「ふぅ…。」
とある草原の中心に彼女は立っていた。
その出で立ちとしては、
頭には大きく立派な1対の角があり
頭髪は白のような銀髪と、まるで草原を模したかの様な緑髪がメッシュ状に染め上げている。
服装といえば、その髪の色と同じような配色をしたワンピースの様な服装である。
そして極めつけは、自らを獣だと言わんばかりの尻尾。
彼女、─上白沢 慧音─の種族は「ワーハクタク」。
満月の夜に変身する彼女は自身の能力を使用し歴史の編修を行っていた。
そして、その編修の作業をたった今終えたばかりであった。
「今回も中々疲れたものだ…。」
歴史の編修には余程体力を使うのか、彼女は少し肩を上下させている。
「さて、ココに留まる理由も無いし帰るとするかな…。」
そう彼女が決め込み歩き出した、その時
「あら? 里の守護者様のお勤めはもう終わってしまったのかしら…?」
「!?」
声が発された先には…月を背にして夜空に浮かぶ少女が、其処に存在していた。
その出で立ちは、青みがかった銀髪、真紅の瞳、
そして何よりも目を引くのは、蝙蝠の様な羽。
種族「吸血鬼」である少女─レミリア・スカーレット─が其処に存在した。
レミリアはゆっくりと降りてゆき、草原に足をつけ、
「もう少し早めに来ていれば、守護者様のお仕事が目にできていたのに…遅すぎたかしらね…」
そう言い放った。
「何か用があったのか?」
「用?えぇ、用ならあるわよ。」
「そうか…ならば後日にしてくれ… 私は疲れているのでな。」
「いえ、後日の貴女じゃ意味が無いのよ。」
「…? どういう意味だ?」
「さっきも言ったけど、今、その状態の貴女の仕事に用があってきたのよ。」
「今の私の仕事に用がある?」
「用…というか、興味かしらね。」
「……はぁ?」
慧音は「意味が全く分からない」と、いった表情をしていた。
「歴史を編修する…っていうのが今の貴女の仕事な訳でしょ?
そんな面白そうな事に興味が沸かない訳がないじゃない!」
その真紅の瞳を輝かせながら発言をしたレミリアに対し、
「……はぁ。」
慧音としては、ため息を吐かざるを得なかった。
「最初から興味があると言ってくれれば…。」
「あら? 『用があるのか?』って聞いてきたのは貴女の方でしょ?」
「それはそうだが…。」
「はぁ…。」と、再び慧音が溜息を吐きそうになると、
「待った!」
「!?」
と、溜息を吐きそうになる慧音の口元に自分の手の平を突き出して溜息を止めさせた。
「何をするんだ…」
そう慧音が疑問をぶつけてみると、
「パチェから薦められた本に書いてあったわ… 『溜息をすると幸せが逃げる』ってね。」
「…ぬっ…。」
「別に、私の知らない所で幸せが逃げても構わないわ…でもね。」
「………。」
「私の、このレミリア・スカーレットの目の前で幸せを逃がす事なんて許さないわよ!」
そう言ってレミリアは、『ビシッ!』という擬音が付く勢いで指を突きつけた。
慧音は少しポカーンと、していたがその後の、
「それに、私の目の前で幸せが逃げていったら、夢見が悪いじゃないの!」
というレミリアの言葉に、苦笑を漏らさずにはいられなかった。
「ふふっ…そうか…そうだな…ふふっ。」
「ん? 何がおかしいのよ?」
少し目を吊り上げながら聞いてくるレミリアに対し、慧音は、
「いや、何でもない。」
と、答えるしかできなかった。
そして、そんなレミリアを見て慧音は、
"あぁ、こんな館の主が居るからあの館─紅魔館─はあんなに楽しげなのだな。"
と、口には出さずに納得をしていた。
「ふふっ…ありがとう、少し元気が出た。」
「そう、それは良かったわ。」
そう言うと、レミリアは慧音に背を向けて歩き出した。
「ん?編修の仕事の件は良いのか、聞かなくても?」
「えぇ、元気な貴女の姿が見れたからそれで良いわ。編修の件は、また今度にするわ。」
"元気な?"慧音はその言葉に疑問を感じた。
「私はいつも元気だが?」
そう言うと、
「たまに里で見かける貴女は、凄く疲れているように見えていたわよ…少なくとも私には、ね。」
レミリアはそう返してきた。
「む…そうか…。」
「えぇ、そうよ。」
「そんな事を言えるって事は、レミリアが私の事をよく見てくれている証拠だな。」
「は、はぁ!?」
そう言った瞬間、レミリアの顔は突然真っ赤になった。
「ん?どうした? 顔が少し赤いが…。」
「なっ!?う、うるさいわよ!別に何でもないわよ!」
「そうか、それなら良いんだが…。」
心配をした慧音だがレミリア自身が大丈夫と、言ってるのでそれを信じる事にした。
「私の事はどうでも良いのよ! 貴女はちゃんと自分の心配をしなさい! 自分の!」
「あぁ、分かった。」
「良い?今度会ったり、私が見かけた時に、さっきと同じ様な貴女だったら、グングニル投げるからね!」
「ふふっ…それは困るな、肝に銘じておこう。」
「良い?ちゃんと約束は守りなさいよ!?」
「あぁ、勿論だ。」
そう慧音が言い終えると、
「言いたい事も言ったし、もう帰るわ。」
「あぁ、気を付けて帰るんだぞ。」
「分かってるわよ。貴女こそ約束…」
「そう何度も言わなくてもいい。
これでも約束は破ったことは無いからな。」
「それを信じてるわ…。 またね。」
「あぁ、またな。」
レミリアが去ったあと
「全く…世話焼きな館主だな…
あそこまで言われたり言ったりしたんだ、従わない訳にはいかんだろう…」
そう一人で呟き
「偶には休暇も兼て散歩する日を作ってもいいかもな。」
そう言って、帰路に着いたのであった。