「疲れた…」
紫様の忠実な従者にして八雲家の頼れるおさんどん(自称)、八雲藍は結界管理の仕事を終え帰路についていた、現在道端の石に腰掛け休憩中である。
「ふーっ」
ため息をつくと幸せが逃げるわよと主に言われたのは果たして何年前だったか、紫様、私の幸せがどんどん逃げていっている理由の一つにあなたの怠け癖があることを忘れないでおいてください。
「っと…危ない危ない」
危うく煙草を吸う所だった、橙も紫様も煙草の臭いが嫌いだ、下手をすると家に入れてくれないから困ったものだ、この間はうっかり吸ってしまって締め出され、一時間ほど入れてくれなかった、橙は猫だから仕方がないがなぜ紫様まで私を追い出そうとする、というか締め出すのは主に紫様だが…あれか、少女臭か、畜生、少女臭め。
現在私と紫様はマヨヒガで生活している
その原因は何とも説明しづらいが数日前にさかのぼることになる。
その日紫様は珍しく日中起きてきて更に珍しいことに宴会を開催することをその日のうちに決定し、更に更に珍しいことに開催場所を八雲家の屋敷の庭としたのだ。
こう珍しいことが立て続けに起こると嫌な予感がするのだがそれはありがたくないことに的中し、鬼と天狗の力で集められ開催された宴会で八雲家は爆発した。
何を言っているかわからないと思うが私にもわからない、説明しようがない、爆発の騒ぎの中で天狗は「爆発オチ…」と言っていたがあれはなんなのだろう、
後々聞いた話だがあの時二人いた天狗…射命丸ともう一人…確か姫海棠だったか、姫海棠の方は爆発のあまりの衝撃で家に引きこもってしまい「お外怖いお外怖い…」と呟いているそうだ、申し訳ないことをしたが私は多分犯人ではないので謝らなかった。
「どっこい…しょっとぉ」
ああ、いつから私はこんなおっさん臭い言葉を言うようになってしまったのだろう、数年前か数十年前か、あるいは紫様の従者になってからずっとかもしれない。いや言葉遣いのみならず内面までおっさん臭くなってしまっている、まず楽しみと言えは風呂に入って熱燗を飲むことだ、あれは良いが今思い返してみると非常におっさん臭い、頭にタオルのっけて「ふぃー びばのんのん」という姿などはどこの親父だといわれても可笑しくはない。
「いかんな」
このままではいけない、このままでは内面どころか外見までおっさん化してしまう、金毛白面九尾のおっさんなんて幻想郷には似合わない、なんとかしなくては、取り戻せ傾国の美女だった自分。
「あ、おかえりなさい藍様」
「お、ただいま、橙」
「ご飯にします?お風呂にします?」
「んー、じゃあまず風呂で」
「はーい」
まずは少女らしい趣味を見つける事から始めよう例えばそう…ファッション、里の方にあの山の風祝が始めた服飾店があるらしい、森の人形師が全面協力、とか言ってたな、その人形遣いはなぜか巫女服で風祝と一緒にいたが。
「お、いい湯加減」
「藍様熱めが好きでしょう」
「そうだな、あ、橙、熱燗持ってきてくれるかい」
「はい藍様、もう準備できてますよ」
「む、いやに準備がいいな」
「だって藍様これ飲むの習慣じゃないですか、覚えますよ」
ふむ、明日時間を見つけて行ってみよう、買い物に行くついででもいいかもしれない
「ふぃー 極楽極楽」
しかしやっぱり仕事の後の風呂は良い、明日への活力がわいてくる、これさえあれば明日も乗り切れる気がするな。
「あら藍、帰ってたの」
「紫様いつ起きたんですか」
「たった今」
「住まいが変わってもあいからわずですね…」
「あら何、文句でも?」
「いえ何も」
まったくこの方は、私が言い返せないことを知ってて言うからたちが悪い
「はいはい、ご飯冷めちゃいますよ藍様、紫様」
「お、すまんな橙」
いかんいかん、危うく飯が冷めてしまう所だった、しかしいつ見ても橙の作る料理は旨そうだ、ぴかぴか光る白米と人参とごぼうのきんぴら、わかめと豆腐の味噌汁、小皿には納豆、味覚に良し、嗅覚に良し、完璧な晩飯だ。
「じゃ、さっそく…いただきます」
はふっ、はむはむ、と白米を口にかっ込む、ぴかぴかに光るご飯は個々の存在をしっかりと主張していて噛みしめるとじんわりと甘みが出てくる、横を見れば紫様もご飯をかき込んでいる、行儀が悪く見えるがこれはご飯の旨みを引き出させるための神聖な儀式なのだ、ただ、こんなに旨そうな米を前にしてかき込まずにはおれようか。
米の甘みが口内に残っているうちに味噌汁をすする、決して飲むのではない、すするのだ飲むのなど邪道だ、味噌汁はすすってこそ味噌汁なのだ、わかめの味も良い、紫様が外の世界からとってきたこのわかめは赤味噌とよく絡み合い、口の中で広がる、新鮮な海藻の味、これを食すと生きる意欲がわいてくるようだ、まさに母なる海、海って素晴らしい。
きんぴらも絶品だ、野菜は人里の平助という農家が作っているらしいがこの農家は八雲家が数代前から贔屓にしている農家だ、野菜は大地のパワーを存分に吸収したようで、しゃきしゃき、こりこりとした音は聴覚も楽しませてくれる、味付けも完璧で胡麻の香ばしさとぴりりとした甘辛さが口の中でハーモニーを奏でているようだ。
「橙、また料理の腕上げたんじゃないか?」
「ほんと、上手くなったわね」
「ありがとうございます!えへへ」
早く家に帰れないと橙がおなかをすかせてしまう、という理由で橙に料理を教え始めたのが3年前、今では里にもこれほど旨い料理を作る者は数少ないと思えるまでになった、あくまで身内びいきだが。
料理良し、器量よしともなれば将来嫁さんに引く手あまただろう、…ん…嫁…?
「いかん…いかんぞ橙」
「は?なにがですか?藍様」
「ちょ、ちょっと藍何を…」
「嫁はいかんぞぉぉぉぉぉ!」
こんな可愛い娘を嫁なぞに出せるか、婿なんかが来たら私が張り倒してやる
「落ち着きなさい」
「絶対にはぶぅっ!?」
叫んでいたら後頭部に鈍い衝撃が、誰かと思ったら紫様が隙間から交通標識を頭にぶつけてた…人間だったらこれ死んでるな。いてて
「何をするんですか紫様」
「あのねぇ…親馬鹿もいい加減になさい、橙はあなたの式よ、嫁なんかに行くわけないじゃない」
そうか、そうだったな、橙は私の式だから嫁になんか行かないもんな、ひゃっほう
食後私は縁側に座り胸元をパタパタと仰いでいた、熱い料理を食べるとどうしても体が火照る
「ふむ、明日は里に言ってファッションの勉強か」
「あら、藍こんなところにいたの」
後ろから紫様が声を掛けてきた、従者ならば向き直らなくてはいけないのだろうが今はそんな気力はない
「何のご用でしょう、紫様」
「普通そういうときはこっちに向き直るものじゃないかしら」
「いえ、今はそんな気力はありませんので」
「…そうはっきり言われても困るわ」
そう言われても今は動きたくない、このまま家でごろごろしていたい
「まぁあなたは昔からオヤジ臭かったから仕方ないかもしれないけど」
…ん?今聞き捨てならない言葉が聞こえた気が…
「あなた大陸にいたころからそんな感じだったじゃない、部屋でぐーたらしていてよく太らないわと思っていたもの」
…ってことはこのオヤジ臭さは最近のものではなく昔から…ってこと?
え?え?何それ…
「えっと…藍?」
何じゃそりゃあぁぁぁぁぁぁ!
混乱した藍から桁違いの量の妖力が迸り
マヨヒガは爆発した
味噌汁にはわかめじゃなくて油揚げだろ?
髭は消え去れ。
だがそれがいい。
この藍様はそのうち「よっこいしょういち」とか言うね、多分。
ところで地の文の「、」が多すぎる気がしました。
もうちょっと「。」で締めてもいいんじゃないかと。
(たとえば、>きんぴらも絶品だ。野菜は(中略)贔屓にしている農家だ。みたいな)
好みの問題かもしれないけどね。
と、思っていたら最後も爆発オチだった。ちきしょうスキを生じない二段構えの抜刀じ・・・じゃなかった 爆発オチかぁ
某所ではおっしゃまってタグがあるぐらいメジャーだわ。
なにがいいたいかつーと、書き上げてくれてありがとう。お腹が空きました。
先生……藍お父さんに紫お母さん、さらには妹の橙に囲まれた生活がしたいです……。