いつから好きだったかなんて覚えてない。って正直に言ったら怒られそうな気がするけど、だって本当だし。
いつの間にか好きになってて、それが当たり前になってた。
ずぅっと悪戯してたのも、大好きの裏返し。好きな子はいじめたくなっちゃう。だってそうでしょう?
彼女の一挙一動が気になって、それに合わせて一喜一憂して。正体不明でいなきゃならないのに、全部をバラした。
私も彼女の全部を知りたかったから。内側から外側から、彼女を知った。
そこから分かったのは、自分は途方もないくらいに彼女を愛しているということだった。
* * *
「この『ポッキー』っていうの、二人で両端から食べて残り5mmまで食べたらいいんだって」
説明する水蜜の綺麗な指しか目に入らない。ポッキーといわれるものを持っている。白魚のような手……というわけじゃない。だけど私には綺麗に見える。
大好き、だいすき。錨を扱う大きな手。この前大きさ比べしたら私よりちょこっと大きかった。
「外の世界では11/11や2/14にこのゲームをやるんだって」
説明する水蜜の口しか見えない。忙しなく動く。赤い唇が動くたびドキリとする。ふっくら柔らか。
大好き、だいすき。時折、歯や舌が見える。私の名前を呼んでくる。想いを囁けば愛してると応えてくれる。
「これは罰ゲームに使われるものなんだって。おいしいのに」
ぱり、ぽり、と。
水蜜はポッキーを食べた。チョコレートがかかった部分がどんどん飲み込まれていく。あっという間に食べられた。
「ぬえ、やろっか?」
歯で挟んで、んーと唇を突き出された。目を閉じる。緑の瞳が隠れた。睫毛が揺れる。
私は向かいに手をついてもう一方の端を含んだ。その振動に反応して水蜜の目が開く。水蜜の緑と私の赤が交差する。微笑まれた。私はニヤリと笑い返す。歯を立て、ぽきり。とポッキーを折る。水蜜がくわえたままの部分ごとさっと奪って全部食べた。甘いチョコレートの味がした。ポッキーは跡形もなく消え去った。
「え、ぬえ…なんで?」
「失敗したら罰ゲームでしょ? どんな罰?」
「……キス、するんだって」
まどろっこしい。初めからキスすればいいのに。あぁでも、焦らすからいいのか。
乗りかかってキスをした。唇を触れ合わすだけのキス。水蜜は大人しく目を閉じていた。最後にちゅう。と音を立てて吸うと首の後ろに手を回され、抱きつかれた。
「罰ゲーム、なった?」
「こんなの…どっちにもご褒美じゃない」
「そうかもね。ね、どんな味がした?」
「……チョコレートだった。甘かったわ。でも足りない」
「ねぇ水蜜。なにがほしい?」
とびきりに。うんと甘いの。
耳元の声は熱っぽかった。
ならば。ぐずぐずに蕩けるようなのをあげようか。
いつから好きだったかなんて覚えてない。
どれくらい好きかだなんて、例えるものがなくて言い表せない。
語彙が貧弱な私は真っ直ぐにこの気持ちを伝えるだけ。陳腐だって笑われてもいい。
ずぅっと昔から使われてきてるんだもの、その効力は実証済。
「水蜜、愛してる」
もうほんとうにね、大好きなの。
どうしようもないくらいに、彼女が大好き!
これは…甘すぎる…
イイぞ!もっとだ!!