Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

望みと暮らしと伸ばした手

2011/06/08 22:41:36
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 澄み渡った青空に、手を伸ばしている。
 それが自分の癖だと気付いたのは意外と最近のことだった。
 おそらくずっと昔から、それこそまだ私が人間で子供で、視界に広がる手の平が今よりずっと小さかった頃からこうしていたのだろうとは思う。
 船の上から、名前も知らない鳥を見上げていたとき。
 命を失って海底に囚われていたとき。
 救い出されて、恩人と同じ夢を目指していた頃も。
 再び封じられて無為に過ごした時間も。
 大切な人を救い出すと決心したあのときも。
 そして今、全てをやり遂げて平穏を手に入れた後でも。
 気がつけばこうして、大空に向かって手を伸ばしている。
 見上げた先にはいつでも、私の目指したものがあった。
 だけど、手の平の先に広がる景色はいつも違っていた。
 水面の先から薄っすらと差し込む太陽の光。夢想家と笑われたあの人と見上げた青空。騒がしい街を見下ろす、土くれの天井。
 
 何かが欲しくて手を伸ばしていたことに間違いはない。

「……おはよう」

 差し込んでくる光に目を細めて、誰に向かってでもなく挨拶した。
 目覚めた直前に見たのは私達の部屋の天井で、ぼんやりと回転を始めた頭が朝が来たのだと実感する。こうやって太陽の下で暮らすようになって、地底暮らしだったころの自分は随分とのんびりした生活をしていたのだと思う。
 空の色が変わらない世界というのは慣れてしまえばどうということもないが、いざ地上で暮らし始めると、どうやって生活のリズムをとっていたのかと不思議になる。
 力尽きたように、伸ばしたままの手を布団の上に落した。薄っぺらい布団は私の手を妙に優しく包み込んだ。覚醒も半ばだった脳が急激に鈍っていく気がした。このままもう一度、とそんな誘惑が全身を襲った。
「駄目だな」と、自分を笑った。
 私は短く息を吐いて、無理矢理身体を起こした。
 ゆっくりと部屋の中を見回して、地底の家は狭かったなと笑った。
 布団を三つ並べて、それで面積のほとんどを占めてしまうのだ。独りで暮らせばそんなに狭くもなかったが、そんなことできるはずもなかった。寝返りをうって隣に肘うちそのまま喧嘩に発展、なんてことは日常茶飯事だった。

「ようやくお目覚め?」

 襖に人間の形の影が映っていた。私はそれで完全に目が覚めた。

「おはよう、一輪。起きるの早いね」
「村紗が遅いのよ。もう朝御飯の用意できてるのよ?」
「あぁ、ごめん」

 襖が流れるように開いて、着流し姿の一輪が顔を出した。髪が微かにぬれていて、頬に張り付いていた。日に当たりたがらない肌が眩く輝いていた。私は厚く息を吐いた。

「どうしたの、ぼーっとしちゃって」
「ときどき、不思議な感じがする。なんていうかな、目が覚めたら違う場所にいるみたいな」
「そうかしら、私はそうでもないけど。長い間お日様の下で暮らしてなかったから、もしかしたら時差ぼけってやつかもね」
「一輪は器用だから」
「関係ないと思うけど?」
「寝ている間に寝ぼけたぬえに殴られた回数、覚えてる?」
「ゼロね。村紗が間にはいって、代わりに殴られてたから」
「あぁ、そっか……っと」

 自分に気合を入れて布団から抜け出した。うんと身体を伸ばして、廊下で深呼吸していた一輪の隣で同じように空気を吸った。それで改めて、目覚めの実感が湧いた。

「…………む」

 気がつくとまた、手を伸ばしていた。まだ低い太陽に向かって、真上じゃなくて45度くらいの角度。唇を尖らせて肩をすくめて、開いた指をゆっくりと閉じた。

「どうしたの?」
「なんでだろってね、最近思うようになった。ねえ一輪、私の癖気付いてた?」
「癖って、よく手を伸ばしてるやつ?」
「そう」
「そりゃあね、ずっとだったもの。別におかしいものじゃないと思うけど?」
「私は何が欲しいんだろう、ってね」
「なにそれ。朝っぱらからそんなこと考えてたら、気が重くなるわよ?」

 一輪は小さく笑う。私は握ったままの手を、一輪に向かって伸ばした。

「この手の先には、私の欲しいものがあります」人差し指だけをピンと立てる。「私は光が欲しかった。生きてるときに大好きだった、太陽の光が」二本目の指を立てる。「地底の天井を越えて、聖を救い出したかった。背伸びまでしてたよね」みっつめの指を立てて、「生きてるって実感がある。大事な人と、大事な家族がある。私が欲しいものは全部そろった」もう一度、重く息を吐いた。「それでも、私はこうやって手を伸ばしてる。何が足りないってんだろうね」
 私は指を一気に開いた。そのままゆっくりと、一輪の胸元に近づけていく。パチン。一輪はすばやくその手を叩き落とした。

「あ、ひどい」
「え? いや、朝からいきなり何するのかって……つい」
「そんなつもりじゃなかったのに……」
「うそ。悩んでるふりしていやらしい顔してた!」
「無意識じゃないかな」
「開き直ったわね! そうやってなんでも無意識で澄まされるのはこいしちゃんだけよ!」
「いや、だから、なんだかぼんやりとして……」

 何を言っているのか自分でも分からない。
 何故一輪の胸に手を伸ばしたかといわれても無意識にとしか言いようがないのだ。

「──ただ、いちさんの着物姿がエロッぺぇから手が動いただけだよ!」

「本音が出たわね、村紗」一輪は着物の合わせ目を閉じて、身をよじってしまう。あぁ、と。多分私じゃないだれかの声がした。
「──いやいやまさか! 何も言ってないって!」
「恥らういちさん超カワイイって思ってるね!」
「だからそんなこと思って──っ」言いかけて、ふ、と気がつく。「……ん?」
「あら?」

 私達はそろって縁側の先を見た。
 じっと目を凝らすと、点々と植えられた木の隙間に見慣れた帽子のつばが見えた。

「気をつけていちさん! ムラさんはいつでも押し倒してぇって考えてるよ!」

 こちらへ叫びかけると、さっと木の陰に隠れる。
 この寺に生えている木々はそんなに長くは生きていないから、どうやったって隠しきれるものじゃない。

「ムラさん、いちさんも実はそんなに悪い気はしてないよ!」

 再び、隠れる。当然身体半分ほどだけ。

「……ねえ村紗。本当にいつもそんなこと考えてるの?」
「心が読めるのは、あの子のお姉ちゃんのほう」
「そうよね」

 一輪がこっちへおいでと手招きした。
 こいしちゃんは跳ねるようにしてこちらへ向かってきて、首をカクンと傾けた。「ぬえは?」
「遊びに来たの?」
「ううん、違うよ。近くを通りすがったような気がしたから」
「そう、でも残念ね。朝ごはんも食べないうちにどこかへ出かけちゃったわ」
「どこ行ったの?」
「さあ、いつ帰ってくるかもわからないわね」
「じゃ、帰る!」
「──ちょっと待った!」

 くるんと踵を返すこいしちゃん。私は慌てて襟首を掴んで引き止めていた。

「む、ムラさん苦しい……窒息しちゃう」
「ああごめん、でもせっかく来たんだから朝ご飯、食べていかない?」
「飯が喉を通るか解らないぃぃ」
 それでも駆け足を止めないのを見て、私は襟首を握ったままだということに気付いて、すぐに離した。

「朝御飯、まだでしょう?」と、私は言った。
「うん。お姉ちゃんったら『朝は一杯の珈琲があればいい』って作らないこと多いからね」
「じゃあ食べていきなよ。お魚の干物もあるよ?」
「いただきます!」

 目を輝かせるこいしちゃん。何故食事に誘ったのかと今になって不思議に思った。
 ……たぶん無意識、だと思う。


 2

 こいしちゃんこと古明地こいしは地底に居た頃からぬえの友人であり、当然私達とも色々とと交流があった。こうして地上に移り住んでからも偶に遊びに来たりして、あの街と地上は続いているのだと実感させてくれる唯一の人物だ。
 いつも元気で声が大きくて、行動は無意識又は無邪気。
 一週間に一度程度の間隔で会いに来てくれる分には楽しいのだが、この子のテンションに年柄年中付き合うとなると、正直なところ精神が持つかわからない。そういう意味では、あいつらを素直に尊敬せざるおえない。

「ごちそーさまでした!」

 もう慣れたもので、パチンと手を合わせると、自分の分の食器を持って流しへ向かっていく。
 口に干物の骨を咥えながら戻ってくると、「美味しかったです」と私達を見回して、私と一輪の間にちょこんと座った。

「相変わらず、食べるの早いわね」
 半分残っている茶碗を持ちながら、一輪が言った。
「そうかな、普通だと思うけど」
「さとりさんの所では早く食べないといけない理由でもあったの?」
「別に。だけど早く食べ終わるとたまにね、お姉ちゃんが自分のおかずをくれるんだ」
 こいしちゃんはお茶を啜りながら答える。
「なんにせよ、食事が遅々として進まないよりは全然いい」と、ナズーリン。「栄養を摂取するのも大切だが、それを消費する時間まで干渉するようでは意味はないからね。まあ、綺麗に食べようとする気持ちは尊重するべきだと思うが……」言って、意味ありげに隣に視線を流す。「ねえ御主人。いつまで干物を突付いているつもりなのかな」
「私は命を最後まで頂こうと努力しているだけです。気にしないように」
「ああ、そうかい。まあ自由にしたまえ」

 いつものやりとりを眺めながら、私は干物を口に運んだ。
「……痛」
 骨が喉に触れたのがわかった。咳き込みながら胸を叩いて、仕舞いに御飯を飲み込んだ。少しは違和感が晴れたが、どうやっても気持ちの悪さは残ってしまう。
「ムラさん、やっぱり不器用なんだ」と、こいしちゃんは面白そうに言った。
「……まあね」
「ゆで卵、綺麗に剥けるようになった?」
「さっぱりだよ。爪の間に殻が刺さって大変だ」
「へー」

「村紗ったら最近妙にボーっとしてることが多くてね。此処に住むようになってからかしら、どうかしたの?」
「なんでもないって。そう言う一輪だって結構ボーっとすること多いし」
「そう?」
「そうだよ。すくなくとも、旧都で暮らしてた頃よりのんびりしてるね」
 一輪は食卓を見回す。「そうなんでしょうか、聖。私、だらしないですか?」
「どうかしら。でも、綺麗になったと思うわ」
「え!?」
「程よく力が抜けたっていうのかしらね。前はもっと張り詰めてたように見えてたのよ? みんなのお手本にならなきゃってずっと法衣を着込んでた時期もあったわね。夏でも、冬でも」
「そんな、私なんて……」聖が平然と言い放つと、一輪は頬を押さえて俯く。そして何故か、私のほうをチラリと見た。
「どうなんだい、キャプテン?」
「……へ?」
 いきなりのふりに頭が追いつかず、間抜けた返事を返してしまう。ナズーリンは食器を重ねて、音もなく立ち上がった。
「地底でずっと一緒だったのは君だけだ。一輪は綺麗になったと聖は言った。私達が知らないのは君たちが地底にいた間だけだ。心当たりはないのかいと聞いているんだ」
「えーと、それは、まあ」
「良くも悪くも、経験は人を変えるわ。封じられた世界でよほどいい出会いがあったのね。こいしちゃんもそうなのでしょう?」
 聖が私達三人に笑いかける。私達はすぐに答えられなかった。
「それは……」
「えっと……」
 沈黙。私達はお互いを見た。暗黙のまま頷いた。
 はっきりと答えたのは、同時だった。


 3

 真っ青な空に、真っ白なシーツを広げた。
 包み込むように優しい風が身体を吹き抜けていく。
 地底に吹く風とはやっぱり違う。例えるなら何も混ざってない、色の無い風。穢れはないが、咽るような酒の臭いも混じらない。

「お姉ちゃん達なら、元気だよ」

 食事が終わって布団を干していると、背中にそんな言葉をかけられた。
 振り返ると、張り付くようにしてこいしちゃんは立っていた。帽子のつばをなぞって、ピン、と跳ね上げる。

「それを伝えにきたの?」と、私は聞いた。
「それを聞きたかったんじゃないの?」と、こいしちゃんは首を傾げた。
「わかんない」と、私は首を振る。「なんていうかな……あの街に、何かを忘れてきたみたいな感じ。でも、それが何かなんてわからない」
「探してきてあげよっか、お姉ちゃん達と」
「多分見つからないよ。形のあるものじゃないっていうのはわかってるから……」
「その手の先にあるの?」
「──え?」

 私は目を見開いて、すぐに細めた。気がつけばまた手を伸ばしていた。
 指の間から見えるのは全てを照らす太陽。近づきすぎて羽を焼かれたのは誰だっただろう。もちろんそんな高望みはしない。そもそも私の望んだものは全部、手に入っている。
 恩人がいる。家族がいる。大事な人がいる。
 黄ばみのない、真っ白なシーツを広げて。
 寝返りをうっても誰も蹴飛ばさない。うんと手足を伸ばせる部屋で寝て。
 夜になっても馬鹿笑いは聞こえない。虫の鳴き声しか聞こえない。 

 私はこれ以上に何を望もうというのか。
 今の暮らしに不満なんてあるはずが無いのに。

「それでも、振り切れてないのかな」
「なにを? 借金? お金貸したげよっか」
「違うよ。生活のこと」
「今の生活はつまんないの?」
「まさか」手を伸ばしたまま、鼻で笑う。「これが私の求めた全部だよ。文句なんてあるはずが無い」
「私はムラさん達とわいわいやってた頃、好きだったよ」
「私だってそうだよ。あの街で過ごした時間は無くなったわけじゃない。楽しかったし辛かったし、いろいろあったからね。でもだから、振り切れないんだよ」
「遊びにくる? お姉ちゃん達喜ぶよ?」
「そのうちね。今はまだ色々ゴチャゴチャとしてるから行けないけど」
「いつ遊びに来てくれるの? 明日?」
「明日は無理だって」最後のシーツを広げながら、ハハッっと笑う。すぐに唇を合わせて、口調を変えた。「……でも、そうだね」

 言われてみれば、いつでも私はあの街に行くことができるのだ。
 こっちへ出てくるときは結構無茶をやって出てきたものだから、もう二度と戻れない覚悟があった。あの街であったことを過去にして、助け出した聖たちと一緒に生きていくんだって。
 ところが今はどうだ。私達が出てきてからすぐに地底で一悶着あったようで、終わってみれば幾らかの交通の自由が出来てしまった。

「お姉ちゃんはまた、いちさんと一緒にお料理したいって」

 簡単だ。その気になれば本当に明日にだって。……いや、今日にでも実現できる。

「ふたりで作ったケーキ、美味しかったなぁ」

 恍惚とした表情を浮かべて、こいしちゃんはくねくねと身をよじる。
 そのまましばらく、物干し竿の周りを歩き回りながら旧都の現状を話した。
「ペットの中ではいちばん弱っちかったお空がね、今じゃあ地底の太陽なんだよ」
「ヤマメお姉ちゃん達が今度は服とか作り始めちゃってさ、結構人気あるんだこれが」
「勇儀お姉ちゃんがね、地上のお酒飲み過ぎて倒れちゃった。初めて見たよ、あんなに真っ赤な顔」

 変わらないな、と口元が緩んだ。
 色々なことが変わっていたけれど、私の頭に浮かんだ街の風景は、何も変わっていなかった。
 地獄と呼ばれた場所で明るく笑い騒ぐ連中。
 最初は能天気な奴らだと思ったものだ。望んでやってきた者なんて居るはずも無い、そんな文字通りの地獄で笑っていられるなんて、と。
 だけど、そんな連中の中にいた自分も、気がつけば確かに存在していた。
 一輪と一緒に宴会で死ぬほど飲まされて。悪戯ばかりしていたぬえを追い掛けて街中を駆け回った。心を読まれてる感覚は最初は正直気味が悪かったけれど、しばらくしたら慣れてしまった。気がつけば子供みたいに喧嘩したり、一緒になって騒いだりしていた。
 思い出と言うには、漠然とした楽しさだった。
 旧都に居た頃にはそんなことで感傷にひたる暇も無かったけれど。

「……あいつは?」

 伸ばした手の先。私は、太陽を握りつぶした。
 いいや、自分から太陽を握りつぶした奴を思い出していた。
 私と同じ色の瞳の、自分から人間を捨てることを選んだ馬鹿やろう。そのくせ人間臭さを捨て切れなくて、それでも必死に妖怪やろうとしていた。中途半端さが鼻に付いた。向こうも私を嫌っていたからおあいこだ。
 私はあいつが気に喰わなかったし、あいつも私を嫌っているのを隠そうともしなかった。
 どんな時でも意見は合わなかった。妖怪と人間はわかりあえる、聖の理想を否定しかけたほどだ。

「……いや、やっぱりいいや。なんとなくわかる」
「もう言ったよ。お姉ちゃん達は元気だって」
「そうだね。考えてみればたったの二年やそこらだ。そんな時間で、驚くほど変われるものじゃない」
「変わんないよ。お姉ちゃん達は」
 こいしちゃんの方を見ると、帽子を手の平に載せて、枝先のような指先を一本一本なぞらせていた。もごもごと口を動かして、じっと私の目を見つめて、喉を鳴らしながら唇が動いた。

「遊びにきてよ」

 命令の色さえも含んでいるような懇願。見つめるのは私達よりもずっと澄んだ、薄い、緑色の瞳。
 そういえばあいつは、こうして見つめられるのが弱かった。今ならなんとなくわかる気がする。私達はどうしたって振り切れない過去を持っていたから、純粋に見つめられるとそれを真正面から見るのが怖くなる。そうやってあいつはいつも目を逸らして、それから「仕方ない」って、結局こいしちゃんの思うがままになるんだ。

「私は、行けないよ」

 私は腕を振り下ろした。真っ白なシーツが風に吹かれて長いスカートのように揺れていた。
 何を意固地になっているのだろうと、自分でも笑えてくる。ほら見ろ、あんまりはっきり言ったものだからこいしちゃんが悲しそうな顔してるじゃないか。酷い奴だな村紗水蜜。
 本当に、薄情な奴だ。

「ごめんねこいしちゃん。私はまだ、遊びには行けないんだよ」
「どうして? 一回サヨナラしたらもう会えないの? そんなのおかしいよ?」
「そうだね。会いたければ会えばいいし、会いたくなかったらずっと会わないこともできる。でもそんなに単純なことでもないんだよ、私達の場合」
「よくわかんないよ。やりたいようにしたらいいんじゃないの? もっと単純でいいと思うよ?」
「自分でもわかんないんだけどね。……なんていうかな、ほんとにつまんない理由。笑っていいよ、ただのやせ我慢だから」

 性懲りもなくまただった。私の手は太陽に向かって伸ばされていた。背伸びをしたって届かない。叶うことの無い願いは諦めろとわかってはいるのに、どうしたってこの手はどこかへ伸ばされている。

「あいつが『会いたい』っていうのなら、会ってやってもいいよ」

 私は言って、こいしちゃんを見た。
 やっぱり不満そうに頬を膨らませていた。「ぶー」とわかりやすく呻いて、唇をくちばしのように尖らせた。そっぽをむいて、それから私を、まっすぐに睨みつけた。

「……おんなじこと、言ってる」

 と、こいしちゃんは言った。
 私はどこまでも広がる空に向かって、大声で笑った。
急に6月8日はムラパルの日というささやきが聞こえたので……
基本的に自分の他作品の設定を引っ張ってしまうのでわかりにくいかもしれません。

たまには村紗が旧都を思い返したっていいじゃない。
鳥丸
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いいですね
2.奇声を発する程度の能力削除
お互い意地っ張り、だけどそこが良いね
3.oblivion削除
鳥丸さんの村パルだー! やったー!!

前から思ってたんですが、鳥丸さんの村パルは男同士の友情みたいに思えて、それがまた妙に爽やかで似合ってて、かっこいいのです
一体いつダブルに変s(ry
4.名前が無い程度の能力削除
いつかまた、会える日がくればいいですね。少ししょっぱい気持ちになれる村パル、ごちそうさまでした。