幻想郷には結構な頻度で外の世界の物が流れ着く。
それらは忘れ去られた物だったりいらなくなった物達だ。
今日は霊夢の元にボロボロの雑誌が流れ着いた。
外の世界じゃ山にはいかがわしい雑誌がよく捨ててあるものである。
恐らくその中の一冊が何の因果か知らないが幻想郷に紛れ込んだのだろう。
「・・・ほう・・・」
霊夢はそのいかがわしい雑誌を見て敬服し、うなり声をあげた。
記事には大きくこう書かれている、『中国、今度は肉まんを段ボールで偽装』
破れかかって泥のついた雑誌など普段の霊夢なら気にも留めず捨ててしまうが
霊夢が持つ強い霊感が何かを感じたのか、
はたまた死ぬほど空腹でその見出しが目に飛び込んできたからなのかは誰にも分からない。
「魔理沙これ見て・・・すごい・・・」
霊夢は真剣な顔をして魔理沙にもその見出しを見せた。
魔理沙の方はその見出しを見て流石に引いている。
「へえ、外じゃ段ボールを食うのか・・・」
しかし魔理沙が引いているのはその見出しだけではなく霊夢の真剣な顔だった。
まさに迫真、全神経を記事に集中させて何か深く考えているようだ。
そんな霊夢の姿に嫌な予感を感じ、顔を引きつらせて笑う魔理沙。
「・・・霊夢、あの・・・まさかとは思うんですけど・・・」
「紙が食べれるとは盲点だったわ、ちょっと行って来る!」
魔理沙が言い終わる前に霊夢は部屋を飛び出してそのままどこかへ飛んでいってしまった。
残された魔理沙は「嘘だろ」と呟きながらもどう反応したらいいのかわからず思わず笑ってしまった。
もはや頭の中に繰り返される「紙」「肉まん」「食う」の3文字が霊夢を動かす動力源となり、
「羞恥心」などと言う言葉は脳から消え去っていた。空腹は怖い。
行き先は妖怪の山、紙を求めて急行中、紙と言えばあそこだ。
「文、紙頂戴、紙」
急に霊夢が来たら誰だって驚くし、向こうから来る事がなかなかないので文は少々嬉しそうに霊夢を出迎えた。
「何に使うの?新聞でも書くのかしら?」
仕事オフモードで話しかけるとそんなのおかまいなしという感じで霊夢はどかどか文の仕事場に押し入り紙を探す。
「知ってる?紙って食べられるらしいわよ」
紙を物色する霊夢の背中を見ながら文は冷や汗をかいた。
文はたった一言だったが大体理解したようだ、霊夢は何かに影響されて紙を食べようとしている、危険だ、と。
「あの、霊夢さん、山羊も紙を食べるとお腹壊すんですよ、ですからね・・・」
「ボール紙ないの?」
記者モードで語りかけてもこっちの話を聞く気配のない霊夢に文はがくっとうな垂れる。
しかし文も霊夢がこういう人間だとは重々承知である。
文の心は揺れた。
このまま霊夢を好き勝手にさせて「紙食い巫女」の記事を書くか、友人としてそれを止めるかだ。
天狗としてはこのまま記事を書き散らかしたいが、友人からすると霊夢が腹を壊して寝込む姿は見たくない。
しかも紙なんか食って。
「紙なら霊夢さんも持ってるじゃないですか、ほら・・・御札とか・・・」
文は自分が提供した紙を食って腹を壊される事だけを避ける手に出た。
「・・・御札か・・・」
霊夢は紙を探す手を止めて自分の袖にしまっていた札を取り出してじっと見た。
サラサラの薄い和紙、そういえば和紙は楮、元々は植物だ。
霊夢は静かにうんうんと頷く。
文は自分の作戦が成功している事に目を疑った。
家に戻ってきたかと思えば自分の御札を切り刻みだした霊夢を見て魔理沙はまたもや「嘘だろ」と言いながら笑ってしまった。
「何笑ってるのよ!止めなさいよ!」
文が慌てて魔理沙を急かすが魔理沙は汗をたらりと垂らしたまま笑い続ける。
「いや、最後まで見届けよう」
自分で止めることを放棄した文にはもはや魔理沙に対しても口出しする事はできない。
これはもう記事にするしかあるまい。
そして霊夢が腹を壊すのを見届けるっきゃない。
固唾を呑んで見守っていたが案外すぐに手詰まりを迎えた。
肉まんを作るにはまず生地が必要だが霊夢は生地を作る材料を持ち合わせていない。
肉まんの生地はパンに似ているが、もちろんパンなんか霊夢の家にはない。
「わー!やった!手が止まった!これで新聞書かなくてすむ!」
霊夢の後ろでその様子を見守る文は信じられないような言葉を口走った。
霊夢の方は全身全霊をかけて頭をフル回転し、肉まんの皮を作る方法を考えている。
魔理沙は霊夢の背中を見ながら
(あ、これはそろそろ解決策思いつくな)
と冷静に考えていた。
そしてそれは現実の物となる。
「そうよ・・・肉の代わりが紙に務まるなら生地の代わりも務まるに決まってるじゃない・・・!」
そう呟いて立ち上がった霊夢に文も魔理沙も絶句する。
「無理無理、絶対無理よ、紙を紙で包んで食べ物にするとか人間の子供でも考えないわ!」
「そんなにケチな食べ物作るわけないでしょ!ネギとかも入れるわよ!」
返って来た言葉は安心できる物ではなかった。
ケチとかいう話以前の問題である。
「文っ・・・!」
魔理沙は顔を青ざめる文の腕を強く掴み首を横に振る。
「今の霊夢の姿を写真に撮っておくんだ・・・!」
文には魔理沙の顔が真剣すぎて、それが面白い記事になるからなのか紙肉まんで霊夢が命を落とすからなのかわからなかった。
ところでダンボール肉まんという言葉には三つの言葉が隠されている。
ダンボール、肉、饅頭の三つだ。
そう、もはや霊夢が作ろうとしているのはダンボール肉まんでもなければ紙肉まんでもない、紙まんだ。
紙を紙で包んだものだから肉の成分がない、辛うじて「まん」の部分をつけたが饅頭であるかどうかも怪しい所だ。
しかし饅頭部分を奪ったら紙しか残らない。
霊夢が餅米でも持ってきてくれればいいのだ。
そうすれば肉まんからは遠ざかるが饅頭にはかなり近付く。
たとえ紙:餅米の割合が7:3ほどであっても今なら納得できる、むしろ喜んで食べてしまうかもしれない。
文は霊夢の言う通りネギ等が入り饅頭要素が少しでも高まる事を願った。
そんな淡い期待を裏切るかのように、霊夢はネギと椎茸と醤油と謎の容器を持って帰って来た。
「れ、霊夢さんそれは・・・」
思わず文はパシャリとカメラのシャッターを切る。
「ん?でんぷん糊よ」
でんぷんのり、文と魔理沙は頭の中で何度もその言葉を繰り返した。
でんぷん、のり、澱粉と海苔であれば普通に食べ物である。
しかし残念ながら海苔ではなく糊だ。
霊夢が蓋を開けると容器からぷるんとした白い糊が垣間見える。
文の顔から血の気が引いた。
紙と糊、文房具だ、工作でもするのかというセットだ。
むしろ工作以外に使う物ではない。
「あの・・・霊夢さん・・・それは食べられるんですか・・・私食べた事ないんですけど・・・」
「知らないの?でんぷん糊は食べれるのよ、私は小腹が空くとたまに食べてるわ」
「はあ・・・」
何か悪いの?とでも言いたそうな霊夢に文は引き下がる。
確かにでんぷん糊は植物性のでんぷんで出来ている、全く食べれないわけではない。
しかし文房具を食うという前提を脳が拒絶する。
眩暈がとまらず、ふらついた文を魔理沙が肩を抑える。
「おいしっかりしろ、本番はこれからだぞ!」
「これ以上酷い現場を見る位ならもう見ないほうが良い気がしてきたわ・・・」
「馬鹿!記者だろお前!最後まで見届けるんだ!」
「うぅ・・・」
魔理沙に喝を入れられた文は涙目になり、ぐぐっとふんばり力を入れて体を起こした。
記者をやっていてこんなに辛かった事はなかなかない。
そんな茶番をよそに霊夢は調理を続けた。
でんぷん糊は肉まんの皮に使われるらしい。
細かく刻まれた御札とでんぷん糊を捏ねて皮らしいものが出来ていく。
紙4割、でんぷん糊6割と言った感じで糊の割合が多い。
紙がつなぎででんぷん糊が小麦粉の代わりを務めているようだ。
糊が持つ独特な臭いが部屋を包み込む。
目の前の異常な光景に視覚だけでなく臭覚まで侵され始めたらしい。
魔理沙も自分があげた椎茸がこんな工作に使われるとは思わなかっただろう。
醤油で味付けられた紙にネギと椎茸が投入された。
遠目で見れば食べ物に見えなくもないが、近くで見ると紙サラダだ。
魔理沙は心の奥でそんな姿になった椎茸に謝っていた。
ついに紙とでんぷん糊で出来た皮で紙と椎茸とネギを混ぜた具が重なり合う時が来た。
緊張の一瞬である。
霊夢の手ででんぷん糊の皮が具を包んでいくと、まさに肉まんが・・・
あるわけがなく、マーブル模様をしたボテっとした出来の悪い泥団子のような物が並んだ。
本来の肉まんの皮はもっちりとして弾力があるが、なにしろでんぷん糊が主力になっているので弾力など皆無。
ここまで来て文も魔理沙もでんぷん糊は具に向いているという事に気付いた。
当の霊夢は全く気付いていないが。
「せいろ♪せいろ♪」
陽気に蒸篭を用意する霊夢はもうじき腹を満たすであろう肉まんにときめきを隠せないらしい、ウキウキだ。
蒸せばどうにかなる、蒸せばどうにかなるんだと自分に言い聞かせる文はカメラを持つ手が震えていた。
「あ、あんた達の分もあるから安心しなさい♪」
あまりの不吉な言葉に文と魔理沙は戦慄した。
「いや、私はいいぜ腹減ってないし」
「わ、私も結構です!」
「えー?良いの私だけで食べちゃって」
「どうぞどうぞ!」
霊夢は「悪いわねー」なんて言いながら上機嫌でドロドロでネチョネチョの紙まんを蒸篭に並べた。
「肉まん食べるなんて本当久しぶり!楽しみだわー!」
文は涙で目の前が滲んだ。いろんな意味で。
肉まんが蒸し上がるまでの間霊夢は雑誌をパラパラめくった。
いかがわしい記事や写真が隙間なく並んでいる。
「ああ~・・・なるほど、霊夢さんはこれに影響を受けたんですね・・・」
段ボール肉まんの記事を見て文が頷く。
「そうよ、外の知識もたまには役に立つ物ね!」
意気揚々と応える霊夢。
文もその記事に見入った。
『産地偽装や毒物混入など食の安全を揺るがす事件が多発している。
そして今回独占取材できたのは中身を段ボールで偽装していた肉まんだ!』
中身が段ボールという肉まんを二つに割った白黒写真がどーんと大きく載っている。
こう見ると普通の肉まんと全く見分けがつかない。
なかなか美味しそうだ。
霊夢の作ったよくわからない食べ物よりずっと。
「あの・・・霊夢さん、これ偽装されていたって事ですよ、これ読むと記者も凄く怒ってるし・・・」
「でも言われるまで気付かなかったって事でしょ?」
「え、ええ・・・まあそうですが・・・」
「それに見て!記者が普通の肉まんと食べ比べて、段ボールの方は後味に繊維らしきものが少し残ったって言ってる、たったそれだけの事なのよ!安くすむなら紙で十分!」
目を輝かせて力説する霊夢を説得する術はもうない。
食の安全という言葉は霊夢の頭の中には存在していないらしい。
文はとうとう熱くなった瞼を押さえた。
「何泣いてるのよ、やっぱり肉まん欲しかったんでしょ?」
「いえ結構です・・・」
蒸篭の中の謎の食べ物を肉まん呼ばわりする霊夢に怒りさえ覚えた。
蒸篭がもくもく湯気を上げる。
あのドロドロでネチャネチャのまだら饅頭がどうなったか、いっその事出来上がる前に爆発でもしてくれれば笑い話で終わるのに。
そんな文や魔理沙の期待を裏切るように、蒸篭の蓋が開かれその化け物が姿を露にした。
なんという事でしょう。
ドロドロのネチャネチャだった表面は水分が飛んでバリバリのカチカチになりまだら模様はまるで印刷されたように表面に張り付いてカピカピだ。
これには流石の霊夢も紙まんを一つ掴んで眉間にシワを寄せた。
「・・・全然ふわふわじゃないじゃない・・・」
どうやら霊夢はあれが本物の肉まんのようにふわふわな姿で出てくると思い込んでいたようだ。
そんなわけねーだろと思いながらも、文はどこかほっとしたようにカメラを構える。
「そ、それじゃ食べられませんね、歯が折れちゃいますよ!」
しかし霊夢はその紙まんを見つめたまま微動だにしない。
その瞳は熱意を絶やさず、そして幾度か息を吐いた後覚悟を決めたように両手でそのカチカチの表面に指で力を入れると、
マア!なんという事でしょう!
カチカチだと思われていた紙まんが綺麗に二つに割れたではありませんか!
「えー!な、何で!?」
文も驚きを隠せず写真を撮るのも忘れて身を乗り出した。
「そうか、水分が飛んだのは表面だけだったんだ!あんなでかい糊の塊の水分をすべて飛ばすには肉まんを作る時間程度じゃ足りない・・・足りないんだ!」
と、魔理沙が震え上がりながら分析した。
霊夢の目は黄金色に輝きながら柔らかい湯気の上がる醤油色に染まった紙の詰まっている具を見つめている。
それはどこか勝ち誇ったようだ。
「やった!これが噂に聞く、外はカリカリ、中はふんわりね!大成功!」
「・・・良かったですね」
文は耐え切れずに顔を両手で覆った。
こんな嬉しそうな顔なかなか見れない、霊夢はそんな顔で大きく口を開けて紙まんにかぶりついた。
これが最後の勇士になるやもしれぬと文は震えながらシャッターを切る。
魔理沙も固唾を呑んで見守った。
もぐもぐとゆっくり噛んでごくりと飲み込む。
それから霊夢はしばらく無言になり、もう一口齧った。
部屋の沈黙が息苦しい。
「れ、霊夢・・・?」
沈黙を破って魔理沙が恐る恐る話しかけた。
「・・・うん・・・いける」
静かにボソリと語る霊夢に、文も魔理沙も嫌な予感を覚えた。
「あの・・・本当は不味かったんでしょう?良いんですよ正直に言って!」
「そ、そうだぞ、腹壊す前にやめておけ」
しかし霊夢は食べるのをやめず、二人の方に振り向いて真剣な顔持ちでもぐもぐ口を動かす。
その体は若干震えて目にはうっすら涙が。
文も魔理沙も悲しくなった、ああやっぱり最初に止めておけば、と。
しかし、霊夢の表情は二人の思っているそれとは少し違うらしい。
「・・・これは・・・いける・・・」
「え?」
霊夢は俯いてブルブル震えた後、がばっと顔を上げ、二人を見た。
その瞳には希望がたっぷり詰まっている。
「いける!肉まんとは少し違うけど、なんて言うの!?スイーツ!?外はカリカリ!中はトロトロでどことなく甘露!いける!売れるわ!新商品よ!」
高ぶりながら叫ぶ霊夢にぽかんと口を開ける二人。
そんな馬鹿なと言った具合だ。
「ちょっと食べてみて!本当に美味しいから!」
霊夢は二人にぐいっと紙まんを差し出す。
文と魔理沙は顔を見合わせた後、紙まんを凝視した。
いびつな形でまだら模様のそれはとても美味しそうには見えない。
「ちょっと何よその顔!食べてもないくせに!」
二人を試食係にしようとする霊夢は新しいビジネスチャンスを前に鬼となり
意地でも食べさせようと紙まんをぐいっと突き出してくる。
二人は嫌がりながらも、一応食べ物らしき物の匂いのするそれがもしかしたら食べられるのかもしれないと思い始めた。
霊夢の味覚がおかしくなったとばかり思っていたが、よくよく考えれば絶対に食べられない物など入っていない、味付けだって醤油だ。
それにもしかしたら博麗の巫女の神秘的な力が加わって奇跡の食べ物が出来たのかも。
そう思ったら目の前の文房具の廃棄物だと思っていたものが急に食べ物に見えてきた。
二人は紙まんを手にとり、神妙な面持ちでごくりと唾を飲む。
けして美味しそうな物を目の前にして涎を飲み込んだわけではない。
「もー、何してるのよ、冷めちゃうわよ?」
そう言いながら霊夢は残った紙まんに齧りつく、完食する勢いだ。
本当に不味くはないのかもしれない、腹を壊すかもしれないが。
しかしこのまま霊夢だけが腹を壊すのは、そうなるとわかっていても止められなかった自分達にも責任がある、という自責の念に駆られ、
二人はとうとう紙まんを口にした。
「皮が甘いから中は餡子のほうが良いかm・・・」
霊夢がそう言いかけると、文と魔理沙は爆発した。
そう爆発したのだ、文字通り、煙を上げて。
紙まんを口にした二人はその瞬間ピチューンと音を立てて消し飛んだ。
「え?え?」
その場に残った霊夢だけが何が起こったかわからずうろたえている。
「え・・・ちょ・・・嘘でしょ?」
霊夢は友人が爆発した事とビジネスチャンスを失ったショックで目に涙を溜めた。
なぜ二人が消し飛んだのか、理由はこうだ。
紙まんが不味すぎた、というわけではない。
曲がりなりにも文は天狗だし魔理沙は魔法使いだ、それ位で爆発したりなんかしない。
紙まんには皮にも具にも弾幕用の札が使われていた。
いつでも使えるようにしっかり文字を書いた状態の物だ。
刻んで入れたものの、そのくらいでは札に込められた博麗の強い霊力が消えず、
むしろ霊夢お手製のでんぷん糊と混ざり合った事によって新しい弾となってしまったらしい。
そしてそれを食べた妖怪の文と、人間であっても魔の者としてみなされた魔理沙は被弾し、残機を減らす事となった。
しばらくして復活した文と魔理沙は顔面蒼白で震えていた。
もちろん霊夢も。
「ご・・・ごめんなさい・・・まさかこんな事になるなんて・・・」
「いや私だってこんな事になるとわかってれば食べなかったぜ・・・」
「そうですよ・・・お腹壊すだけならまだしもこんな・・・」
食べ物が爆弾になっているなんて誰も思うまい。
しかも作ってるほうですら知らなかったのだ。
もはやテロである。
「ううっ・・・こんなに美味しいのに私以外の人は食べられないだなんて・・・」
霊夢はとうとうさめざめと泣きだしてしまったが文と魔理沙は一瞬舌に感じたあの味を思い出しながら顔を青ざめていた。
食べた瞬間ぐにゅっと謎の歯ごたえを感じそれから舌に広がる糊独特のねっちょりした食感と鼻をつく無機質な味、
そしてその向こうからくる醤油風味の紙が口の中で踊りザラリと舌に残る。
口に入れた瞬間わかった、食べ物ではない。
とにかく不味かっただけでは言い表せない、「危険」という物を身を持って感じた。
もし爆発してなかったら戻していただろう。
二人は面白半分、恐怖半分(実際には面白二割恐怖八割位だったが)で霊夢のする事を止めなかった事を心の底から反省した。
「あのさ霊夢、思ったんだけど紅魔館に行けば美鈴が肉まん作ってくれるんじゃないか?」
「あ、それもそうね」
魔理沙は最初から気付いていたことを口に出した。
文はなぜもっと早く言わなかったというような顔で唖然としながら魔理沙を睨む。
霊夢はと言うと、残った肉まんを手にとり名残惜しそうな目でじっと見ている。
「でももったいないわね・・・誰か食べられないかしら・・・」
「ああ、久しぶりに幽霊退治にでも行くか?」
「幽霊退治?」
翌日、文々。新聞には霊夢が肉まんを紙で作った記事がトップを飾り、その下にはそれを喜んで食った幽々子が無残にも被弾した写真が大きく載った。
この事件は後に「博麗毒団子事件」として後世まで語り継がれ、多くの妖怪達を震い上がらせる事となる。
それらは忘れ去られた物だったりいらなくなった物達だ。
今日は霊夢の元にボロボロの雑誌が流れ着いた。
外の世界じゃ山にはいかがわしい雑誌がよく捨ててあるものである。
恐らくその中の一冊が何の因果か知らないが幻想郷に紛れ込んだのだろう。
「・・・ほう・・・」
霊夢はそのいかがわしい雑誌を見て敬服し、うなり声をあげた。
記事には大きくこう書かれている、『中国、今度は肉まんを段ボールで偽装』
破れかかって泥のついた雑誌など普段の霊夢なら気にも留めず捨ててしまうが
霊夢が持つ強い霊感が何かを感じたのか、
はたまた死ぬほど空腹でその見出しが目に飛び込んできたからなのかは誰にも分からない。
「魔理沙これ見て・・・すごい・・・」
霊夢は真剣な顔をして魔理沙にもその見出しを見せた。
魔理沙の方はその見出しを見て流石に引いている。
「へえ、外じゃ段ボールを食うのか・・・」
しかし魔理沙が引いているのはその見出しだけではなく霊夢の真剣な顔だった。
まさに迫真、全神経を記事に集中させて何か深く考えているようだ。
そんな霊夢の姿に嫌な予感を感じ、顔を引きつらせて笑う魔理沙。
「・・・霊夢、あの・・・まさかとは思うんですけど・・・」
「紙が食べれるとは盲点だったわ、ちょっと行って来る!」
魔理沙が言い終わる前に霊夢は部屋を飛び出してそのままどこかへ飛んでいってしまった。
残された魔理沙は「嘘だろ」と呟きながらもどう反応したらいいのかわからず思わず笑ってしまった。
もはや頭の中に繰り返される「紙」「肉まん」「食う」の3文字が霊夢を動かす動力源となり、
「羞恥心」などと言う言葉は脳から消え去っていた。空腹は怖い。
行き先は妖怪の山、紙を求めて急行中、紙と言えばあそこだ。
「文、紙頂戴、紙」
急に霊夢が来たら誰だって驚くし、向こうから来る事がなかなかないので文は少々嬉しそうに霊夢を出迎えた。
「何に使うの?新聞でも書くのかしら?」
仕事オフモードで話しかけるとそんなのおかまいなしという感じで霊夢はどかどか文の仕事場に押し入り紙を探す。
「知ってる?紙って食べられるらしいわよ」
紙を物色する霊夢の背中を見ながら文は冷や汗をかいた。
文はたった一言だったが大体理解したようだ、霊夢は何かに影響されて紙を食べようとしている、危険だ、と。
「あの、霊夢さん、山羊も紙を食べるとお腹壊すんですよ、ですからね・・・」
「ボール紙ないの?」
記者モードで語りかけてもこっちの話を聞く気配のない霊夢に文はがくっとうな垂れる。
しかし文も霊夢がこういう人間だとは重々承知である。
文の心は揺れた。
このまま霊夢を好き勝手にさせて「紙食い巫女」の記事を書くか、友人としてそれを止めるかだ。
天狗としてはこのまま記事を書き散らかしたいが、友人からすると霊夢が腹を壊して寝込む姿は見たくない。
しかも紙なんか食って。
「紙なら霊夢さんも持ってるじゃないですか、ほら・・・御札とか・・・」
文は自分が提供した紙を食って腹を壊される事だけを避ける手に出た。
「・・・御札か・・・」
霊夢は紙を探す手を止めて自分の袖にしまっていた札を取り出してじっと見た。
サラサラの薄い和紙、そういえば和紙は楮、元々は植物だ。
霊夢は静かにうんうんと頷く。
文は自分の作戦が成功している事に目を疑った。
家に戻ってきたかと思えば自分の御札を切り刻みだした霊夢を見て魔理沙はまたもや「嘘だろ」と言いながら笑ってしまった。
「何笑ってるのよ!止めなさいよ!」
文が慌てて魔理沙を急かすが魔理沙は汗をたらりと垂らしたまま笑い続ける。
「いや、最後まで見届けよう」
自分で止めることを放棄した文にはもはや魔理沙に対しても口出しする事はできない。
これはもう記事にするしかあるまい。
そして霊夢が腹を壊すのを見届けるっきゃない。
固唾を呑んで見守っていたが案外すぐに手詰まりを迎えた。
肉まんを作るにはまず生地が必要だが霊夢は生地を作る材料を持ち合わせていない。
肉まんの生地はパンに似ているが、もちろんパンなんか霊夢の家にはない。
「わー!やった!手が止まった!これで新聞書かなくてすむ!」
霊夢の後ろでその様子を見守る文は信じられないような言葉を口走った。
霊夢の方は全身全霊をかけて頭をフル回転し、肉まんの皮を作る方法を考えている。
魔理沙は霊夢の背中を見ながら
(あ、これはそろそろ解決策思いつくな)
と冷静に考えていた。
そしてそれは現実の物となる。
「そうよ・・・肉の代わりが紙に務まるなら生地の代わりも務まるに決まってるじゃない・・・!」
そう呟いて立ち上がった霊夢に文も魔理沙も絶句する。
「無理無理、絶対無理よ、紙を紙で包んで食べ物にするとか人間の子供でも考えないわ!」
「そんなにケチな食べ物作るわけないでしょ!ネギとかも入れるわよ!」
返って来た言葉は安心できる物ではなかった。
ケチとかいう話以前の問題である。
「文っ・・・!」
魔理沙は顔を青ざめる文の腕を強く掴み首を横に振る。
「今の霊夢の姿を写真に撮っておくんだ・・・!」
文には魔理沙の顔が真剣すぎて、それが面白い記事になるからなのか紙肉まんで霊夢が命を落とすからなのかわからなかった。
ところでダンボール肉まんという言葉には三つの言葉が隠されている。
ダンボール、肉、饅頭の三つだ。
そう、もはや霊夢が作ろうとしているのはダンボール肉まんでもなければ紙肉まんでもない、紙まんだ。
紙を紙で包んだものだから肉の成分がない、辛うじて「まん」の部分をつけたが饅頭であるかどうかも怪しい所だ。
しかし饅頭部分を奪ったら紙しか残らない。
霊夢が餅米でも持ってきてくれればいいのだ。
そうすれば肉まんからは遠ざかるが饅頭にはかなり近付く。
たとえ紙:餅米の割合が7:3ほどであっても今なら納得できる、むしろ喜んで食べてしまうかもしれない。
文は霊夢の言う通りネギ等が入り饅頭要素が少しでも高まる事を願った。
そんな淡い期待を裏切るかのように、霊夢はネギと椎茸と醤油と謎の容器を持って帰って来た。
「れ、霊夢さんそれは・・・」
思わず文はパシャリとカメラのシャッターを切る。
「ん?でんぷん糊よ」
でんぷんのり、文と魔理沙は頭の中で何度もその言葉を繰り返した。
でんぷん、のり、澱粉と海苔であれば普通に食べ物である。
しかし残念ながら海苔ではなく糊だ。
霊夢が蓋を開けると容器からぷるんとした白い糊が垣間見える。
文の顔から血の気が引いた。
紙と糊、文房具だ、工作でもするのかというセットだ。
むしろ工作以外に使う物ではない。
「あの・・・霊夢さん・・・それは食べられるんですか・・・私食べた事ないんですけど・・・」
「知らないの?でんぷん糊は食べれるのよ、私は小腹が空くとたまに食べてるわ」
「はあ・・・」
何か悪いの?とでも言いたそうな霊夢に文は引き下がる。
確かにでんぷん糊は植物性のでんぷんで出来ている、全く食べれないわけではない。
しかし文房具を食うという前提を脳が拒絶する。
眩暈がとまらず、ふらついた文を魔理沙が肩を抑える。
「おいしっかりしろ、本番はこれからだぞ!」
「これ以上酷い現場を見る位ならもう見ないほうが良い気がしてきたわ・・・」
「馬鹿!記者だろお前!最後まで見届けるんだ!」
「うぅ・・・」
魔理沙に喝を入れられた文は涙目になり、ぐぐっとふんばり力を入れて体を起こした。
記者をやっていてこんなに辛かった事はなかなかない。
そんな茶番をよそに霊夢は調理を続けた。
でんぷん糊は肉まんの皮に使われるらしい。
細かく刻まれた御札とでんぷん糊を捏ねて皮らしいものが出来ていく。
紙4割、でんぷん糊6割と言った感じで糊の割合が多い。
紙がつなぎででんぷん糊が小麦粉の代わりを務めているようだ。
糊が持つ独特な臭いが部屋を包み込む。
目の前の異常な光景に視覚だけでなく臭覚まで侵され始めたらしい。
魔理沙も自分があげた椎茸がこんな工作に使われるとは思わなかっただろう。
醤油で味付けられた紙にネギと椎茸が投入された。
遠目で見れば食べ物に見えなくもないが、近くで見ると紙サラダだ。
魔理沙は心の奥でそんな姿になった椎茸に謝っていた。
ついに紙とでんぷん糊で出来た皮で紙と椎茸とネギを混ぜた具が重なり合う時が来た。
緊張の一瞬である。
霊夢の手ででんぷん糊の皮が具を包んでいくと、まさに肉まんが・・・
あるわけがなく、マーブル模様をしたボテっとした出来の悪い泥団子のような物が並んだ。
本来の肉まんの皮はもっちりとして弾力があるが、なにしろでんぷん糊が主力になっているので弾力など皆無。
ここまで来て文も魔理沙もでんぷん糊は具に向いているという事に気付いた。
当の霊夢は全く気付いていないが。
「せいろ♪せいろ♪」
陽気に蒸篭を用意する霊夢はもうじき腹を満たすであろう肉まんにときめきを隠せないらしい、ウキウキだ。
蒸せばどうにかなる、蒸せばどうにかなるんだと自分に言い聞かせる文はカメラを持つ手が震えていた。
「あ、あんた達の分もあるから安心しなさい♪」
あまりの不吉な言葉に文と魔理沙は戦慄した。
「いや、私はいいぜ腹減ってないし」
「わ、私も結構です!」
「えー?良いの私だけで食べちゃって」
「どうぞどうぞ!」
霊夢は「悪いわねー」なんて言いながら上機嫌でドロドロでネチョネチョの紙まんを蒸篭に並べた。
「肉まん食べるなんて本当久しぶり!楽しみだわー!」
文は涙で目の前が滲んだ。いろんな意味で。
肉まんが蒸し上がるまでの間霊夢は雑誌をパラパラめくった。
いかがわしい記事や写真が隙間なく並んでいる。
「ああ~・・・なるほど、霊夢さんはこれに影響を受けたんですね・・・」
段ボール肉まんの記事を見て文が頷く。
「そうよ、外の知識もたまには役に立つ物ね!」
意気揚々と応える霊夢。
文もその記事に見入った。
『産地偽装や毒物混入など食の安全を揺るがす事件が多発している。
そして今回独占取材できたのは中身を段ボールで偽装していた肉まんだ!』
中身が段ボールという肉まんを二つに割った白黒写真がどーんと大きく載っている。
こう見ると普通の肉まんと全く見分けがつかない。
なかなか美味しそうだ。
霊夢の作ったよくわからない食べ物よりずっと。
「あの・・・霊夢さん、これ偽装されていたって事ですよ、これ読むと記者も凄く怒ってるし・・・」
「でも言われるまで気付かなかったって事でしょ?」
「え、ええ・・・まあそうですが・・・」
「それに見て!記者が普通の肉まんと食べ比べて、段ボールの方は後味に繊維らしきものが少し残ったって言ってる、たったそれだけの事なのよ!安くすむなら紙で十分!」
目を輝かせて力説する霊夢を説得する術はもうない。
食の安全という言葉は霊夢の頭の中には存在していないらしい。
文はとうとう熱くなった瞼を押さえた。
「何泣いてるのよ、やっぱり肉まん欲しかったんでしょ?」
「いえ結構です・・・」
蒸篭の中の謎の食べ物を肉まん呼ばわりする霊夢に怒りさえ覚えた。
蒸篭がもくもく湯気を上げる。
あのドロドロでネチャネチャのまだら饅頭がどうなったか、いっその事出来上がる前に爆発でもしてくれれば笑い話で終わるのに。
そんな文や魔理沙の期待を裏切るように、蒸篭の蓋が開かれその化け物が姿を露にした。
なんという事でしょう。
ドロドロのネチャネチャだった表面は水分が飛んでバリバリのカチカチになりまだら模様はまるで印刷されたように表面に張り付いてカピカピだ。
これには流石の霊夢も紙まんを一つ掴んで眉間にシワを寄せた。
「・・・全然ふわふわじゃないじゃない・・・」
どうやら霊夢はあれが本物の肉まんのようにふわふわな姿で出てくると思い込んでいたようだ。
そんなわけねーだろと思いながらも、文はどこかほっとしたようにカメラを構える。
「そ、それじゃ食べられませんね、歯が折れちゃいますよ!」
しかし霊夢はその紙まんを見つめたまま微動だにしない。
その瞳は熱意を絶やさず、そして幾度か息を吐いた後覚悟を決めたように両手でそのカチカチの表面に指で力を入れると、
マア!なんという事でしょう!
カチカチだと思われていた紙まんが綺麗に二つに割れたではありませんか!
「えー!な、何で!?」
文も驚きを隠せず写真を撮るのも忘れて身を乗り出した。
「そうか、水分が飛んだのは表面だけだったんだ!あんなでかい糊の塊の水分をすべて飛ばすには肉まんを作る時間程度じゃ足りない・・・足りないんだ!」
と、魔理沙が震え上がりながら分析した。
霊夢の目は黄金色に輝きながら柔らかい湯気の上がる醤油色に染まった紙の詰まっている具を見つめている。
それはどこか勝ち誇ったようだ。
「やった!これが噂に聞く、外はカリカリ、中はふんわりね!大成功!」
「・・・良かったですね」
文は耐え切れずに顔を両手で覆った。
こんな嬉しそうな顔なかなか見れない、霊夢はそんな顔で大きく口を開けて紙まんにかぶりついた。
これが最後の勇士になるやもしれぬと文は震えながらシャッターを切る。
魔理沙も固唾を呑んで見守った。
もぐもぐとゆっくり噛んでごくりと飲み込む。
それから霊夢はしばらく無言になり、もう一口齧った。
部屋の沈黙が息苦しい。
「れ、霊夢・・・?」
沈黙を破って魔理沙が恐る恐る話しかけた。
「・・・うん・・・いける」
静かにボソリと語る霊夢に、文も魔理沙も嫌な予感を覚えた。
「あの・・・本当は不味かったんでしょう?良いんですよ正直に言って!」
「そ、そうだぞ、腹壊す前にやめておけ」
しかし霊夢は食べるのをやめず、二人の方に振り向いて真剣な顔持ちでもぐもぐ口を動かす。
その体は若干震えて目にはうっすら涙が。
文も魔理沙も悲しくなった、ああやっぱり最初に止めておけば、と。
しかし、霊夢の表情は二人の思っているそれとは少し違うらしい。
「・・・これは・・・いける・・・」
「え?」
霊夢は俯いてブルブル震えた後、がばっと顔を上げ、二人を見た。
その瞳には希望がたっぷり詰まっている。
「いける!肉まんとは少し違うけど、なんて言うの!?スイーツ!?外はカリカリ!中はトロトロでどことなく甘露!いける!売れるわ!新商品よ!」
高ぶりながら叫ぶ霊夢にぽかんと口を開ける二人。
そんな馬鹿なと言った具合だ。
「ちょっと食べてみて!本当に美味しいから!」
霊夢は二人にぐいっと紙まんを差し出す。
文と魔理沙は顔を見合わせた後、紙まんを凝視した。
いびつな形でまだら模様のそれはとても美味しそうには見えない。
「ちょっと何よその顔!食べてもないくせに!」
二人を試食係にしようとする霊夢は新しいビジネスチャンスを前に鬼となり
意地でも食べさせようと紙まんをぐいっと突き出してくる。
二人は嫌がりながらも、一応食べ物らしき物の匂いのするそれがもしかしたら食べられるのかもしれないと思い始めた。
霊夢の味覚がおかしくなったとばかり思っていたが、よくよく考えれば絶対に食べられない物など入っていない、味付けだって醤油だ。
それにもしかしたら博麗の巫女の神秘的な力が加わって奇跡の食べ物が出来たのかも。
そう思ったら目の前の文房具の廃棄物だと思っていたものが急に食べ物に見えてきた。
二人は紙まんを手にとり、神妙な面持ちでごくりと唾を飲む。
けして美味しそうな物を目の前にして涎を飲み込んだわけではない。
「もー、何してるのよ、冷めちゃうわよ?」
そう言いながら霊夢は残った紙まんに齧りつく、完食する勢いだ。
本当に不味くはないのかもしれない、腹を壊すかもしれないが。
しかしこのまま霊夢だけが腹を壊すのは、そうなるとわかっていても止められなかった自分達にも責任がある、という自責の念に駆られ、
二人はとうとう紙まんを口にした。
「皮が甘いから中は餡子のほうが良いかm・・・」
霊夢がそう言いかけると、文と魔理沙は爆発した。
そう爆発したのだ、文字通り、煙を上げて。
紙まんを口にした二人はその瞬間ピチューンと音を立てて消し飛んだ。
「え?え?」
その場に残った霊夢だけが何が起こったかわからずうろたえている。
「え・・・ちょ・・・嘘でしょ?」
霊夢は友人が爆発した事とビジネスチャンスを失ったショックで目に涙を溜めた。
なぜ二人が消し飛んだのか、理由はこうだ。
紙まんが不味すぎた、というわけではない。
曲がりなりにも文は天狗だし魔理沙は魔法使いだ、それ位で爆発したりなんかしない。
紙まんには皮にも具にも弾幕用の札が使われていた。
いつでも使えるようにしっかり文字を書いた状態の物だ。
刻んで入れたものの、そのくらいでは札に込められた博麗の強い霊力が消えず、
むしろ霊夢お手製のでんぷん糊と混ざり合った事によって新しい弾となってしまったらしい。
そしてそれを食べた妖怪の文と、人間であっても魔の者としてみなされた魔理沙は被弾し、残機を減らす事となった。
しばらくして復活した文と魔理沙は顔面蒼白で震えていた。
もちろん霊夢も。
「ご・・・ごめんなさい・・・まさかこんな事になるなんて・・・」
「いや私だってこんな事になるとわかってれば食べなかったぜ・・・」
「そうですよ・・・お腹壊すだけならまだしもこんな・・・」
食べ物が爆弾になっているなんて誰も思うまい。
しかも作ってるほうですら知らなかったのだ。
もはやテロである。
「ううっ・・・こんなに美味しいのに私以外の人は食べられないだなんて・・・」
霊夢はとうとうさめざめと泣きだしてしまったが文と魔理沙は一瞬舌に感じたあの味を思い出しながら顔を青ざめていた。
食べた瞬間ぐにゅっと謎の歯ごたえを感じそれから舌に広がる糊独特のねっちょりした食感と鼻をつく無機質な味、
そしてその向こうからくる醤油風味の紙が口の中で踊りザラリと舌に残る。
口に入れた瞬間わかった、食べ物ではない。
とにかく不味かっただけでは言い表せない、「危険」という物を身を持って感じた。
もし爆発してなかったら戻していただろう。
二人は面白半分、恐怖半分(実際には面白二割恐怖八割位だったが)で霊夢のする事を止めなかった事を心の底から反省した。
「あのさ霊夢、思ったんだけど紅魔館に行けば美鈴が肉まん作ってくれるんじゃないか?」
「あ、それもそうね」
魔理沙は最初から気付いていたことを口に出した。
文はなぜもっと早く言わなかったというような顔で唖然としながら魔理沙を睨む。
霊夢はと言うと、残った肉まんを手にとり名残惜しそうな目でじっと見ている。
「でももったいないわね・・・誰か食べられないかしら・・・」
「ああ、久しぶりに幽霊退治にでも行くか?」
「幽霊退治?」
翌日、文々。新聞には霊夢が肉まんを紙で作った記事がトップを飾り、その下にはそれを喜んで食った幽々子が無残にも被弾した写真が大きく載った。
この事件は後に「博麗毒団子事件」として後世まで語り継がれ、多くの妖怪達を震い上がらせる事となる。
霊夢の行動力に脱帽、そして散った文と魔理沙に合掌
里の外れに撒いておけば妖精やルーミア辺りが勝手に被弾しそうだwww
マジレスすると一昔前のはホルマリン等毒性の強い防腐剤を使っていたので危険だったけど
最近の製品なら食品添加物として認可されたのを使っているので口に入っても問題は無い。
ただ食品衛生法上は規定が無いし雑菌の問題もあるので食べない方が無難でしょう。
そういや「糊にする」てカビ米を横流しした事件もありましたなぁ。