雲山が最近発情期を迎えてつらい。
「まぁいいじゃん、だってどうせ雲でしょ? 何も困らないじゃない」
「そんな身も蓋も無い……」
「鼠だったら困るけどさー。だって超増えるでしょ? うちはもう充分でかい鼠が一匹いるじゃん? これ以上鼠は要らないよー」
「ムラサ、後ろ、後ろー!」
うちの鼠と普通の鼠を比べたらいけない。
うちの鼠は虎より強いし毘沙門天の使いだ。聖の次くらいに恐い。すげー怖い。
「へぇ、雲山が。それは、まぁ、なんだ、あまり好ましい事態ではないね、一輪にとっては」
すげー常識人。正直ムラサより話し相手に良いと思ってる。
「でしょう?」
「ずっと一緒にいるわけだしなぁ」
「そうでもないんだけどね」
「あっ、そうなんだ」
「やっぱりお互いのプライベートは守らないとね。だからやっぱり、最近、雲山の様子が変なのよ」
「どんな風に?」
「私の側にいるとそわそわしたり、一緒に寝たがったり、あまつさえあんなところやこんなところを押し付けてきたりするんだから!」
「アレにあんなところとかこんなところと言われても、ただの雲としか……あったのかよ、そういう器官……」
「雲山をただの雲と一緒にしないで!」
「えっあっ、うんごめん」
雲山はなろうと思えばきんとうんにだってなれるし、わたあめにだってなれる。そんな雲は他にない。
彼は素敵なジェントルマンだったし、素敵な移動手段だったし、素敵な非常食だった。
「彼ほんとに紳士だったのよ。開かないビンを何度も開けてくれたし、ご飯では私の嫌いな野菜は全部のけてくれるし、混んでるトイレではいつも私を先に進めてくれたわ」
「後半おかしい。なんでトイレ一緒なんだ? ねぇなんで? 私がおかしいの?」
「そんな紳士な彼が発情期だなんて、信じたくない!」
「わ、判った、一輪、落ち着くんだ」
「私どうしたらいいの、ナズーリン? あなた、思い出のアルバムから父親が際どい女装してピースしてる写真見た事ある? 丁度そんな感じの気分なのよ」
「そんな世紀末な体験はした覚えがない……」
私は世界に放り出されたような気分になった。
みんな雲山の事を知らない。私の雲山の半生の深さも、私の嘆きの深さも誰も判らない。
雲山は私にとってさながら父親だった。物心つく頃からずっと一緒だったのだ。
そんな雲山が私に向かってよこしまな思いを向けてくるなんて、次からおなかが空いた時は誰をかじればいいのだろう?
「し、しかし、一輪。そう言う雲山は、どうしたんだ」
「置いてきたわ! 付いてこないでって言ったのよ!」
「今、君の後ろでもじもじしてるが……」
おっさんがもじもじするという背筋の凍るようなシーンをお目にかかった事はあるだろうか。私はある。すっげーきもい。こんなやつ食ってたのかと自己嫌悪するほどきもい。
でも今はもじもじのきもさより、付いてきたきもさが勝った。どちらにせよきもい。
「なんで来たのよ、馬鹿雲山!」
「……」
雲山は答えない。
その代わり、おずおずと、一枚の封筒を差し出して来た。
「私に……?」
「開けたらどうだい、一輪」
ナズーリンに言われるまま、封筒を開く。
入っていたのは、ぼろぼろになった私の幼少期の写真と、「好き」と書かれた、たった二字のラブレター。
「雲山……」
私は胸いっぱいになり、
写真にいっぱい触った後が残って尋常じゃなくべたべたしていたので、その場で破って捨てた。
「まぁいいじゃん、だってどうせ雲でしょ? 何も困らないじゃない」
「そんな身も蓋も無い……」
「鼠だったら困るけどさー。だって超増えるでしょ? うちはもう充分でかい鼠が一匹いるじゃん? これ以上鼠は要らないよー」
「ムラサ、後ろ、後ろー!」
うちの鼠と普通の鼠を比べたらいけない。
うちの鼠は虎より強いし毘沙門天の使いだ。聖の次くらいに恐い。すげー怖い。
「へぇ、雲山が。それは、まぁ、なんだ、あまり好ましい事態ではないね、一輪にとっては」
すげー常識人。正直ムラサより話し相手に良いと思ってる。
「でしょう?」
「ずっと一緒にいるわけだしなぁ」
「そうでもないんだけどね」
「あっ、そうなんだ」
「やっぱりお互いのプライベートは守らないとね。だからやっぱり、最近、雲山の様子が変なのよ」
「どんな風に?」
「私の側にいるとそわそわしたり、一緒に寝たがったり、あまつさえあんなところやこんなところを押し付けてきたりするんだから!」
「アレにあんなところとかこんなところと言われても、ただの雲としか……あったのかよ、そういう器官……」
「雲山をただの雲と一緒にしないで!」
「えっあっ、うんごめん」
雲山はなろうと思えばきんとうんにだってなれるし、わたあめにだってなれる。そんな雲は他にない。
彼は素敵なジェントルマンだったし、素敵な移動手段だったし、素敵な非常食だった。
「彼ほんとに紳士だったのよ。開かないビンを何度も開けてくれたし、ご飯では私の嫌いな野菜は全部のけてくれるし、混んでるトイレではいつも私を先に進めてくれたわ」
「後半おかしい。なんでトイレ一緒なんだ? ねぇなんで? 私がおかしいの?」
「そんな紳士な彼が発情期だなんて、信じたくない!」
「わ、判った、一輪、落ち着くんだ」
「私どうしたらいいの、ナズーリン? あなた、思い出のアルバムから父親が際どい女装してピースしてる写真見た事ある? 丁度そんな感じの気分なのよ」
「そんな世紀末な体験はした覚えがない……」
私は世界に放り出されたような気分になった。
みんな雲山の事を知らない。私の雲山の半生の深さも、私の嘆きの深さも誰も判らない。
雲山は私にとってさながら父親だった。物心つく頃からずっと一緒だったのだ。
そんな雲山が私に向かってよこしまな思いを向けてくるなんて、次からおなかが空いた時は誰をかじればいいのだろう?
「し、しかし、一輪。そう言う雲山は、どうしたんだ」
「置いてきたわ! 付いてこないでって言ったのよ!」
「今、君の後ろでもじもじしてるが……」
おっさんがもじもじするという背筋の凍るようなシーンをお目にかかった事はあるだろうか。私はある。すっげーきもい。こんなやつ食ってたのかと自己嫌悪するほどきもい。
でも今はもじもじのきもさより、付いてきたきもさが勝った。どちらにせよきもい。
「なんで来たのよ、馬鹿雲山!」
「……」
雲山は答えない。
その代わり、おずおずと、一枚の封筒を差し出して来た。
「私に……?」
「開けたらどうだい、一輪」
ナズーリンに言われるまま、封筒を開く。
入っていたのは、ぼろぼろになった私の幼少期の写真と、「好き」と書かれた、たった二字のラブレター。
「雲山……」
私は胸いっぱいになり、
写真にいっぱい触った後が残って尋常じゃなくべたべたしていたので、その場で破って捨てた。
雲山さんは反省して下さい
一輪さんも雲山食べ過ぎw
えっ