Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

お嬢様の策略的めーさく劇場

2011/06/19 00:05:14
最終更新
サイズ
12.21KB
ページ数
1

分類タグ


「お嬢様の策略的めーさく劇場」



紅魔館の主であるレミリアお嬢様は何時も気まぐれだ。
唐突に思いついた事を後先考えずに実行する。
そして、その度にメイドである私は1番迷惑を受けるのだが……今回もそんな気まぐれが訪れたのだった。

「咲夜、美鈴が死んだわ」
「……はい?」

昼下がりの紅魔館。
いつもの様にレミリアお嬢様の元へ淹れたての紅茶を持って行くと、私の顔を見るなりそんな事を言い出した。

「あの、お嬢様? 何を仰っているのですか? 美鈴ならいつも通り門番の仕事をしていますが」
部屋の窓から外を見ると、丁度正門の前で仁王立ちしている美鈴の後姿が見える。
まぁ、きちんと仕事をしているのかは定かではないが……

「あれは偽物よ、今朝パチュリーが代役として立たせたの」
「はぁ……? そうなのですか?」
もう一度窓の外を見て見るが、門の前で立って居る美鈴の姿はいつもとなんら変わらない。
たまに頭が小さく上下している辺りやはり今日も眠っているのだろう。

「ところで咲夜」
「はい、なんでしょうか?」
外を見ていると、自慢げな顔をして私の淹れた紅茶を飲んでいたお嬢様が唐突にこちらに話を振って来た。
お嬢様は目を細め紅茶の香りを楽しんでいるようだが、何処か紅茶だけでなく私の反応も楽しんでいるようにも見える。

「貴方も死んでいるのよ」
「……」
もう何と返事していいのやら……。
途方もない疲労感と、頭を抱えたくなる衝動だけが私の中に溢れかえっていた。

☆★☆

~紅魔館正門前~

「それで、どうしてこうなったんでしょう?」
「わからないわ……」

あの後。何時目を覚ましたのか、美鈴が部屋の中に入って来た。
お嬢様はそれを確認すると、まるですべてをわかって居たかのように頬笑み、私たち二人に向かってこう言ったのだ――

「おお死んでしまうとは情けない、そんな従者はお出かけしなさい」
何処かで聞いた事のあるフレーズを口にすると、両手を2回強く叩く。
乾いた音が部屋を木霊し、それまで周りで傍観していた妖精メイド達が私と美鈴を取り囲んだ。

「ちょっと離しなさい! あ、こら!」
「あ、あれれ~? どうなっているんですか??」
突然の事に私と美鈴は抵抗する間もなく、妖精メイド達に誘導され門の前に押し出されてしまった。

そして今に至るわけだ。
「どうしましょう咲夜さん……」
隣では事態を把握できていないだろう美鈴が不安そうな顔でこちらを見ている。
落ち着かないのかそわそわと自分の姿を確認したり、足元の小石を蹴っている姿はまるで悪い事をして家を追い出された子供の様で愛らしい。

「どうしようと言われても……お出かけしなさいって話だったけれど」
「じゃあ何処かお出かけしますか?」
「何処かって、何処か当てはあるの?」
「そうですねぇ」
美鈴は腕を組むと、その場でうんうん唸りながら考え出した。

「う~ん、そうだ! 人里にお買い物でもどうですか?」
「よく二人で行くじゃない」
「えーデートで行くのとお買い物で行くのでは違うじゃないですか~」
即座に私が否定したからか、美鈴が頬を膨らませて拗ねてしまった。
小声で「咲夜さんはわかって無いですっ」なんて言っているが、どうせ美鈴と出掛けるならもっと特別な所に行きたいと私は思っているのだ。
「美鈴、そんな事で拗ねていないでまじめに考えなさい、時間がなくなっちゃうわよ」
「う~そうですねぇ」

そんな事を二人で言い合っていると、ふっと体が浮遊感に襲われた。
驚いて足元を見ると、丁度私と美鈴を囲むようにスキマが大きな口を開け、こちらをのみ込もうとしていた。
「えっ」
「何!?」

あまりにも急すぎる事態に反応が遅れ、私達はスキマの中に飲み込まれてしまった。
「咲夜さん!」
「美鈴っ」
どす黒い紫色をした空間を真っ逆さまに落下していく中、美鈴が必死になってこちらに手を伸ばしてきた。

「咲夜さんっ! 手をこっちに!!」
「――っ!!」
美鈴の手を掴み返そうと、手を真っすぐ上に伸ばす。
(もう少し……)
と、その時辺り一帯の空気が変わり私は地面に背中から叩きつけられた。
「痛っ」
「あ、咲夜さ――」
痛みに顔を歪めていると頭上から美鈴の声が聞こえ、私の上に落ちてきた。

「きゃあっ!」
「あうっ!」
鈍い音と少女達の悲鳴が辺りに響き、そこを中心に砂煙が舞い上がった。
もくもくと砂煙が視界を遮る中、美鈴がそれを手で払いながら声をあげる。
「だ、大丈夫ですか? 咲夜さんっ!」
「そう思うのならどきなさいよ」
そう言ったつもりなのだが、美鈴の胸に顔を押し潰されているせいでまともに声が上がらない。
「あっ、ご、ごめんなさい」
その事に気付いた美鈴が慌てて私の上から退く。

視界が晴れると、強い光が辺り一面に広がった。
あまりの眩しさに目の前が一瞬真っ白になる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、それよりここは?」
美鈴の手を借りて起き上がると、熱と湿気をはらんだ風が吹きメイド服とチャイナ服のスカートを揺らした。
それは何処か懐かしいような潮の香りを引き連れて、私達の間を通り抜けて行く。
「この匂い……」
胸一杯にその空気を吸い込む。
そしてゆっくりと辺りを見回すと、白い砂浜と青い海が広がっていた。

「ここ、何処なんでしょうか? 幻想郷ではこんな所見た事がありませんけど」
「海よ」
「うみ、ですか?」
「そう、泳いだりして遊ぶ場所」
「そうなのですか……あ、そう言えばパチュリー様に幻想郷の外にはそのような所があると聞いた事があります」

どうやらスキマに飛ばされて幻想郷の外、しかも海に来てしまったらしい。
たぶんお屋敷の前から一向に動かない私達にしびれを切らし、お嬢様が飛ばさせたのだろう。

(と、言う事は……)
きっと水着も送られてくるはず。
そう思った矢先、私達の目の前にスキマから水着が1着ずつ落とされた。
「わあ! 咲夜さんなにか落ちてきました!」
「ほら、きた」

☆★☆

私達は水着に着替えるために別々の物影へと別れていた。
素早くメイド服を脱ぐと、水着に着替える。
着替えている時に気付いたのだが、どうやら送られてきた水着は元々持っていた物ではなく新しい物らしい。

とりあえず他に着る物も無いので仕方なくそれに着替えて戻ると、既に美鈴が戻ってきていた。
「あ、咲夜さんおかえりなさい!」
「早かったわね。やっぱり見た事の無い水着を着ているのね」

美鈴は普段使っていた水着ではなく、緑色のビギニを着ていた。
対する私はモノトーン調のパレオを着ている。
「そういう咲夜さんこそ、水着似合っていますよ」
「そ、そうかしら?」

さらっと笑顔で美鈴がそう言い、思わず顔が赤くなりそうになる。
じっと俯きがちに耐えていると、美鈴が唐突に私の腕を取った。
「ほら、早く泳ぎに行きましょうよ!」
「あ、ちょ、ちょっと美鈴待ちなさい!」
美鈴は私の制止を聞く事無く海の方へと走っていく。
私は足をもつれさせながら美鈴の手を握り返し、後を追って走り出していた。

美鈴は水辺にたどり着くなり、ばしゃばしゃと海水を掻きわけて腰のあたりまで水に入っていった。
「冷たくて気持ちがいいですよ~咲夜さん」
私も足首まで海水に浸かってみる。
足元を流れる水は、太陽に照らされて火照った体には程良冷たく気持ちよかった。

「咲夜さーんもっとこっちまで来て下さいよー気持ち良いですよー!」
(隠しても仕方ないわよね……)
「美鈴、実は私泳げないのよ」
「えっ」
今まで泳がなければいけないと言う状況が無かったので、泳いだ事が無いと言うのが本当は正しいのだが。

「じゃあ私が教えてあげますよ!」
「えーと、そうね、ならお願いしましょうかしら」
せっかく来たのだし、美鈴と泳ぐ練習をするのも悪くは無いだろう。
そう思った私は、美鈴の方へと水を掻きわけて歩いていく。

目の前にたどり着くと、彼女はいきなり私の両手を取った
「離さないでくださいねー」
「わ、わかったわ」
美鈴は私の手を掴んだまま沖の方へと歩き出す。
招かれる様にしてついて行くと、やがて足がギリギリの距離まで辿りついた。

「良いですか? 私が手を掴んで居るので、おもいっきり息を吸って顔を水につけて下さい。あ、足も浮かしちゃって良いですよ」
「わかったわ」
言われるがままに息を吸い込み顔を水につける。
そのまま体を沈めて行くと、美鈴がゆっくりと両手を引っ張り出した。
美鈴に引っ張られ、体が水面へ浮いて行く。
普段感じえない浮遊感が何ともくすぐったい。

「ぷはっ、こんな感じでいいの?」
「はいっ! 上出来ですよ咲夜さん!」
苦しくて思わず肩で息をしてしまう。
だが、この程度なら簡単に済みそうだ。

「それじゃあ次はさっきの状態で足をバタバタしてみましょう」
美鈴に促され、海面に顔をつける。
耳まで水に浸かると、自分の心音以外ほとんど聞こえなくなるのが何とも不思議な感触に思える。
そんな感触を楽しんでいると、先程の様に美鈴が繋いでいる手をゆっくりと引っ張り始めた。

私はそれに合わせるように、両足を動かし水を力強く蹴る。
すると、引っ張られるよりも早く私の体が進みだした。
走ったり飛んだりするのとは似ても似つかないその感覚は、確かに何か面白い物があるのかもしれない。

「ぷはっ!」
息が苦しくなって顔をあげると、濡れた髪の毛が頬にベタリと張り付いた。
「やりましたね咲夜さん!」
張り付いた髪に不快感を感じるのと同士に、柔らかい塊が顔に押し付けられた。

「ちょっ……」
「あはは! さすが咲夜さんです、呑み込みが早いですね! 私もなんだか嬉しいですっ」
どうやら我を忘れて抱きしめているらしい。
美鈴の笑い声を聞きながら、温かい彼女の胸に顔を埋める。
恥ずかしさを通り越して、安心してしまっている自分になんだか笑ってしまいそうだ。

「はっ、すいませんはしゃぎすぎました」
ようやく自分の状態に気付いたのか、ホールドを解放してくれる。
「ご、ごめんなさい、嬉しくってつい」
こほこほと、小さく咳をして息を整えると、満面の笑みを浮かべる美鈴と目が合う。
はしゃいでいた事が恥ずかしいのか、美鈴の顔が若干赤くなっている。

「えへへ」
「な、なによ」
「咲夜さんのお役に立てたと思うと嬉しくって」
どうやら顔が赤いのははしゃいで恥ずかしいだけではないようだ。
(まぁ、そんな美鈴の顔が好きなのだけれど)
そんな事を思いながら美鈴に笑いかける。

すると、美鈴は満足そうに伸びをして私に背を向ると、沖の方を指差した。
「ささ、早く泳いで遊びましょう! どっちが早く泳げるか競争ですよ」
そう言うと美鈴はバタ足で沖の方へ泳ぎだしてしまった。
かなりのスピードで進んでいるが、運動神経は私だって負けてはいない。

(よし……)
私は大きく息を吸い込むと、美鈴を追うようにして泳ぎ出した。
水を強く蹴るとそれに反発するように力が押し返してくる。
それを楽しむようにしながら美鈴の後を追って行く。

「――っ!?」
と、その時唐突に片足に痛みが走り、思わず顔を歪める。
(足が……吊った!?)
思うように足が動かず、体が水の底へゆっくりと沈んで行く。
(くっ、まずい息がっ)
なんとか海面に顔を出そうと動く片足と両手を必死に動かすが、それでも体は沈んで行く一方だ。

やがて堪え切れなくなり、口の隙間から空気の泡が漏れ出し音を鳴らした。
(美鈴……)
暗転していく意識の中、何時もそばで笑顔を浮かべている彼女の顔が浮かび、消えて行った。

☆★☆

うすらぼんやりとした意識の誰かが私の名前を必死に叫んでいる。
「――ん! ――やさん! 咲夜さん!!」
「!? ごふっ! ごほっごほっ!!」
「咲夜さん! 咲夜さん! 大丈夫ですか!?」

目を覚ますと、ぼやけた視界の中に心配そうな顔をした美鈴が映った。
夕日で赤く染まった空がその向こうに見える。
どうやら砂浜で横になっているようだ。

「ああ! 良かった本当に良かった……咲夜さん!!」
私が目を覚ました事に気付くと、安心したのか目尻に溜めていた涙がぽろぽろと溢れだすように流れ出した。

「ごめんなさい、ごめんなさい咲夜さん……」
そして嗚咽を漏らしながら、美鈴は何度もごめんなさいという言葉を繰り返し呟いた。
「何泣いているのよ」
「だ、だって私のせいで咲夜さんが……私がもっと注意していれば」
そう言いながら美鈴が両手でぐしぐしと目を擦りだす。

私はそんな美鈴の頬に手を伸ばして優しく触れると、彼女は一瞬体をビクッと震わせ硬直した。
「もう良いのよ、気にしないで」
表情を固めた美鈴は、ゆっくりとした動作で目を擦っていた手をどかすと、頬を触れている私の手の上に自分の手を添えるようにして被せた。

「咲夜さん、その、ごめんなさい」
「まだ謝るの?」
「違うんです、そ、その、助ける時、気絶していた咲夜さんに仕方なく人工呼吸をして、その、き、キス、を……」
夕焼けの日差しよりも、美鈴の頬が真っ赤に染まっていく。
それを見ていると、なんだか無性に悪戯をしたくなってきた。

「そうなの、初めてだったのに」
「えっ!? そ、それは、その……」
「だから――」
横になっている私を横から覗き込むような体制をしていた美鈴の肩を掴み、グッと私の方に引き寄せる。
すると、バランスを崩した美鈴が私に覆いかぶさるように倒れてきた。
私はその体を両腕で抱きかかえるようにしっかりと受け止めると、背中から頭の後ろに腕を回し、目と鼻の先にあるその唇に優しく自分の唇を押しつけ、その唇を奪い去った。

「――っ!?」
目をつぶり、果てしなく長い2秒をたっぷりと味わった後、抱きしめていた腕をはなすと美鈴がゆっくりと離れて行った。

驚きに固まったその表情は、ゆでダコのように真っ赤に染まっている。きっと私も今こんな顔の色をしているのだろうか?
「記憶にないファーストキスなんて嫌よ」
「あは、あはは、あはははは」
どうしていいのか分からず、笑うだけの美鈴。
それを見ていると私も無性におかしくなってきて、いつの間にか二人して大笑いをしていた。

☆★☆

「ただ今戻りました」
「おかえりなさい咲夜、少しは楽しんできたかしら?」
あの後夕日を二人で座って眺めていると、行きの時同様にスキマに吸い込まれ紅魔館の前へと戻って来た。

結局少ししか二人で泳ぐ事は出来なかったけれど、とても有意義な時間を美鈴と二人きりで過ごせたので、私はとても満足している。
「その顔を見る限り、満更でもなかったようね。まぁそれならよしとするわ」
玄関の前で私を待っていたお嬢様は、そういうと居間の方へと歩き出す。
「咲夜、美味しい紅茶を淹れて頂戴」
「はい、かしこまりました」

こうして、私と美鈴のお休みデートは幕を閉じた。
なんだかんだで、お嬢様に助けられてしまったような気もするけど、この際それも良しとしよう。
そんな事を思いながら唇を右手の人差指でなぞり、私は時間の止まった世界でお嬢様に紅茶を出すためお湯を沸かすのだった。
週1SS第4弾。
調子が悪くていつもの半分以下の出来だと思う……
時間かかった割に申し訳ないorz

ところでこれどっちが攻めなんだ?w

ちなみに主はガチで海で足が吊った事がある、皆もきちんと準備体操してから海に入ろうな!

制作7日
文字数「5,933」

6/20追記
誤字訂正いたしました。
那津芽
http://twitter.com/#!/seihixyounatume
コメント



1.こじろー削除
で書ける→出かけるかな?
かわいいよさくやさん!
さらにスキマなにしてんだ(笑)
2.那津芽削除
こじろーさん
コメントありがとうございます!
ぬわー!見落としておりました。
指摘ありがとうございます。

ぜっ不調でおいおいお状態ですが気に行っていただけたなら幸いです!