人が眠り、草木も眠る丑三つ時。妖怪の時間となった幻想郷。そこに位置する博麗神社の巫女、博麗霊夢もたまに妖怪を通り越して化物扱いされるが、人間であるため、この時間はおとなしく布団に横になっていた。
「んぅ…。」
季節は夏。夜も暑くなり、寝るには少々息苦しかったのだろうか、布団を敷いた以外には何もかけておらず、寝苦しさからか寝巻も少々はだけそこからのぞく白い足、汗ばんだ鎖骨から、汗がつぅ、と流れ、何とも言えない色っぽさを醸し出して
ぐうううううううううううううう
「……ひもじい。」
台無しである。
おかしい。今日一日掃除のふりをしたり、お茶を飲んで縁側でぼーっとしたり、もしかしたらお賽銭入ってるかな、なんて淡い期待を抱きながら賽銭箱をのぞいて、ものの見事に小一時間打ちひしがれていたぐらいしか活動という活動はやってない。だいたい今日は冷蔵庫に食材があったからちゃんと三食食べたではないか。そんなことを仰向けになりながら真っ暗な中天井を、見上げ一人霊夢は考える。巫女としてそれでいいのかとは言ってはいけない。
「そもそも今日何食べたかしら?」
確か朝起きて、身なり整えてご飯炊こうと思ったけど、面倒くさくなったから冷蔵庫に何かないかなーって、探してたらちくわが余ってたから、これでいいやってちくわ食べたのよね。そんで掃除のふりとかしながら時間つぶして昼ご飯だって思って台所に行ったのよね。
「あれ、昼ごはん何食べたかしら?」
うわ、何かすごいもやっとする。えーっと確か暑い暑い言いながら台所に行って、それからどうしたっけ?
「あ。」
そうだ、結局昼ご飯も作るの面倒くさくなって余ってたちくわ食べたんだ。
「……ちくわしか食べてないじゃない。」
そりゃ腹も減るわよねえ。晩御飯?もちろん、ちくわでしたとも。
ずごぎゅるるるるるるるるるる
まずい、お腹がすきすぎて眠れそうにない。何か胃の中に入れてこの腹の虫を黙らせないと。そう思い、霊夢は布団から立ち上がり台所へと向かう。深夜の廊下を歩き台所へと辿り着き、冷蔵庫を開く。そこには丸みをおびた体に、茶色い色合い、薄く焦げ目をつかせ、ほんのり魚の香ばしい香りをさせる食物があった。
「……ちくわしかねえ。」
そう、ちくわである。冷蔵庫のど真ん中に一人「どや?」と言わんばかりの勢いでそこに居座っているのである。
どるううううううううううううううううう
まずいお腹がすいては眠れるものも眠れない。というか大丈夫か私の腹。なんかどんどんすごい音になってるけど。
とにかく食事である。家に食材がないならどこかに食べに行けばいい。「腹が減ってはサボりもできぬ。」あの有名な死神だってそう言ってたではないか。
「となると、どこに行こうかしら。」
条件は三つ。近い、美味い、タダ。腹減ってる上に深夜だしそんなに遠出はしたくない。それに美味くなくては私の腹の虫は静かになりそうにないのだ。そしてタダである。これだけは譲れない。決して貧乏だからではない。やりくり上手なだけなのだ。貧乏ではない、断じて。
「まずは紅魔館かしら。」
この時間だと起きてるのは紅魔館が最も有力だろう。咲夜の料理ならば味も期待できるし、そう遠くはない。それにタダである。以前行ったときにレミリアが何やら憐れむような目でこちらを見ていたが、きっと私の子犬のように可愛らしく、道端に咲いた名もなき花のようなけなげさに見とれていたのだろう。もてる女はこれだから辛いわね。さて、思考を元に戻すか。紅魔館は条件としては完璧である。あるのだが、
「……ただねえ。」
そう、あそこに住むのは吸血鬼。人肉とかが出されてもおかしくないのだ。あいにくだが、私にカニバリズムの気はない。性的な意味で人を食うならどんと来いだが、あいにく食事的な意味で人を食うのはノーサンキューである。となると、この辺で近いのは人里か魔法の森くらいしかない。ただ人里の人はもう皆寝てるだろうし、そういう意味では魔理沙も人間だから眠っているだろう。ちよっとだけ、叩き起こしてもよくね?と思ったのは秘密である。私にサディストの気はないのだ。妖怪退治?れいむわかんない。
「は!?」
そうだ、居るじゃないか。ここから近くて、味もおいしくて、タダで、しかもこの時間に起きてる人形遣いが。
「待ってなさいよ!!アリス!!」
そう言いながら大地を踏みしめふわりと体を浮かせ、そのまま風に乗り、夜空を一人の巫女が飛んでいく。
「眠っていたなら性的な意味で食べればいいしね。ひゃっほう!」
訂正。夜空を一人の変態が飛んでいく。
「何で起きてるのよ。」
「人の家の窓から飛び込んできた第一声がそれかしら。」
家主であるアリスの手には、おそらく人形の服を作っていたのであろう。可愛らしい色合いの生地が彼女の手によって縫われていた。
「で、何の用なの?」
「ちょっとアリスを食べに。」
「なにそれこわい。」
「安心しなさい。無論、性的な意味でだから、いただきます。」
「は?」
そう言うや否や、すっとアリスの元に近付き、そのまま指を彼女の整った細い顎へと這わせる。状況が理解できてないアリスはただ、ぽかんと近寄って来る霊夢の目を吸い寄せられるように見つめるだけである。そのまま霊夢が顔を近付け、その距離が徐々に近づいて行き二人の唇が触れようとしたその時、
ごおおおおおおおおおおおおおおおおおう
「ちょっと、空気読みなさいよ。私の腹。」
「いや、腹に何飼ってんのよアンタ。」
霊夢の腹の虫のおかげで何とかアリスの貞操は守られた。どこぞの竜宮の使い並みに空気の読める腹の虫である。ちなみに霊夢は我に返ったアリスの人形によってボコボコにされた。その頬がちょっぴり赤かったのはたぶん急に激しい運動をしたからだろう。断じて照れていたわけではない。断じて。
「で、結局、お腹が空いたから私の家に来たのね。」
「あ…あわよくばアリスを食べようと…」
「上海、蓬莱。」
「ちょ、冗談、冗談だから!」
「はあ…。」
ひとつ溜息をつきながら、アリスは裁縫の手を止め、そのまま、席を立ちどこかに移動する。そして背中を向けたまま霊夢に尋ねる。
「霊夢好き嫌いなかったわよね。」
「うん、アリス大好き。愛してる。」
少女調理中、及び少女タンス物色中にトラップ人形に引っかかりピチュリ中。
「ホント、懲りないのね。」
「うぐぐ、アリスのブラまであと3センチだったのに。」
この巫女まったく懲りて無い様子である。
「はい、これ食べてさっさと帰んなさいよ。」
「お、待ってたわよ。」
そう言ってアリスが持ってきた器の中には、琥珀色のスープに、もっちりとした白い麺、そして、その麺の上に並ぶのは茶色い色した憎いやつ。
「……またお前か。」
「あれ、霊夢うどん嫌いだったっけ?」
「いや、うどんは好きよ。」
うどんは好きだが、その上に乗っかっている奴が問題なのだ。何だ今日は、あれか、ちくわの日か。まあ、出されたものを食べな訳にはいかない。そろそろ腹の虫がどんな鳴き声を出すかもわからないのだから。
「それじゃ、いただきます。」
そうして霊夢は麺をずるずると啜り、スープを飲み干し、ちくわをもぐもぐと咀嚼する。うん、ちくわも悪くない。
「ごちそうさま。」
「はい、お粗末様。」
「これならいつでもお嫁さんに行けるわね。」
「貰い手が無いわよ。」
「私の隣ならいつでも空いてるわよ?」
「私、甲斐性の無い人とは付き合えないの。」
「ぐ、この魔女め。」
「知らなかった?私は魔女よ。」
そんな雑談をしながら、アリスは裁縫を再び始め、霊夢はその様子をじっと見つめる。台所ではアリスの人形が器を洗う音が聞こえる。
「ふわあ。何かお腹いっぱいになったら眠くなってきたわね。」
「ちょっと、そんな調子で帰れるの?」
「んー、たぶん大丈夫。」
そう言いながらも霊夢の頭は上下にかっくりと揺れ、目もなにやらとろんとした様子であった。
「大丈夫じゃないじゃない。今日は泊って行きなさいよ。」
「うん、悪いわね。」
「構わないわよ。上海、寝室に案内してあげて。」
「シャンハーイ」
そのまま上海人形に続くように、霊夢は部屋を後にした。その様子を見ながら、アリスはあきれたように、しかしどこか微笑ましい様子で苦笑する。
「巫女って言われてるけど、中身は子どもなのよね。」
そう、一人呟きながら、裁縫の手を再開する。今度、神社に行くときはお賽銭くらい入れてあげても
「いやっほーーーーーう、アリスの匂いがしみこんだベッドだーーー。」
「この、年中色ぼけ巫女がーーーーーーー!!!」
少女たちの夜は長い。
翌日、朝、神社に帰るところを射命丸に撮られ、新聞をばら撒かれて、魔理沙と幽香が神社に強襲しに行ったのはどうでもいい話である。
最高に面白かったwww
マヨネーズつけて食べたい
焼きちくわでも食べてなさい。
と思ったが想像したら案外見える不思議
その名も、ちくわしか持ってねぇ
霊夢さんさすがだわw アリスはなんだかんだ優しいよね。