この作品は、作品集84にある『船長だからキャプテンが悪い話』の続きになっています。
少しだけ読んでいると良いと思います。
湿った髪にタオルを押し当て部屋に戻ると、すでに布団が敷かれて、その上にムラサが「や!」と胡坐をかいて寛いでいた。
「ムラサ?」
きょとんと間抜けな声が出て、驚きに固まって動きが止まると、顎先からぽたりと水滴が落ちる。ムラサはそれを見て笑って、右手でおいでおいでする。
招かれる様に、自分の部屋に入って戸を閉めてムラサの前に正座すると、彼女はすかさずに両手をあげて、タオルをく、と優しく押し付けてわしわししだす。
「相変わらず、頭を拭くの下手だね」
「……そ、れは」
少しだけ子ども扱いされた気がして、恥ずかしくてもじ、と身じろぎすると、ムラサは笑って「ね?」と顔を寄せてくる。
「せっかくだから、虎になってよ。その姿で拭いてあげる」
「え? で、でも」
「いいから、ほらほら」
頬を指先で引っ張られたりこねられたり、笑うムラサに「っ」と少し戸惑ったけれど、ムラサは私の秘密を知っている数少ない友達で、だからいいかもしれないと迷って。それに、少しだけそちらの姿になりたいという欲求にも負けて、気付けば首を縦に、こくんと頷いていた。
「ありがと、じゃあ見せてよ」
「は、はい。……笑わないで下さいね」
「? 笑うって」
「……みっともないから」
最後にそう断って、これ以上話をすると虎になるのが嫌になりそうで、でも久しぶりに毛をぶるぶるしたくて、私はぎゅっと目を閉じて、集中した。
そうしたら、カッと体が内側から熱くなり、みるみると自分の体が変わっていくのをふわふわと感じた。
「ん……ふぅ…」
まだ上手に変われない私は、ゆっくりと時間をかけて、本来の私の妖怪としての形。
虎の姿へと変わる。
「へー」
「……ふきゅ…っ」
ぽんっと頭に手を置かれて、きっと一部始終を見つめていたのだろうムラサが、感心した顔で私の濡れた体をぐしぐしっと撫でて持ち上げる。
「あはは、ちっさい!」
「……」
「虎っていうから、もう少し大きいのかと思ったけれど、普通の猫より少し大きいぐらい?」
「……が、ぁ!」
「無理に鳴かなくていいよ。うん、星らしい」
それはどういう意味だろうと考えて、首を傾げて疑問を表すと、可愛い可愛いって頭を撫でられた。
そう、私の本来の姿は、人型との私を見て予想できないぐらいに、その、小さいのだ。だから、からかわれるのだろうかと身を強張らせていたけれど、ムラサは可愛いと言うだけだった。
「そんなに緊張しないでよ」
「……でも」
「私は、むしろ星のこの姿、似合ってるなって思いましたよ」
「……似合ってる?」
「うん。星の凄く真面目な所って、どこか一心っていうか、まっすぐすぎるから。それは年を取っても失わなかった宝石みたいな意思とも、経験を積み重ねたからこそ身に付けたものでも無くて、なんだか年若いからこその愚直さみたいな、そんな印象を受けてたから」
「?」
「だから、虎の姿はまだ子供なんだなって、それを見てなんか納得したって感じ」
「が、ぁ!」
「抗議は受け付けません。人型の時は私より背が高いのにね。本当は、私より若かったりして。…………なんて」
「……っ」
自分で自分の台詞に、小さく痛そうに目を細めた姿に、何も言えなくなってしまった。
それから、すぐに何でもない様にムラサは笑って、ごしごしと前足を揃えて拭かれた。
気まずくて黙りこくったまま、後ろ足だけでちょこんと立つ私を、ムラサはもう持ち直したのか、楽しそうに口元をほころばせながら毛皮にじっとり染み込んだ水分を拭っていく。
その時間をかけた優しい拭き方は、少しだけじれったくて、でも悪い気はしなかった。
「……ふが!」
最終的には、ついに我慢できなくなった私が体を震わせ、ブルルッ、と水気を弾いて「おお、水難事故」と目の前にいたから当然だけれど、軽く濡らされたムラサがくつくつと笑って、罰としてもっと念入りに拭かれるという形で終わった。
それ以来。
彼女の前で虎の姿になるのは、許された気がして。
聖の次に、寛いで身を休める事ができた。
何故急にそんな昔の事を思い出すのかと言えば。
それは、お風呂上りに自室に戻った私が見たのが、すでに敷かれた布団と、その上で胡坐を書いて「や!」と片手を上げて挨拶する、ゆったりと寛ぐムラサだったからで。
ぽかんと、それを見つけた瞬間、ほとんど一瞬で、そんな昔の事を思い出して、きゅ、と懐かしさに口元がむずむずした。
変わらない彼女は、あれから随分と時間が経ったというのに、あれはまるで昨日の事の様に思わせて、呼吸を数秒忘れた。
「どう、したんですか、ムラサ?」
戸を閉めて、昔の様にムラサの前にいそいそと正座すると、ムラサは「うん」と、あの頃と変わらない大きさ、温度、動作で、く、とタオルを優しくその両手で押し付け、ぐしぐし拭いてくれた。
「相変わらず、髪を拭くの下手だね」
「……前よりは改善していますよ」
「そう?」
耳の中にやわやわとタオル越しに指が入ってきて、くりくり拭かれてぶるっと首筋から震える。鳥肌が立って、虎の姿ならもう少し奥まで指が入って気持ちよいのにと、むずむずした。
「星って、耳掃除好きだよね」
「……ん」
返事も出来ずに耳を拭かれる気持ち良さに浸ってしまう。自分でするのとは違うこそばゆさがぞわぞわ至福なのだ。
「虎になる? 綺麗にしてあげるよ?」
「なります!」
ムラサの笑顔の提案に、即座に頷いてしまってから「あ」と口元がひきつる。
「星は髪洗うの下手だから、いつも耳の奥まで水を入れちゃうしね。適度に掃除してないと不衛生でしょ」
「……で、ですよね!」
「そうそう。だから虎になるといいよ」
「はい!」
好意に甘えるばかりでは、なんて一瞬の抵抗が、ムラサの甘い誘惑で即座に蕩けて、耳掃除という快楽にうきうきと、昔とは違い、ほとんど一瞬、ぶるん! っと視界に写る床が急激に近くなった。
「おお、大きい」
「がぅ」
この姿になると、人語をしゃべれる事はしゃべれるのだが、非情に訛ってしまい、虎の鳴き声ですませてしまう。
ムラサはその事をよく分かっていて、昔私が虎の姿のまましゃべると、ぷるぷると噴出すのを我慢する表情で「虎の時はしゃべれないって設定にしておいた方が良いね……!」と頭をばんばん叩いてくれた。腹立たしくて噛み付いたら即座に殴り返されて、それなりに無茶な喧嘩をした事を思い出す。
「あぁ、本当に星は大きいなぁ」
「…!」
耳掃除をいまかいまかと待っていたら、水気の多い毛皮に、くち、とムラサの額がおしつけられた。
少しびっくりしてしまい、毛皮がむくりと膨張して尻尾がびたんと布団を叩いた。思わず顔を高くあげてしまったから見下ろしたムラサは、小さくて、見えるうなじは青白い。
「……がぅ?」
「ん。ごめん。ちょっとこのままでいさせて」
「……」
しっとりと、疲れた声だった。
その声を聞いて、何かあったのだろうか? と邪推しそうになって。
それは、今日のデートの事だろうかと、帰ってきてから少し様子がおかしかった事を思い出す。
「……」
個人的には、失敗に終わってくれれば良いと思っていた逢瀬だったので、その様子では成果は芳しくなかったらしいと、心は痛んだがほっとした自分に、今更ながら嫌気が差して、きゅぅ、と喉の奥から甘える様な音が出た。
「……はは、本物の猫みたい」
そんな私に、ムラサは笑ってくれたが、顔はあげてくれなかった。
それを見て、更に邪推する。
そんなにも、その誰かはムラサにとって愛しい人だったのかと。
頭の中に、自身の想い人の切なげな顔を。出かける彼女の背を涙さえ浮かべて、小さく悔しげに見つめていた横顔を鮮明に思い出す。
……チリッ、と歯がむずりとした。
親友の幸せを、素直に喜べない。そんな自分の頭を噛み砕けたならと、首を振って、寛ぐ様にのそりと座り込み、長い尾をくるりとムラサの腰から頬まで巻きつけた。
今の私には、それしか出来ない。
「……ん」
ムラサが軽く微笑む気配。そうしてゆっくりと顔を挙げて、甘える様に尾の先端に頬ずりしてくれた。
それが少しでも慰めになってくれると良いと、布団に顎をぺたりと押し付けながら上目に見上げ、ちろちろと頬をくすぐる。ムラサはくすぐったそうだった。
「あー」
ムラサは、それから暫く尻尾と戯れて、急にぐっと背をそりかえさらせた。
くにゃりと、何だか力が抜けたみたいに、笑うのすらやめていた。
そんな無表情は、いつも自然と笑っている船長を目指していた彼女からすれば、本当に珍しかった。
「……わかんないなー」
「……がぅ」
「……めんどくさいなぁ」
「……?」
「……どうして、このままじゃいられないのかなぁ」
「が、ぅ…?」
「……あぁ、嫌だなぁ、どうして……」
だらり、だらりと。
投げやりに、だるそうに、普段は明るい六月の森の宝石を思わせる瞳を、まるで海底にこびりつく藻みたいに淀ませて。ムラサは体から力を抜く。
慌てて、倒れない様に巻きつけた尾に力を込めて、丁寧に支えた。
ムラサの体は、脱力して重い筈なのに、軽すぎて尾がすり抜けないかと有り得ない心配をした。
珍しい、というよりはほとんど意外なムラサの弱音も相まって、私は何の反応も出来ずただ様子を見つめた。
やはり何かあったのかと、見ていられなくて瞳を閉じて、喉を無意味にごろごろと鳴らす。
そんな私を、ムラサはうっそりと見つめる気配。
「あのねえ、星」
「……が、がぅ」
「私ねぇ、私さ、好きな人を作りたいんだよ」
「……?」
「私みたいなさ、水死体を好きになってくれる誰かを、好きになりたいんだ」
「……」
ムラサは、ぼーっとした顔で、感情を込めずに天井を見上げて、手では先ほどまで私を拭いていたタオルを適当に弄って遊んでいる。
「……いやだなぁ」
くしゃ、と。そこで初めて、ムラサの表情が小さく、泣きそうに歪んで、耳とひげがぴんっと立つ。泣いてしまうのかと、体が強張った。
ムラサは、徐々に泣き出す寸前の子供の様に、眉間を強く絞って、震える喉でぼやく。
「……いやだ。……好きな人を、見つけるために……私を嫌いな人を、見つけるかもしれない、行為なんて。……いやだぁ……」
「……ッ」
「……怖い、そんな、人がいたら、私は、大丈夫なんだろうか? 『船長』じゃない『私』は、平気だと、流せるんだろうか? いっそ、黙らせてしまいたく、無かった事に、してしまわないだろうか。この手で。……沈めて」
「……が、ぁ? ……ふぅ?」
ムラサの漏らす弱い言葉は、私には意味が分からない。理解もできない。
ただ、その暗い、心に染込む台詞に尾が膨らんだ。
ムラサは、そんな事をする人ではないと、言うのは容易いが、そうじゃないと、本能で分からこそ、何を言えば良いのか分からない。
分かるのは、ムラサが本当に怖がって、悩んで、押さえ込めなくて、ここで吐き出してしまっているという事だけ。
「…………」
私は、神様の代理で、神様じゃない。
常々、自分の中で繰り返す言葉を、心を落ち着かせんと呟いて、小さく唸る。
そっと、ムラサに撒きつける尾に力を込めた。
私には、出来る事があって、出来ない事がある。
私にはきっと、ムラサの弱音に的確に助言をする事はできない。それは、もっと別の誰かがムラサに教える事だから。きっとそれは、私が言える言葉ではないのだから。
『それ』は私の役目ではないのだと。感覚で、本能で、感じ取る。
「ふ、きゅぅ」
……でも、かける言葉の無い私は、ムラサの弱音をこうやって聞いて、慰める事ができる。
それは、他の人には出来ない役割なのだ。
『私』だけが今、出来る事なのだ。
こうやって、毛皮で覆って、尻尾でまきついて、ごろごろと喉を鳴らして、舌でざらざらと舐めて、気を散らかしてあげる事が、今できる事なのだ。
ただ聞いて、ムラサの弱い心を知って、それを知っている親友になる事は出来る。
そして、ムラサはただそれを望んでくれている。
だから私は、自分の役割を見失わずに、彼女に毛皮を押し付ける。
それすら出来なかった長い別離を。
それを許された今に。感謝を込めて、その小さな体を慰める。
「……」
優しいムラサ。
裏切り者と、唾棄する事もできた私に、一緒に聖を救おうと手を差し伸べてくれた、私の親友。
強いから弱い。弱いから強い。
そんな、愛しい友。
元人間の、美味しそうでまずそうな、羨ましい人。
私は弱いから弱かった。
強い振りをして、与えられた役割の大きさと責任の『大切』を言い訳に、逃げただけの、ただの愚直な子供だった。
全てを知っている振りをして、知っているつもりになって、そうする事が正しいのだと心を押し込めて理屈だけを押し通して。
何より、怖くて怖くてしょうがなかった癖に。毘沙門天代理の役割を必死に演じた。
後悔だけは一丁前にいつも一人で泣いている、弱い子虎だった。
ムラサの言っていた通りに、子供なだけの。大馬鹿者だった。
「……」
ゴロゴロと、感情を捨てた様な、脱力するムラサに甘える。顔をあげて頬を押し付けて、その肩に甘噛みする。
だけれど。その後悔に終止符を打ってくれたのも、ムラサや皆だった。
その時に、自分がどれだけちっぽけで、情けなくて、図体だけが大きいのか、理解して。もうあんな後悔はしたくないと心から思った。
「……」
そう、もう『あんな』後悔なんてしない。
裏切り者の、ずるいだけの私の傍に、ただずっと居てくれた彼女。
私は密告者だ、毘沙門天の代理なんてやめたければやめたいと言え! そう言ってくれた彼女。
彼女の恋を、私は応援したい。
彼女にだけは、幸せになってほしい。
今度する後悔は、誰よりも誇らしい『幸せ』の後悔にしたい。
だから、ムラサ。
「…がう!」
貴方が何を悩んでいるのか、私は知りません。
でも、悩んでいる事だけは知りましょう。
ぞろりと、彼女の唇から頬を舐め上げて、その唇に、ナズーリンはもう触れたのだろうかと、チリッ、とまた歯がうずく。
ムラサはぎゅ、っと私に抱きついてひゅうひゅうと、息を吸って、吐いた。
まるで今、ようやく息継ぎを覚えたみたいに、どこかたどたどしく、ムラサは瞳を閉じて、今にも眠りそうに見えた。
あぁ、今日は本当に疲れていたのだろうと、その頬を遠慮して、舌先でぺろぺろと舐める。
おやすみなさい。
今日はもうゆっくりと休んでください。
そして明日になったら、また頑張って下さい、そして。
あの子に、優しくしてあげて下さい。
そんな気持ちを込めてムラサを宥める。
ムラサは、ようやく瞳の色を、新緑みたいに明るくして、私を見つめかえしていた。
眠そうな瞳はそのままに、でも、まだ寝たくないとごねるみたいに、私の尾にキスをした。
それから、顔を寄せる私の鼻先にもキスをしてくれる。
「ん。……ありがとう星」
「……ふきゅぅ」
「やっぱり効くね。キャットセラピー」
「……が?」
「猫みたいに効果あるかなぁって不安だったけれど、やっぱ星は癒されるよ、大好き」
「……」
うっとりしたムラサを見て、一瞬、思わず頭を噛み砕きたくなってしまったけれど。誤魔化すようにガウ、と鳴いて喉をごろごろ大きめに鳴らした。
でも、猫の代わりみたいな、私は虎なんですけれど? というせめてもの自負の清算はしたくて。えい! とばかりにじゃれ付いた振りをして前足でガッ! とその頭を布団に押しつぶした。
ムラサは「うわ!?」と目を白黒して、それから笑った。
「星の前足、本当に大きくなったね」
予想外の、言葉。
ムラサの片手で閉じ込められていた過去の己の前足は、今は両手でも包むのも困難なぐらい、大きく成長している。
「でかくなっちゃって……」
ぎゅうっと、戸惑っている隙に、そのまま下からお腹に抱きつかれて、ひげと尾がまた、同時にピンッと跳ねた。
少しだけ、その様子に気まずさを感じてしまって、小さく鳴く。
うん? ってお腹から離れて、顔を見せたムラサに、おずおずと、濡れた鼻先で額を擦ってから、カプッと顔を挟む様に噛んだ。
やわやわと、牙先で優しく刺激する。
「くすぐったい、生ぬるい、虎臭い、もう星は!」
くすくすと、文句を言うくせに楽しそうに笑うムラサ。この噛み方がお気に入りの癖にってふん、と鼻を鳴らしてその横に素早くごろりと寝転がる。ムラサはまだ笑っている。
「うん、ありがとうね、本当に」
「……」
「少し、吹っ切れた」
「……ふぐ」
「いつも、弱音ばかり吐き出してごめん。そして、ありがとう。まだ、甘えるのやめられそうにない」
「……」
気にしなくても良いのに、と思う。
彼女は、そういう所が細かい。
大胆になるべき場所で消極的になるかと思えば、逆に大人しくしなくてはいけない場面で大胆な行動を取る。
まぁ、そんなちぐはぐな所も、彼女の魅力なのかもしれないけれど……
「あ、そういえば耳を拭いてあげなくちゃね」
と。突然に、毛皮に抱きついて、ぐりぐりと、忘れた頃にタオルを指ごと耳に入れてきて甘い悲鳴が上がった。
突然すぎて反応できず、情けなくふきゅふきゅと鳴いて、体をよじらせてしまう私に、ムラサは悪戯っぽく、まるでぬえみたいに笑う。
本当に、ずるいなぁムラサはと。
私は耳のお掃除に酷く満足して、文句が言えなくなってしまうのだ。
もうちょっと、私に頼って下さいよ。って言葉も一緒に。
それから。
耳掃除があまりに気持ち良くて、うっかりムラサに乗り上げてしまい。前足でムラサの顔を手痛く引っ掻いてしまったのがいけなかった。
悪気は無かったのだけど、ムラサは、血を流しながら笑顔で拳を握り、宙に錨を出現させた辺りから雲行きは怪しくなり。
大喧嘩になった。
まあ、そこまではいつもの事で、それぐらいなら皆から注意されるだけですむのだけれど。今日は少し事情が変わってしまった。
このままでは不利と、咄嗟に人型に戻った私のそれが不完全で、裸体を晒してしまったのだ。
「へ…ッ?!」とその私に乗り上げてしまったムラサは、顔を血だらけにしたままでも分かるぐらいに赤面し、咄嗟に攻撃を中止した。
そのまま、私を押し倒すみたいな体勢で固まってしまったのだ。
そこで。
「ちょっと何の騒ぎよ?!」
「ご主人!?」
皆が来てしまった。
「あ」
私とムラサが同時に声をあげたが、皆の視線は完璧にフリーズしていて、その視線に慌てた私が、ナズーリンに誤解されてしまう! と焦り、言葉を発しようとして、実は声帯すら不完全のまま人型になっていた為に虎のまま。声を出してしまって。
「……む、らしゃ……ちが、ぅ…っ」
と。あまりに甘ったるい、鼻に絡みそうな涙声が出てしまって、しかもちょっと噛んでしまった。
ビシリ! と、そんな情けない声を聞かれてしまった私は、状況も忘れてあまりの恥ずかしさに真っ赤になってしまい、うっかり涙まで零してしまった。
そんな私を、ムラサは私の喉が虎のままなのかと納得して、慌てて、もう声を漏らさない様にと咄嗟に手で口を塞いでくれた。私の涙が更にボロボロこぼれてしまった。
「……………………」
え、ええと。
それに対し、そういえば声帯の事は秘密にしてたから当然だけれど、私の虎声を他の面々は知らず。
ナズーリンを先頭に、長い沈黙の後に一輪とぬえ、背後に聖まで、静かに自身の獲物をしっかりと構え始めた。
えーと。あの、つまり。
……ムラサも悪いかなって思いますが。
私も悪かったです。
ご、ごめんなさい。
……じゃ、駄目でしょうか?
ムラサは珍しく、三日は寝込む羽目になりました。
……がう。
タイトルが…w
これもすべて船長のせい。
どんな選択をするにせよ、この船長は応援したくなる。
あと、タイトル『が』が抜けてる?
弱音を遠慮なく漏らせるそんな関係って素敵だと思います。
このあたりでトトロを思い出した
ネコ科の爪って、引っ掻くとか木に登るとか、使うつもりでないと引っ込んでいるはず
つまり「うっかり」引っ掻いたと言うのはもしたしたら無意識のわざとだったりして