏いながら飛び出した。
空高く放物線を描いて飛び、背中から地面へと落ちる。
体勢を整えることすらできずに背を打ち、呻きをあげた。



それでも立ち上がる。
そいつは笑う。そうでなくてはつまらん。と、そう言って笑う。



熾烈な戦いは、続く。

何度も打たれ、何度も撃たれ。

立ち上がっては膝をつき、起き上がっては吹き飛ばされる。

それでも、倒れない。


隙間に落としても不思議な技で戻ってこられても。

やっと『弱い部分』を見切ってダメージを与えられたのに、再生されても。

全力をかけて放った一撃で倒したのに、何人にも増えて蘇っても。


絶望なんかしない。
決して倒れない。



「クズが!」
「ッ!!」



幻想郷が揺れる。
地を揺るがす爆発に。
衝撃を撒き散らす交差に。
崩れゆく体に。
そして、強大な敵を打ち倒した八雲紫を讃えるように。

「――――――……」

長く続いた雄叫びが途切れたとき、粉々に砕けた敵を前にして、紫は重く息を吐いた。
それから、ぐらりと後ろに倒れ、あわせるように背後に隙間を開いて、落ちる。


終わった。






Φ





「紫さまー、いつまで眠ってらっしゃるんですかー」

布団の外から聞こえてくる式の声に、紫はもぞもぞと芋虫のように動いて、顔を覗かせた。
眉を八の字にする式に、紫はわざとらしく息をついて見せ、布団をかぶった。

「あと五光年」
「紫様、それは距離です!いい加減起きてくださいよ、いつまで寝てる気ですか」

枕元に式が座り込むのを感じて、紫は布団の中で口を開いた。

「藍、結界の補修をお願い」
「ええっ、またですか!?三日前にしたばかりじゃないですか…」

疲労の色の濃い声で式が言うのに、紫は再びもぞもぞと布団から顔を出して、式の目をまっすぐに見た。

「柔すぎよ。あんなんじゃあ、氷精にも破られるでしょうに。私が千人かかっても破れないようなくらいに補修しときなさい」
「そんな、むちゃな」
「わかったら、今すぐ行く」
「……わかりました、行きますよ、もう。あー、過労死してしまいそうです」

戸の閉まる際に式が言うのを聞いて、紫は布団の中にもぐった。
今度、休ませてやろうと思いながら。
藍「まったく、いつもいつもぐーたらと。少しくらい、私の苦労をわかってくれないものかなあ」


あんまり、意思の疎通のなっていない主従である。
私の中では、そんなイメージ。
紫さまのイメージもこんな感じ。


題材『俺はとことんとまらない!!』
中華妖精
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
これはありそうですね。
冬眠中ははさらに強い敵と戦っているのか……
2.名前が無い程度の能力削除
信念を込めた拳は誰にも負けないんですね、
敵はメタルクウラ的な……?
3.名前が無い程度の能力削除
人知れず幻想郷の危機を救うゆかりん
アリだな
4.名前が無い程度の能力削除
クウラ様との戦いお疲れ様でした