超、超短いです。
言うまでもないことだが、魔理沙は星が大好きである。
そしてこれまた言うまでもないことだが、星が関わる行事も大好物である。
とくれば、毎年七夕に三人でささやかな宴会を開くのも、また言うまでもないことであった。
「遅いぞ」
「遅いわ」
僕がひいひい言いながら、やっとこさ香霖堂に帰ると、既に霊夢も魔理沙も宴会の準備を終わらせていたようだった。
もっとも、正しくは僕の持ってきたものを設置して、初めて準備が整うのだが。
七夕。
魔法の森には笹はなく、また魔理沙たちは絶対力仕事などやろうとしない。
となれば、遠出して笹を切り出し香霖堂まで運ぶ仕事ができるのは、僕しかいない。
手で運べるような小さい笹では二人がしょぼい、と文句を言うのだから、まことに迷惑な話である。
しかも、見れば二人の顔は微かに赤みがかっている。
さては待ちきれずに一杯やっていたに違いない。まことにはらだたしい話である。
僕がぶつくさ文句を言っても二人は少しも悪びれることはしなかった。
代わりに、魔理沙から渡されるのは中ジョッキ。
おつかれさま、とへらへらと笑った霊夢が、麦酒をジョッキに注ぎ込む。
じょわじょわ。じょわじょわ。
泡がジョッキからわずかにこぼれそうになる。
「まあ、まずは駆けつけ一杯よ、霖之助さん」
「ここは僕の家だ」
一気にジョッキを傾ける。
長い労働による疲労のため水気を求めていた体に、一気に麦酒が駆け巡る。
不快だった気分が、アルコールの慰撫を受けて霧散していく。
ごっくり。ごっくり。
なんという幸福感。
さっきまで辛かったはずなのに、どうだ、今はやってよかったとすら思ってしまっている。
ごっくり。ごっくり。
こくり。
最後の一滴を飲み干した僕は、二人の拍手で迎えられたのだった。
すっかりできあがった頭で笹を立てれば、宴会の始まりだ。
酒も肴も、霊夢と魔理沙がたっぷりと用意していたから、中途半端で終わるなんてことはありえない。
お互いがお互いの杯にお酒を注ぎつつ、最近あった出来事を虚実交えて面白可笑しく語る。
しかし、メインイベントはこれではない。
僕は一度店の中に戻り、色紙と筆を持ってくる。
言うまでもなく、願いごとを書く短冊である。
願いを書いて短冊に吊るし、笹に火をつけ、煙とともに願いを天に送るのだ。
さて、七夕は大陸の風習であることは有名であるが、願いを送る風習は実は日本が発祥である。
何故かと言えば、それは日本人の性格が原因である。
とかく日本人は、いいかげんな理由で神を祭る。
例えば、夫婦円満だったと言われる神には良縁を願う。
他にも、生前に文学に長けていた人物を学問の神をして祭ったりと、数えればキリがない。
さて、ここでこのいいかげんな日本人に祭られた神の一柱が、織姫である。
現金な日本人は、こう考えたのだ。
織物が上手い神ならば、祈れば自分も織物が上手くなるだろう、と。
さらに日本人の貪欲さは、年が経つにつれて次第に増していく。
織物が上手くなるのならば、他の手習いも上手くなるだろう。
他の手習いも上手くなるのならば、いっそ関係ない願いでも叶うのではないか。
織姫と彦星は恋人同士なのだから、恋愛関係の願いならば叶うに違いない。
こうして、現在の七夕は日本人が欲望を撒き散らす行事へと変わってしまったのだ。
さてここで諸君らは思うだろう。
僕らも、欲望を撒き散らしているのではないか、と。
そんなことはない。
僕らは――特に霊夢と魔理沙は、上の記述とはまったく異なる理由で祈っているのだ。
ぱちり、ぱちり。
今夜は快晴。
夜空は星で埋め尽くされているが、特にアルタイルとベガはいっそう輝いているように見える。
その夜空に、一本の白煙が穿たれる。
言うまでもなく、香霖堂で燃している笹の煙だ。
近くが森であるため火の番をしている僕の横で、霊夢と魔理沙が歌っている。
燃えろよ燃えろよ、炎よ燃えろ。
キャンプファイヤーじゃないんだけどな、と苦笑いしつつも、その楽しげな表情を見ると僕も笑顔になる。
願わくば、この煙が正しい場所に願いを運んでほしい。
正しい場所とは、織姫――ではない。
織姫は年一度の逢瀬なのだから、邪魔してはいけない。
ならば、何者に願うのか。
ヒントは七夕伝説にある。
織姫と彦星は、織姫の父の怒りを受け、引き裂かれた。
しかし、年一度逢うことができるのも、また織姫の父の賜物である。
織姫の父、それは言わずと知れた、天帝様である。
七夕の日は、天帝様の力が顕現する日であるのだ。
やがて、笹はほとんどが灰になっていた。
魔理沙たちを見れば、予想通り酔いつぶれてぶっ倒れていた。
最近暑くなってはいるが、だからといって外で寝れば風邪をひくに違いない。
僕は店内に行き、客間に布団を敷く。
そして外へ戻ると、へらへらとした笑顔で眠っている魔理沙から負ぶってやって、運んでやる。
もちろん起こした方が楽なのだけど、今日に限ってはそんなことをするのは野暮というものだろう。
魔理沙を運んだあとは、霊夢だ。
霊夢もまた魔理沙と同じような笑顔で眠っていた。
その表情は、非常にうれしそうだし、楽しそうだった。
きっと二人とも、夢の中で弾幕ごっこの勝者として高笑いしているに違いない。
言うまでもないことだが、魔理沙は星が大好きである。
そしてこれまた言うまでもないことだが、星が関わる行事も大好物である。
とくれば、毎年七夕に三人でささやかな宴会を開くのも、また言うまでもないことであった。
「遅いぞ」
「遅いわ」
僕がひいひい言いながら、やっとこさ香霖堂に帰ると、既に霊夢も魔理沙も宴会の準備を終わらせていたようだった。
もっとも、正しくは僕の持ってきたものを設置して、初めて準備が整うのだが。
七夕。
魔法の森には笹はなく、また魔理沙たちは絶対力仕事などやろうとしない。
となれば、遠出して笹を切り出し香霖堂まで運ぶ仕事ができるのは、僕しかいない。
手で運べるような小さい笹では二人がしょぼい、と文句を言うのだから、まことに迷惑な話である。
しかも、見れば二人の顔は微かに赤みがかっている。
さては待ちきれずに一杯やっていたに違いない。まことにはらだたしい話である。
僕がぶつくさ文句を言っても二人は少しも悪びれることはしなかった。
代わりに、魔理沙から渡されるのは中ジョッキ。
おつかれさま、とへらへらと笑った霊夢が、麦酒をジョッキに注ぎ込む。
じょわじょわ。じょわじょわ。
泡がジョッキからわずかにこぼれそうになる。
「まあ、まずは駆けつけ一杯よ、霖之助さん」
「ここは僕の家だ」
一気にジョッキを傾ける。
長い労働による疲労のため水気を求めていた体に、一気に麦酒が駆け巡る。
不快だった気分が、アルコールの慰撫を受けて霧散していく。
ごっくり。ごっくり。
なんという幸福感。
さっきまで辛かったはずなのに、どうだ、今はやってよかったとすら思ってしまっている。
ごっくり。ごっくり。
こくり。
最後の一滴を飲み干した僕は、二人の拍手で迎えられたのだった。
すっかりできあがった頭で笹を立てれば、宴会の始まりだ。
酒も肴も、霊夢と魔理沙がたっぷりと用意していたから、中途半端で終わるなんてことはありえない。
お互いがお互いの杯にお酒を注ぎつつ、最近あった出来事を虚実交えて面白可笑しく語る。
しかし、メインイベントはこれではない。
僕は一度店の中に戻り、色紙と筆を持ってくる。
言うまでもなく、願いごとを書く短冊である。
願いを書いて短冊に吊るし、笹に火をつけ、煙とともに願いを天に送るのだ。
さて、七夕は大陸の風習であることは有名であるが、願いを送る風習は実は日本が発祥である。
何故かと言えば、それは日本人の性格が原因である。
とかく日本人は、いいかげんな理由で神を祭る。
例えば、夫婦円満だったと言われる神には良縁を願う。
他にも、生前に文学に長けていた人物を学問の神をして祭ったりと、数えればキリがない。
さて、ここでこのいいかげんな日本人に祭られた神の一柱が、織姫である。
現金な日本人は、こう考えたのだ。
織物が上手い神ならば、祈れば自分も織物が上手くなるだろう、と。
さらに日本人の貪欲さは、年が経つにつれて次第に増していく。
織物が上手くなるのならば、他の手習いも上手くなるだろう。
他の手習いも上手くなるのならば、いっそ関係ない願いでも叶うのではないか。
織姫と彦星は恋人同士なのだから、恋愛関係の願いならば叶うに違いない。
こうして、現在の七夕は日本人が欲望を撒き散らす行事へと変わってしまったのだ。
さてここで諸君らは思うだろう。
僕らも、欲望を撒き散らしているのではないか、と。
そんなことはない。
僕らは――特に霊夢と魔理沙は、上の記述とはまったく異なる理由で祈っているのだ。
ぱちり、ぱちり。
今夜は快晴。
夜空は星で埋め尽くされているが、特にアルタイルとベガはいっそう輝いているように見える。
その夜空に、一本の白煙が穿たれる。
言うまでもなく、香霖堂で燃している笹の煙だ。
近くが森であるため火の番をしている僕の横で、霊夢と魔理沙が歌っている。
燃えろよ燃えろよ、炎よ燃えろ。
キャンプファイヤーじゃないんだけどな、と苦笑いしつつも、その楽しげな表情を見ると僕も笑顔になる。
願わくば、この煙が正しい場所に願いを運んでほしい。
正しい場所とは、織姫――ではない。
織姫は年一度の逢瀬なのだから、邪魔してはいけない。
ならば、何者に願うのか。
ヒントは七夕伝説にある。
織姫と彦星は、織姫の父の怒りを受け、引き裂かれた。
しかし、年一度逢うことができるのも、また織姫の父の賜物である。
織姫の父、それは言わずと知れた、天帝様である。
七夕の日は、天帝様の力が顕現する日であるのだ。
やがて、笹はほとんどが灰になっていた。
魔理沙たちを見れば、予想通り酔いつぶれてぶっ倒れていた。
最近暑くなってはいるが、だからといって外で寝れば風邪をひくに違いない。
僕は店内に行き、客間に布団を敷く。
そして外へ戻ると、へらへらとした笑顔で眠っている魔理沙から負ぶってやって、運んでやる。
もちろん起こした方が楽なのだけど、今日に限ってはそんなことをするのは野暮というものだろう。
魔理沙を運んだあとは、霊夢だ。
霊夢もまた魔理沙と同じような笑顔で眠っていた。
その表情は、非常にうれしそうだし、楽しそうだった。
きっと二人とも、夢の中で弾幕ごっこの勝者として高笑いしているに違いない。
うんちくも香霖らしくていいなと思いました。