※ この物語は、春のマリアリ連作の完結編で、「家族」になる私達と「家族」をもつ私達とプロポーズの続きになります。
ある梅雨時の幻想郷。
その日は久方ぶりに太陽が顔を出した。
早苗が渾身の祈祷を行っていたり、レミリアが晴れる運命を手繰り寄せようとしていたり、天子が気質を操作して晴天になるようにしていた行動の賜物である。
では、どうしてそこまで何の脈絡も無い人妖が、かかる行動を取る必要があったのか?
その理由は、二人の魔法使いが人生最良の日を迎えるため・・・
夫婦の誓いを立て、家族となるために、皆が協力したのだ。
―今日は、魔法使い達の結婚式である。
~稗田阿求の手記より一部抜粋~
―私達の挙式を迎えた幻想郷。
博麗神社に用意された私の控室・・・そこで、私は花嫁になるべく準備を進めてもらっていた。ウェディングドレスを着るのにはやはり沢山の人が居ると言う事で、私は咲夜達紅魔館の連中にそれを依頼した。反面、アリスの方はと言うと、魔界から来た家族が着つけを行ってくれている。
「よかったね、魔理沙。タキシード、ホントに用意されなくて。」
「言うがなフラン。私ほど乙女な女性はそうそう居ないんだぜ?」
「乙女がだぜと言う物かしらね・・・」
「お、それもそう・・・ね。」
既にウェディングドレスの着つけを終えて咲夜が髪のセットを行う、といった段階に入っている私。少し視線を上げて全身鏡を見ると、純白のドレスに身を包んだ私が居る。
普段の服装に比べて黒さが無いのには、違和感を覚えるが、今日はそれでもいいと思う。
・・・今日は誰よりも乙女でありたいなって。
そうしてると、急に恥ずかしくなってきたので思わず顔を伏せた。ああもぅ、という咲夜の声がしたが、気にしちゃ負けだ。静かに、ただ静かに私は自分の整髪が済むのを待つ。
「はい、完成よ。ヴェールを被せてあげるから見てごらんなさい。フラン様、お願いします。」
「はいはーい。」
フランがそっと、櫛を置いて横に置いてあったヴェールを私に被せてくれた。私は伏せていた視線をゆっくりと上にあげる。
「・・・これが、私・・・?」
完成した花嫁衣装に身を包んだ姿を見た私は、それだけで何とも言えない幸せな気持ちになった。普段のエプロンドレスでは絶対に出ない、お淑やかさとか、女性の本質的な美しさが前面に押し出されている、今の私。
「とっても、お似合いですわ。」
「うん、すっごく綺麗だよ!魔理沙!!」
「そう・・・かな。」
その姿を直視するのもなんか恥ずかしい、それ位に女の子な私の姿。強がってたりとか、誰にも負けるまいと被っていた男性的な側面を打ち消すようだ。
そんな乙女な・・・ホントの霧雨魔理沙が鏡に映っている。
「魔理沙・・・おめでとう。」
「・・・うん、ありがとね咲夜」
咲夜のセリフに女言葉で応対した私、咲夜の手が止まるのを私は見逃さなかった。暫く何かを考える素振りが鏡越しに見え、しばしの間を置いてポンと手を打って作業に戻った。
「・・・アリスが貴女をお嫁に貰う気持ちが少し解りましたわ。」
「からかうなよー。もう、お前達の前で女言葉は無しだ、無し!」
「えー、魔理沙すっごく可愛いのに・・・・・残念。」
「ほら、フラン様もそう言ってますわ。」
「むぅ。」
からかわれた事に対して反撃を試みようとしたが二対一、この数的不利を覆すだけの有効な手段を持ち合わせていない私は只黙るしか無かった。いつもなら、マスパを問答無用で発射して撃退するのだが、それは今日だけは御法度。
実力行使以外の解決って意外と難しいんだなぁ。無言の鍔迫り合いを続けていると、パチュリーが私の傍にやってきた。
「魔理沙・・・お客様がお見えよ。」
「誰だ、パチュリー?にとりか?」
「違うわ。入っても大丈夫?」
「ああ、私の方は準備出来てるんだぜ。」
私が来客を入れて貰うように指示すると、小悪魔に連れられて見知った顔が現れた。白髪交じりの壮年の男性・・・私のお父様がそこに居た。
「おぉ、魔理沙」
「お父様・・・!?」
礼服に身を包んだお父様の所へゆっくりと歩く。というか、今日はドレスに合わせたハイヒールなのでいつものように走ったりは出来ないのだが。
お父様の元に寄った私は、いつもより高くなった目線でお父様を見た。
「来てくれたの?」
「あぁ、娘の晴れ姿・・・見たかったからな。綺麗だよ、魔理沙。」
「ありがとう・・・!」
照れ隠しする親父、隠しきれてないのも昔と何ら変わる事は無い。そんなお父様を私はじっと見つめた。アリスを見る時とはまた違う目で、お父様を見据えて、私は一つのお願いをする。
「お父様・・・ヴァージンロード、一緒に歩いてくれる?」
一度は絶縁した仲である。しかし、そんな事は亡くなったお母様は絶対に望んでいないだろうし、何より、お父様に自分が花嫁となる瞬間を見て欲しかった。
仲直りするきっかけも掴んだし、これから幾らでもやり直す事は出来る。まずは、父と娘が一緒に出来る事から始めて行こう、そう決めた上でのお願いである。
「・・・ああ。」
私は頷いて、お父様の手を取った。幼い時と変わらぬ力強さと優しさを持ったその手で私の手をしっかり握り返してくれる。右手に伝わる温かい物が私を満たしていく。
「そろそろ行こっか?お父様。アリスを待たせるのは忍びないし・・・」
「そうだな。花嫁の前で遅刻とあっては洒落にならん。」
お父様は私の手を引いて、入って来た勝手口の方へ向かおうとする。その事に気が付いた私は、慌てて足を止めようとしたが、慣れないハイヒールの動きに身体が付いてこない。
「違う、そこじゃない!」
「出口はそっちだろ?魔理沙も中々に冗談が過ぎるぞー」
お父様が強引に進もうとするのを見かねた咲夜とフランが駆け寄ってきて、お父様の前に入ってくれた。
「君達まで?冗談はー」
「冗談ではありません、出口はそちらではありませんわ。」
「こっちは関係者専用の入り口だよ、魔理沙のおじちゃん。」
「む、むぅ・・・何でも早とちりはいかんな・・・はは。」
「おじちゃん、か。お父様もトシになったと言う事か?」
「失礼な!若いもんには負けん、気概だけは何時までも若いままだ。」
ガラになく照れくさそうにはにかむ親父に、咲夜が恭しくお辞儀をする。そして、そっと用意された隙間の方を指差した。
この隙間は、花嫁姿のまま境内を移動する事になるのを防ぐための措置で、境内に繋がる石段の下へと通じている。開場前に私達の姿を見られるのは会場の混乱を招きかねないし、開場前に晴れ姿を見せるのは流石にどうかと思う。
「花嫁とそのご家族は、その隙間からの御案内になりますわ。」
「だぜ、お父様。行きましょ?」
「う、うむ・・・そうだな。」
ハイヒールの歩調に合わせて、ゆっくり、ゆっくりと私はお父様に連れられて隙間の方へ向かう。昔、お母様も一緒になって三人で手を繋いで歩いた日の事を思い出した。
あの時から私は、大人になった。それでも、親子である事は、今も変わらない。
「ありがとな・・・みんな。」
「ふふ、どう致しまして。」
「時間になったら私達も、式に参列するからー」
「魔理沙、しっかりお嫁さんをエスコートするのよ・・・」
「ではでは、お気を付けて。」
咲夜、フラン、パチュリーに小悪魔が。私は目頭が熱くなるのを感じた。そっと手を目元にやろうとした時、親父がそっとお洒落なハンカチを差し出してくれた。
「使いなさい。最近ウチの店に入った店員からのプレゼントだ。」
「えっ・・・?」
「あの獏の子の・・・邪気を祓ってくれたお前への感謝と私達へのお詫びの気持ちだ。」
「そうか・・・あの子、お父様の所で働いてるんだ。」
「うむ、立派な商売人に育てようと思っている。今日も式場の何処かに居る筈だ。」
「会ったらお礼言わなきゃな・・・」
ハンカチを受け取った私は目の端に溜まった涙をそれで拭って、隙間へと足を踏み入れた。
ミ☆
「・・・遅いわね。」
「まぁまぁ、アリスちゃん。まだ式の開始まで5分もあるわ。」
「そうだけどお母さん・・・ギリギリだったら、魔理沙のドレス姿を見れないしねぇ。」
博麗神社の参道で私は花嫁の到着を待っていた。私の方の準備は、ロングヘアーの魔理沙ほど整髪に時間がかからなかったので案外早く済んだ。
それと・・・早く済ませて、入場前に余裕を持って一度お互いのドレス姿を見ておきたいなぁと思った、私のワガママ。
「大方緊張して、お手洗いにでも行っているのではないでしょうか。」
「あーそれはあるかもしれないわね、えぇと、白蓮さんでしたっけ。」
「はい、神綺さん。今日は娘さんの結婚、心からお喜び申し上げます。」
お母さんの方はお母さんの方で、聖との話に花が咲いている。魔理沙の話によると、魔界に封印されていたらしいからある意味では同郷なのよね。
「いずれにしても遅刻はこのような式典にあるまじき悪行です。」
「本当にトイレだったら・・・大丈夫かな?緊張でお腹とか壊してたら・・・」
「それは致し方ありませんね。しかし、あの魔理沙が緊張とかするのでしょうか?」
「するわよ、魔理沙は意外と繊細なのよ。」
普段周囲には大胆で豪快な振る舞いをする分、普段の魔理沙は実に繊細である。緊張の余り手が震えたり、泣きそうになった姿を何度も見て来た。それを知るのは恋人・・・これから家族になる人だからと言う所か。魔理沙の色んなところを見た、私だから、言える事なのかも知れない。
―おーい。
愛しの人の声がした。
声のした方の向こうに、花嫁姿の魔理沙と、魔理沙のお父さんが立っていた。いつものような太陽のような明るい笑顔に照らされた私のココロに光が刺し、満たされてゆく。
「魔理沙ぁ、遅刻よ。」
上ずった声が出た。いつもの私にはあるまじき声。でも、ココロに嘘は付いてないわ。素直な気持ちを、素直に出せるようになったのは魔理沙のお蔭なのだ。
「すまんすまん、ちと準備に手間取ってしまって・・・」
肩を叩いて私の横に立った魔理沙、そんな魔理沙の整った横顔は凄く綺麗だった。吸いこまれるような美しさに意識まで持って行かれそうな位のその美貌に私は、息を飲んだ。
視線に気が付いた魔理沙は、少し頬を赤らめて私の方に目をやって何度かチラチラっと見やっている。心臓の鼓動が少しずつ早くなるのを感じた私は、そっと、愛する人の名前を呼んだ。
「魔理沙?」
「・・・どうした、アリス?」
「こっち・・・向いて。」
「うん・・・!」
向き直って正面から相対する。伏せた眼を少しずつ上に戻しながら、魔理沙のウェディングドレスをなぞる。頬を赤らめる魔理沙の姿に、私も頬を赤らめた。
自然と手が伸びて重なりお互いにしっかりと握り締める。今は魔法を使う必要が無いので魔力のリンクは発動させない。しかし、お互いの色んな気持ちがぐるぐると繋いだ手から伝わるような感じがする。魔力を通じ合わせるよりも、もっと尊くて素敵な事だ。
思えば色んな事があった、犬猿の仲から始まった私達の付き合いが、いつしか友情に変わって、そして愛情となった。互いに愛し合うようになって、今この最高の晴れ舞台に立とうとしているこの今の私。
「魔理沙・・・かわいい。」
「アリスも、綺麗だよ。」
その置かれている状況があまりに幸せ過ぎて、もうどうにかなってしまいそうだけど、気をやるのは早い。これからが本番なのだ・・・!それにお嫁さんはそんな私以上に感極まりやすいタイプなので、私がしっかりしてないと、総崩れになる可能性も否定は出来ない。ココロに目の前にいる花嫁を支える決意を立てて、そっと石段の方へ向く。
「魔理沙、アリス・・・入場も済んだわ。いよいよね」
上空から現れた霊夢から、全ての準備が整った事を告げられる。上空には境内に入りきれなかったと思われる、多数の人妖が式の開始を今か今かと待っている。
カッと視界が何回か光った、文とはたてがカメラを持って私達の近くを撮影して回っているのだ。
「魔理沙さーん、こっちにいい笑顔下さーい。」
「ようし、こうか?ほれほれー」
「んもう、子供じゃないんだから。」
「まぁまぁ、折角の晴れ姿だから、記念に残しておこうぜ。」
「後で撮影あるでしょー?」
「こういう式の中での私達の事も、一生残したいんだぜ。アリス、腕組もうぜ、腕―」
「もぅ、しょうがないわね。これで良いかしら。」
腕を組んでVサイン。魔理沙も合わせてVサイン、フラッシュに負けない眩い笑顔を浮かべると、文とはたてがお互いを見合わせた。
「写真、一枚決まりましたね。」
「ん、完璧。じゃあもう、一枚撮らせて貰うわねー。今度は普通にしてていいよー」
カシャ、ピロリーン。
式の前の、いつも通りの私達を写真に収めて貰った。すると、不思議な事に緊張が解けていく。魔理沙のいつも通りの笑顔を見て、それは確信に変わっていった。
―いつも通りで良いのだ。二人で、一緒に歩いて行けばよいのだ。
「じゃ、行くわよ。準備はいい?」
霊夢の確認に私達が頷くと霊夢が弾幕を9発打ち上げた・・・普段の霊夢は赤白の弾を中心に使うが、今日の弾の色は白と黒、そして虹の色。私達に合わせて、アミュレットを用意してくれた粋な演出に胸が熱くなる。
「これより、霧雨魔理沙とアリス=マーガトロイドの結婚式を開催致しまーす!」
魔理沙が今回の霊廟の異変で出会ったと言っていた、山彦の響子のよく通る声が聞こえて来る。アナウンス役にはうってつけの妖怪ね。
「お、ルナサ達が居るぞ。」
魔理沙の指した指の先に、プリズムリバー三姉妹が居た。三人とも各々の楽器を構えて演奏の準備は出来ているようだ。
「さて、最高の演奏を送りましょう・・・最高の花嫁達の為に・・・」
「そうね!新郎新婦を祝うため、皆でハイになれる奴、ドカーンといっちゃおう!」
「メルラン姉さん、それは流石にどうかと。あの二人に相応しい最高の演奏、やりましょ!」
豪華なファンファーレが境内に鳴り響く。緊張や不安を鎮め、気分を適度に高揚させる、荘厳な雰囲気を醸し出す私達の人生最高の日の開演の合図。
鳴り始めた結婚行進曲を合図に歩み出した霊夢に続いて、私とアリスが手を繋いで参道を歩く。割れんばかりの上空から拍手に包まれて、私達はゆっくり、ゆっくりと石段を上がってゆく。後ろには、お父様、神綺、そして仲人の白蓮と映姫が続く。
「おおー、すっごく綺麗なのかー?」
「だね!あたいも認めるさいきょーの花嫁だから、当然と言えば当然よ!レティにも見て貰いたかったなぁ・・・」
「チルノちゃん、ルーミアちゃん、静かにしなきゃダメよ。他のお客様の迷惑になるわ。」
ルーミアとチルノと大妖精の声がした。多分寒かったり暗かったりするので、上に追いやられたのだろう。しかし、その横にはミスティアとリグルの姿も見える。
「魔理沙とアリスの為に歌いたい・・・歌いたいけど・・・・・」
「披露宴なら歌っても大丈夫だから、ね。我慢我慢。ルナサさん達とセッションするんでしょ。」
ミスティアが歌いたそうになんかうずうずしてるけど、まあいいか。式をぶち壊しそうになったら、魔理沙がマスタースパークを撃つだろうし。そうでなくても紅魔館門番隊、天狗の哨戒部隊等が警備に当たってるので、悪さをすれば、即成敗してバイバイだ。
石段を上がりきると、参道の脇にぎっちりと知り合いが立っていて、これまた惜しみない拍手を送ってくれた。
「んまぁ、妬ましい!妬ましいけど、おめでとう!!」
「パルスィ、それは論理的にどうかと思うんだけど・・・」
「良いじゃないのキスメ、パルスィはあんなに幸せそうな花嫁二人を見ているとね・・・つい、妬んじゃうのよ。」
なんか物騒な会話が聞こえて来たが、パルスィ、キスメ、そしてヤマメの物と分かって安堵した。そんなパルスィはというと、妬ましいとは言いながらも、表情は晴れやかだ。
「春の終わりに、こんな素敵な式に参加出来るなんて思いませんでしたよー」
「そうねぇ、なんか幸せそうな二人を見てると、こう・・・何かー」
「サニー・・・悪戯とか考えたでしょ?」
「い、いやぁ・・・ルナ、もっと祝福したくなってくるって言いたかっただけよ。」
「後で光の屈折を弄って虹を沢山かけてあげたら?悪戯にもなるし、二人も喜ぶし一石二鳥よ。」
「さすがスター、あとでそれやりましょ。」
「ついでに桜吹雪も加えてあげますよー」
リリーと光の三妖精もそこに居る。こちらは近くに居てもさしたる害は無いので普通に参列している様子。こんな時にも悪戯に命をかけているのは流石妖精。以前私を騙そうとした事もあったけど、やっぱり妖精は悪戯を考えている位で丁度いいのかなぁ。
「わちきも驚かしたいよー」
「やめときな、小傘。今日はそれして、式ぶち壊したらマスパだけじゃ済まないよ。」
「ぬえ~ん、なずぅり~ん。ぬえがぁー」
「なんだ、その珍妙な鳴き声は・・・情けない。披露宴の余興でやるんだな。」
「まぁまぁナズもぬえも、今日は折角の結婚式ですよ。そんな邪険にする態度をしては、聖に怒られてしまいます。」
相変わらずの命蓮寺の顔ぶれ。主同様に落ちついてはいるが、相変わらずの小傘の様子に私は少し安心した。こうしたセレモニーであっても、普段の宴会と変わらないのが幻想郷流なのだ。
「ホント・・・凄いね。」
「ああ。みーんな、私達を見に来てくれたんだぜ。」
「そうだな、魔理沙。しかしまぁ、すごいお客さんの数だなぁ、お父さんもビックリだ。」
「ですねぇ、全幻想郷中に招待状を送ったんでしょ、アリスちゃん。」
「そうよ。声かけられる人は全員呼んだからー」
「それだけ、娘【達】が色んなモノと触れ合ったと言う事か・・・」
「そう、あの子【達】が歩いてきた証拠ね。」
魔界神であるお母さん相手に一歩も引かない魔理沙のお父さんの豪胆さには、少し驚きを覚える。それ以上に初対面の筈の魔理沙の御父さんに対して、凄くフレンドリーな様子にも驚いた。
「あぁ、結婚式場に皆の祝福が満ちる・・・生きて来た中で一番美しい式ですわ。」
「そうですね。善行を積んで・・・るかは怪しいですが、これだけの参加者が集まると言う事は彼女達の歩んだ道は、数多の善行に満ちているに違いありません。」
説教臭そうな仲人達の会話と拍手の音を聞いている内に祭壇の元へと近づいた私達は足を止める。すると波を打ったかのように周りが静まり返った。
―これから、私達は結婚式を執り行い、晴れて夫婦となるのだ。
「いよいよだな・・・」
「ええ・・・」
ヴェール越しに見た私の花嫁は、緊張こそしていたが、それでもなお愛らしくて美しい。
この人と、今から誓いを立てて夫婦になる・・・その事を強く意識した私のココロが跳ね、踊った。
心臓が出そうな程緊張するが、それは魔理沙も一緒。まずはこの式を無事に終了させる事・・・
それが、私達の独身生活最後の出来事、夫婦としての最初の共同作業である。
「これより、霧雨魔理沙、アリス=マーガトロイドの結婚式を行います。一同、礼。」
いつになく真面目な霊夢の声により紡がれた開会宣言を聞き、私達は神前に礼を捧げた。
ミ☆
「やばいな、心臓が飛び出しそうな位ドキドキしてる。」
「それは私も同じよ。すっごくドキドキしてる。」
霊夢が先ほどから私達の穢れを払ってくれている。私達に降りかかる災厄などをこうやって祓ってから祝詞を捧げるのだ。こうして見ると、霊夢も巫女なんだなぁと実感する。まぁ、色々儀式をする姿を見た事はあるが、今日のは特に気合いが入っているように見える。
祝詞の奏上に移るとそれが顕著になり、その一言一句に私達への気持ちを感じる事ができる。あのめんどくさがりの霊夢が、私達のために全霊を尽くしてくれているのが良く分かった。頭を下げ、その祝詞を奏上した霊夢に、アリスと共に感謝の意を込める。
「さて・・・と、次は三三九度を執り行います。萃香、勇儀、お願いね。」
「はいはいはーい!その言葉を待ってましたー」
「酒の事なら鬼にお任せさ!萃香、酒は持ってきたかい?」
「おお!今日は、とびきりの酒にしたよー」
「それ、あたしの秘蔵のコレクションの一つ・十四代じゃないか!」
「いいじゃんいいじゃん、魔理沙とアリスの為なんだし、固い事言いっこなし!」
「あぁ・・・入手するの、めちゃ苦労したのにぃ~」
勇儀の制止も聞かずに萃香は持っていた朱塗りの杯に、勇儀のコレクションの一つを惜しげも無く注いでいく。お酒の味にうるさい勇儀がコレクションすると言う事は、よっぽどの逸品なんだろう。
「さぁ、新婦の御両人、準備はいいかい?」
「あぁ、矢でも鉄砲でも持ってくるといいんだぜ!」
「ちょっと、魔理沙。作法は守らなきゃダメよ。」
「分かってるぜ。じゃぁ、頂きます・・・」
並々と朱塗りの杯に注がれたお酒に、私は口を付けた。杯に入ったお酒を三口で飲み干すのを、アリスと交代で三セット行う三三九度。いつもなら、もっとグビグビ行くのが私流なんだが、今日はきちんと作法を守る必要があるため、ちびりちびりと3口で飲み干すように分量を調節しながら、口に含む。
今日はどっちにしろ、披露宴で飲む事になるし。今は、式のムードをアリスと一緒に味わいたいたかった。杯を乾かして、杯を差し出すと今度は勇儀がお酒を杯に注いでくれた。
「あたしの秘蔵のお酒だ、味わってくれると嬉しいねぇ。」
「だってさ、アリス・・・」
「うん、頂きます。」
アリスの口が受け取った杯に触れた。アリスは元々マイペースにちびちび飲むので注意は不要だ。小さな口で、三回に分けて杯を乾かしたアリスは、萃香に杯を戻した。
「じゃあ、二の杯、行ってみよー」
「よし、じゃあ今度は私からね。」
「あぁ、よろしくなアリス。」
厳かな式には似つかわしくない軽いノリ。でも、それは私達らしい。一度やって要領を掴んだ私達は、すぐに適応し素早く二の杯を乾かした。
「さ、最後の三の杯。これを飲んだら・・・誓いの言葉を立てて貰います。」
「えぇ、わ、わかってるわ・・・はい、魔理沙。」
「お、おぅ・・・緊張なんて全然してないんだぜ!」
「嘘おっしゃい、閻魔が前に居るのに大した物ね・・・・魔理沙。」
「ふ、普通だぜ、霊夢?多分・・・」
緊張をほぐすために私は素早く、三口で杯を乾かしてアリスに杯を差し出した。これが終わったら、いよいよ誓いの言葉を立てるのだ、これが多分一番緊張するんじゃないかって私は思ってる。
そんな事を考えながら、緊張をほぐしていると、アリスが三の杯を飲み干した。
「飲んだわ・・・魔理沙。」
「ああ、とうとう・・・この時が来たんだな。」
「・・・ええ。」
アリスの手を取って、少しでも緊張を取り除いてあげたかったが、それ以上に緊張している私にそんな事が出来るのかと不安になる。
でも、今、此処で嫁さんを・・・アリスを守れるのは私しかいないんだ!
勇気を振り絞って、カラダの震えを押さえて私は心臓の脈動を落ち着ける。僅かに耳の奥から聞こえて来る音が小さくなった事に確かな手ごたえを感じた私は、神前への一歩を踏み出した、アリスも私に続く。アリスと・・・これから増えであろう家族だけは、何があっても私が絶対に護り抜いて見せる。そんな小さな誓いを胸に、私はアリスと一緒に神前に付いた。
私達を見守る静まり返った参加者に振りかえってアリスと一緒に一礼、また神前に向き直って私はポケットの中に入れていた、アリスと一緒に考えた誓いの言葉が書かれた一枚のメモを取り出す。
「アリス、そっち持ってくれるか。」
「ええ、タイミングが重要ね・・・上手くやらないと。」
「その辺は大丈夫だろ、私達の息の合った所を見せてやろうじゃないか。」
「そうね、やりましょうか。いつもの私達のように、ね。」
頷いて、意思を確認。そして、ギュッと繋いだ手を握りしめ、私達は誓いの言葉を紡いでゆく・・・
―本日、私達は、ここに集まってくれた皆の前で、結婚の宣言を致します。
私達は、夫婦となって、いついかなる時も、お互いを信頼し愛し合って最高の幸せを掴み、どんな困難にも力と知恵と弾幕、そして恋色の魔法を持って立ち向かい、この幻想郷において、最も幸せで永久の愛に包まれた家族となる事を、ここに集った幻想郷の皆様の前に誓います。
魔法のように、すらすらと二人で誓いの言葉を読み上げる。二人で発動するレインボースパークやゴリアテ人形の時のように、息を合わせて言葉という呪文を紡いでゆく。この呪文が発動すると、私達は晴れて本当の夫婦になるのだ。
「さぁ・・・呪文を発動させる準備はいいかな?」
「ええ、もう準備はできてるわ・・・いつでもどうぞ、魔理沙。」
「ふふっ、最後の確認もおっけー・・・だね、アリス。」
自然と女の子言葉が出て来る。いらない自分の殻を全部脱ぎ捨てて、本当の私が姿を見せた。目がうるんでいるのが分かった、でも今は泣いてちゃいけない。人生で一番嬉しいのに、泣いてちゃ勿体ない。
涙をこらえ、緊張と戦いながら、私はアリスとそっと、挨拶を交わした。
「・・・アリス、これからもずっと命ある限り・・・妻としてよろしくね。」
「・・・魔理沙。不束者ですが、妻として一生貴女に尽くさせて頂きます・・・」
互いの挨拶に頷き、誓いの言葉の最後に書いてあった私達の名前に目をやる。そこには、相談して決めた結婚後の私達の名前がそこに記されていた。その名前を私とアリスは・・・
高らかに、堂々と宣言する。
「霧雨魔理沙・・・マーガトロイド!」
「霧雨・・・アリス=マーガトロイド!」
私達が、名乗りを上げると、場内から歓声が巻き起こった。ふと後ろを見ると、白蓮は穏やかな表情をして目を押さえ、映姫もハンカチを出して涙を拭っている。
「あぁ・・・式場に、愛が・・・満ちる!」
「なんと素晴らしい夫婦なのでしょうか・・・」
お父様は幸せそうな表情のまま目を閉じて頷いているし、神綺・・・いや、お義母様は満面の笑みを見せている。
「おめでとう、魔理沙、アリス!我が娘達よ・・・」
「アリスちゃん、魔理沙、お幸せに!!」
萃香と勇儀も大粒の涙を流している。これぞまさしく鬼の目にも涙って奴だ。しっかし、鬼も泣くもんなんだな、初めて知ったんだぜ。
「あぁ・・・魔理沙ぁ・・・感動したよぉ~!おめでとう!!」
「ふふん、鬼を泣かせるたぁ・・・上等じゃないの。」
会場全体から巻き起こる歓声、拍手、祝福の言葉。暖かくて優しいその空気に、私達は自然と吸い寄せられて行く・・・が
「まだよ、まだ終わってないわ・・・指輪の交換、お願いします。」
目の端に涙を溜めた霊夢が、私達の肩を持って語りかけて来る。玉串を奉納する代わりに、指輪の交換を行うのが私達流の結婚式である。
「アリス・・・指輪を。」
「うん。」
プロポーズの時に渡した指輪を、アリスがポケットから取り出して開ける。私が丹精込めて作り上げた、家族の証・・・。ダイヤモンドの輝きが、2つ仲良く輝いている。
「ドキドキするね。」
「ワクワクもするんだぜ。」
指輪を互いに手にとって、まず私がアリスの左薬指に指輪をあてがった。静かに頷くアリスの細い指に少しずつ、少しずつ指輪を進めてゆく。やがて、アリスのくれた指輪と触れ合って止まった。
「魔理沙・・・付けてあげるわ。」
「うん、よろしくなんだぜ。」
アリスがゆったり、そして優雅に私の左薬指に指輪を滑らせる。その綺麗な指はいつ見ても惚れてしまいそうだ。何度も繋ぎ合わせたその手と指で包み込まれた私の手に輝く、9色の指輪に、私の指輪が触れた。視線を上に戻すと、アリスが頬を赤らめて私を見ていた。トクンとココロが跳ねる。
「では・・・最後に誓いの口付けをお願いしまーす。」
そして、霊夢によってこのセレモニーのクライマックスの内容が告げられる。まぁ、前日のリハーサル等でやったので分かっては居るので、驚きは無い。緊張を吹き飛ばすため、私は威勢の良い声を出して
「さぁ、クライマックスだぜ。アリス、バシッと決めよう。」
「ええ、私の方は準備良いわよ・・・魔理沙の方こそ大丈夫?」
威勢の良い声は出た物の、その真意をしっかり見破られてしまった。流石は私の嫁さんだ、ちょっとしたことで私の状態を把握してくる。緊張が伝わった手をしっかり見られてしまった。
「・・・震えてるわよ?」
「大丈夫、武者震いだ。」
愛しのアリスの背中に手を回す。アリスも私の背中に手を回して、カラダを密着させる。触れた所から伝わる、お互いの鼓動が非常に激しい。緊張、喜び・・・私達の9色のように色んな感情が混ざり合って、溶け合って、一つになって、そこにあるのは何?
「アリス・・・」
目の前に居る最愛の人。これから、生ある限り共に生きてゆく事となる私の最高のパートナー。ヴェールをそっと手で横に避けると、アリスが私のヴェールを避ける。鏡のようにシンクロした無駄の無いチームワーク、目の前の人と、絶対に幸せになろう・・・いや幸せになる。そんな決意がココロの中で大きく、大きくなっていくのを感じる。
「魔理沙・・・」
最愛の人の全てを受け止め、愛と言う名の絆で固く結ばれた、恋色の魔法使いに私達はなるんだ!
―愛してる。
その言葉を合図に唇と唇が触れ合った。そして、それと同時に涙が私達の目から溢れ出し、重なった2つの指輪が輝き始める。魔法のリンクが私達を繋ぎ、湧き上がるように溢れ出す私とアリスの魔力が一つとなって、同調し、増幅されて、私達の全身を駆け巡る。
・・・好き、大好き!
気持ちが一つになって、私達が一つになった魔力で満たされてゆく。周囲の歓声がある筈なのに聞こえない、私達が空間を操ったり音を消したりした訳じゃない。私達の一つになったココロが生み出した、私達だけの世界。
恋色の光に満たされた、この美しき幻想郷。
指輪に魔力が満ちてゆき、9色に輝いているのを薄目を開けて確認した、あと少しだ。私はアリスを強く抱きしめた。アリスも私を力の限り抱きしめて来る。
・・・ずっと、一緒だよ。
そのココロからの言葉と共に、恋色の光が指輪に収束して行くのが分かった。そっと目を開けて唇を放す私達。凄まじい魔法の影響で体力を消費し、息切れしたのを覚られないよう必死に隠しながら、アリスの左薬指を見る私。
そこには、アリスがくれたペアリングと私の送った婚約指輪が一つになった指輪が収まっていた。私の左薬指にも、同じ物が収まっている。成功だ。
「ちょ、ちょっと、アンタ達・・・凄いわね!指輪が一つになっちゃうなんて・・・」
「魔法使いらしい演出をさせて貰ったぜ、どうだ、霊夢?」
「・・・最高よ!恋色の魔法使いさん達!!」
私達の高度にリンクした莫大な魔力によって、アリスの私に対する絆の証と私のアリスに対する愛の証が一つになったのだ。9色に輝く絆の指輪に永久の愛を意味するダイヤモンドが備わった愛の指輪が一体となった私達だけの結婚指輪。
「魔理沙、上手くいったね。」
「ああ、アリスのお蔭なんだぜ。コントロールはお前じゃないと、無理なんだぜー」
「魔理沙の詠唱も、素早くて正確だったわよ。あんな魔力怖くてよく扱えないわ。」
「二人の愛の力なんだぜ。」
「そうね。」
今度は軽く触れるだけのキス。今度は、口笛交じりの凄い歓声と拍手がちゃんと聞こえて来る。魔法とはと違う皆の暖かさをもらった私達は、自然と向き直って、手を繋いで大きく礼をした。
大きな拍手と、歓声は結婚式の成功を象徴しているかのようでもあり、私達の人生の船出を祝福するかのようでもある。
「さって、と。私の仕事も此処までねー」
霊夢の声が震えている。元々感情表現は豊かな親友だが、式中はずっと平静を保って、自分の仕事を全うしてくれた霊夢。私達は霊夢の左手を取って、笑顔を向けて
―ありがとう、霊夢。
「末永くお幸せに・・・魔理沙、アリス。」
目を赤くし、瞼を張らした霊夢と握手を交わす私達。親友に、私の人生最高の日を取り仕切って貰えた事はとっても嬉しかった。霊夢は右手の袖で軽く顔を拭って、またいつもの調子に戻って。
「それでは花嫁達が退場致しまーす。幽香、ブーケを渡してあげて。」
あぁ、やっぱり花と言えばこの妖怪だ。いつもにこやかな印象があるが、このにこやかさの裏に、阿求は凄まじい残虐性を秘めていると目したが、今日の幽香からはそんな様子は全く見られない。花のように穏やかな笑顔を浮かべて、両手いっぱいのブーケをそっと私達の前に差し出した。
「うふふ、待ってたわよ。はい、花嫁さん二人の分ね。」
「まぁ、綺麗だわ・・・ありがとう、幽香。」
「そりゃ、私が咲かせたもの。粗末にしたら・・・分かってるわよね?」
「トスしちゃ駄目なのか?」
「いや、ブーケトスは構わないけど・・・ちゃんと誰かに届くように投げなさい。」
「そういう意味ね。」
「そゆこと。」
ブーケを受け取った私達は鳥居の方へ向かい、夫婦の一歩を踏み出した。
「アリス、何処で投げる?」
「そうねぇ、皆がこのブーケを取れるようにしないといけないから・・・」
「なら投げる場所はー」
空を見上げた。アリスがコクリと頷いてくれる、上空から投げたら、何処に行くかは分からないが今日の参加者なら必ずキャッチしてくれるだろう。
「魔理沙、箒は、空飛ぶんでしょ?」
「箒はいらないんだぜ。今の私達には、恋色の翼がある。」
「えっ?」
「私の指輪の機能の一つでな、私は箒とかに依らずに飛べるようになるし、アリスは普段の私と同じスピードで飛べるんだぜ・・・」
魔法のリンクを再び繋ぐと、私達の魔力が背中に集まって背中に大きな恋色の翼が現れた。翼が現れたアリスの花嫁姿は、まるで天使のような美しさ。バレンタインデーの時に言って貰ったセリフをお返し出来る位に美しい。
「私達、天使になったみたいね。」
「そうだなぁ。花嫁が天使になったって、中々乙女チックでいいだろ?」
「魔理沙らしいわ。」
「普通だぜ。」
手をしっかり繋いで、大地を蹴って高度を上げる。翼をはためかせると、魔力の残滓が良く晴れた青空に9色の線を描いていった。
その様子に参加者は驚いていたようだが、これが私達流なもんでね。
「魔理沙、行くわよ!」
「ようし、私達から愛を送ろうぜ!」
いち、にの、さんのリズムで、持っていたブーケをそっと投げた。ブーケは穏やかな風にゆらりふらりと揺らされて、流れるように大地に吸い込まれてゆく。このブーケは私達からの愛と幸せのおすそ分けだ。なお、幽香が栽培した事を会場の皆が知っているので、激しく奪い合ったり、弾幕を用いて損壊するような真似は見受けられない。
やったが最後、苛烈な制裁を受けて結婚式が血に染まってしまう事を重々理解しているので、ブーケの争奪戦は、あくまで大人しく、品よく行われていた。
「慧音、今取ってあげるから!」
「二つあるから、狙いをどっちかに絞ろう。」
慧音と妹紅が私の落としたブーケを狙っているのが見える。この二人も仲が良いと聞いている。こういう時もしっかり意思の疎通を図る関係と言うのは、私達も見習う必要がある。
「藍様、あっちは慧音達が狙ってます!私達はあっちを狙いましょう!」
「橙・・・私の為にあんなに必死に・・・・嗚呼、なんと幸せな。」
アリスの落としたブーケは、橙が一番近くに接近しているようだ。二つのブーケはきちんと幸せを誰かに分けてくれるのだろう。二人顔を見合わせて、安堵した丁度その時・・・全く予想だにしない展開が待っていた!
「えぇい、幽香が怖くって幸せを逃してなるものですか!」
「そ、総領娘様!それはいけません!!」
「空気読んでよー、依玖ぅ~。気質を変えて、少し私の方に寄せるだけよぉ~。」
今日の晴天の功労者である天子が、気質を操ったのだ。僅かに吹いた北風が、ブーケの落下コースを変えて、天子の方向へと一直線。風に舞うブーケの花びらが美しい・・・って言ってる場合じゃない。このままブーケが散ってしまうと、ヘタをすれば私達の結婚式に血が流れてしまう。
「大丈夫よ、ほら、クリスマスの時に。」
「あ、そうか。ミサイルぶちこまれて喜んでたもんな。」
流石天人、格が違ったと言う所か。でも、暴力沙汰は避けたいのも事実。なんとか介入する手段を考えて居た所、ふっと天子が伸ばした手の前に、大きなピンク色の雲が割って入りブーケをキャッチした。
「見ろよ、アリスの幸せは雲山が掴んだぜ。」
「あらまー、雲山とは誰が予想したかしら。」
ブーケを掴んだ雲山は、普段の無口で頑固な様子に似つかわしくない位あわあわとしているのが、上空からでもよーく分かる。近くにいた一輪が、雲山に顔を近づけて言葉を二三交わして、私達の方に向かって大声を出して
「アリスー、照れくさいけど嬉しいって雲山が言ってるよー!!」
そんなブーケを大事そうに抱える雲山の姿に思わず吹き出しそうになったが、私が投げたブーケがまだ宙を漂っているので笑っている訳にも行かない。
「さぁ、誰が取る!」
手を伸ばして、何とかブーケを掴もうとするみんな。既に天子は幽香によるお仕置きを受けているので、気質を操られる事はもうないだろう。誰の手にブーケが渡るか、私とアリスは固唾を飲んで見守る。
「お姉ちゃん!絶対掴みましょう!!」
「ええ、穣子。ここでキャッチしたら皆の注目の的・・・今年の秋が盛り上がる事間違いなし・・・・って、きゃあ!」
「うふふふー、寄れるもんならよってみて~」
「おねーちゃーん!!」
静葉を弾き飛ばしながら雛が超高速回転をしながらブーケに接近しつつあった。厄の禍々しいオーラは感じられないから、危険なのは雛との接触のみである。万が一厄を溜めた状態であんな超高速回転をしたら周囲が厄で汚染されてしまうだろう。
「魔理沙からの幸せ頂きっ・・・!って、あれ?」
「悪いわね、それは私のブーケよ、雛。」
雛とタッチの差で亜空穴から突如として現れた霊夢がブーケを掴んだ。今日、私達の式を取り仕切ってくれた霊夢に貰ってもらえるなら、私としては本望だ。霊夢も素敵な恋をして貰いたい、それは親友である私の切実な願いである。
「お、見ろよアリス、虹が!」
「・・・サニー達の仕業ね。」
見渡す空に突然現れた虹と季節外れの桜吹雪が私達の視界に入った。今日の悪戯は大目に見てあげよう。こんな綺麗な悪戯なら大歓迎だ。ブーケが霊夢と雲山の手に渡って、式が終わったムードに包まれる。すると何処からかノリの良い、元気な声が聞こえて来る。
「・・・結婚披露宴は、守矢神社での開催となります。参加者は聖輦船へご乗船下さーい」
響子の二度目のアナウンス。ブーケを取り損ねた観客達が、足早に船へと列を作る。整然としたその動きの先には、小町の姿があった。
「さぁ、並ばないと今日はお仕事・・・するかもねぇ。」
サボリの常習犯とは言われるが、仕事が出来ないかと問われれば問答無用で首を横に振る。往生際の悪い魂等も船に乗せてしまう程度の能力を持った小町の誘導により乗船作業も順調のようだ。後は出港準備が出来次第、私達も守矢神社に向かう事になるだろう。
「ねぇねぇ、魔理沙。」
「どうした、アリス。」
「こうして見ると、幻想郷って・・・本当に綺麗ね。」
「見慣れた空の筈なのに、今私達が見ている世界はとっても美しいんだぜ。」
何処までも広がる澄み切った青空、燦々と輝く太陽、眼下には雄大な緑の森、様々な人妖の喧騒。この人生で一番良き日にアリスと見る幻想郷は本当に美しい。
―恋色の想いに彩られた、私達の住むこの世界。
そんな世界に抱かれた私達は自然と惹かれあって、唇が触れあった。
愛する人と同じ気持ちを共有して生きる・・・こんなに素晴らしい事って、他にない。
「出港準備完了、目的地、守矢神社ぁ!」
「ヨーソロー!」
村紗の号令で船が動き出した、行かなくては。私はアリスと並んで、この美しい幻想郷の空を舞う。
「いつまでも・・・どこまでも、一緒にいようね。」
アリスのお願いに首を縦に振って答えて、私は空を飛ぶ事に集中した。
ミ☆
披露宴の会場である守矢神社。私達の結婚を祝ってくれるのはとっても有難いし、その気持ちはとても嬉しいのだが。ありがたい話が延々と続くと、いい加減痺れも切れて来る。
「私のお話は以上です。」
「そんな事より、早く乾杯したいんだぜ・・・」
「うーん、その気持ちには同意するわ。結構・・・長い。」
魔理沙によると最近神社に出入りするようになったと言う、華仙のありがたい説法。だが、御馳走を前にしてはありがたみが半減してしまう。話を半分聞きながら、混雑時にどうやってお料理を取りに行くかの計算を頭でしたりして、なんとか痺れが切れない様に務める私。
「最後に、八雲紫様からお言葉を頂きたく思います。」
「えっ、まだあるのか?」
「我慢なさい、ちょっと長いのは分かるけど。」
「ちぇー」
「この二人は・・・性別、種族の境界を越えて、今日、ここに命ある限り愛を育み共に歩む夫婦となりましたが、女同士で夫婦って言うのもなんですわね。婦々とでも書きましょうかー」
ここぞとばかりに饒舌な紫が我が事のように挨拶をしてくれる。その事は非常に嬉しかったのだが、既に魔理沙は、飲みたそうにうずうずしてるし、私だって、中央に用意された様々なご馳走を早く食べたいとも思う。しかし、この紫に意見出来る物はこの幻想郷でもそうはいないのも事実。
≪魔理沙も我慢強くなったね。≫
≪ああ、もういつまでも子供のまま居られないからな。≫
愚痴はこぼすが、昔の魔理沙なら絶対面と向かって文句を言っていただろう。それをしなくなったのも、彼女の成長なのだ。
そんな私達の様子を見ていたのか、紫は胡散臭い笑みを浮かべる。
「新婦達が御待ちの様子ですので、私からは子宝に恵まれて、素敵な魔法の家族となる事を祈りたい次第でございます・・・」
「お、終わった・・・長い、長い話すぎて私の寿命がマッハだぜ。」
とても長い話で魔理沙の頭は既にどこかパンクしてるみたいだ。そんな魔理沙にクスリと微笑む。時を同じくして紫が壇上から降りて、司会を務める早苗が液体の並々と入ったグラスを持って登壇する。その液体の色は薄い小麦色、泡が立っているのを見るにどう見てもお茶では無い。
「ま、待て!早苗、お前・・・飲んだらすぐ酔っぱらうじゃないか。」
「大丈夫です、今日の為に磨きに磨いてきましたから。」
いつもの巫女服とは違う、お洒落な外の世界の礼服を着ている早苗。雰囲気がいつもとは全然違う。大人な雰囲気を醸し出しているが、お酒の弱さがそんな物で強くなるとはとてもじゃないが思えない。
「しかし、それはビールだろう?」
「いいえ、ビールはビールでもノンアルコールです。外の世界から紫さんに持ってきて頂きましたー」
「ノンアルコール?」
「アルコールが殆ど入ってないんですよ、だから私でも飲めるんです。」
ドヤ顔の早苗、外の世界にはそんな便利な物があるのか。ちょうど外の世界に行く予定があるので、その時に実物を見てやろうと思った。なんだったら、飲兵衛な魔理沙のお酒をこれにすり替えておこうかとも思う。
アルコールが原因で体調を崩されては敵わない、酔うとすぐ寝てしまう魔理沙は可愛いけど、運んだりするのが大変だったりすると言うのは余談である。
「はい、それでは乾杯の音頭を取らせて頂きますが・・・先ほどのお話に少し私なりの補足をば・・・私が此処に来る前に見ていたお話なのですが、外の世界に魔法使いの家族が協力して巨悪と戦うお話がありましてー」
またしても、外の世界の特撮とかいうお芝居のお話。でも、この話は個人的には大好きなお話。ある家族が、愛と勇気から紡がれる魔法を持って巨悪に立ち向かったというお話だ。私達も、家族が増えて異変が起きたら魔法家族として異変を解決しに行くのだろうか?
・・・しかし、想像すると中々に凄い光景である。私達の能力を受け継いだ子供が5人も居て、それぞれがマスパとか数多の人形から凄まじい弾幕を放ちながら飛ぶのは、多分どんな妖怪でも恐れをなす事請け合いである。
まぁ、子供は沢山欲しいので、在りそうな未来予想図の一つだ。
「お、あれか。全く、早苗も好きだねぇ。」
「ホント。今でも紫に頼みこんでまで見ようとしてるくらいだしねぇ。私も見てるけどー」
「なぁ、諏訪子、そのうちあの、赤い大きな船でも作りそうな勢いじゃないか。」
「まぁ・・・作る事自体に罪は無いし、寧ろ幻想郷の技術向上のために良いんじゃないかなぁー」
前列にいる神様たちが物騒な話をしている。私のゴリアテに相当する物でも作るんじゃないかとの推測は容易に付く。私と魔理沙によって繰り出されたゴリアテに興奮し、強化合体できるメカが要りますね!とか訳のわからない事を言っていた事も思い出した。
「大丈夫だ、何かあったら私達のゴリアテで。」
「そうね、式終わったら研究してもっと強化しましょうか。」
「必殺技をそろそろ用意すべきかと。」
「またあんな場所にミサイル仕込むとかみたいな、変な考えは止めてよ?」
「でも早苗はアレで撃墜できたじゃないかー」
「ま、まぁ、確かにそうだけどさ。」
私達の議論が盛り上がるのと同時に、これまた饒舌な早苗の乾杯の音頭は、だんだんと脱線していって在らぬ方向へ向かって言っている。そろそろ止めなくては、早苗の特撮にかんする知識を心ゆくまで堪能するハメになる。今日の主役は私達だから、それはちょっと勘弁してほしい。素早く目で合図すると私が動くより早く、魔理沙がごくごく小さな星弾を撃った。放たれた星弾は、見事早苗の後頭部に命中した。
「カシオペアっ!?」
「お酒がぬるくなるんだぜー」
「すみません、つい!」
早苗は、興味のある事になると本当によくしゃべる傾向のある子である。魔理沙もそうなのだが、魔理沙と私の興味は共通しているのでいつまでも議論を交わしよりよい呪文を作る事が出来るから良いんだけど。
早苗が咳払いをして、ビールのグラスを掲げた。
「ささ、皆様グラスにお酒を注いで下さい。」
「よーし、アリス・・・注いであげる。」
「ありがとう。」
魔理沙が私のコップにワインを注いでくれた。私もお返しに魔理沙の大好きな日本酒を注いであげる。お酒の趣味は魔理沙と微妙に違うのである。お互いのグラスに注げば準備は完了・・・ではない。これから家族になる魔理沙のお父さんにお酒を注いであげよう。そう思った私はすぐにお酒を持って魔理沙のお父さんにお酒を勧める。
「・・・お義父様。どうぞ。」
「む・・・アリスさん、ありがとう。」
「お義母さん、一杯どうぞ、だぜ。」
「はいはい。魔理沙、ありがとうねー」
横では魔理沙も同じ事をしている、久しぶりに呼ぶお母さんと言う言葉がとっても嬉しそうだ。証拠に弾けるような可愛い笑みを浮かべている。私も、魔理沙のお父さんが静かに感謝の言葉を言った時に笑顔で答える。
「亡くなった妻に良く似ているな・・・その笑顔。」
「そうですか?」
「あぁ。とっても。」
一度だけ写真で見たお母さん。魔理沙のような美しい金髪の魔法使いである事は覚えていた。確かに私も金髪だが、魔理沙よりさらに色が明るい金色の髪をしている。
その話に対する興味は湧いたが、亡くなった奥さんの話を掘り下げるのは無粋だし、なによりこのような場所で聞くべき事じゃない。
私は、ありがとうございますと魔理沙のお父さんに言ってから魔理沙の横に戻った。
「それでは、皆様ご起立下さい。」
戻った直後の早苗の号令で式場内の招待客が一斉に立ち上がった。各々思い思いの飲み物をグラスに注いで準備は万端、後は開始の合図だけである。
「それでは、恋色の魔法使い・霧雨魔理沙=マーガトロイドと霧雨アリス=マーガトロイドの結婚を祝いまして・・・・」
―乾杯!!
「おめでとう、魔理沙さん!アリスさん!!」
おめでとうの大合唱、一生分お祝いされたような気持ちだ。愛しの魔理沙となら、もっとお祝いされるような素敵な事に巡り合って行けるだろう。そんな気がして、自然と顔が綻ぶ。
「さぁ、アリス、ご馳走を取りに行こうじゃないか。」
「でも、凄い人妖でごった返ししてるわよ。」
指差した先には様々な人妖が殺到しており、取りつく暇も無いと言うのが正しい表現。主役を差し置いて行くあたりは、流石はいつものメンツである。
「しかし、私は腹が減って仕方ないんだぜー」
「待って。行く必要は無さそうよ、ホラ。」
「お、あれはー」
私は大量のお料理とお酒を持って真っすぐこちらに向かってくるにとりと椛のコンビを指差した。魔理沙はすぐにおいでおいでのポーズを取った。
「はい、本日の主役の御二方様!たっぷり取ってきましたよ。」
「ささ、盟友達、一杯飲もう!今日はパーっと行くぞー」
「お、にとりと椛か、お前達も仲が良いなぁ。ゆっくりしていけよー」
「ありがとなぁ~まずは花嫁さんにお酒をと・・・グラスを空にしてね!」
「だと、アリス。今日のお酒は受けなきゃ失礼だぞー」
「ん・・・ちょっと待って。」
私はグラスに半分程残ったビールをゆっくり流し込む。魔理沙は既に乾杯の段階で8割方飲んでいたので、飲み干すのは早い。
「はいはい、盟友、沢山飲むと良いぞー」
「おう、頂くんだぜ。」
「アリスも今日位は嫁さんと一緒に飲んであげなよ。」
「もちろんよ。にとり、今日は記念すべき日だもんね。っと、その前に、貴女達のグラスは空じゃないかしら。」
「ひゅい?」
「にとり、椛、お酒注いであげるわ。魔理沙、一緒にしましょ。」
「よしよし、さぁ、にとりに椛、返礼は受けてくれるよな。」
「「いいですとも!!」
私達がお酌をすると、にとりと椛はグラスを合わせた。魔理沙と私のグラスにも合わせてから、一気に杯を乾かした。魔理沙も負けじと行くかなーと思ってたら、今日は私のペースに合わせて飲んでいる。
「魔理沙、珍しいですね。いつもならこう、ガバッと飲むのに。」
「ん、今日は折角の私達の披露宴なんだし、主役である私がダウンしたらダメだろ。」
「まぁ、魔理沙、素敵な考え方ね。」
ペースを落としていたのはそのためだったんだ、魔理沙の気遣いが凄くうれしい。折角の披露宴なのに、ぐでぐでに酔ったらホント、ムードもへったくれも無いもんね。その意向を組んでくれたにとりは、ビールの瓶をそっと私達のテーブルの上に置いた。
「その分はちゃんと食べる方に回すんだぜ。」
「おデブちゃんになったら、運動させるわよ。」
「大丈夫だ、私が魔法唱えたらカロリーを思いっきり消費するからな。」
魔理沙は人間なので、身体にとって異物である魔力をコントロールするのに体力を消費する。故に異変とかで魔法を乱発したりすると、ご飯を軽く3杯はお代わりする事もある位なのだ。
「うめー!最高だぜー」
行儀は悪くなくて、寧ろ良い部類に入る。椛やにとりがチョイスしてくれた魔理沙の好物を、ぱくぱくぱくっと綺麗に平らげるその姿も愛しい。私の好きな物もチョイスしてくれた辺りに、椛とにとりの優しさも感じる。
「でも、ホントにそれで済むとおもっちゃったりしてます?」
「してるんだぜ。」
「私みたいにやめろよーぅを20連発するようなハメにならなきゃいいけどなぁ~」
「そうならない様に自重するんだぜ、なぁアリス。」
「そうね、折角のお嫁さんの意思なんだから尊重するわよ。」
「ところがですねぇ・・・皆はそれで許してくれそうに無さそうですよ。」
にとりが指差す先に見知った姿が集結している姿を見た私は、正直どうしようか悩んだ。魔理沙も決して弱く無いのだが、あまり度が過ぎるとくだを巻くし、そのままバタンキューもありうる。私は魔力でアルコールを分解するから別に問題は無いのだが・・・そろそろ魔理沙にアルコールを分解する魔法でも教えようかと本気で決意しそうになった。
「やぁ、おめでとう。魔理沙、アリス。」
「香霖・・・ありがとう。」
最初にやって来たのは霖之助さん。魔理沙は静かに彼のお酒をグラスに受けて、私のグラスにもお酒を注いで貰うように頼んだ。
「旦那様とも仲直りできたようだね。」
「香霖には世話をかけっぱなしなんだぜ。」
そう言ってグラスを合わせて、杯を乾かす私達。ゆっくりと味わうようにお酒を飲んだ霖之助さんは、静かな笑みを浮かべて魔理沙の肩を叩きながら。
「いいんだ、昔お世話になった恩に比べたら、そんなの大したことは無い。」
「こうして幸せになれたのは、お前のお陰なんだぜ、ありがとな・・・香霖。」
魔理沙の言葉に呼応して、穏かな、まるで年の離れた妹を見るかのような眼差しで魔理沙を見つめる。聞くところによれば一人で大変だった時に物心両面で支えてくれたのが彼だったのだと聞いている。まだ知らないお嫁さんの側面を少しだけ垣間見たような気がする。
「霖之助君、こっちにも一杯くれんか?」
「旦那様がお呼びのようだ、失礼するよ。」
呼ばれて立ち去る霖之助さんに魔理沙は深く頭を下げた。そこにあった想いを言葉にするのは難しいなと、私は素直に思った。
「・・・ふふふ、おめでとう。魔理沙」
「おめでとうございます、アリスさん。」
「レミリアもありがとうな。メイド達を総動員させちゃって。」
「美鈴も警備の方御苦労様。無事に式が出来て嬉しいわ。」
次にお酒を注ぎに来たのはレミリアと美鈴。お礼を言ってそっとグラスを差し出す魔理沙は、レミリアに対して。
「すまんな、今日酔い潰れたら悪いから、一杯で勘弁してくれー」
「おや、魔理沙さんにしては珍しい。明日は竜巻でも起こるんじゃないでしょうか。」
「えらい言われようだなー、でも今日は嫁さんを大切にしたいんだぜ。」
「ふっ、じゃあ、仕方ないわね。その一杯がとても重くなるようにすればいいのよ。」
「ほほう、それはどういうことだ?」
「これは私の取って置きの白ワインよ、あぁ、血は入ってないから。」
「白ワインに血なんて入れたらモロバレじゃないか。レミリアの取って置きとは、心して味わう必要はあるなぁ。」
それぞれのグラスにそそがれた白ワインをゆっくり飲む、とっても美味しかったのでお代わりをしたかったが、後ろに居るさとり達が入りたそうにこちらを見ている。レミリア達の応対をしている魔理沙に変わり、私が手招きをしてあげる。
「さとり、こっちに来なさい。」
「はい、ありがとうございます。」
「魔理沙、さとり達にお酒を注いであげましょ。」
「うむ、ささ、飲め飲め。私は、今日セーブするがな。」
「うにゅ?セーブ?」
「控え目にしとくってことさぁ。」
さとり達地霊殿御一行様と乾杯、レミリア達もグラスを合わせてから杯を乾かす。その雰囲気たるや、実に仲が良さげだ。
「いつも妹がお世話になってます。」
「あぁ、別に良いのよ。フランにも友達が必要だし。」
「フランちゃん、どこ?」
「あっちでチルノ達とお酒飲んでるわよ。後で行っておあげ、フランも喜ぶから。」
「うん!」
成程、一般にはなにかと恐れられる妹同士仲がよろしいとは。あの二人が結託して能力を解放したらそれはそれは恐ろしい事になりそうだが、最近のフランはしっかりしてきているのをこの目で見ているのでちょっと安心。一方、こいしの方は結構自由奔放な性格らしくあちこち放浪するくせがあるのだという。
そんなこいしは、無邪気な声を出してさとりに凄い事を切り出して来た。
「お姉ちゃん、魔理沙の深層心理を読んでみてよー」
「えぇ?こ、こいし、一体どうして?」
「面白そうだからー」
「でも・・・」
「お姉ちゃん、おねがーい!」
ここも姉が妹に甘いようだ。こいしのお願いを聞きいれたさとりは、目を閉じて第三の目を瞬きさせた。第三の目の視界が魔理沙と重なった直後、目が大きく見開いてさとりの顔がみるみるうちに紅くなる。
「あぁ・・・第三の目がぁ・・・目がぁ!」
「さとり様!!しっかり!」
「お燐、お空、ベースキャンプ・・・じゃなかった、私の席までおねがい。凄い愛を感じたわ・・・!」
「了解しましたぁ!しかし、さとり様を弾幕無しで倒す程度のココロの中ってどんなかにゃー」
「サードアイが眩む愛だったわ・・・」
「フュージョンするくらい?」
「ええ・・・。」
うん、魔理沙がどれだけ私を愛してくれてるかよく分かった。悟り妖怪を卒倒させるとは・・・流石は魔理沙。一体どんな事を考えていたのだろうか・・・・・・
「あらあらー、アリス、何ぽやーんとしているの~」
今度は幽々子がやって来た、横には勿論妖夢も居る。今日は二人とも品の良い着物に身を固めている。私はぼんやりした顔をいつものすまし顔に何とかして戻し、話に備えた。
「あぁ、ちょっと考え事を。」
「ダメですよ、ボーっとしてたらあの魔理沙の事です、浮気しちゃうかも知れませんよー」
「その心配はないわ、妖夢。万が一浮気したら指輪が爆発するから。」
「ええっ!」
驚いて3歩ほど下がる妖夢。その様子に気が付いた魔理沙はすぐに、フォローに入ってくれた。
「でも、そんな事は絶対に起こさない。私が愛してるのはアリスだけなんだぜ!」
事実あの指輪を付けてから、そのような行動に移った事は一度も無い。よく一人で異変解決等に出かけてはいるが、ちゃんと私の所に絶対帰って来てくれる。その事に感心した妖夢は、顔を赤らめて。
「つまり二人は正真正銘のラブラブ、ハートを盗まれたのね。」
「うん、私は魔理沙にハートを盗まれちゃったの。」
「盗んでなんかないぞー、私は借りてるだけなんだぜ。」
「そ、借してくれって言ってきたから、魔理沙に私の全てを預けようと思ったの・・・身も心も・・・全部、ね。」
その一言で真っ赤になった魔理沙。でも、それだけ私を愛してくれていると言う事には間違いは無い。
「あ、アリス・・・それはー」
「愛してるって言ってくれたから、お返しよっ。」
魔理沙が気恥ずかしさの余りモジモジしている。しかし、その話を聞いていた外野の慌てようはもっと凄かった。レミリアはカリスマポーズを取り、美鈴は太極拳を踊りだし、妖夢は顔を真っ赤に染めてあわあわしている。おまけに幽々子が料理を喉に詰めそうになるなど、それはもう凄い事になっている。
ちょっと収拾が付かなくなって来たので、なんとかしようと思っていると、早苗が
「あのー、そろそろ、ケーキカットに移ってもいいですか?」
時計を見ながらおずおずと私達に訪ねて来た、渡りに船だ。お料理もかなり減ってきているし、デザートの投入の機は熟したと言える。行く旨を伝えると早苗は、持っていた拡声器のボリュームを最大にして思いっきりの良い声でケーキカットの開始を告げた。
ミ☆
「15番、因幡てゐ、豆腐の角で姫様を撲殺します!」
「ちょっとぉ、助けてえーりん!」
「大丈夫です、姫様は死にませんわ。私が・・・・蘇生させますんで。優曇華、しっかりね。」
「了解です、師匠。」
ケーキカットを終えた私とアリスは、再び席に付いて余興を楽しませて貰っていた。余興といっても宴会芸の延長みたいなもんで、いつもと変わらぬ楽しげな笑いに包まれたとっても楽しい時間が流れている。
「ほら、アリス。」
「あーん・・・次は魔理沙ね。」
「あーん。甘くて美味しいんだぜ。」
「魔理沙、口の周りにクリーム付いてるわよ。」
「あ、またいきなりそれか!ズルいぞ!!」
「私は魔理沙と違って・・・・きゃっ。」
「へへーん、さっきのお返しだぜ。ほっぺのクリームまでは気が付かなかったようだな。」
お互いにケーキを食べさせながら、皆が今日の為に用意してくれた出し物を見ると言うのは、なかなか無い事だと思われるので、満足するまで味わおうと思う。
「16番、メディスン=メランコリー、殺傷能力の無い毒を吐きます!」
「毒のある言葉とかいうオチじゃないだろうなー」
メディスンの表情が変わった、どうやら図星だったらしい。でもメディスンなりにウケを狙えるネタを考えて来てくれてたのは間違いの無い所ではある。渾身のギャグのネタばらしをされたメディスンはその場でいじけ始めた。慰めに行こうかと思ったが、すぐに次の余興が始まってしまう。
「では17番、宮古芳香・・・柔軟体操やりまーす!」
「無理すんなよー」
私がそう言ったのには理由がある。芳香は身体が硬く、交戦中でも手を前に突き出したようなポーズのままこちらに向かってくる位だ。
「ではまず、屈伸から・・・」
案の定、微動だにしない。もし近接弾幕戦になった場合、どうやって受け身を取ったりするのだろうか。あ、キョンシーだから叩きつけられても私達ほどダメージは無いか。
そんな、微動だにしない芳香を見たメディスンが、ちょっと不思議そうな顔をして近づいてきた。
「何やってんの?」
「柔軟体操だー!」
「全く動いてない・・・」
「おかしいな、お酢が良いと聞いて飲んで来たんだけど・・・」
「人形の関節より、固いんじゃないの、アンタ。」
情け無用の毒が浴びせかけられている。でも、言っている事は正論そのものだ。
「うぅ・・・うぉのれー!じゃあ、アンタはどうなのさ!」
「私?可動範囲内なら、ほら。」
「!?」
大股を裂いて、上半身をペタンと地面にくっつける私も風呂上りにやるストレッチの型を簡単にやってのけたメディスン。アリスがその動きを見て興奮しているのがまた何ともいえない。
「じゃあ、手伝ってあげるからやってみて?」
「よーし、ではいくぞぅ。」
「よいしょっと。」
メディスンが芳香にのしかかると何とも言えない鈍い音がした。そして、芳香の身体がぐんにゃりと曲がっているのが見える。
「やればできるじゃない!」
「もーどーらーなーいーぞ!!」
ぐんにゃりと背中が曲がったまま戻らない芳香。これは危ない、とりあえず医者を呼ばないと取り返しのつかない事態になっては流石によろしくない。
「駄目ね、死んでるわ。」
「いや、だからこいつはキョンシーだっての!」
「ああもう、優曇華、整体やるからちょっと手伝って。」
「了解です!」
永琳達の懸命の治療により、芳香は無事に元に戻り一命を取り留めた。死人に対して一命を取り留めたという表現が適当なのかどうなのかと言う突っ込みは置いといて欲しい。
「魔理沙も関節技主体で決めてみたら?」
「いやー、なんか色々と危なそうだから止めとくんだぜ。でも、この身体の硬さは一つ付いていける弱点だな。」
「確かにね。次異変解決に行く時には上手く戦えるといいね。早速今日の夜に行くの?」
「いや、今日は行かない。それに今日は・・・」
アリスへの返答を発しようとしたが余りの恥ずかしさに、私の頭に一気に血が上る。今日は、夫婦になって初めての夜。既にそう言う事には身に覚えがあるのだが、今日と言うとびきりの日を異変解決に当てるなんてとんでもない。次のセリフを紡げずに唸っていると・・・親父が私の言葉尻を取って予想だにしない行動に出て来た!
「今日は、最高の日だ、そうだろ魔理沙ぁ!18番・・・泥鰌すくいやります!」
「お、お父様!!」
「誰か伴奏を頼めぬか!一番いい伴奏を頼む!!」
「ではでは、私がー」
ノリノリのリリカが、演奏するのと同時にお父様が華麗な泥鰌すくいを披露してくれた。
あの堅物な親父がこんな趣味を持っているとは、今の今までは知らなかった
しかし、物凄くキレのある動きである。そんなお父様の舞いを見ていると、横で見ていた神綺のサイドポニーがぴくぴくっと動いているのに気が付いた。
「ようし、皆踊っちゃえー!楽しい時は踊らなきゃ損よー!」
神綺の号令に合わせて、あちこちで踊りだす参加者の皆、ある者は友人と、またある者は仲間と、そしてまたある者は主従関係のある人妖と輪になって踊る。
「アリス、踊ろうぜ!」
「ええ、でも・・・ダンスなんてやった事あんまり無いわよ?」
「大丈夫だ、こんなのはノリでどうにでもなるんだぜ。」
「んもぅ、ちゃんとリードして頂戴よー」
私は、愛しの人の手を取って、ダンスの輪の中に入って行った。
種族も何も関係なく、今そこにある楽しいと言う気持ちと幸せな気持ちを分け合って、膨らませて行く皆の絆の輪。そしてこれからも、その輪に加わる者が増えて行くのだろう。
優雅で美しいアリスとのステップを楽しみながら、踊り明かし、楽しい宴の時は過ぎ行く。
家を飛び出した直後の真っ暗で恐怖におびえて暮らしてた頃の私が、こんな素敵な嫁さんを貰って幸せに暮らしていると知ればどんなリアクションを示すだろうか。
愛しの人と繋いだ手の温もりも、音楽に合わせて踏むステップも、眩い笑顔も、愛の優しさを感じる事の出来る現実を享受している事。
そして・・・この美しき幻想郷に、私、霧雨魔理沙=マーガトロイドが此処に存在する事。
色んな事を乗り越えた先に、沢山の幸せ。これが、ずっとこれからも続いて行くんだ・・・・いや続かせていくんだ。
そんな誓いを私は・・・そっと、アリスの前で立てた。
ミ☆
「あぁー楽しかったんだぜー」
「そうねぇ、一生分祝って貰ったって感じねぇ」
式を終えて各々が帰路に付いた夜の幻想郷、魔法の森。
今宵も夜空が美しい。帰る前に、橙とお燐が顔を洗う仕草をしていたので、明日は雨かも知れない。そらにぽっかりと浮かぶ朧月の灯りと、魔法の灯りを頼りに私達は家を目指す。
「そろそろ、家も一つにしたいな。」
「そうだなぁ、魔法で家を作り返るやり方の研究、やらないか?」
「それは良いわね。でも・・・今研究してる魔法は?」
「大丈夫だ。恋色の魔法使いの私達なら、全部一気に研究しても全部成功させられるんだぜ。」
「うん、計画的に、効率よくやりましょう。」
何気ない会話をいつものようにしていると、やがて魔理沙の家が灯りに照らし出される。共同生活を初めて4カ月、すっかり私もこの家の一員である。
「あ、そうだ、表札変えなきゃ。」
「ええ、これからは私達の家になるもんね。」
霧雨魔法店の看板と表札に魔法をかけると、あら不思議。霧雨=マーガトロイド魔法店に早変わりだ。
「うん素敵、次、私の家に着た時にもよろしくね。」
「私達の家でもある、お前の家に立派なのをつけてあげるんだぜ。」
私は魔理沙に正面から抱きついた。心臓が早鐘のように鼓動を続ける、今日は夫婦になって初めての夜と言う事もあって、とても甘いムードになる。告白されて、想いを受け入れたバレンタインデーの時とはまた違う意味を持つ、私達の初めての夜・・・
「分かってる・・・今日は、夫婦になって初めての夜だもんね。」
「うん・・・魔理沙。」
抱き合って、キスをして、温もりを分け合う。じめじめした森の中で、服ごしに感じる愛しの人の鼓動はとっても落ち着く。目を閉じて、カラダを寄せ合っていると、私と魔理沙の全てが一つになったみたいな気持ちに満たされる。
シンクロする呼吸と、鼓動。一つになる気持ち。それを共有するととっても幸せな気持ちになる。お互いに潤んだ目で、私達はお互いに見つめあう。そして、魔理沙がそっと耳を寄せて二三言葉をささやいてきた・・・その言葉に私はびっくりしたが、ここまでパチュリーからもらった魔導書の研究は怠っていなかったので、魔理沙が何らかの回答を見つけた事は何の不思議もない。
私は静かに頷き、ありがとうと、そっと呟いた。
「今日は忘れられない夜にしましょう、アリス・・・」
「うん、いっぱい、いっぱい。愛を語り合いましょう・・・でも、その前に、家に・・・」
「そうだね、帰りましょ・・・私達の家に。」
静かに頷いて、微笑みを向け合ってから私と魔理沙は家の魔力施錠を開けてドアを仲良く開けて、家に入る。そして、灯りを付けたら、まず帰宅の挨拶を二人で交わす。
―ただいま!
家族になった私達のただいまが、幻想の夜空に溶けて消える。
夜空の沢山の星と朧月が照らす私の最愛の花嫁の笑顔は、この美しい幻想の世界よりもずっとずっと、綺麗で輝いていた。
Spring marisa and alice love story was over.
But story is never over…
…To be next.
なんだろ……目から汁が…。
でもまだ終わりじゃないんですね! これからの季節に期待せざるを得ないぜ!
お辞儀?(違ったら、すいません…
いやー…もう読んでる間ずっとニヤけるのを抑えるのに必死でしたw
兎に角、お疲れ様でした!
体調を崩されては(叶わない)し 敵わない
私は箒とかに(依らず)に飛べるようになるし 頼らず?
主役を(さて置いて)行くあたりは~ 差し置いて
それとアールグレイと東方バスケ見てます?
魔理沙とアリス、末永くお幸せにね!
え、いい話過ぎるでしょコレ。目から9色の水が…。