※この作品には、二次設定などが多分に含まれます。ご注意ください。
日暮れ前の人里に、陽気な歌声が響き渡る。やきとり撲滅を掲げ焼き八つ目鰻屋を経営する夜雀ミスティア・ローレライは、食材の買出しに人里に来ていた。
「パッパラパラ!パッパッパラパラパッパラパッパラパラッパ~♪お買い物~の~行進だ~」
「こらっ!あんまりこんなところで歌うんじゃあない!」
ここに現れたのは里の守り人、上白沢慧音
「あら、いいじゃない。愉快な歌は嫌いかしら?」
「そうじゃない。お前の歌は少々強烈すぎる。まあ、暴れたり人を襲われるに比べたら何のことはないが。」
「じゃあいいでしょ~?人を襲うのは妖怪の宿命、でも最近は開店休業~♪」
「開店はしているんだな・・・」
「そりゃあ妖怪だもの。ここの人間共なんてすべて生きたまま焼き鳥撲滅のための礎にしてくれるわ~♪」
「・・・そうだな。」
慧音は少し間を置いてから頷く。彼女はミスティアの屋台の経営、焼き鳥撲滅の運動に関して静観する事にしているらしい。
「昼間から騒々しい歌が聞こえると思ったら貴女だったの?こんにちは。夜雀さんに・・・半獣さん?」
そこに若干のんきな様子で声をかけたのは風見幽香。日傘をくるくると回しながら二人に歩み寄る。
「・・・風見幽香。」
慧音はミスティアと対面する時より警戒の色を強める。
「あらあら、いつもご苦労さま。今日はお買い物に来ただけよ?お望みとあらばここを地獄に変えても良いのだけれど?」
幽香はさらりと言ってのける。ソレを見て慧音はさらに警戒強める・・・が、それを見た幽香は満足そうに。
「ふふ、冗談よ。まあ今日はそれで十分かしらね。」
「こわーいこわーい妖怪さん~♪きょお~も人間怖がっらせ~、で~もほんとは・・・もがっ!?」
その様子をハタから見ていたミスティアが一人歌い出す・・・が、その歌を幽香は少しだけ慌てた様子を見せた上で、口を塞いで止める。
「さあ、行きましょうか。私たちみたいな妖怪はここに長居すべきじゃあないわ。」
口をふさいだ状態のまま幽香はミスティアを引きずって里の外の方へと歩いて行った。
「・・・なんだったんだ。」
状況の理解出来ない慧音はそうつぶやいて、最後に一つため息を付くだけだった。
竹林の入り口。そして人里からそう遠くないにある少しひらけた場所。そこでミスティアは幻想郷から焼き鳥を撲滅するために、日夜焼き八つ目鰻の屋台を経営している。この日も屋台で使う食材の仕入れを済ませて、彼女は屋台の準備をしていた。
「・・・ふぅ。やっぱり一人でこんだけやるのは大変だなあ。また誰か雇おうかしら。」
額の汗を拭ってミスティアは呟く。
「あら、じゃあ雇われてあげようかしら?」
その独り言に答える声が一つ。四季のフラワーマスター、風見幽香である。
「冗談、貴女を雇ったら。それこそ人も妖怪も。あまつさえ神にすら避けらてしまうわ~。」
ひらひらと、両手を顔の横に持ってきて軽く振り、降参のようなポーズを取る。
「あらそう、それは残念。」
幽香は人里からミスティアをここまで引っ張ってきてそのまま居座っているようだ。
「それじゃあ貴女、何か出して頂戴。」
「とりあえずお茶ね~。あとお漬物はサービスしてあげる。お品書きは・・・ああ、あったあった。」
「あらあら、気前がいいのねえ。せっかくだからちゃんと注文してあげようかしら。・・・これと、これ頂戴。」
「はいはい、串焼きと天ぷらね。ご飯頼むと汁物が付くけど・・・ところでその傘、いつも持ってるわね~雨でもないのに。」
「構わないわ。あとこれは花、お花はお日様の光を浴びてないといけないのよ。それにね・・・」
幽香はそう言って、少し向きを変え、屋台の外の方に向けて自ら花と称した傘を開いた。すると、屋台の外から光弾が数発飛んで来て、その傘に弾かれ消えた。
「ほら、こんなこともできちゃう。料理の準備はお手伝いできないけれど、提灯の灯によってくる害虫のお掃除くらい手伝うわよ?」
「おらー!ミスティア!出てこ・・・げっ!風見幽香!?」
先ほど光弾を放った犯人、リグル・ナイトバグが屋台ののれんを潜って現れた。
「リグル?危ないじゃない。いきなりあんな物撃ちこんだら。」
「う、うるさい!やいやいミスティア!このへんの雀はミスティアの下僕か何かだろう?」
幽香を見て少し動揺していたようだが、すぐに切り替えてミスティアに迫る。
「しもべ?ただの友達よ?それがどうしたの?」
手元で鰻を焼きながらミスティアは
「なんでもいいよそんなの。ここら辺の雀に蝶々の幼虫やらが食べられてるの!こないだやめるよう伝えろって言ったじゃない!」
そこそこの剣幕とともにミスティアに言いたい事を浴びせかける。
「言うだけなら言ったわよ。できるだけ食べないであげてね。って」
なんだそんな事か、とばかりにリグルの方を見ることなく捌き終わった鰻を串に指す作業を終えて、今度は天ぷらの準備に入った。
「言うだけって・・・!!」
その様子に少しカチンと来たのか、ミスティアに詰め寄ろうとしたが風見幽香がそれを傘で遮る。干渉される事はないと思っていたのだろうか、リグルの顔から怒気と血の気が引いていった。
「それじゃあ私もお願いしようかしら?あなたの可愛い可愛い虫たちに、花や草木を一切食べさせないで頂戴な。」
「な・・・っ、そんなの無理よ!」
「あら、私はお前が彼女に言ったことと同じような事を言っただけよ?」
「ぐっ・・・でも鳥達は木の実やお米だって食べられるじゃない!」
「あら、そんな事を言ったらお花なんてほとんどが土からの栄養、と水、そして太陽の光しかないのよ?それに、虫同士だって捕食関係がないわけでもないでしょう?それともまだ問題をすり替えるつもりかしら?」
幽香は傘をリグルに向け威圧する。するとリグルは「う・・・」と少し唸った後、何も言わず屋台から去っていってしまった。
「・・・はい、天ぷらに串焼きよ。」
「ありがとう。ところで、虫退治だけど何かその分のお礼とかはあるのかしら?」
「別に頼んでないじゃない。ああ、歌のサービスならいくらでもしてあげるわ。」
言ってミスティアは「あー、あー」と軽く喉をならす。
「・・・そう、ところで貴女がこの屋台を始めた理由って何だったかしらね?前に聞いたけど忘れちゃった。」
幽香は湯飲みのお茶をすすりながら尋ねる。
「それ、絶対わかってて聞いてるでしょう。焼き鳥撲滅の為よ~」
「・・・あら、貴女の方は思ったよりいじめられそうにないわねえ。残念、それじゃあ歌でも歌ってもらおうかしら。とびきり陽気になれそうなのをお願いするわ。ああ、あとお酒、日本酒がいいわぁ。」
「はいはい~♪」
翌日の昼を少し過ぎた頃、ミスティアは屋台の近くの木の自分の寝床で起床した。そして寝床から出て近くの水場で顔を洗ったあと、屋台を構える場所に戻る。
「~~♪」
普段の・・・賑やかな彼女の歌とは違った、透き通ったような声色で歌い始める。
「~♪~~♪~~~~・・・」
しばらくすると彼女の側に小鳥達が集まってきて、彼女の周りを取り囲んでいった。
「・・・聞いてくれてありがとうね。ほらおいで、ご飯粒の残りをあげるから。」
ミスティアは小さな袋を取り出して、中身を小鳥たちの近くにまく。
「どう?美味しい?・・・そう。それでね、今日はお願いがあるの。この辺の虫の幼虫さん達なんだけどね。私の友達の友達みたいなの。できればあんまり食べないであげてね。・・・うん。できたらでいいの。また余ったご飯粒あげるから。」
かがみこんで小鳥たちに話しかける。
「きれいな歌声だったね。いつも人里やら屋台で歌ってる歌とはだいぶ違ったね。」
ここでミスティアに声をかけたのは藤原妹紅。その様子を少し遠くから眺めていたようだ。
「っきゃあああああああああああ!?聞いてたの!?」
ミスティアはどこからか・・・というよりは袖に仕込んでいた鰻用の串を妹紅に目がけて思いっきり投げつける。
「わっ・・・そりゃあもう最初から・・・っと、危なっ!大体何を恥ずかしがるんだ。いつも皆の前で歌っているじゃあないか。」
「いやっ・・・さっきのはっそのっ・・・もうっ!!」
頬を真っ赤に染めてミスティアは妹紅に思いっきりげんこつを喰らわせた。あまりに予想外だったのだろう。妹紅は何の抵抗もできず地面に顔を埋める。
「ぐぬぬ・・・痛いじゃあないか。あ、ほら。鳥達も逃げちゃった。」
妹紅がその場に仰向けになって鼻頭をさすりながら空を見る。
「人間が来るからでしょう?」
「それはどうかな?・・・っと。ほら、これでちょっと鳥っぽくなった。・・・というか私は人間でいいのかしら・・・」
妹紅は立ち上がると、その背中に炎の翼を現出させる。
「人間でしょう。私から見たら余裕で人間よ。・・・貴女も大概まずそうで、食欲はそそられないけれど。さあ、寄って行きなさい。お昼ごはん、まだなんでしょう?私の日課なのよ。歌を聞かせた小鳥に餌をあげるの。」
妹紅が少し暗い表情になったのを、チラリと確認した後、彼女に背を向け歩き出し言う。
「小鳥って・・・うん。頂いて行こうかな。」
妹紅は、ミスティアの少し後ろをついて歩く。
「あら、おかえり。」
屋台に戻ったミスティアと、それに付いてきた妹紅に声をかけたのは、博麗の巫女、博麗霊夢だった。しれっとカウンターに座っている。
「・・・え?なんでいるの?」
と聞いたのは妹紅。ミスティアは軽くため息を付き「・・・またか。」と呟くだけだった。
「ずっといたわよ。その夜雀が歌ってた時から。」
「そ・・・そう。・・・あれ?女将さん、こいつも聞いてたんだよ?なんで私にだけあんなに怒ったの?」
妹紅が霊夢を指差し言うとミスティアは一瞬だけピクリと反応したが、すぐに屋台の準備に戻った。
「あら?そうなの?どうしてかしらねぇ?・・・そういえばアレ、どういう歌なの?私達人間にはどんな歌か分からなかったからね。」
霊夢は何か含むようにくすくす笑いながらミスティアに声をかける。妹紅は頭に疑問符を浮かべながら霊夢のとなりの席に腰をかけた。
「余計な事しゃべるとありつける食事にもありつけなくなりますよ?」
ミスティアは茶碗を用意しながら軽く霊夢を睨み付ける。
「げっそれは困るわ。もうここだけが頼りなの・・・。」
「どんだけ窮困してるんだ・・・?」
「聞かないで、今は現実を見たくないのっ。」
言って霊夢はカウンターに突っ伏す。
「・・・まあ、今は営業時間じゃあないし、お金なんていらないわ。そのかわり、今度貴女の神社のお酒を持ってきて頂戴。」
「・・・わかった。」
顔を上げることなく霊夢はつぶやいた。
「あーあー・・・今度筍でも取れたら持って行ってやるよ・・・」
その様子を見て妹紅はそう言ってぽんと霊夢の肩を叩いた。
「はいはい、いつまでいじけてんの。豚汁にご飯よ。味見兼ねてるからなんか味が足りないとかあったら言ってね。一応夜にも同じようなのサービスで出すけどご飯頼んだ人にしか出ないんだから。
ミスティアはそう言って、霊夢たちの前に茶碗をそれぞれ二つづつ置いていく。
「・・・任せなさい。」
霊夢は顔をあげる。
「・・・うん。いい臭い。美味しそう」
言って妹紅は手を合わせる。横を見ると霊夢はすでに合掌を済ませて「いただきます」と食前の挨拶を済ませ食事を始めるべく茶碗に手をかけたところだった。
「あ、ちょっと待って、これこれ。」
ミスティアは言うと、手元の陽気から小ネギの刻んだ物をひとつまみづつ彼女達の豚汁にふりかけていく。
「おー、やっぱりネギってのはいいよねえ。これだけで見栄えが違うもの。」
妹紅は改めて茶碗をとり
「ん~!やっぱあんたのとこの飯は美味しいわねえ。」
食事を取れて元気が出たのか、霊夢はご機嫌な様子だ、自然と笑顔が溢れる。
「うん・・・。私にはとても文句の付け所が見つけられそうにないよ。」
妹紅も汁をすすった後一息ついてから感想を述べた。
「やっぱり色々入ってるのねー。」
「・・・ほんとだ。よく見たら・・・おー・・・おー?」
妹紅は箸で自分の茶碗の中をつつき始める。
「いっぱい入れる方が美味しいみたいね。あんたもこういうの作らないの?」
霊夢は妹紅に尋ねる。
「ん~、私はそこまで食べなくてもなんとかなるからなあ。あー、でも全く食べないで平気ってわけじゃあないね。昔試しにひと月くらい何も食べなかったらなんだかよく分からない境地に辿りつけたっけなあ。」
「・・・あんまりそんな真似しないでくださいね。妖怪だろうが人間だろうが、死に安かろうが、死ぬまいが、空腹はきっとつらいものでしょうからね。」
ミスティアは野菜を切って大きな鍋に野菜を入れていく。どうやら霊夢たちに振舞った物と同じ物を大きな鍋で改めて作るらしい。
「・・・美味しかった。」
カタン、と箸と茶碗を置き霊夢はミスティアに言う。
「あら?随分早い完食ねえ。それで足りるの?」
ミスティアがくすくす笑いながら霊夢を見る。
「・・・」
それを受けて霊夢は無言で茶碗を突き出した。ミスティアは笑ったまま茶碗を受け取る。
「私もぉ~♪」
妹紅も茶碗を突き出す。
「飢え死にしそうになったらその前にうち来なさい。死なない程度になるまで食わせてあげるわ。あたしが喰ってやるまで飢え死になんて許さないからね。」
「・・・せいぜい気をつけるわ。」
「私も気をつけるかな。」
「あんたは死なないでしょう」
「ありゃ、そうだった。はっはっは!」
笑い声が、屋台に響いた。
同じ頃、竹林のとある場所。
「・・・ぐすん、ごめんね?私がもっとしっかりしてれば・・・」
リグルは体育座りの姿勢で地べたに座り込んでいた。彼女の周りには彼女を慕う虫たちがたくさん集まっていた。
「私がいなくても大丈夫・・・?でも・・・」
ここで、リグルの後ろの方からパキッと笹の折れる音がした。リグルが振り返るとそこにいたのは蓬莱山輝夜だった。
「あらあら、ごめんなさいね、妙な所に声をかけてしまって。なんだかこの辺から虫たちの歌声がした気がしたから・・・。貴女のお友達かしら?」
振り返ったリグルの顔を見て、輝夜は優しく声をかける。
「なっ・・・泣いてなんか・・・!!」
指摘されて慌てて目元を拭おうとするが、輝夜はその手を取り。
「こらダメよ、そんな拭い方。確かに可愛らしいけれど、袖を汚したらその服がかわいそうよ。」
と言ってとったリグルの手にハンカチを握らせる。
「・・・ありがとうございます。」
受け取ったハンカチで顔を拭いながらリグルは軽く頭を下げた。
「あら?静かになっちゃったわね。もしかして私のせい?」
「・・・ああ、ちょっと隠れてるだけですよ。ほら、皆出ておいで。」
リグルの触覚がピクピクと動いた後、落ち葉の下や茂みから虫たちが顔を見せる。
「あららら、いっぱいいるわねー。これ皆貴女のお友達?」
「うん。」
頷いた後リグルは少し恥ずかしそうに顔をそらす。顔を見られたくない様子だ。
「・・・少し歩きながらお話しましょう?」
にこりと笑って輝夜はリグルに手を差し出す。
「は・・・はい。」
差し出された手を取りリグルが立ち上がると、彼女の周りに集まっていた虫たちは、それぞれその場から去っていった。
「それで、どうして泣いていたの?」
「うっ・・・それは・・・その・・・」
「話してごらんなさい。楽になるわよ、きっとね。」
歩きながら輝夜は優しくリグルに言う。
「その・・・実は・・・」
永遠亭の姫と蟲の妖怪という若干妙ちくりんな組み合わせは二人、迷いの竹林を歩く。
「そう、夜雀と喧嘩ねえ。夜雀ってあれでしょう?この辺で屋台やってる・・・」
「はい、それで・・・」
リグルはミスティアの屋台であった出来事を話した。輝夜は終始聞き手に徹する。
リグルが大体の事情を話し終えた頃ようやく輝夜が口を開く。
「・・・それで、落ち着いたかしら?」
「・・・はい。」
リグルは少し俯いたまま頷く。
「まだ悲しい?」
「・・・はい。」
リグルはもう一度頷く。
「まだ怒りは収まらない?」
「・・・いいえ。」
下を俯いたまま最後に、首を横に振る。
「くすくす。・・・ああ、ごめんなさいね。ほら、それじゃあどうしたら良いかわかるでしょう?」
袖で口元を隠してに笑った後、輝夜はある方向に指を指す。
「えっ・・・」
リグルが輝夜の指差す方を見る。そこには屋台が一軒建っていた。
「ほら、行った行った。」
輝夜がとんっとリグルの背中を押すと、リグルは屋台の方へと走って行った。
「ミスティア!ごめん!」
屋台の暖簾をくぐって開口一番リグルはそう言い放った。
「え?何が?」
仕込みの最中だったミスティアは首を傾げながら聞き返す。カウンターに座っていた妹紅は「なんだなんだ?」と二人をそれぞれ見て困惑し、霊夢は気にもとめずに食事を続ける。
「その・・・昨日ミスティアに色々と無茶言ったこと・・・鳥達が悪い訳でも・・・ミスティアが悪い訳でもないってわかったから・・・」
「・・・忘れたわね。何かあったかしら?それよりほら、食べていかない?この人達・・・というよりこの巫女のおかげでいっぱい豚汁やらご飯やら準備しちゃったから・・・」
にっこり笑ってリグルを迎えるミスティア、リグルもつられてにこりと笑う。
「あら、いい匂いがするじゃない。私もお邪魔してもいいかしら?」
輝夜が暖簾をくぐって屋台の中に入って来た。
「あ、輝夜さん・・・」
リグルがそう言うと横で豚汁を飲んでいた妹紅がそれを吹き出した。
「あら、汚いわねえ。もうちょっとお上品に食べられないのかしら?」
「・・・どこかの誰かさんのお陰かこんな食べ方ばっかり身についちまってねぇ。」
「あら、責任転嫁?とことん負け犬精神が身についちゃってるのね・・・」
「あー、はいはい。言ってろ言ってろ、そりゃあ大体の事うさぎやら永琳にやらせて優雅に暮らしてる姫様からしたら負け犬だろうよお」
「ふふん。・・・今は大人しくしていようかしらね。店主さんに迷惑かけるのもアレだし。」
輝夜がミスティアの方をチラリと見た後言う。
「ふぅ、ここでやりあわれたらどうしようかと思ったわ。・・・これ、医者のところの姫様もいかがですか?」
ほっと胸をなで下ろした後ミスティアは手元の大きめの鍋でかき混ぜている豚汁を指差す。
「輝夜でいいわよ。それじゃあお言葉に甘えて頂いていこうかしらね。ほら、リグルちゃんも。」
あっけに取られて喧嘩の様子を眺めていたリグルを座らせて、自分もカウンターに座る。
「どうぞ、お口に合うかどうかわかりませんが。」
ミスティアはそう言って二人に茶碗を渡す。
「それじゃあ、頂きます。」
「・・・頂きます。」
それぞれ合掌して食事を始める。
「どーだうまいだろう。てめーんとこの兎なんてメじゃねえぜ。」
「なんであんたが自慢げなのよ・・・でも美味しいわね。本当に、うちの兎もそこそこ長いこと家事で食事作ってるのに、何が違うのかしらねえ。」
妹紅に一瞥をぶん投げたあと輝夜は味噌汁をすすって感想を述べる。
「そりゃあこちとら商売ですからね。家事と比べて美味しくないとお客さんなんて来ないからこっちも必死よ。」
と、にこにこ笑いながらミスティアは答える。
「ふーん、そういうものかしらねえ。ねぇ、貴女うちの兎に料理教えてあげてよ。お礼はするわよ?」
「う~ん・・・やめとくわ~♪貴女が来なくなっちゃうとそれはそれでアレだから~♪」
「あら。残念、ふられたわ~ちょっとショックね。」
輝夜は言いながら大して残念そうな顔はしていない。
「・・・」
ここで霊夢は無言で茶碗をミスティアに差し出す。
「三杯目はちょっと・・・。」
「じゃあ何のために作ってたのよ。そんな大きい鍋で。」
「これは夜に来てくれるお客さん用よ、言わなかったっけ?」
「・・・うーん、美味しかったけど、ちょっと物足りないのよねー。6分目って感じ?」
「だったらお金払って払って食べて行ったら?」
「・・・妖怪の店にお金なんて持ってきてる訳ないでしょう?」
「いやいやいや、お店にお金を持ってこないのはおかしいだろう。」
霊夢の発言に思わず横から妹紅がツッコミを入れる。
「・・・あれば持ってきてるわよ。」
「あれ?でも霊夢って前は黙って食って帰りにツケでお願い~とか言って帰ってなかったっけ?」
リグルが思い出すように言う。
「言われてみりゃそうだ。何かあったのか?」
妹紅も少し怪訝なかおをして霊夢の方を見る。
「何もないわよ。」
霊夢は肘をついてそっけなく返事を返した。
「・・・仕方ないわねえ。ちょっと、これ持って水を汲んで来て頂戴。」
ミスティアは大きめの容器を二つ取り出して霊夢に突き出す。
「なんで私がそんな事・・・」
少し不機嫌そうに霊夢が声をあげるとミスティアは
「これで夜ご飯のお代って事にしてあげる。それでどう?いい運動にもなるでしょ。きっと」
「・・・どこで汲んで来ればいいの?」
「あっちの方に湧き水が出てる場所があるわ。まっすぐ飛んでいけばわかると思うけど・・・」
ミスティアが森の方を指差すと、霊夢は黙って容器を受け取りそちらへと飛んで行った。四人でその様子を見送ると、空が少し紅く染まり始めていた。
「・・・ふぅ。本当に分かりやすかったわね。」
目的の場所までたどり着いた霊夢は、持ってきた容器の蓋を開けて水を組み始める。湧き水は岩の間からしみ出しているようで、そこから竹を組み合わせて汲み取りやすいようになっている。
「まあ、これだけであそこで晩ご飯にありつけるなら安いものねえ。」
屈みこんで容器に水が入りきるのを待つ。
「さて、あと一つ・・・。」
一つ目の容器がいっぱいになったので次の容器に入れ替えて、水を汲み始める。
「・・・まあ、嫌な予感はしてたんだけどねえ。」
霊夢は、そうつぶやいて立ち上がる。二つ目の容器はあと少しで満タンになる。
「・・・あら、私はそうでもないわよ?楽しい事がありそうな予感ね。」
水の容器は満タンになったようだ。霊夢はそちれに蓋をして二つともその手に持って立ち上がる。
「これ、労災おりるのかしら?」
霊夢は振り返る事なく飛び立つ。
「あら?追いかけっこね。やっぱり楽しい予感は当たるものね♪」
霊夢を追いかけて飛び立つ影、その影の主は日傘を携え霊夢を追って紅に染まった空に飛び出す。愉快な鼻歌を歌いながら。
「霊夢の奴遅いなあ。そんなに遠いの?水汲み場」
妹紅は椅子にもたれかかって退屈そうにする。
「ほんとね、どこかの誰かさんみたいに鈍臭い人間でもないし・・・」
と、輝夜。妹紅の方を見ながら言う。
「あー、なるほどお前の事・・・ん?」
「どうしたの?」
妹紅の様子が気になったのか、ミスティアが尋ねる。
「あいや、今何か聞こえなかった?」
妹紅がそう言った後、皆で一度耳を澄ませる。
「本当だ、何か聞こえる。外かな?」
リグルが音の元を探して屋台の暖簾を中からかき分け外を見る。するとその瞬間、一瞬の閃光の後大きな光の束が火が沈んで薄暗くなり始めた夕焼け空を一気に照らす。
「なんだなんだ?白黒か?」
同じく外を見ていた妹紅がその閃光を見て声をあげる。
「近くで弾幕ごっこでもやってるのかしらね?ってまた・・・あれ?近づいてない?」
輝夜も暖簾を分けて外を見る。
「あら本当・・・なんだろう、なんだか嫌な予感しかしないわ・・・」
ミスティアも気になったのか、八つ目鰻の仕込みをしていたのを一旦中断して外に出てその様子を確認する。
四人がそのまま空を眺めていると、また巨大な閃光が空を覆う今度はほぼ屋台の真上を通過する。よくみると小さな光弾も大量に飛び散っているようだ。その弾幕の中から、ミスティアの屋台に向かって霊夢が飛び出してきた。
「っはい!汲んできたわよ!水!・・・あんた覚悟なさいこっからが勝負よ!」
霊夢はその様子を見ていたミスティアの隣で着地し、ぶっきらぼうに水の入った容器をミスティア渡してすぐに札を構えて空を見る。そこには夕空を背に霊夢たちの方に向けて日傘を構える風見幽香の姿があった。それに気づいて妹紅も札を構えるが。
「あら残念、ゴールされちゃったわ。追いかけっこは私の負けねぇ。」
幽香は傘を畳んで少し残念そうにそう言うと、ふわっと地面に着地し屋台に向かって歩き始める。妹紅と霊夢はまだ警戒を解いていない。
「それじゃ、何か出していただけるかしら?追いかけっこでちょっとだけ疲れてしまったわ。」
カウンターに座って幽香はミスティアに注文をする。一瞬チラリとリグルの方を見る、リグルはビクッと反応するが、幽香はすぐにミスティアに視線を戻して
「あら、仲直りできたのねぇ。」
と、一言。
「おかげさまで・・・これ、お品書きね。ほら、妹紅さんに霊夢も戻って来て。今日はご飯を頼むと豚汁のおまけ付きよ。」
幽香にお茶とお品書きを渡して、輝夜とリグルにも同じ物を出した後、一旦外に回って屋台提灯に灯をつける。どうやら営業開始らしい。
「・・・ぷっ、せっかくかっこ良く飛び出したのに格好いいところ見せられなくて残念ねぇ?妹紅?」
「っだぁー!てめえいい度胸だ!ってかいいい加減にしろ!表出ろ!食前の運動に蹴散らしてやる!」
ビシッと輝夜に指を指す。
「ふふ、ようやくやる気になった?それじゃ、夜雀さん?注文はまた後で。」
そう言って椅子から立ち上がる輝夜、屋台から出て行く前にミスティアに軽く手を振って出て行った。
「・・・はぁ、ちょっと。早く何か出しなさい。もうくたくたよ。」
輝夜と入れ替わりで屋台に入ってきた霊夢が軽く肩をたたきながら言う。
「はいはい、そこにお品書きあるでしょう?」
「ミスティア!私八つ目の串焼きとご飯~」
リグルが手を上げて注文する。
「私は・・・これと、これと・・・これお願い。」
少々ぐったりしながら霊夢はミスティアにお品書きを見せながらその中の料理を指差す。
「ふふ、どうしたの?霊夢、随分とお疲れじゃない。それじゃあ私はそこの子と同じのをもらおうかしら。」
幽香はリグルを指さして言う。リグルはまたビクッと反応して霊夢の影に隠れる。その様子を見て幽香はくすくす笑う。
「はいはい・・・って始まったわね。ちょっと見やすくしましょうか。せっかくだし。」
注文を受けた所で外が騒がしくなった。輝夜と妹紅の弾幕勝負が始まったのだろう。ミスティアは3人分の鰻の串を網に乗せた後一旦屋台の外に出て暖簾を屋台の上に置いた。これで屋台の中から輝夜達の様子がよくわかる。
「やってるわねー。・・・あら、お茶が美味しい。」
「輝夜さんがんばれー!」
「あら、貴女はそっちを応援するのね。それじゃあ私は白髪の子にしようかしら。あっちの方が土臭くて嫌いじゃないわ。」
暫くして妹紅と輝夜が決闘を終えて屋台に戻ってきた。二人とも服はボロボロで、あたりはすでに深闇に包まれていた。
「あんたねえ、あの炎の弾幕やらなんとかならないの?着物が真っ黒焦げじゃない!」
「そんなひらひらしたの着てるのが悪いんだろう?ギリで避けても服が燃えてちゃざまあないな。」
にししとしてやったり顔の妹紅。
「札とかあるんだからそっち使ってくれたっていいじゃないって言ってるのよ!」
「敵の言う事なんて聞くわけないだろ~?っと、ただいま~。女将さん見てた~?勝ったよ~!」
「おかえりなさい。えぇ、見てましたよ。お疲れ様です」
言ってミスティアは二人分のお茶とお品書き、ついでにお手拭きを用意する。
「おかえりなさい、輝夜さん。」
リグルはミスティアからお手拭きを受け取って輝夜に渡す。
「ああ、ありがとう。」
「女将さん、私いつもの~」
帰って来てそうそうもこうは手を上げて常連の客の注文をする。
「はーい、お姫様はどうする?」
「だから輝夜でいいって。ん~・・・じゃあこの八つ目の串揚げと筍の天ぷらとご飯にしようかしら。」
「ふう、食べた食べた。だいぶ生き返ったわあ。」
霊夢は満足そうに背伸びをする。
「こちらもご馳走様。おいしかったわ。・・・さてと」
幽香もコトリと箸を置いて立ち上がる。そして『ガチャッ』という音とともに霊夢に日傘を突きつける。
(・・・どうして日傘からあんな音がするんだろう)
妹紅は真後ろでした音について考える。
「さて・・・食後のデートでもどう?貧乏巫女さん?」
幽香はニタァ、と口元を歪めて殺気を放つ。霊夢はそれを意に介する事なく
「・・・いいわよ。さっき散々追いかけられたお返し含めてギッタギタにしてくれるわ。」
と返しそのまま屋台の外へ出て行く。幽香もその後に続くが、屋台から出て行く時一度振り返って
「・・・ふふ。貴女達のおかげでちょっと楽しい食事になったからね。よかったら食事の余興にでもして頂戴。それと、どちらでも良いから今度殺り合いましょう?」
と言い残して飛び去って行った。
「・・・あれって拒否権あるのかしら?」
輝夜は外を見ながら言う。二人の弾幕ごっこはもう始まっているようだ。
「さあ?どうでしょうね。はい、二人とも、先にご飯と豚汁です。」
「ひゃあ・・・」
食事も終わっていたリグルは豚汁のおかわりを片手に完全に観戦モードだ。
「っと、ありがとー。流石に派手だなー、あの妖怪。永琳とどっちが長生きなんだろ。」
妹紅も豚汁片手に観戦モードだ。
「・・・流石に永琳だと思うけど・・・。」
輝夜もお茶を片手に観戦にふけこんでいるようだ。
「二人とも、出来ましたよ。」
言ってミスティアはそれぞれに料理を出す。
「っと、待ってました~!」
「ふふ、それじゃあちょっとお行儀が悪いけど、私も見ながら食べさせてもらおうかしら。」
輝夜も串揚げを片手に屋台の外に体を向ける。真っ暗な夜空で行われる彼女たちの弾幕ごっこは派手であったり、美しかったりで屋台にいた全員が魅入られてしまう程だった。
もう少しリグルとミスティアの会話や、それぞれの考えを丁寧に描写してみてはどうでしょうか?それが主軸ならやはり今回のは物足りない気がします。
次回作も楽しみにしています!!