※ カップリングでの短編をまとめたものです。百合要素、マイナー傾向があるのでご了承ください。
<くろまくみこ>
冬はあんまり好きじゃない。
「……はあ」
知り合いの魔法使いは寒いからって出不精になるし、いつもは頼んでないのにやって来るスキマ妖怪も冬眠してしまう。ただでさえ人の来ないこの神社がいつもより広く、そして物悲しく感じてしまう。
「あ、雪。」
鈍い色をした空からしんしんと雪が降ってくる。その一粒を手に乗せるとあっけなく溶けて無くなってしまう。それがより物悲しさを私の中に際立たせる。
昨日からずっとこの調子。寒いなら部屋の中で待ってれば良いものを我ながらどうかしてるとは思ってる。
「……はあ」
目を閉じて二度目の溜息をつき、ゆっくりと瞼を開ける。そこには冬の忘れものなんて言われてるくせに私の頭の中からは全然忘れてくれないなんとも厄介な妖怪が一人、微笑みながら立っていた。
「久しぶりね。」
「……遅い。」
「ごめんなさいね。チルノ達に先に会いに行ってたらそのまま一晩泊っていって、って言われたから。」
「ふーん、そのまま一緒にいてやればよかったじゃない。」
「妬いてるの?」
「違うわよ。」
「それにしても随分長い間待っててくれたみたいね。」
「……1分も待ってないし。」
「嘘ついちゃって。鼻まで真っ赤になってるじゃない。」
そう言って彼女はゆっくりとした足取りで私の前に立つ。そのまま流れるように、それが普通であるかのごとく私の鼻にキスをした。
「!? ちょっと何するのよ!?」
「長い間待たせたからそのご褒美よ。さ、部屋に入って温まりましょう。風邪ひいちゃうわ。」
「うぐぐ……」
前言撤回。冬なんて大嫌いだ!!
<ひなもみ>
犬走椛は妖怪の山の下っ端哨戒天狗である。千里先をも見通す目を持ち、山の平和を保つため常に異常がないか見張らなければいけない。
だが今の彼女の目に映っているのは山の麓の入り口でもなければ、空から侵入される恐れのある山の空でもない。今彼女の目に映っているのは妖怪の山の奥深くそこでくるくると回る少女だった。
「やっぱり雛はかわいいなあ。」
そう言いながら頬をだらんとさせ、にやけながら椛は言う。現在彼女、絶賛職務放棄中である。彼女の眼に映る雛は目を瞑りくるくると回りながら厄を集めている。厄を集める際は集めた厄が人に害をなす可能性があるから、とどれほど親しい機械好きの河童でもパパラッチ天狗でも彼女は近付けることはない。つまり、彼女が厄を集める姿をを見ているのは私だけ。
「…えへへ。」
自分の好きな人が、自分しか知らない一面を見せてくれることがこんなにも嬉しいことだなんて気付かなかった。たぶん生まれて初めて自分の目に感謝したと思う。今ならあの盗撮パパラッチの気持ちが分かるかもしれない。あ、やべヨダレ出てきた。じゅるりとヨダレを拭いながらもう一度、雛のほうへと視線を合わせる。どうやら厄を集め終わったらしく、徐々に回転の速度が落ちている。そしてゆっくりと回転を止めそのままこちらを向く。千里先から見つめる私の目と彼女の目が合い、つい見てることに気づかれてないとは分かっていても、目が合うと恥ずかしさが込み上げてくる。すると雛はまるでいたずらが成功した子どものように笑いながら、私に見えるかのように口を動かす。
『し・ご・と・し・ろ』
……参ったなあ。こっそり見てたのがばれてたこととかいろいろあるけど、こんなに可愛いんじゃとても仕事が手に付きそうにないじゃない。
<けねまり>
昔、まだ私が小さかった頃、名前も知らない、幽霊みたいな、人かどうかも分からない魔法使いにそれはきれいな星の魔法を見せてもらった。それっきりその魔法使いの姿は見てないけれどその魔法は今でも心に強く残ってる。ただひたすらに綺麗だった。私もいつかこんな景色を作り出したいと思った。
だから私は魔法使いになりたかった。誰かの心に残るようなそんな光景を私も作りたいと思ったから。でも現実はそう甘くない。親は無理だ、そんなことより家を継ぐために勉強しろなんて相手にしてくれないし、寺子屋の連中も馬鹿にしたような目で私を見てきた。泣きたくなった。魔法があれば皆に目にもの見せてやれるのに、けど私は小さな子供だから何にも出来ない。そんな力の無さが悔しくて自分の声は誰にも届かないなんて思った時だった。
「いいじゃないか魔法使い。」
「え。」
駄目元で相談しにいった先生からは出たのは肯定の言葉だった。
「……だって、お父さんもお母さんも馬鹿なこと言うんじゃないって。」
「馬鹿な事なものか。魔理沙が自分でなりたいと思った夢なんだろう。だったら誰にも邪魔する権利はない。先生は全力で応援するぞ。」
「でも、人間が魔法使いになるのっておかしいかもしれないし…」
「ああ、なるほどな。」
私が魔法使いになったらきっと皆私を受け入れてくれないかもしれない。それどころか退治されるかもしれない。両親からも友達からも二度と会えなくなる。それが一番怖かった。
「魔理沙、私の帽子をとってみろ。」
「え…うん。」
そう言って先生の帽子をとる。そこには帽子に隠れ、髪に埋もれて分からなかったけれど小さな角が生えていた。
「せ、先生これって。」
「驚いたろう。私は半分獣なんだ。」
噂には聞いていた。慧音先生が満月の夜にいつも家から出てこなくなるのは、半分獣だからって。でも噂だって思ってたけど本当だったなんて。
「怖いか?」
「……驚いたけど、怖くはない。だって慧音先生は良い人だから。」
「そうか、ありがとう。なあ魔理沙、半分獣の私でも今はこうして人里に受け入れてもらっている。だから人と違うことを怖がらないでくれ。もし、お前の周りに誰も味方がいない時はいつでも私のところにおいで、何があってもお前の味方になってやる。」
そういって先生は私の頭を優しく撫でてくれた。その手はとても力強くて、とても優しかった。諦めようとしていたけれど、慧音先生の手に撫でられた途端、そんな気持ちはどこかへ飛んで行った。魔法の手みたいだなって思った。
「ねえ、先生。」
「何だ?」
「私、魔法使いになったら叶えたい夢が一つあるの。」
「ほう、良かったら教えてくれるか?」
「うん!私、慧音先生のお嫁さんになりたい!!」
「ってことがあってだな。いやーあの時の魔理沙は可愛かったぞ。」
「わー!!ぎゃーー!!やめろーーー!!」
宴会場の中心、いつもは彼女、霧雨魔理沙を中心に盛り上がるこの場だが、今日は霧雨魔理沙で盛り上がっている。ふと始まった先生の昔話に宴会に来てた人妖問わず興味津津である。その一方で魔理沙は顔を真っ赤にしながら帽子のつばを深く握り俯いていた。
「さて、偉大な魔法使い様はいつ私の嫁になってくれるんだろうな。」
「……うぅ、もう勘弁してほしいぜ。」
顔を真っ赤にしながら知り合いの巫女や人形遣いに弄られる彼女を見ながら彼女は思う。嫁に来るにはまだまだ時間がかかりそうだ、と。
<さなアリ>
魔法の森の奥深く、普通の人間では到底たどり着くことができないくらい瘴気が濃いこの場所にはその場に似合わない西洋風の小さくこじんまりとした家がある。ここで楽しそうに談笑する少女が二人、一人は金の髪にブルーの瞳、まるで人形のように可愛らしくどこか謎めいた魅力を振りまく少女。もう一人は鮮やかな緑の髪に青の瞳、活発ながらもどこか神秘的な印象を受ける少女。二人の普通じゃない少女が楽しそうに暗い森には不釣り合いな家の中で話していた。
「やっぱり、神様に巫女は必要なものだと思うんですよ。」
「まあ、一般的にはそう思われてるかもね。」
テーブルを挟んで互いに向き合いながら早苗は拳を握り、唾を飛ばす勢いで話し続ける。対するアリスは人形用の服を縫いながら至極冷静に返事をする。一見するとよくある会話の風景だが少し違うのは彼女達が恋仲にあるということだけ。恋仲にしてはいささか味気ない会話だが早苗はクールを装いながらもきちんと話を聞いてくれていいるアリスが好きであったし、アリスも最近あったことを子どものように楽しそうに話す早苗が好きだった。二人ともこの空気が好きだった。
「それで私って半分神様みたいなものじゃないですか。」
「現人神でしょ、正確には。」
「あ、覚えててくれたんですね。」
「そりゃ、私が人間っていうたびに自分で言ってたじゃない。嫌でも覚えるわよ。それで、結局何が言いたいのかしら。」
「あ、もう聞いちゃます?」
「聞いちゃいます。」
「じゃあ単刀直入に。アリスさん人形遣いから巫女にジョブチェンジする予定とかありませんか?」
「ありません、今もこれから先も。」
「ばっさりだーーーー!?」
「はあ……」
ひとつ溜息をついてアリスは裁縫の手を止め、席を立ちそのまま早苗の隣へと席を移す。
「別に巫女になんかならなくても私はどこにも行きゃしないわよ。」
「あ……ばれちゃってましたか。」
「そんなに私って信用ないかしら。」
「あ、いえ。アリスさんのことは信用してますよ!ただアリスさんきれいだし、私とじゃ釣り合わないんじゃないかってたまに不安になって……」
そう言って寂しそうに俯く早苗。アリスはしばらくその顔を見つめ、やがて何かを思いついたようにテーブルの上の裁縫箱に手を伸ばしその中から赤い糸を少し切りとり、片端を早苗の右手の小指に結び、もう一方を自分の左手の小指に結び付けた。
「え、あの、これって?」
「運命の赤い糸……なんちゃって。」
「へ?」
「ああもう!!恥ずかしいから一回で分かりなさいよ。いい早苗、こんなことするのはアンタしかいないから。分かった!」
「あ、はい!」
不安もいろいろあるけれど今このときだけは、私はあなたのものだって思いますよ、アリスさん。
ちなみに糸解こうとしたらなんか奇跡的にすんごい複雑に糸が結ばれてて解くのに一週間かかりました。その間どうやって過ごしたかは言わずとも、ねえ……
<ルナパル>
たまに自分の音が嫌いになることがある。
メルランの音は使い方さえ間違わなければ沈んだ気持ちを吹き飛ばす、まるで空の太陽のような音だ。リリカの音は幻想の音。忘れられた音を奏でる、言うなれば音の歴史を復元しているといったところか。年老いた人には懐かしく、幼い子には真新しい、そんな音をあの子は奏でる。けれど私の音は二人とは違う。私の扱う鬱の音はどう扱っても人にとっては害にしかならない。今は三人揃って演奏しているからバランスが取れているけれど、本当は、私はプリズムリバー楽団のお荷物になっているんじゃないだろうか。そんな自己嫌悪に陥って自分の存在理由が分からなくなっていた時だった。彼女に会ったのは。
あれは間欠泉の異変が終わった後。地底の地霊殿というところへコンサートへ行った時のこと。コンサートの前にバイオリンの調整をしたくて誰か周りに人や妖怪がいない場所を地霊殿当主に尋ねたところ、旧都の外れにある橋に誰も近寄らないということを聞き、橋へと向かった時のことである。
「うん。ここなら誰もいないみたいね。」
そうこぼしながら橋の上に立ちバイオリンを現出させる。万が一誰か来ても良いように早めに調整を終わらせよう。そう思い、いざ演奏を始めようとしたその時だった。
「ちょっと。人の橋で何してんのよ。」
現れたのは金色の髪に大陸風の衣装、そして何より鮮やかな緑の目が印象深い女性だった。
「……あんた確か地上からきた楽団の一人でしょ。それが何だってこんな処にいるのよ。」
「いや…ちょっと楽器の調整に。」
「なんか怪しいわね。」
まずい、今から別の場所を探すとなると時間が足りそうにない。
「そうだ。何か適当に演奏して見せてよ。そうすればあんたの調整にもなるでしょ。ついでに私はただで演奏が見れるし。」
「……あ、えっと、それは……」
「何よやっぱり何か企みでもあるわけ。それとも地上じゃ有名なプリズムリバー楽団も実際は人前じゃ演奏する腕も大したことないのかしら。」
「む。」
今のは少しカチンときた。私にだって演奏家としてのプライドはあるし、何よりプリズムリバー楽団を貶されたことに腹が立った。
「分かったわ。ただ気分が悪くなったらすぐに言ってちょうだい。」
「あら、気分が悪くなるほどひどい演奏なのかしら。」
戯言は聞き流して演奏を始める。ただし調整のための演奏なんかじゃない。いかにこの前の女性を感動させ、楽団の名誉を守れるか。その時の私にはそれしか考えていなかった。
そのまま1曲全部演奏してしまい、頭も冷めたところでふと気付く。これはまずいんじゃないだろうか。そう思って前を見てみると、目の前の女性は下を向いて俯いている。
「あ!!だ、大丈夫!?」
「……い。」
「き、気分が悪いの!?病院に…」
「キーー妬ましい!!」
「……え。」
「音楽で感動させるその技術が妬ましい!音楽を奏でているときの姿の美しさが妬ましい!人を気遣うその心が妬ましい!」
女性の急な変貌にも驚いたが、何より驚いたのは彼女が私の音を聞いてなお、意識を保っていられることだった。
「あ、あの。」
「キーー、あ、何?」
「な、何とも無いの?私の演奏聞いて?」
「?何言ってるかよくわかんないけど嫉妬だらけでそれどころじゃなかったわよ。」
「……は、はあ。」
「あ、それとさっきの言葉取り消すわ。素人の私でも素直に感動で来たんだから、やっぱあんた達すごい音楽家だわ。」
生まれて初めて自分一人が褒められた。メルランもリリカも居ないこの空間で、私の音が。目の前の女性に。
「姉さーーーん。」
「あら、迎えが来たみたいよ。さっさと戻んなさい。演奏ありがとね。」
「あ、えっと、名前、名前を教えてくれない?私はルナサ・プリズムリバー。」
「パルスィ。水橋パルスィよ。」
「ねえ、パルスィ今度私たちの演奏聞きに来てくれない?」
「無理よ。私この橋から離れることができないもの。」
「じゃ、じゃあ私が行く。あなたのところに私が演奏しに行く!」
「ぷ、変な奴。楽しみに待ってるわよ。ルナサ。」
そう言い残しパルスィはくるりと背を向け橋の向こう側へと歩いて行った。それと入れ替わるように妹二人が私に駆け寄って来る。
「ルナ姉どこ行ってたのよ、コンサート始まるよ。って何その顔!?」
「どしたの?メル姉?うわ!ルナ姉が今まで妹の私たちに見せたこと無いぐらい笑顔になってる!?」
「さあ、二人とも地霊殿に戻るわよ。今日は張り切って演奏するから!!」
「ルナ姉早い!」
「ちょっと待って!」
メルラン、リリカ、こんな私の演奏だけど聞いてくれる人が初めて出来たよ。今、私は最高に幸せな気分だ!!
誤字報告
>星の魔法を魅せてもらった
→『見せてもらった』?
>楽しそうに話すアリスが
→早苗が
>私はもあなたのもの
→『私はあなたのもの』
ひなもみ・・・良いねぇ
いいよサナアリいいよ
俺のジャスティスきたぁぁぁぁぁぁ!!嬉しいぃぃぃぃ!
それにしてもパルスィかっこよすぎだろ
しかしルナパルの字を見てルナチャイルドかと思ったのは俺だけか