妖怪の山を、早苗はのんびりとお散歩していました。
大きな滝を過ぎた所で、雲行きが変わり、雨が降りはじめました。
「これは困りましたねぇ……」
その時、早苗は小さな山小屋を見つけます。
「ちょうどいい所に小屋が。ちょっと雨宿りさせてもらいましょう」
その小屋は囲炉裏と二、三人がやっと横になれるだけの小さなものでした。早苗は、何故か持っていたライターで火を起こすと、濡れた服を乾かしました。
早苗は戸にかんぬきをかけ、横になりました。囲炉裏の火がちょろちょろ燃えていました。
しばらくすると、小屋の戸をドンドン叩くものがありました。こんな雨の日に私の他に山の中を出歩いている人がいたのかしら? と、早苗が身を起こすと、不思議な事にかけてあるかんぬきがカタンとはずれ、10歳前後の見た目の不思議な格好をした女の子が入ってきました。
あれ? この子どっかで見たことあるような気がするなぁ、と早苗がポカンと見つめていると、その不思議な女の子は囲炉裏の側にすわると火に手をかざしながら。
「私の名は古明地さとり、あなたの事は博霊神社の宴会で見かけました」
と言いました。ふと見ると服に絡むようにして付いている目玉がぎょろりと早苗を見つめていました。
覚(さとり)は人間の心の中を手に取るようにわかると誰か話していたと、早苗は思い出しました。今も自分の心が読まれているのかと思うと恐ろしくなりました。
「あなた、私があなたの心を読んでると思って怖がっているのでしょう?」
さとりはポツリと言いました。
早苗はしまった、と思いました。これでは何も考えられない、早くどこかに行ってくれればいいのに、とつい考えてしまいました。
「あなた、私がどこかに行ってくれればいいと考えているのですね。」
さとりは目をつむって言いました。早苗は恐ろしくて恐ろしくてたまりませんでした。逃げるに逃げられず、早苗は囲炉裏の火を見つめて、ぴくりとも動きませんでした。
さとりも背をまるめて手を火にかざしていました。 聞こえてくるのはザーザーという小屋の外の雨音と、パチパチと言う薪の燃える音だけでした。
そのうち囲炉裏の火が小さくなりました。
早苗は開き直り、もういっそのこと色んな事を考えてみようと思い、思考をめぐらせました。
「あなた、今日の夕飯の事を考えているのでしょう?」
「あなた、ロボットの事を考えているのでしょう?」
慣れてくると意外と簡単なもので、そう考えられるとさっきまで怖ろしい存在であったさとりがただ他人が思っている事を復唱しているだけの無害な存在のように感じられてきました。
「あなた、さっき私の事を怖がったのを後悔しているのですか? まぁ慣れているので平気ですよ」
「あなた、私のこと少し可愛いと考えているのでしょう? まぁ悪い気はしませんが」
「え? ちょっと何を考えているんですか? 私はスクール水着なんて着ませんよ?」
「あ、そ……そんな事はしません!! さっきから何を考えているんですか!?」
どうやら早苗の思考はさとりへの妄想に発展したらしく、小屋の中では一見落ち着いて瞑想している巫女と、一人で赤面しながら騒ぐ少女が同席するという奇妙な空間へとなっていました。
「あなたそんな趣味があったんですか!? よく巫女がつとまりますね!!」
「……」
「え? 何ですか? 今すぐに襲ってしまいたいと考えてい……るんですか?」
「はぁ……はぁ……」
「え? なんで息遣いが荒く……って、それだけはやめてくださいっ!!」
さとりはそう叫ぶと小屋外に逃げて行きました。
外はザーザーと雨が振り、風はバタンバタンと戸を叩きました。
囲炉裏の火がパチパチ音をたて、燃えていました。
早苗は戸を閉めると、どこか名残惜しそうに、フゥッとため息をつきました。
続けてくださいお願いします
誤字のご指摘感謝します。修正いたしました。
作戦ならすごくね?