「いやー、最近暑いねー」
「おまえのせいだよ」
急に暑いね、と言い出した地底の太陽、霊烏路空。それにツッコむあたい、地獄の輪禍、火焔猫燐。
地底では関係無いが、地上は今頃夏で、本物の太陽さんが頑張って人間たちに嫌がらせをしているのだろう。
それに共鳴してか、なぜかこっちの太陽も最近暑くなってきている。あまり地上には出ないけど、夏っていうのはこんなに暑いものなのだろうか。死体焼却炉の仕事より暑い。いったい何℃あるのだろうか。あたいは地霊殿に入る。こっちは屋内なだけまだマシだ。荒廃した地霊殿に一人、ピンク色の髪の少女が団扇で自分を扇ぎながら座っていた。
「さとり様……暑いですね」
「そうですね……お空、これはいったいどういうことですか」
「わ、私は何もしてないですよ。最近は不埒なリズムで踊ってたくらいです。てーてれれれってってってー」
そう言うとお空は、地上で覚えてきたらしい踊りを踊り始めた。上着をざっと脱ぎ、また戻す。バカの一つ覚えというのはまさにこのことだろうか。ギラつく胸のコアがさらに暑さを感じさせる。
「でもお燐……私、発情期なのかもしれない。あなたを欲しがる欲望のサインなのかも、暑いのは」
「にゃ!? きゅ、急に何を言っているのさ!」
そんなこと言われたらあたいだってドキッとしちゃうじゃないか。そう思っているうちに、お空は私の唇に唇を重ねてきた。
「んっ!? ん~~~!?」
それは軽いものだが、舌が入ってきた。何かを探るように私の口へと。
「えへへ、ちょっとジョークじみたキスだったけどさ、どうだった」
「ど、どうもこうも……」
お空はジョークのつもりなのだろう。だけどあたいにはアセるくらいに深みにはまった。
「……あなたたち、私の目の前だってことを忘れないでくださいね」
「あ、そっか。ごめんなさーい、さとり様」
「……」
あたいは引っかかっていた。さっきの発情期という言葉。もしそうだとしたら……
「あ、そうだ、温度を確認しに来たんだった」
そう言って、地霊殿のそこら辺に掛けてある温度計を見てみると……
45℃
蒸し風呂じゃないか。
「暑い。暑すぎるにゃ……」
大理石の床に突っ伏しながらバテる。ああ、大理石冷たい。
「ねぇ、お燐」
「何?」
「さっきも言ったけど、発情期なのかも」
「へぇ……」
「お燐を犯したいっていうよこしまな気持ちが、この胸で暴れて止まらないの」
「野蛮な太陽だねぇ」
そう言うと、お空はあたいを抱きしめてきた。
「暑苦しいよ」
「お燐の鼓動、聞こえるよ。燃えているの?」
「……感じちゃうじゃない」
「たとえあなたを泣かせても……」
「そこまで、さらに暑くなったよ」
あたいはお燐を突っぱねた。あたいは今どきどきしている。これも全部、お空という太陽のせいだ。
「お空」
「なぁに?」
「もっと、涼しくなってからね。そういうのは」
「……うん、分かった!」
その返事とともに、さらに気温が上昇したような気がした。
これも全部、太陽がさせたことだよ。
地獄の太陽が。