「霊夢と魔理沙の初夏お泊まり会」
朝特有の何処か透き通った空気が辺りを漂い、外から小鳥の鳴き声が部屋まで聞こえている。
まどろみに沈んだ意識の中ゆっくりと目を開くと、小さく開かれた襖から光が伸びて部屋を照らし、神秘気的な様子を作り上げていた。
両手で目を擦り布団の中で小さく伸びをすると、伸ばした腕が何か温かい物にぶつかった。
「んぅ……」
それは小さなうめき声をあげると、私の上にかかっていた肌掛けを持って行ってしまう。
少し冷たい風が火照った体に心地よい。
「ん~? 朝か~?」
そんな事を横になりながら思っていると、眠たそうな声を上げながら肌掛けを持って行った犯人霧雨魔理沙が私の横で起きあがった。
「霊夢はまだ寝ているのか」
ゆっくりとした動作で魔理沙は私の方を見てそう言った。
本当は起きているのだが少しからかってやろうと、私はそのままジッとしている事にした。
「ん~良い朝だ」
そんな事も知らず、隣では髪の毛をぼさぼさにした魔理沙が気持ち良さそうに伸びをした。
「ふふふ、それにしても霊夢の寝顔は可愛いぜ」
呑気な魔理沙に内心ほくそ笑んでいると、魔理沙の思ってもいない突然の言葉にドキッとしてしまう。
慌てて起き上がろうとすると頭に優しく手が置かれた。
そのまま、ゆっくりと私の髪を魔理沙の手が撫でて行く。
「良く寝てるな、いい夢を見ているといいんだが」
起き上がれない私に構う事無く一人満足そうにつぶやくと、自分が持って行った肌掛けを私に掛け直し彼女は部屋を出て行った。
「ばかっ、顔が熱くて寝る所じゃないわよ……」
私は掛け直された肌掛けを手に取ると、赤くなった頬を隠すようにそれを目の下まで持ち上げた。
☆★☆
結局しばらくしてから私は寝坊を装って、魔理沙の居る居間へと移動した。
「おっ、起きてきたな」
「悪いわね、寝坊したわ」
「霊夢がゆっくり寝れたんならそれでいいぜ。どうせ今日は一緒に居る訳だしな」
魔理沙はそう言って満面の笑みを浮かべた。
思わず先程の事が頭をよぎり、その笑顔に思わず顔が赤くなってしまう。
「朝ご飯、今作るから」
「おう」
魔理沙の元気な返事を背中に、私はそそくさと逃げ出すように台所へと走り出した。
「魔理沙って朝パンだったわよね?」
「ん~? 別にパンでもご飯でも構わないぜ」
朝はご飯と決めているので、パンが良いと言われたら買いに行かなければいけないのだが、この様子ならご飯でも構わないだろう。
とりあえずご飯とみそ汁は昨日の残りを食べるとして、ちょっとしたサラダの付け合わせぐらいほしいだろうか?
私は余り朝多く食べないのだけど、魔理沙は食べるだろうし……
そんな事を考えながら、私は竈に木をくべると手際よくいらない紙などを詰めてマッチで火を起こす。
「霊夢ーあたしも手伝おうか~?」
「狭いし簡単な物で済ませちゃうから座ってて良いわよー」
ほぼ無意識のレベルで魔理沙にそう返事をすると、暗所に仕舞ってある野菜達を取り出す。
綺麗に水洗いすると、良く研がれた包丁でそれらを適当なサイズに切って行く。
切ったトマトとキュウリを白いサラダボウルに見栄え良く並べると、そこにレタスを数
枚添えて完成だ。
「ん~後はみそ汁を温めて、少しご飯を蒸して温めて……」
竈が丁度良い火力になったのを見てみそ汁とご飯を載せる。
ご飯は少し水っぽくなってしまうが、冷たいままよりは遥かに良いので蒸して温めるとしよう。
竈の火のおかげであっという間にみそ汁もご飯も温まった。
お茶碗と汁椀にご飯とみそ汁を装う。
お盆に載せてそれをテーブルに運ぶと、暇そうな顔をしてテーブルに突っ伏していた魔理沙がみそ汁の匂いに誘われてか勢いよく起き上がった。
「お待たせ」
「おお、待たされたぜ」
いつも通りのやり取りをして、料理をテーブルに並べていく。
魔理沙は膝立ちをして料理が並べられるのを上から待ち遠しそうに眺めている。
「ほらほら座りなさい、落ち着きが無いわよ?」
「霊夢の作る飯は旨いからな、楽しみになるのは仕方ないだろう?」
わくわくと落ち着かない様子で魔理沙が体を揺らしている。
そんな魔理沙の対面に座り箸を渡すと
「それじゃあ」
「「いただきます」」
二人そろって挨拶をし、朝食を食べ始めた。
「ご飯とお味噌汁は昨日のだけど許してね」
「霊夢の飯はどれも旨いから気にならないぜ? むしろ本当に残りかと疑うほどだ」
「ふふふ、ありがと。素直に嬉しいわ」
褒められて嬉しくないわけがない。思わず顔が緩んでしまう
「何時も一人だからあまり気にしないんだけどね」
「おいおい、一人でも食事に気をぬいちゃだめだぜ?」
魔理沙が食べ物を口に入れたままもごもごと声をあげた。
「そう言う魔理沙こそちゃんと栄養考えて食べてる?」
「あたしは霊夢が作るので補給するから良いんだよ」
確かに魔理沙は良く神社に来てはお昼や晩ご飯を食べて行く。
まぁそれをなんだかんだで許してしまう私も悪いのだろうけど……
「そう言えば、普段魔理沙は家でどんな食事を作るの? あ、キノコ料理以外でね」
「キノコ料理以外? う~ん、そうだなぁ……」
魔理沙は箸の先端を咥えたまま上下に揺らしだした。
口から落とさないよう器用に動かしながら考えている。
「そうだな、この間シチューを作ったな」
「へぇー思っていたよりしっかりした物を作るのね」
もっとガサツにどさっと何か纏めて作ったりしているのだと思ったのだが、流石にそんなことはないようだ。
「アリスが野菜を持ってきてくれたんだ、お礼にあたしの取ったキノコ達と煮込んで食事をごちそうしたのさ」
「へ、へぇ~? そうなの、知らなかったわ」
アリスの名前を聞いて心の奥の方にドロドロとした物が溜まっていくのを感じてしまう。
そんな事も知らずに、魔理沙は自慢げに話を続ける。
「本当は霊夢も誘おうって言ったんだが、アリスが二人分しか材料がないって言うもんだからな」
「ああ、そう……」
一瞬どうしようかと焦ったが、魔理沙がいつも通りすぎて逆にアリスがかわいそうに思えてきた。
今度晩酌に誘っても良いかもしれない。
「それで? ちゃんと作れたの?」
「ああ、大成功だったぜ」
「ふ~ん」
そんな事を話しながら食べていると、いつの間にかすべてのお皿が空っぽになっていた。
「旨かったぜ、御馳走さま」
「お粗末さま。私は少し食べ過ぎなぐらいね」
満足そうにその場で大の字に寝転がると、魔理沙は大きく息を吐いた。
「食べてすぐ寝ると太るわよ」
「あたしは良く動くから大丈夫なんだよ」
顔も上げずにそう言うと、魔理沙は帽子を手に取りそれで自分を煽ぎ出した。
初夏を迎えている幻想卿はじめじめとした暑さが続いている。
「あーそう? じゃあ私は境内の掃除をしてくるわ、ゆっくりしててね」
「言われなくてもそうさせてもらうぜ」
私はそう言うと、神社の表へと向かって歩き出した。
途中で納屋から竹箒を引っ張り出すと、境内に落ちた枯葉を掃き出す。
「はぁ~……人は来ないのに枯葉だけは溜まっていくのよねぇ」
ブツブツと文句を言いながらあちこちに散らばっている枯葉を集めて行く。
夏前と言う事もありそんな量では無いので小さな山が一つ出来あがった程度で済んだ。
「それにしても暑いわねぇ、たったこれだけの作業で結構汗を掻いたわ」
太陽を睨みつけるような勢いで空を見上げると、丁度木が太陽を隠していた。
「憎たらしいわね……あ」
と、そこで枯葉を捨てる時に入れておく袋を持ってきていない事を思い出した。
「その辺に捨てちゃえばいっか」
納屋に戻っても良いのだが出来ればはやく日の当たらない場所に移動したい。
私は境内を囲んで生えている草の固まりに枯葉の山を突っ込んだ。
「まぁ自然に帰してあげたって事で」
そう綺麗にまとめて、納屋に箒を戻して魔理沙が居る居間へと戻った。
☆★☆
「ただいま」
「お疲れー。こっち着て一緒に横になろうぜ~」
魔理沙が気だるそうに手招きをしている。
「んー……そうね、疲れたしそうしようかしら」
縁側に座ってお茶でも啜ろうかと思っていたが、せっかく誘われたのだしゆっくりと寝転ぶのも良いだろう。
「ふふふ、お昼寝だな」
「呑気なもんねぇ……でもここ、涼しい風が吹いて気持ち良いわ」
ぶら下げてある風鈴が時折吹く風によって綺麗な音色を奏でている。
「ああ、ここは最高の場所だよ。くぁ~」
魔理沙が眠たそうに大きなあくびを一つした。
「なんだか眠たくなってきたな」
「そうね……」
ご飯を食べた後の満腹感、程良く動いた後の疲労感が優しい睡魔を訪れさせる。
私と魔理沙は、どちらからともなく眠りに落ちて行った。
「んぅ……?」
少し肌寒く感じて目を覚ますと、空の彼方に綺麗な夕焼けが顔を覗かせていた。
「あれ、もうこんな時間」
起き上がり時計を見ると、既に6時を回っている。
「良く寝たわね~」
ぐ~っと体を伸ばすと、体のあちこちがポキポキと小気味よい音を立てた。
隣を見ると、魔理沙が気持ちよさそうに寝息を立てながら眠っている。
「まだ寝ているのね……」
すやすやと一定のリズムを保って胸が上下していた。
「それにしても、寝相が悪いわね」
隣で寝ていた筈なのに、いつの間にか少し先の方で魔理沙が寝ていた。
しかもどうしてそうなったのか、服の裾がめくれあがってお腹が露出してしまっている。
「まったく、世話が焼けるわね」
思わず呆れを通り越して微笑ましさを感じる。
とりあえず捲れた服を直してあげ、私は台所へと向かった。
☆★☆
(ん……?)
寝ぼけて霞んだ意識の中で、誰かの声が聞こえる。
(誰だ? 霊夢……?)
だんだんと意識が覚醒していくにつれて、その声がはっきりと聞き取れるようになってきた。
(んぅ、温かい?)
自分の頭が何か柔らかくて温かい物の上に乗っていると言う事に気が付いた。
頬に返って来る確かな弾力。優しく包み込んでくれるような香り。
(これ、もしかして……)
確かめる為に薄眼を開けると、すっかり暗くなった外が眼前に広がった。
大きな月が庭先を照らし、自分達の少し先を明るくしている。
電気はつけていないのか、部屋の中は月明かり以外の明かりが灯されていない。
(しまった、もう夜か……)
そんな事を思いふと視線を下に向けると、丸い膝頭が見えた。
(あれ、これもしかして―――)
そこで自分が膝枕をされていると言う事に気付いた。
(!?)
かあぁぁっと顔が熱を持っていき、体が熱くなっていく。
(どどどっ、どういう事だっ!? たしかあたしは霊夢と一緒に昼寝をしていて……)
突然の事にテンパっていると、頭上から声が聞こえてきた。
「はぁ~、起きないわね、魔理沙」
(――っ!)
ドキドキと心臓が早鐘を打ち、背中を冷や汗が伝って行く。
「元気なあんたが好きなんだけどね~」
コトンと、近くにグラスを置く音がやけに大きく聞こえた。
(なな、何言ってるんだこいつ!?)
「ふふ、それにしても魔理沙の寝顔の方がよっぽど可愛いわよねぇ」
つんつんと、頬を突かれる。
爪先が刺さって少し痛い。
「はぁ~月が綺麗、お酒がおいしいわ」
こくこくと、何かを飲む音がする。
「あ、なんだ酔ってるのか」
「!?」
急に膝からあたしが起き上がったからか、霊夢が驚いて口に含んだお酒を噴き出してしまったようだ。
「げほっ! ごほっ! あ、あんた起きてたの!?」
「まったく、酒を飲むなら起こしてくれよ」
良く見ると霊夢の横にお盆が置かれていて、そこに日本酒の瓶と逆さに置かれたグラスが一つ置かれている。
「貰うぜ」
あたしは霊夢の返事を待たずにグラスを手に取ると、その中にお酒を注いだ。
一口飲むと、日本酒特有の芳醇な香りが鼻を抜けていく
「かーっ! うめぇ」
「ちょっ、ちょっと片付け……」
「いいじゃねぇか、明日昼間にやれば」
「もう……でも、それもそうね」
そう言うと霊夢が隣に移動してきて、空になったグラスにお酒を注いだ。
「乾杯」
「ああ、乾杯だぜ」
静かな夜に、二人だけの声が静かに響いていた。
~End~
普段はパン派だけど、霊夢に合わせてどっちでもと言う魔理沙の心遣いである。
そう補完すれば、レイマリもふもふ。
あと、アリスは泣いていい。
なんにせよアマアマ。
あと、アリスは泣いていい。
コメありがとうございます!
よくよく考えたらその通りですな、勝手に和食の方が好きそうだなとか思ったがそんなこたぁなかった!
魔理沙は空気読む子、霊夢はそんな魔理沙に支えられているのさぁ!
アリスは陰で上海に涙ながらに話すのでしょうね(´・ω・`)
>>アジサイさん
コメントありがとうです!
「私」と「あたし」で悩んで、個人的に「あたし」かなぁ~?と、そうしたが素直に「私」にしておくべきでしたな(´・ω・`)
甘い小説って難しいなぁと思って書いて居たのでアマアマだと思ってくれたなら幸いです!
何時かアリスが報われる日も来るはず!w
あとアリスは泣いてていい