Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

鬼とスキマと天人のなんてことない日常

2011/07/03 00:05:03
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「はい、今から紫の弱点発見会議をしまーす!」
「え? 何これ?」

 突然天子に少し付き合えと言われ、天子の部屋へ来たは良いが、てっきり飲み比べか何かかと思っていた萃香はきょとんとする。
 しかし天子はそんな萃香を無視して、テーブルに一枚の紙を広げる。真っ白い、何も書かれていないただの紙だ。

「この紙に紫の弱点と思われるものを、箇条書きにしていきましょう」
「いや、意味が分かんないんだけど……。もう、こんなくだらないことなら私は帰るよー?」
「ちょっと、何のためにあんたを呼んだと思ってるのよ! 古くからの友人なんでしょ? それだったら、紫の弱点の一つや二つ知ってるんじゃない?」
「えー? 私そーいうのあんまり気にしないからなー」
「もし成功したら天界のお酒あげる」
「よっしゃ、任せろぉ!」

 渋っていた萃香、数分もしないうちに懐柔。
 しかし、相手は紫だ。萃香はいろいろと考えてみるが、いまいち思い付かない。萃香と紫は長い付き合いではあるが、互いに弱い部分を見せることなんて無かった。

「というかさ、思ったんだけど」
「何?」
「あいつの弱手知ったところで、どっちにしろ天子じゃ勝てないんじゃないかな。天子が弱いってわけじゃないし、むしろ天子は結構強い部類だと思うけど、なんせ相手が悪すぎる」
「う……」
「仮に、あの紫に何か弱点があったとしよう。だけど、紫がそう易々と弱点を突かせてくれると思うかね?」
「うぐぐ……」
「大体、あんたは緋想の剣を持っているだろう? あれの特性が必ず相手の弱点を突くことが出来るって時点で、既にあんたは優位な立場なんだよ。それなのに勝てないってことは、そもそも根本的に力の差がありすぎると私は思う」
「ごふっ……」

 瓢箪に入った酒を口に運びつつも、萃香は冷静に天子が勝てないであろう理由を述べる。その言葉一つ一つが、天子の薄い胸にクリティカルヒット。天人はナイフが刺さらないくらいには丈夫でも、言葉のナイフには脆かった。
 うつ伏せになったまま、ぴくりとも動かなくなる天子。
 これには萃香も苦笑い。

「いや、だからと言って別に諦めろとは言わないよ。天子は元から強いんだから、強くなろうと努力すればもっともっと上を目指せるとは思うし。そもそも、相手が誰でも勝利の可能性があるのが、弾幕ごっこの醍醐味だからね」
「……本当?」
「まぁそう簡単にはいかないとは思うけどね。時間をかけて、策を練ったり実力を積めばあるいは――」
「よし、今日中に紫を倒して見せるわ!」

 しばし、沈黙。
 呆れたような視線を、天子に無言でぶつける。

「あんた、話聞いてたかい?」
「勿論。萃香は一日やそこらじゃ無理だって言ってるけど、策略なら一日でも可能性はあるわ」
「確かにお前さん、頭は結構回る方だとは思うが、相手はあの紫だぞ? 紫の式である藍でさえ、桁外れの切れ者だっていうのに。紫は普段胡散臭いし、ふらふらへらへらしてるようなやつだけど、それでも一応妖怪の賢者だ。天子レベルじゃあ、手のひらの上で踊らされるのがオチだと思うけどねー」

 けらけらと笑う萃香に、ちょっぴりいらっとくる天子。しかもそれが事実であることが、天子にも分かる。それゆえに、さらにいらっとくる。
 かと言って、それを認めて諦められるほど、天子は素直じゃあない。

「そ、それでも、やってみなきゃ分からないじゃない!」
「うんにゃー。お前さんくらいの頭と実力があれば、結果は分かってるんだろう?」
「うぐぐ……」
「それとも、何か良い策でもあるのか?」
「そ、それは……それを今から考えるのよっ! 萃香も何か知恵を貸してよ! 私より戦闘経験豊富そうだし!」
「んーでも私、紫みたいな掴みどころのないタイプ、割と苦手なんだよねー。それにさ、天子は気付いてないわけ?」
「は? 何が?」

 萃香の質問の意味が分からず、首を傾げる天子。
 すると萃香は、天子の後ろを指さした。

「何よ? 一体何が――」
「はぁい、ご機嫌いかがかしら?」

 そこにはとても良い笑顔の紫が居た。
 天子硬直。
 気付いてなかったのか、と萃香は苦笑い。

「片腹が大激痛して意識を失いかけるレベルに、面白そうな話が聞こえていたのだけれど、私の気のせいかしら?」
「き、気のせいじゃない、紫? ほら、歳で耳がおかしくなって――へぶぁっ!?」

 無言で天子の目に、人差し指をぷすっと。
 いくら体が丈夫である天人と言えども、さすがに目は痛い。なんとも言えない変な声を上げながら、痛みにゴロゴロと床を暴れる天子。
 萃香はそんな天子を見て、腹を抱えて笑っている。

「まったくもう、萃香も何をこんな馬鹿みたいなことに付き合っているのかしら」
「良いじゃないか、お前を倒そうなんて思ってるんだぞ? そんな身の程知らずで、けれども面白いやつを放っておけるか」
「目がぁぁぁぁぁ!? 目がぁぁぁぁ!」
「……まぁ、確かに面白いですわ。この苦しむ様子は特に」

 このドSが! と天子は心の中で吐き捨てる。今すぐにでも斬りかかりたい衝動に駆られるが、今は緋想の剣を持って来ていない。それに加えて、未だ痛みでまともに動けない。天人は体が丈夫ではあるが、別に回復力が優れているわけではないのだ。むしろ、妖怪の方が回復力は長けているだろう。
 萃香は未だ起き上がれない天子を見て、紫の方を向いた。

「ちょいとやりすぎたんじゃない?」
「冗談。この程度でやられるようなら、しつこく私に付き纏ってきませんわ。むしろ追撃をしないだけ、今日の私は優しい方よ」
「普段は追撃するんだ……」
「……っ! くたばれスキマぁ!」

 まだ全快ではないが、意地で起き上がり、紫へと殴りかかる天子。全力の右ストレートだ。
 しかし、そんな見え見えの攻撃が紫に通じるはずもなく、スキマでひらりとかわされる。一瞬で、天子の背後へと回った。紫自身の速度は速くないが、このスキマのせいで疑似的な瞬間移動が可能になる。生半可な攻撃では、服に汚れ一つ付けることすら難しい。
 そして紫がこの隙を見逃すはずもなく、すぅっと扇を構え、複数のスキマを同時に展開。

「あ、やばっ!」
「おおっ!」

 全てのスキマからレーザーが発射されると同時に、天子はすぐさま自分の背後に要石を落とす。激しい音を立てて、レーザーが要石を削る。一時的な防御ではあるが、天子がこの状況から脱出するのには充分な時間稼ぎになった。
 避けきれないレーザーは要石で防ぎつつ、確実に紫との距離を詰める。速く、それでいて慎重に。

「やっぱり天子、結構良い動きするんだけどなぁ……。けど、あれじゃあ紫には届かない」

 萃香がそう零すと同時に、天子は構え、無数のレーザーを発射。直線的で、しかもばらけずに固まっているため、避けるのは容易い。それなりの威力はあるが、正直に撃っても当たらないだろう。
 しかし、紫は笑みを浮かべたまま、その場から動こうとしない。避けようと、動かなかった。
 ただ一枚、スペルカードを発動。

「四重結界」
「んなっ!?」

 天子のレーザー程度では、決して突破出来ない壁だ。レーザーが弾かれるだけでなく、あの結界に触れただけで大ダメージだ。
 すぐさま天子はバックステップで距離を取ろうとするが、それを見ていた萃香がため息。

「実力差のある相手に、守りに入ってもジリ貧だって。あーあー、ほら」
「はい、終了」
「え?」

 再び、反則的なスキマでの移動。背後では無く、天子の頭上に。
 そして紫はそのまま、スキマからロードローラーを出現させ――

「ロードローラーよっ!」
「ごふぁっ!?」

 天子を潰した。
 結果、いつも通り紫の勝ちになった。
 そして室内で暴れたせいで、天子の傷以上に、部屋が凄いボロボロになってしまった。



 ~少女回復中~



「死ぬかと思った!」
「死んじゃえば良かったのに」

 ボロボロだが、なんとか意識を取り戻した。萃香はけらけらと笑っているが、天子からしたら笑い事じゃなかった。
 ちなみに紫は天子が意識を取り戻すと同時に、ちっと舌打ちした。

「ねぇ萃香、このスキマなんでこんなに性格悪いの?」
「あはは、今さらな質問じゃないか。これはあれだよ、紫は俗に言うツンデレってやつなんだよ」
「萃香、潰しますわよ」
「ツンドラって何?」
「誰がこのタイミングで凍土帯の話をしたか。いいか天子、ツンデレっていうのは普段はツンツンしてるけど、二人きりになると……なんていうか、ぺろぺろしてくるくらいにデレデレになるやつのことを言うんだ」
「え? 何それ気持ち悪い。病気じゃん」
「そうだよ、紫は病気なんだよ。ただし、恋の病だけどね」
「よし、二人纏めてお仕置きが必要のようですわね」

 萃香の角を掴み、うりうりと押さえる紫。萃香は特に嫌がる様子も無く、わははと笑いながらそれを受け入れていた。
 天子はそれを見て、雰囲気を察し、あぁこの二人は本当に友人関係なんだなぁと改めて思った。

「さて、おふざけはこれくらいにして。えっと……何の話だったかしらね」
「あれだよ、紫が病気って話」
「いや、それはもう良いから。特に何も話してなかったと思うけどねー。ただ紫の性格が悪いってだけで」
「あなた、毎度の如く私に性格悪いと言うけれど、何? 優しくされたいの? 超優しい笑顔の私でも見てみたいわけ? 想像してごらんなさいな」

 紫にそう言われ、天子と萃香は笑顔で超優しい穏やかお姉さんな紫を想像してみた。



 ~少女想像中~



「紫、勝負よ!」
「だめよ、天子。あなたの綺麗な肌に傷をつけるのは、好ましくないわ。ほら、私の膝の上にいらっしゃい」
「え、や、ちょ……」

 天子を持ち上げ、無理矢理膝の上に座らせる。
 最初はジタバタと暴れていたが、紫に耳元で「めっ」と言われてから、抵抗をやめた。

「よしよし、良い子良い子。あんまりお転婆しちゃだめですわ。遊びたい気持ちは分かるけど、別に弾幕ごっこじゃなくても良いでしょう?」
「べ、別に遊びたいわけじゃあ……」
「あら、じゃあ私と遊びたくはないのかしら?」
「うぐっ……」

 紫が天子の顔を覗き込み、穏やかな笑みを浮かべる。
 顔の近さ、密着した身体、そして匂い。それを感じた瞬間、天子は顔がかぁっと熱くなるのを感じた。

「あらあら、可愛い」
「ぅ~」




 ~少女想像終了~



「きもっ!? 寒っ! うざっ!」
「せっかくの酒が不味くなる……想像しなきゃ良かった。うへぇ……」

 萃香も天子も、げんなり。
 それはそれで、ちょいとカチンとくる紫。張り倒してやろうかと考えたが、自分から言った手前、出来なかった。
 天子は紫の肩をガシッと掴み、真剣な表情で一言。

「紫、あんたはいつまでも、その性格の悪さを大切にしてね」
「もしかしなくても、それ喧嘩売ってるわよね」
「いやいや紫、私からもお願いだ。紫はいつまでも、その胡散臭さを忘れないでくれ。あんたから胡散臭さを取ったら、もう何も残らんよ」
「あれ? これはさすがに、私泣いても良い場面よね?」
「紫が泣くところとか、想像がつかない」
「長い間友人やってるけど、見たことないし見たくない」
「今まさに泣きそうですわ」

 あまり良いイメージを持たれてはいないことは百も承知だったが、ここまで言われるとさすがの紫も、ちょっとショックだった。
 もういっそ、超笑顔で優しいのを演じてやろうかと考えたが、それはそれできっとまた何か言われるだろうと予想できたので、やめることにした。
 紫はため息を吐きつつ、とりあえず天子を蹴る。

「ちょ、八つ当たりはやめなさいよ!」
「あぁ、ちょうど蹴り心地が良さそうなものが目の前にあると思ったら、あなただったのね」
「蹴り返しても良い?」
「電車で轢き返しても良いのなら」

 天子はしばし考えて、蹴り返すのをやめた。紫なら本気で電車をぶつけてきかねない、と判断したからだ。
 蹴りと轢きでは、割に合わない。

「あっはっは、あんたらは本当に仲が良いねぇ」
「萃香、眼科行くことを勧めるわ」
「萃香は頭がおかしいから、仕方ないですわ」
「そうね、萃香は存在がもうおかしいわよね」
「よーし二人とも、その喧嘩買っちゃうぞー?」
「あら、二対一でやって良いの? 緋想の剣と要石とスキマを同時に受けたいとか、いくら萃香でも勝ち目ないと思うけどね」
「さぁ萃香、私がスキマで天子を錯乱させるから、あなたはその隙に一発でかいのを当てて頂戴」
「よしきた!」
「あれ!? いつの間にか、私が一人になってる!?」

 何故か一気に窮地に立たされた天子。
 勿論、萃香も紫も本気ではないため、弾幕ごっこになど突入はしないが。それでも紫と萃香に構えられると、冗談とはいえ妙な威圧感と迫力があった。

「冗談やめてよ、もうっ」
「あはは、天子がやりたいって言うなら、私は紫と組んで戦っても良いけどね」
「勝てる気がしないわよ、ばーか」

 はぁとため息を吐く。
 すると紫がスッと立ち上がった。

「さて、私はそろそろ帰るとするわ」
「あれ? 帰っちゃうの?」
「ええ、ちょっとね。もしかして、寂しい?」
「……そんなわけないじゃん」
「では、さようなら」

 紫はスキマを使って、姿を消した。
 萃香も天子も、突然だった紫の動きに少し首を傾げる。

「どうしたんだろ、紫」
「さぁ? ここに残ってたら、何か都合の悪いことでもあったのかね」
「……都合の悪いこと? あ、あー!?」
「うわっ、何さ突然大声上げて?」

 萃香の言葉に天子は周囲を見渡し、気付いた。天子の傷は治ったが、部屋はボロボロのままで、何一つ片付いていないことに。
 紫はこのままでは後片付けを手伝わされる羽目になる、と予想して、さっさと姿を消したのだ。
 俯いて、ぷるぷると体を震わせる天子。

「あいつ……逃げやがったぁ! こうなったら、萃香! あんたに手伝ってもら――」

 天子が顔を上げると、既に萃香の姿は無かった。

「あぁっ!? あいつ、疎になって逃げたー!?」

 結局天子は、その日一日を費やして、一人で片付けることになったそうな。
最近すっかり暑くなりましたね。
今の時期でこれだけ暑いと、7月8月はどれだけ暑いんでしょう。適度に水分を取ることを、忘れないようにしましょう。じゃないと、体崩しちゃいますね。
さて、そんなこんなではありますが、今回のお話、少しでも楽しんでもらえたなら、嬉しいです。
喉飴でしたー。
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
この仕事…流石と言わざるを得ないぜ…
2.名前が無い程度の能力削除
萃香…お前も能力使えば充分掴み所がな(ry
3.ケトゥアン削除
藍の弱点が橙ならば
紫の弱点は……いや、ないな、うん。
4.奇声を発する程度の能力削除
良かったです
5.削除
にゃんだかんだ言って紫の事はそんなに嫌いじゃない天子が可愛いなぁ。
まぁ超絶優しい紫は逆に何か企んでそうで怖いしなぁw無理も無いw
6.名前が無い程度の能力削除
天子も十分掴み所がないよ!
胸部的な意味で(天地開闢プレス
7.名前が無い程度の能力削除
なるほど、意味は違えど三人とも掴みどころはないってことですか
8.名前が無い程度の能力削除
ゆかりんと天子ちゃんはトムとジェリーの関係があってますね
9.電動ドリル削除
天子が紫におちょくられたりしてるのは読んで癒される。
でも個人的には超優しい紫様も捨てがたい。
10.名前が無い程度の能力削除
みんなすごく仲いいなw
穏やかお姉さんな紫さまの話も読んでみたいですね