梅雨空のひと時の休息だとも言えるような綺麗な五月晴れのある日。
人影がひとつ、東へと向かって滑るように飛んでいた。
一目でそれと分かる、大きな朱塗りの鳥居が視界に入ると、その影は徐々に高度を下げていった。
博麗霊夢が人の気配を感じて外を見やると、七色の人形遣いがあきれた様子で彼女を眺めていた。
「むぐむぐ……あらおはよう」
「……それは朝食かしら、それとも昼食?」
「ブランチよ」
明らかに今しがた起きたばかりといった体の巫女に、魔女は一つ、大きなため息をついた。
「まったく……異変が起きても知らないわよ?」
「まあまあ、あんたもちょっと食べてく?」
捨食の魔法を習得したとはいえ、今だ食への興味を捨てきれないアリスのことである。
手招きする霊夢に逆らえずに靴を脱いだのだった。
「それじゃお邪魔しまーす……ってなにこれ!?」
無理はない。
最初に見たとき、霊夢は縁側に背中を向けていた。
だから湯気を上げる味噌汁の椀や、つやつやと輝く白米が盛られた茶碗しか見えなかったのだ。
そして中に上がりこんではじめて見えたおかずに、アリスはひどく吃驚したのだった。
大皿に盛られた豆、まめ、マメ。
奥の皿にこんもりと積み重なる皮の量から察するに、はじめはこぼれんばかりに積んでいたのだろうか。
とにかく視線が釘付けになるほどの圧倒的な緑の山をおかずに、霊夢は食事を摂っていた。
「なによこれ」
「見たことないの?ソラマメよ」
「へぇ~……ってどうしてこんなに一杯あるのよ?」
「ん?ああ、紫が採れたてを大量に持ってきてくれたのよ……むぐむぐ」
「いや、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて……
どうしておかずがこれ一つなのかってことよ!」
話が見えずにいらだちの色を隠せないアリス。
そんな彼女を手で制しながら、霊夢はなおも豆を咀嚼する。
「ゴクッ……それはあとにしてさ、まずはこれ食べない?
とってもおいしいのよ?」
喉まで出かかった言葉を飲み込んで、アリスも皿に手を伸ばした。
豆を一つ手に取り、見よう見まねで皮を剥く。
くびれの上辺りにつめを立てて力を入れると、あっけなくヘタがまるごと剥ける。
それを端まで剥いてからくるりと一周させると、豆の上半分が姿を現した。
恐る恐る口に含むと、程よい塩味が豆のほんのりとした甘味を際立たせる。
―おいしい―
気がつけば次の豆が、そして次の次の豆が胃の中へと収まっていった。
アリスが霊夢と同じく機械的に皮を剥いては次々と豆をむさぼるようになるまでさほど時間はかからなかった。
「あら、上手いじゃない」
「これくらい朝飯前よ……あむっ」
「……むぐむぐ……もうすぐお昼だけどね」
二人とも視線は手中の豆に落としたまま、時折軽口なんかを叩く。
大鍋で一気に茹でたせいだろうか、同じ豆でも茹で具合はてんでばらばらだった。
ヘタを剥いた瞬間に茹で汁がこぼれ出て、ぐずぐずになっているもの
見るからに堅そうな薄色で、実際歯ごたえも十分なもの
中身はバリエーション豊富な反面、外面はどれも同じように身をよじったたらこ唇である。
だから剥いているうちに、『次はどんな豆かしら』なんて期待もしてしまったり。
そんな感じに楽しく食べていると、大皿一杯の豆も見る間に二人のお腹に収まった。
「ふぅ~、なんか夢中になってしまったわね」
「おいしかったでしょ?」
「ええ、おいしかったわ
でも夢中になりすぎて汁まみれになっちゃった」
ソラマメの皮の内側には柔らかい部分がある。
それがつめのすきまに入り込んだり、指のそこかしこにこびりついている。
茹で汁とあいまって、それらはちょっとした掻痒感を二人に与えていた。
「お手ふき、いる?」
霊夢はこれを見越してあらかじめ手ふきを用意していたようだが、その場には一枚しかない。
それでも彼女はアリスにそれを差し出した。
「悪いわね。お手ふき、どこにあるの?」
「そこを左に曲がると厨房があるわ。そこの右手にある棚の真ん中の引き出し」
「ん、ありがと」
アリスが言うや否や、いずこからともなく現れた人形が厨房へと飛んでいく。
「便利なものね」
「ええ」
感心する霊夢に、アリスは得意げに微笑んだ。
「で、なんたってあんなにソラマメばっかり食べてたのよ」
改めて訊ねるアリスに、爪楊枝を咥えて掃除にいそしんでいた霊夢が顔を上げる。
「あー――そういえば教えて欲しいとか言ってたわね」
「もしかして忘れてた?」
少しばかり鋭さを増したアリスの言葉に、霊夢はぽりぽりと頭を掻いた。
「ほら、ソラマメって空に豆って書くじゃない。
これ食べないと私、能力を使えないのよ」
人影がひとつ、東へと向かって滑るように飛んでいた。
一目でそれと分かる、大きな朱塗りの鳥居が視界に入ると、その影は徐々に高度を下げていった。
博麗霊夢が人の気配を感じて外を見やると、七色の人形遣いがあきれた様子で彼女を眺めていた。
「むぐむぐ……あらおはよう」
「……それは朝食かしら、それとも昼食?」
「ブランチよ」
明らかに今しがた起きたばかりといった体の巫女に、魔女は一つ、大きなため息をついた。
「まったく……異変が起きても知らないわよ?」
「まあまあ、あんたもちょっと食べてく?」
捨食の魔法を習得したとはいえ、今だ食への興味を捨てきれないアリスのことである。
手招きする霊夢に逆らえずに靴を脱いだのだった。
「それじゃお邪魔しまーす……ってなにこれ!?」
無理はない。
最初に見たとき、霊夢は縁側に背中を向けていた。
だから湯気を上げる味噌汁の椀や、つやつやと輝く白米が盛られた茶碗しか見えなかったのだ。
そして中に上がりこんではじめて見えたおかずに、アリスはひどく吃驚したのだった。
大皿に盛られた豆、まめ、マメ。
奥の皿にこんもりと積み重なる皮の量から察するに、はじめはこぼれんばかりに積んでいたのだろうか。
とにかく視線が釘付けになるほどの圧倒的な緑の山をおかずに、霊夢は食事を摂っていた。
「なによこれ」
「見たことないの?ソラマメよ」
「へぇ~……ってどうしてこんなに一杯あるのよ?」
「ん?ああ、紫が採れたてを大量に持ってきてくれたのよ……むぐむぐ」
「いや、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて……
どうしておかずがこれ一つなのかってことよ!」
話が見えずにいらだちの色を隠せないアリス。
そんな彼女を手で制しながら、霊夢はなおも豆を咀嚼する。
「ゴクッ……それはあとにしてさ、まずはこれ食べない?
とってもおいしいのよ?」
喉まで出かかった言葉を飲み込んで、アリスも皿に手を伸ばした。
豆を一つ手に取り、見よう見まねで皮を剥く。
くびれの上辺りにつめを立てて力を入れると、あっけなくヘタがまるごと剥ける。
それを端まで剥いてからくるりと一周させると、豆の上半分が姿を現した。
恐る恐る口に含むと、程よい塩味が豆のほんのりとした甘味を際立たせる。
―おいしい―
気がつけば次の豆が、そして次の次の豆が胃の中へと収まっていった。
アリスが霊夢と同じく機械的に皮を剥いては次々と豆をむさぼるようになるまでさほど時間はかからなかった。
「あら、上手いじゃない」
「これくらい朝飯前よ……あむっ」
「……むぐむぐ……もうすぐお昼だけどね」
二人とも視線は手中の豆に落としたまま、時折軽口なんかを叩く。
大鍋で一気に茹でたせいだろうか、同じ豆でも茹で具合はてんでばらばらだった。
ヘタを剥いた瞬間に茹で汁がこぼれ出て、ぐずぐずになっているもの
見るからに堅そうな薄色で、実際歯ごたえも十分なもの
中身はバリエーション豊富な反面、外面はどれも同じように身をよじったたらこ唇である。
だから剥いているうちに、『次はどんな豆かしら』なんて期待もしてしまったり。
そんな感じに楽しく食べていると、大皿一杯の豆も見る間に二人のお腹に収まった。
「ふぅ~、なんか夢中になってしまったわね」
「おいしかったでしょ?」
「ええ、おいしかったわ
でも夢中になりすぎて汁まみれになっちゃった」
ソラマメの皮の内側には柔らかい部分がある。
それがつめのすきまに入り込んだり、指のそこかしこにこびりついている。
茹で汁とあいまって、それらはちょっとした掻痒感を二人に与えていた。
「お手ふき、いる?」
霊夢はこれを見越してあらかじめ手ふきを用意していたようだが、その場には一枚しかない。
それでも彼女はアリスにそれを差し出した。
「悪いわね。お手ふき、どこにあるの?」
「そこを左に曲がると厨房があるわ。そこの右手にある棚の真ん中の引き出し」
「ん、ありがと」
アリスが言うや否や、いずこからともなく現れた人形が厨房へと飛んでいく。
「便利なものね」
「ええ」
感心する霊夢に、アリスは得意げに微笑んだ。
「で、なんたってあんなにソラマメばっかり食べてたのよ」
改めて訊ねるアリスに、爪楊枝を咥えて掃除にいそしんでいた霊夢が顔を上げる。
「あー――そういえば教えて欲しいとか言ってたわね」
「もしかして忘れてた?」
少しばかり鋭さを増したアリスの言葉に、霊夢はぽりぽりと頭を掻いた。
「ほら、ソラマメって空に豆って書くじゃない。
これ食べないと私、能力を使えないのよ」
水分が飛んでるんで冬山だと余り冷たくならずにすむんで重宝してます。
醤油豆
空豆を焦げ目がつくまで炒る
↓
醤油、砂糖、みりん、唐辛子に一晩漬け込む
↓
(゚Д゚)ウマー
豆食ってる霊夢かわいい。
それではコメ返をば
>奇声を発する程度の能力様
でもおいしい!どんどん食べちゃう!
>投げ槍様
ふ~む
僕は冬山にはほとんど行かないのですが参考にさせていただきます!
>3様
いやいや普通のSSですよ?ちょっとR-18とかRatingついてますけど
醤油豆……ふむふむ、機会があればやってみますね!
>4様
自分で書いててこう言うのもあれですけどかわいいですよね~