※ このお話は春のマリアリ連作の続きとなります。
幻想の空に今日もさんさんと灼熱の太陽が輝き、大きな白い入道雲がぽっかり浮かんでいる。今年一番の蝉が鳴き始めようかと言う、梅雨明けの幻想郷のお話。
博麗神社の卓袱台の上に置かれたブーケが少し萎びかけている。先日行われた恋色の魔法使い達の結婚式での戦利品を眺めながら、灼熱の太陽がもたらす熱さに霊夢がだれいむと化していた。
「あぁ・・・夏はなつい・・・いや熱い。」
暑さで思考回路もやられているのか、いつもの服の袖を外し、タンクトップ姿で過ごす霊夢。日陰に寝そべり、だれいむと化した霊夢の視線の先には、最近出入りするようになった華仙と・・・件の新婚さんの姿があった。
「流石ですねぇ。異変も解決されるとは。」
「あぁ、だが、今回はアリスにも色々助けて貰ったからなぁー」
「でも、異変を解決したのは魔理沙の力よ。私は知恵を貸しただけ。」
「力と知恵の合わせ技、ですね。」
「つまり、愛の力なんだぜ。技のアリスに力の私、技と力が合わさった私達の愛の前には・・・相手なんて居ないんだぜ。」
「もぅ、魔理沙ったらぁ。」
暑さの原因がどうも太陽だけじゃないような気がしてきた霊夢は、魔理沙とアリスの後頭部に針を投げてやろうかとも考えたが、今のこの二人に迂闊に攻撃を仕掛けると、凄まじい魔砲や人形で反撃されかねないのでその考えを止めた。変わりに団扇を持って、汗ばむ自分の顔を仰ぐ。
「あぁ・・・涼しいわー」
「もうこの時期からだ霊夢かよー、たるんでるぜ。」
「たるーんと生きるのは独身貴族の特権よ。」
「貴族にしては質素じゃないかしら?」
「贅沢は敵なのよー」
賽銭こそ入りは悪いが、結婚式以外にも、地鎮祭や祈祷なども行う霊夢の懐事情はけっして貧乏ではない。だが、本人の物欲の無さがあって生活は質素そのものと表現するのが正しい。
「それにしてもあっついわー」
「このお二人がですか?」
「・・・それもよ、でもこの暑さはどうにかならないかしら?」
空に浮かぶ太陽は答えてくれない。変わりに、凄まじい熱線を容赦なく放射する太陽に対して、霊夢の熱暴走した思考が言葉を紡ぎ出した。
「あー、魔理沙ぁー、フラン借りて来て・・・」
「一緒に遊ぶの?」
「違う、太陽をドカーンとして貰うのよー」
「やめとけ、慧音に無かった事にされるのがオチだ。」
「そーなのかー」
ルーミア並に思考力が落ちているようだ。魔理沙はやれやれと言わんばかりの表情を向けて、そっと八卦炉を傍に置いてあげた。そして、この暑い中にも関わらずそっとアリスの肩を抱いてあげる。アリスは心地よさそうに目を閉じて、愛しの人の鼓動を感じている。その様子を見た華仙は、夫婦仲がいい事はよい事だと言わんばかりの満足げな表情をしている。
「涼しいわ・・・でもアンタらくっついてても熱くない訳?」
「えぇ、私達の服は魔法の生地と糸で出来てて、冷房に使う魔術を服の内側に仕込んでるから平気よ。」
「それに、魔力を喰うんでな。アリスとくっついてたら魔力が増幅されてお互いに供給されるから寧ろ涼しくなるんだぜー」
冷やされて思考力を取り戻しかけた霊夢の頭の中でお前達がドカーンしてしまえと思いかけたが、何かを察知した華仙が霊夢の方を向いた。そして、いつもの説教モードに入りかけたので内緒で防音結界を張る準備をしようとした時・・・・・
「暑い時は・・・水の事ならお任せの私に任せるといいぞぉー」
シャキーンと言う機械音と共に光学迷彩が解除されその姿を見せるにとり。しかし・・・
「右手がぁ!!!」
「あ、踏んじったか・・・ごめんよぉ。」
「光学迷彩か・・・・邪魔が入ったわ、お説教はまた今度ね!!」
「わーい。」
実体の無い右手を踏まれて悶絶する華仙に謝りながら、喜ぶ霊夢に視線を向けるにとり。
「水浴びに来たらいいんだぞー。今、河童の里の近くが凄く冷たくていいよ。」
「そうねぇ、この暑さならもう人間が入っても大丈夫な水温になってるわね。名案だわ、にとり。早速行きましょう。」
霊夢は素早く立ち上がり、紅白のバックに水着と着替えと手ぬぐいなどを詰めて行く。水着を見た所で、魔理沙の頭の中に気になる点が一点。
「水着はあるか、アリス?私はレミリアの所のプールで使った奴があるけどー」
「ええ、私もレディよ。それ位は持ってるわ。ちょっと恥ずかしいけど・・・・・」
「温泉とか・・・家とかで見てるじゃないか。」
「魔理沙に見られるのは・・・ね、ま、また話が別で・・・・・」
「うわ、また気温が上がりそうだなぁ~」
「まぁまぁ、これが結婚早々から険悪なのよりはずっとよろしいです。」
顔を真っ赤にしたアリスに寄り添う魔理沙。しかし、動くと決めた霊夢にはこの二人がいちゃついていても知らぬ存ぜずと言わんばかりの達振る舞いを見せる。普段の緩慢さからは想像もできないスピードで支度を済ませた霊夢は、陰陽玉の柄が絵ががれたビーチボールまで持ってやる気満々である。
「さぁ、にとり、さっさと行くわよ。」
「あ、じゃあ私も水着を取ってきませんと・・・・」
「てことは、現地で落ち合うのがいいな。私とアリスも水着取りに一回家に帰るから。」
「そうだね、じゃあ、盟友達。河童の里で待ってるぞぉー」
その一言で、神社の居間から飛び出した霊夢とにとり。そして、妖怪の山にある自宅に向けて飛ぶ華仙と、魔法の森にある自宅に向けて飛ぶ魔理沙とアリス。
各々が空に描く軌跡が、幻想の空を切り裂いていった。
博麗神社から飛ぶ事十分弱、冷たい澄んだ水を湛える、河童の里。その近くに、水遊びを楽しむための場所がある。その畔に、小さなテントとパラソルが一つ備え付けてあった。
これはにとりの私物で、胡瓜のマークが入ったその緑色のテントは更衣室の変わりにと用意された物だ、まぁ言わば幻想少女達のヒミツの花園といった所であろうか。
そんなヒミツの花園から、魔理沙の声がする。
「うぅむ。華仙、やっぱり・・・大きいな。」
「どうしたんですか?」
「いやー、前から気にはなっていたんだが、水着になるとよく分かるんだぜ・・・」
既に水着に着替え終わった華仙の胸元に視線をやりながら、魔理沙は自分の胸元を何度か見やった。その格差は仙人と人間の差なのだろうかと、一人自問自答しながら魔理沙は水着に腕を通し始める。
「魔理沙、大きければいい物じゃないのよ。肩がこったりするらしいし。」
「アリスはどうなんだよ?」
「私?言わずもがなよ、一週間に一回肩揉み頼んでるでしょ。」
「なるほどなぁ・・・あぁ、私もお前や華仙みたいなのがなぁー」
年齢相応にはある魔理沙であるのだが、同年代の早苗、咲夜には言うに及ばず、霊夢と50歩100歩の戦いをする程度の大きさの魔理沙は一人溜息を吐きながら、水着の肩の部分を所定の位置にかけた。
「んしょっと、少しきついんだぜ。」
「大丈夫?」
「でも、これがきついって事は、月に行った後よりは大きくなったって事だな・・・アリスのお蔭だぜ。」
「ちょ、ちょっと!何言い出すのよ?」
「た・・・確かに、仙人の修業に房中術と言う修業はありますが・・・・・」
トンデモない事をさらりと言ってのける嫁さんに赤面するアリス。しかし、華仙はと言うと、何の事だかさっぱり。そりゃそうだ、当事者しか知らない事だってあるし、夫婦同士なら尚の事だからである。
「・・・盟友達、新婚だからって、そんな白昼堂々といちゃつくのはやめろよぉーぅ。」
既に水遊びを楽しんでいるにとりは投げられた陰陽玉ボールをキャッチしながらテントに向けて言った。
「流石のあの二人も華仙の前でいちゃつける訳無いでしょうが。それにしても冷たくて気持ちいいわね。」
「でしょでしょー?たっぷり、堪能していくといいよ。」
「そうさせてもらうわね。」
腰まで浸かり、その張りのある美しい肌に水を滑らせる霊夢。滑る雫が汗をきれいさっぱり洗い流す。その水の冷たさに満足した霊夢は、不意ににとりから投げられたボールをキャッチした。
「不意打ち失敗だー。流石霊夢、良く見てるね。」
「当り前よ、もしこれが弾幕で気が付いてなかったら即ピチューンよ。」
にとりにボールを投げ返した所で、テントの入口が開いて、水着姿の魔理沙、アリス、そして華仙が登場。三者三様の美しさが眩しくて、男性ならずとも女性でも見入ってしまいそうなその華のある姿には霊夢もボールを見失った。霊夢の頭に当たったボールは、澄んだ水面に落ち小さな波紋を広げていった。
「お待たせしました、皆様。」
「おぉ、華仙。似合ってるよー、その水着。」
「そうですか?そう言って貰えると嬉しいです。」
「あら、霊夢も可愛い水着じゃないの。」
「ありがとう、アリス。アリスも中々似合ってるじゃないの。」
「そうかなぁ。水着なんてあんまり着ないから、似合ってるかどうかって判断しにくかったけどね。」
「大丈夫だ、アリスはかわいい。何を着ていてもだ。」
「んもぅ、魔理沙ったら。」
ボールをぶつけられた事に加え、またしても温度が上がりそうな会話に少しイラッときた霊夢は、思いっきり魔理沙とアリスに向けて冷たい水をぶっかけた。黄色い声が、湖の畔にこだまする。
「この、この!アンタらの惚気を見てると温度が上がりそうでならないわ!」
「ようし、霊夢、援護するよ。そりゃ、そりゃ!」
「わっ、こら、止めろ!冷たいじゃないか!!」
「いきなりは卑怯よ霊夢。上海、蓬莱、魔理沙を援護するのよ」
「ビジョガビショビショー」
「エンゴスルノゼー」
「どうして私まで巻き込むんですか!こうなったらやけよ!!」
黄色い声に、爆ぜる水面、畔の岩に水がぶつかる音。涼しげな音を奏でる霊夢達であったが、悲しきかな乙女の細腕で攻撃できる回数はたかが知れている。攻撃の手が緩んだ所で、魔理沙が顔の水を手で払って、その真夏の太陽のように明るい表情をすっと向け、霊夢達を指差した。
「よくもやりやがったな!今から、そっち行って成敗してやるんだぜ、行くぞぉ!!」
身構える霊夢達の方へ助走を付けて飛び込もうとする魔理沙、しかし、そんな事はしっかり者のお嫁さんが許さない。上海と蓬莱が、魔理沙の水着の肩ひもを上手に掴み、釣りあげた。
「わっ、コラ!何をする!!」
「待ちなさい。準備体操をしないで飛び込んで心臓発作でも起こしたらどうするつもりなのよ?!」
その嫁さんの一言に冷静さを取り戻した魔理沙は、ハッとなった。何があっても守ると誓った嫁さんを不慮の事故でひとり置いて死んでしまうなんて出来る筈がないからだ。
「っと・・・未亡人には絶対させられないからな。ごめん、アリス。」
「分かれば良いのよ、手伝ってあげるからしっかり準備体操をしてから一緒に入りましょう。」
「ああ、そうだな。」
柔軟体操を行う魔理沙とアリス。その姿は、まぁ確実に文が居れば激写される事間違いない無しの美貌を醸し出している、言わば眼福とも呼べる光景であった。
「あれ、華仙は泳がないのか?」
「右手の包帯が濡れてしまいますからね。取替えるのが面倒なので。」
「アンタの手、良く分かんないのよね・・・実体なのか、幽体なのかー」
「握りつぶせる物である事は御存じですよね、霊夢。」
「それは知ってるけど、分かんない事が多いのは事実ね。」
華仙は水際に足だけ付けて、その冷たさを堪能している。普段の服だと、確実にびしょ濡れになってしまうので、水着を持ってきたと言うのが妥当な所か。ちなみに上は布結び、下はローライズのお洒落な水着である。
「アリス、まだまだ身体が硬いんだぜ。」
「うーん、魔理沙にならってお風呂上りに柔軟してるんだけどね。」
「やっぱり一緒にやんないと効果無いぞ。ささ、恥ずかしがらずに。」
「あ・・・こんな姿勢。ちょっと、大丈夫かな?」
「いつもやってるだろ、さぁ・・・力を抜いて。」
1212、と言う息の合った声を出して柔軟をする魔理沙とアリス。その動きは、とっても手慣れており、流石夫婦といったところである。
「ふぅ~。」
「うん、良い感じだぜ。大分ほぐれて来たようだな。」
「よし、じゃあ次は魔理沙ね。ささ、足開くのよ。」
「私はお前よりは柔らかいんだぜー、ほれほれー。」
人の身であるが、厳しい戦闘に耐え抜き怪我をしない為にも身体の柔軟性は重要なファクターである。その点、この魔理沙は日頃から鍛えているので足を開いて上体を倒しても手が地面にしっかり付く程度の身体の柔軟さは持っている。
だが・・・お互いにアシストしながら柔軟体操をする様を見たにとりは横に居た霊夢に対して、そっとこう告げた。
「うーん、盟友達が柔軟体操するだけでどうしてこうもまぁ扇情的な光景になるのかねぇ~」
・・・くれぐれも誤解の無いように言っておくが、魔理沙とアリスは柔軟体操をしているだけである。だが、その光景がとてもこう・・・愛らしさとかそんなのが凄くて直視するだけでもお腹一杯になれる程度であったと言う事である。にとりもその犠牲者の一人である。
「まぁ、新婚さんだから仕方ないわ。文がいなければいいけどねー」
「だなー。だけどまぁ、文がいたら諸共全員撮影されちゃうけど。魔理沙とかアリスとか関係なく、ね。」
「ドキッ!?幻想少女の初水着とか言う見出しで一面に乗りそうだわ。」
「ありうるね。」
霊夢は周囲をぐるりと見渡して、ふむと頷いた。そして、一回深く潜ってから頭だけ出して、にとりを見る。珠のような肌に湖の雫が伝って流れていくその姿は魔理沙とアリスとは違った美しさを出している。
「ささ、準備完了だ、行くぞ!」
「ゆっくり心臓を最後に付けるのよー」
「了解だぜー」
一方、指示に従って入水した魔理沙は、泳いで霊夢の方に素早く接近。それを見たアリスも水を掻き分けてゆっくりとパレオを気にしながら、少しずつ足をにとりの方へと近付けて行った。
「ぷぁー、冷たくって最高なんだぜ!」
「そうね、この暑さの中にこれだけ冷たい所に居られるって事、ホント素敵よねー」
「だろー盟友達にそう言って貰えると、ホント嬉しいよ!」
「しかも広いしなー」
魔理沙は背中を水面に投げ出して空を仰いだ。たまに顔にかかる水にその燦々と輝く太陽の光が跳ね返り、視界が揺らめく。たたえた水の微かな音が、自分が今暑さから解放されている事を教えてくれる。
「気持ちいいんだぜ。とっても・・・」
目を閉じて耳を済ませば、微かに鳥の声と蝉の声がする。いつもとは違う水の浮揚感に身を預ける魔理沙。するとアリスが横にやってきて、同じように浮かび始める。
横を向いて、笑って手を繋いで、二人はすっと視線を澄みきった空に戻して眺めた。
「この暑さが嘘のようね。」
「ああ。染み入るような心地良さなんだぜ。空に浮かんでるのとはまた感覚が違うと思わな
いか。」
「空に比べると、何かに抱かれてるみたいな感じが強いわね。今度見に行く海もこんな感じなのかしら。」
「母なる海とは、よく聞くぞ。私も海で泳いだ事は無いからわからんなー」
そして、二人はまだ知らぬ海に想いを馳せた。幻想郷は内陸部に位置するため、海が存在しない。故に海を見た事が無いまま生涯を閉じる幻想郷の住民も居ると言うのが実情である。
「海は広いな、大きいなー、って歌はあるけどさ。」
「この湖よりも大きいのかな?」
「私が月で見たのは大きかったんだぜ。なぁ、霊夢。」
「見渡す限り一面の水だったもんね。此処みたいに山とか見えないもん。」
かつて見た月の海のお話を聞き、まだ見ぬ海への想いをアリスは膨らませた。霊夢の言う見渡す限りの大海原は幻想郷では絶対にお目にかかる事はできない。凄く広い場所なんだなぁという想像は何とかできるが、それ以上のイメージはまだ固まらない。
知識を探求する事に喜びを感じる魔法使いのアリスにとって、海という存在はとても興味深く、そして一度は行ってみたいと思った場所の一つである。
「見渡す限りの湖・・・って所ですかね?」
「そうね。青い空と白い雲以外には何もない。水と空の境界線が何処にあるか分からない位の綺麗な青だったわー」
「へぇー。」
「あと、塩の匂いがする風が吹いてたな。潮風っていうのかな?」
魔理沙が潮風に付いて言及した直後、不意に風が吹く。その風は徐々に強くなり、濡れた少女達の髪の毛を揺らす程度の強さに達した。
「あ、風が出て来ました・・・これも涼しくて良いですね。」
「・・・でも、このタイミングで風が強くなるってのも、色々とわざとらしいのよねぇ。」
霊夢の勘が何かを告げているようだ。彼女の勘は非常に鋭く、しばしば物事の真相を突き止める事もある恐るべき能力である。ただ、本人の呆けた性格のせいでそのずば抜けた勘もほぼ宝の持ち腐れ状態となっているのは御愛嬌といった所か。
「こんなに空は晴れてるのになー」
「急に天気が変わったりする前触れかもしれないわね・・・キャッ!」
アリスが驚くようなひときわ大きな風が吹いた。そして慌てて、水着の後ろを確認する。アリスの水着はビキニタイプの水着にパレオと、見た目の麗しさを重視してチョイスした物である。従って、強風が吹いてそれが外れてしまうと、そこにいる連中(特に男性諸君)が総立ちで歓喜してしまう大惨事に発展する可能性が高い。
そこで、魔理沙は真っ先にアリスの元に泳いで近づいて、後ろから抱きしめてあげた。
「アリス、大丈夫か?」
「うん、お蔭さまで。魔理沙の方は?」
「私はワンピースだから心配いらん。アリスのは、背中が危ないからな・・・」
「ありがと、魔理沙。」
夫婦愛を見せつける二人に全くお構いも無く風は吹きすさび、容赦なく一同を襲った。霊夢とにとりは慌てて肩まで浸かって姿勢を保つと共に、大惨事にならぬように守りを固める。しかし、岸で足だけ浸けていた華仙はその身を護る術は無い。
そんな様子に慌てて華仙の方を向いた一同は、思いがけない物を目にすることとなった・・・
ぽろりっ!
「!?」
「華仙、大丈夫?」
「腕の包帯がはだけちゃいました・・・」
慌てて実体の無い右手の包帯を左手で直す華仙。しかし、あいも変わらず吹きすさぶ横風の影響でなかなか上手く行かない。
「あぁ、どうしましょう・・・上手く巻けないわ。」
「にとり、なんか道具出してよ。風避けとかさぁ。」
「私をどっかの便利な猫型のからくり人形と一緒にするなよなぁ~、私が風上に立つから、華仙は包帯を巻きなおすといいぞ。」
「わかりました。」
上がってきたにとりに庇って貰いながら、華仙はほどけた包帯を素早く巻きあげた。その実体の無い手を初めて見たアリスは興味津々だったが、今の状況でそれを調べる余裕など微塵も無く、ただその手をじっと見つめるばかり。水に浸かっていた霊夢達も華仙の元へ戻り、皆で相談を始めた。
「・・・犯人は、だいたい見当が付くんだけど、何処に隠れてるか分からないわ。」
「面倒だから、アリス、アレを御見舞するか?そこら辺適当に撃てば当たるだろ。」
「あぁ!それはやめてくれぇ~。里に被害を出さないで欲しいんだよー」
「だってさ、魔理沙。」
「むぅ、それも一理あるな。他の手を考えるか・・・」
にとりのお願いには流石に魔理沙とアリスも手を止めた。一応、招待客である以上、傍若無人な振る舞いは自重すべきだときちんと理解している為である。それに、八卦炉は、着替えを置いたテントの中である。取りに行くまでに、アリスの身に何かあっては行けないと言う考えもあったので、魔理沙はレインボースパークの使用を断念した。
「しかし、これだけの強風だと、私のレーザー系の弾幕で無いと影響が出ると思うぜ。」
「そうね、人形も風で煽られちゃうし、アミュレットや針じゃ勿論論外だろうしー」
「周辺の被害を考慮すると兵器も乱用できないし・・・どうしよう。」
「じゃあ、打つべき手は一つね。」
霊夢はおもむろに陰陽玉の柄が入ったボールにアミュレットを張りつけた。そして、この場に居た皆に対して説明を始める。
「このアミュレットには、皆の持つ力を込める事が出来るのよ。皆の力があれば、この横っ風に負けない弾・・・もとい、玉が打てるはず。」
「なるほど、此処に居る皆さんの力を推進力に変えるんですね。」
「流石、話が早い。早速やりましょうか。」
皆は頷き、アミュレットを張られたボールを持った霊夢の横に一列に並ぶ。風の影響を各々気にしながら、何処に居るとも知れない目標に向けて高らかに宣言する。
「いくわよ、陰陽玉ボール・パパラッチ退治!」
霊夢の合図で投げられたボールを最初にキャッチしたのは華仙、十分な神通力を込めてから、横にいたにとりにパス。
「それじゃ、風に負けずに行きますよ!にとり!!」
「任せろぉ、盟友!」
吹きすさぶ風に負けずにキャッチしたにとりの水着はこれまたワンピース。だから風を気にする事なく行動可能だ。妖力をしっかり充填してから、背中を気にしながら飛んでいるアリスにパスを出す。
「上海、蓬莱っ!お願いね!」
上海と蓬莱を素早く展開してボールを受け止めたアリスは、魔法の糸を通じて自分の魔力をボールに送った。魔力の事をよく知る魔理沙が充填完了と共に、そのボールを風よりも早いスピードで受け取り、霊夢の方を向く。
「霊夢、エンドボールだ!」
「ようし、行くわよ!!」
その合図で魔理沙はボールを空高く投げた。そして、横っ風で煽られるのを計算に入れながらそのボールを思いっきりオーバーヘッドで蹴飛ばす。霊夢のずぼらな修業の割にはよく鍛え上げられた脚力をもって蹴飛ばされたボールは凄まじい推進力と、アミュレットの誘導性能により岩陰に隠れていた盗撮魔の顔面を正確に射抜いた。
「うわらばっ!」
被害が出ない程度の爆発が静かな湖畔の岩の陰から巻き起こる。その爆発たるや、様々な色が混ざった大変美しい爆発であった。
「成功ね。」
「後は御縄を頂戴するだけなんだぜ。アリス、準備は良いか?私は準備出来てるんだ
ぜ。」
「もちろんよ、魔理沙の魔法の糸・・・どれだけ上手くなったか見物ね。」
「あれ、河童の特製ロープはいらないのかぃ?」
「随分とノリノリですね・・・皆さん。」
「いつもの事よ。」
一仕事終えた霊夢達が爆発のあった岩陰を覗きこむと、哀れにもあちらこちらが焦げた上着に黒のビキニスタイルの文が、土三衛門のように水面に浮いていた。爆発のショックで意識を失っているようだが、このまま放置するのも流石にアレだと感じた一同は、魔理沙とアリスの魔法の糸で感じがらめに縛って貰った上で、岸に上がる事にした。
「やっぱりアンタの仕業だったのね!!」
「あやややや・・・・・ばれちゃいましたか。」
「こんなシチュエーションで、風起こしてあられも無い姿を狙う奴はこの幻想郷広しとは言えど、アンタ位のものよ。」
そうパシンと言い切る霊夢。過去にもやれ温泉だ、やれお風呂だ等となると様々な手を駆使してあられも無い姿を狙ってきた過去の記憶が蘇る。いずれも誰かが気づいて、阻止されているので、あられも無い姿が流出して大惨事にはならなかったのだが、それでもリスクを考えるとこう言いたくなるのもうなずける。
「それと・・・これ、貴女のものですよね。」
華仙が自分の愛用のカメラを大切そうに抱えていたのを見た文は、思わず手を出そうとするが手が出ない。魔理沙とアリスの同調した魔力で編まれた魔法の糸で縛られてしまっているので、そうたやすく解く事は不可能だ。
「私のカメラ・・・返して下さ~い。」
「ダメよ、私達の水着姿は安くないわ。」
「具体的にはいくら位なんですか?」
「お前の新聞1000年分の定期購読料ってとこかな。」
「ちょっと、文の新聞じゃあ安すぎるわよ。0に近い物を掛け算しても、二束三文にしかならないわ。」
ひどいですぅ。とぶうたれる文。しかしながら、魔法の糸でがんじがらめにされているだけでなく、河童印のロープで拘束され、結界まで張られており、完全に身動きが取れない状況にされているので文字どおり手も足も出せないのが実情である。
「それよりも、反省してますからこの凄まじい拘束を何とかして下さいよ~」
「だってよ、霊夢。しかし、この盗撮の件はどう水に流してやろうかねぇ・・・」
「河童のように流して挙げる訳にもいかないしなぁ~私は流れないけどさ。」
「河童の川流れ・・・ですか?」
「そういうことだよー」
さて、このような事をしでかした烏天狗をどうやって赦してやろうか。その事を相談する霊夢達にも容赦なく真夏の太陽は襲いかかる。喉の渇きと軽い空腹感を感じ始めた霊夢と魔理沙は、同時にある物を思い出した。
「夏と言えば・・・スイカだな。」
「そうね、スイカね。文、ちょっと。」
「はいィ!?」
「アンタのその最速の足を生かしてスイカを調達して来てくれる?そしたら、このカメラは返してあげるわ。」
「スイカですか・・・。分かりました!すぐに持ってきます!!」
そう言うなり背中の羽をはためかせ空に舞い上がる文であったが、さぁ、どれくらいかかるだろうかと思案する間も無く、先ほど居た場所に綺麗に収まっていたりする。
「只今戻りましたぁ。」
「早いな、おぃ。」
「で、ちゃんと手に入れられたの?」
「はい。それはもう立派な物を・・・どうぞ。」
文が差し出して来たモノを見て皆は顔をしかめた。その差し出された物は、スイカにあるような緑と黒の文様が美しい球体とは程遠いが、スイカである事には変わりは無かったためである。
「確かにスイカには間違いないんだがなぁ・・・」
「・・・スイカであってスイカではないわ。」
そう言う霊夢と魔理沙であったが言葉遊びをしているわけじゃあなぃ。そう、文が持ってきた「スイカ」とは、彼女達の言うスイカ同様にかわいらしいが、頭に二本の大きな角を生やしている小さな鬼の方である。
「博麗神社で飲んだくれて寝てる所を連れて来ました。一升瓶を抱いて寝てたので、多分相当に酔ってるかと思います。」
「またウチのお酒飲んだわね・・・まったく。」
「しかし、鬼は年がら年中酔ってるんじゃないのか?」
「寝る位に酔ってますから、その酔いの深さは相当の物かと。」
「或る意味貴重な光景ですね。」
当の本人はすぅすぅと小さな寝息を立てて心地よさそうに眠っている。大好きなお酒を沢山飲んで、アルコール特有の浮遊感に意識を委ねているのだろう。
「でも、お酒を呑まれたのは勘弁ならないわ。私が今晩、晩酌の共にするつもりだったのにぃ・・・許すまじ!」
「とは言ったもののどうするの、霊夢。呑んだ物は帰ってこないわよ?」
アリスの問いに霊夢は、暫く考え込む素振りを見せた。そんな霊夢を襲うのは、うだるような熱気と太陽光線。滴り落ちる汗が何度か地面の岩に当たって弾ける。蝉の声がぴたっと止み、萃香の寝息だけが辺りを包んだその時。
爽やかな顔をした霊夢はそっと口を開いた
「・・・スイカ割り、しましょうか。」
すんでの所で目覚めた萃香に霊夢の渾身の一撃を回避されてしまい、流石に酔いも覚めるかと思ったと後に語る彼女の、普段の性格からでは想像もできないような壮大なお説教を喰らうのは、また別の話である。
撮られる?
>アリスの見に何かあっては行けないと
身に?
涼しげな感じが出てて良かったです
魔理沙の水着は儚月抄3巻で見れたかな?
今回のお話も面白かったです!また次作も期待していますね!