Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夏ですよー

2011/06/28 05:43:21
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じわじわと蝉が鳴き、汗が吹き出す。照りつける太陽が容赦なく体力を奪い、些細なことにもイラつく。
心なしか蝉が鳴くたびに暑くなっていくような気さえする。微弱な風が吹いて、軒先にぶら下げられた風鈴がりぃん…と申し訳程度に鳴る。

「あー何でこの世界には海がないのかしら。暑い、あつい、死んじゃうわ…もう死んでるけど」

畳にへばりついて溶けそうなムラサは呟いた。嫌なこともあったけど、やっぱりムラサは海が好きだった。
今願うことは冷たい海水に頭からどぼんと飛び込んでばしゃばしゃ自由奔放に泳ぎ回って涼をとりたいということだけだった。
頭の中には海。心の中にも海。口からも海。暑さにやられて呻いていた。

「海、海行きたいよぉ、……海ぃ、うみいいいい」

村紗水蜜、舟幽霊。水とは切っても切れない彼女である。
白いセーラー服は汗を吸いすぎてぐっしょり重みを感じていた。

「海行きたいよぉぉぉおおおお!!!! 暑い、太陽の馬鹿野郎!!!!」
「ちょっと、さっきからうるさいんだけど!?」

蝉に負けないくらいの大声を上げたムラサに、畳の隅に同じようにへばりついている黒ずくめの少女が抗議の声を上げる。

「うるさいから黙ってて、余計に暑く感じる」
「あんたこそ、その格好どうにかしなさいよ。真っ黒けっけで見てるこっちが暑苦しいわ」

黒ずくめの少女、ぬえはバツが悪そうな顔をして黙った。たしかに少し暑いし、暑苦しい見目だという自覚は嫌というほどあった。
けれど夏服用の薄い生地のワンピースだし、なによりこのデザインが好きなので違う服を着る気にはなれない。

「あとその長ったらしい髪も切ったら? さっぱりするわよ?」
「嫌よ、髪は女の命でしょ!」

ムラサはつい先日、肩につくか、つかないか…という長さまで髪を切った。
だからぬえのセミロングの髪が汗で首に貼り付いているのがどうも目につく。

私が切ってあげようか?というムラサの提案をぬえは即座に断固拒否した。

「ねぇそれ白い服だからブラ透けてるよ」
「えっち!」
「そりゃどーも」

ぬえはムラサの胸部に手を伸ばし、意地悪しようとしたがムラサはぱしんと払いのける。
のけられて、伸びた爪が並ぶ手は、猫のようにきゅっと丸められた。ぐぅと唸る。

「そっちこそ、ミニスカだから捲れてパンツ見えてるわよ」
「すけべ!」
「おあいこさまよ」

ムラサはぬえの捲れたスカートあたりに足を伸ばす。
さらに捲り上げようと足癖悪くスカートに触れるが、ぬえはパンツが見えるのもお構いなしに其れを足蹴にした。
蹴られて、ムラサは胎児のように足を抱えて丸くなった。むぅと口を尖らす。

そうやって黒髪少女たちはやいのやいのと無意味な会話を繰り返し、熱を帯びた背中を救うために新たな冷たい畳を求めて転がった。
ごろごろ転がっているうちに手がぶつかった。重なって、見つめあう。どちらともなく、汗でべとつく手を握った。

「ぬえ、あんた顔赤いわよ」
「そっちこそ」
「私は…暑いだけよ」
「私だって…!」

双方ともに、手も視線も外さない。気のせいか、更に気温が上がっているような気がしていた。
蝉の声と肌を伝う汗の感触だけをやけにリアルに感じる。どきん、どきんと鼓動が鳴って、ごくりと唾を飲む。
乾いた唇を無意識のうちに舌舐めずりしていた。瞳に焔が灯る。

「あらあら、熱いわねぇ」

ほくほくと湯気の上がる盆を携えた一輪が颯爽と襖を開けた。
風が部屋という部屋を駆け抜けて一抹の涼しさを与えてくれる。

「「い、いいいい、いいいいちりん!!!!」」

おまけに火照った体も幾分か冷ましてくれたようだ。二人とも素っ頓狂な声を上げてパッと手を離す。
あーとか、うーとか呟いてみたり、こめかみのあたりを掻いてみたりする。バレバレであり、逆効果である。

「そのまま続けても良かったのよ?」
「いや、あの、ホント勘弁してください」

ぬえは両手と6本の羽全部を使って畳に伏せ、平謝り。対するムラサは「え、いいの?」などと抜かしている。
一輪は笑みを絶やさない。……命蓮寺は今日も平和だ。

「ね、一輪、それなに? いい匂いするけど…」
「あ、そうそう。これ今日のおやつね」

未だ畳に別の意味でへばりついている ぬえを余所に、ムラサは盆にかけられた茶巾をちらりとめくる。
もあっとした湯気が立ち上り、それが晴れると真っ黄色の物体があった。
つやっとしていて、ぷりっとしていて、食べる前から「おいしい!」と言えそうな代物だった。

「トウモロコシだ! すごい、もう市場に出回ってるのねー」
「え、トウモロコ、シ…?」
「ぬえ、顔を上げなさい。あなたこれ好きでしょう?」

額に畳のあとがついて間抜け面なぬえはぽかんと黄色い山を見つめていた。開いた口がふさがらない。食指が動くのか、指先だけ細かに動いている。
ムラサはぬえとトウモロコシを結び付けようと躍起になって考えていたが、無理だったので直接本人に聞くことにした。

「え、ぬえ、トウモロコシが好きなの?」
「うん、実はすごく好きで…一輪すごいね、何で、知ってたの?」
「この前、雷獣に関する書物を読んでね。まさかとは思ったんだけど、今日 八百屋さんに行ったら売ってたもので、つい…」
「やったぁああ! 一輪ありがと、大好き!!」
「どういたしまして。さ、二人とも召し上がれ」

ぬえは顔ほどもある大きさのトウモロコシを手にとり、子どものようにはしゃぎながらかぶりつく。噛んだ瞬間に汁が溢れ、甘く濃厚な香りが口内に広がる。
縦に横に。ぐるぐる回しながら。夢中になって食べるぬえをムラサと一輪は後ろから見ていた。

「なによ、あんなに嬉しそうな顔しちゃってさ…」
「あら妬けるの?」
「別に」
「相手は野菜よ?」
「……知ってるわよ、一輪の馬鹿!」
「はいはい、ほら水蜜もあっちの縁側で食べてきたらいいわ。ついでにぬえも引っ張って。あの調子で食べられたら畳に汁が飛んじゃうから」
「はーい」




―― りぃん、ちりりぃん。

開け放した襖の向こうから風が吹いて、さっきよりも風鈴らしく揺らめきながら心地よい音を立てる。
相変わらず蝉はうるさいし、太陽も憎たらしいくらいに元気だったがさっきよりは暑さを感じなかった。
二人は縁側で足を投げ出し、ぶらつかせながらトウモロコシをかじる。

「ぬえ、おいしい?」
「うん、これすっごく甘いね。それに湯で加減もちょうどいいし」
「好き?」
「うん!」
「私のことはー?」

んふふと笑いながら尋ねるムラサに、ぬえはより一層微笑む。

「大好きだよ、水蜜」
「それだけじゃ嫌だ。さっき一輪にも大好きって言ったでしょ」
「気にしてるの?」
「ちょっと怒ってます」
「えーどうしたら機嫌直してくれる?」
「キスして、ぬえ?」

二人してくすくす笑って。くっついて、触れて。距離がゼロになるまで。
鼻から息が抜けて、くたりと力が抜けて、ムラサはぬえに寄り掛かる。

「今日のキスは甘いね。トウモロコシ味だわ」
「水蜜の唇のほうが甘いよ」
「うそばっかり」
「本当だよ」

ぴゅうと風が吹いて、風鈴が涼しげな音を立てる。

手を繋いで、擦り寄って。
さて、暑い暑いと呻いていたのはどこの誰だったか。





そのあと、一輪は氷水を張った桶を持ってきてくれた。二人は我先にと足を突っ込み狭い桶の中で押し合いへし合いの場所取り合戦を繰り広げた。
其れを襖の向こうから覗いていた星とナズーリンは熱くて敵わんと退散する。
桶には白い4本の脚がまぶしく輝いていて、同じく覗いていた聖は若いっていいわね…と仏の笑みを浮かべていた。

夕飯はそうめんで、透明の器に入れられた白い麺が視覚的に涼しく、また冷やされた麦茶も併せて食感的にも涼しくしてくれた。
食後に「花火がしたい」という話題が上り、なら今度買ってみんなでやろうと満場一致で決定した。




「みなみつー、髪乾かしてー」
「えーまた? 自分で乾かせるでしょ?」
「だって面倒なんだもん」

ぬえは毎日風呂上りに髪を乾かしてくれ!とムラサに要求する。そしてムラサも、面倒と言いながらも満更でない表情で構ってやる。
がしがしとやや乱暴にバスタオルで拭いてドライヤーで乾かして、仕上げに櫛で梳く。癖のないさらさらストレートが完成した。

「ほら、だから私が切ってあげるって言ってるじゃない」
「嫌って言ってるの!」

(だって切ったら構ってもらえる時間減っちゃうじゃない?)


「さー寝ますか」
「ん、ぬえ布団引いてね」
「はいはい」
「はい、は一回でよろしい」
「はーい」

ムラサはぬえが布団を引く間にぶたの形の蚊取り線香に火をつける。
練り込まれた薬草の香りが漂って夏を感じた。

「いいよー」
「ありがとう、じゃ寝よっか」
「うん、おやすみ水蜜」
「おやすみなさい、ぬえ」

布団にもぐりこみ、薄い掛布団を羽織る。明日も暑いだろうけど頑張ろう。
二人は仲良く手を繋いで眠りに就いた。


翌朝。蚊取り線香を焚いたというのに、彼女らの首元に吸われたような痕があったとかなかったとか。
お読みいただきありがとうございました。


鵺のwikiをじっくり読んでいたら、鵺は雷獣の一種と考えられている。とあり、雷獣のページをじっくり読むとトウモロコシが好物…みたいなことが書いてあったので、妄想した結果が今作です。あと、ぬえが「ムラサ」ではなく「水蜜」と呼んでいるのは作者の趣味なので悪しからず。

みなさん、暑いですね。でも何が怖いってまだ6月ってことですよ…。
日射病、熱中症などにお気を付け下さい。

【7/3追記】
みなさま、コメントありがとうございます。少しでも夏らしさは感じていただけたでしょうか?
ぬえむらで糖尿病になりたい!ぬえむらで熱中症になりたい!…そんな妄想でした。
【7/7追記】
甘いのを書いたつもりはないのに甘くなってしまう…これがぬえむらマジック!!
アサトモ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
とってもあまぁぁぁぁい!
トウモロコシ並みに甘い!
ごちそうさまです!
2.名前が無い程度の能力削除
この甘さトウモロコシなど目じゃないな。
あつさ的な意味で、これからの季節には毒になる二人。
3.奇声を発する程度の能力削除
甘ったるいな…だがそれが良い!
4.名前が(以下同文)削除
相変わらず甘々な話、美味でした。
5.名前が無い程度の能力削除
甘すぎてなんかあつくなってきたぞ
6.名前が無い程度の能力削除
「え、いいの?」があまりにも村紗すぎる……嫉妬してるのもたまらんしオチも最高だぁ……