夕立アリスと夕焼け霊夢
雨が降り出したのは突然の事だった。
日中の天気が嘘だったかのように空一面に雲が広がり、程無くしてポツリポツリと雨粒が地面に黒い斑点をつけていく。
雨は数秒後にはその勢いを増し、既に傘無しで歩けば数十歩でずぶ濡れになってしまうであろう勢いになっていた。
予期せぬ夕立に降られながらも私は一人帰り道を歩く。
当然傘など持っていない。しかし、持っていた所で差す事は無かっただろう。
丁度雨に打たれていたい。そんな気分だったのだ。
しかし、このままでは里で買った物が入っている紙袋がダメになってしまう。
そう思い、仕方なく私は魔法の森の入口で雨宿りをする事にした。
1本の木の下に入り込み、その幹に背を預けるようにして佇む。
完全に雨を防げる訳では無いが、何も無いよりは遥かにマシだろう。
濡れた顔で空を見上げると、木の葉の隙間から鼠色をした雨雲が顔を覗かせていた。
顔を上げて空を見るのも飽きたので、今度は足元を見てみる。
下を向くと、頬から伝った雨粒が靴先に数滴落ちた。
雨水で重くなった髪の毛が垂れ下がって顔に張り付き、そこから水が伝って涙の様に線を描いて流れ落ちて行く。
落ちて行く水滴を見つめていると、自分の足の先にもう一つの足が現れた。
「こんなところで雨に打たれて、何をしているの?」
聞いた事のある声に顔を上げると、紅白の色使いをされた特徴的な巫女服を着た友人が立っていた。
「ほら、こんなところに居たら風邪ひくわよ? 神社にいらっしゃい」
ここからなら家の方が近いけれど、何となく家に帰りたく無くて私は霊夢の差し出した傘の中に入って歩き出した。
☆★☆
「はい、このタオル使って。冷えてるだろうからシャワーを浴びて着なさい」
「……」
私は無言のまま頷き、渡されたタオルで髪の毛や服の裾の水気とると、そのまま服から水が落ちないよう気をつけて脱衣所へと向かった。
重くなった服を脱ぎ浴室に入ると、壁に掛けてあるシャワーの蛇口を回す。
冷たい水がシャワーのノズルから噴き出し、しばらくして温水へと変わって行く。
それを手に取り肩に向けてあてると、当たったお湯が体のラインを描いて床へと流れ落ちる。
温まると言うより雨水を落とすように体中にお湯を浴びると、私はさっさと脱衣所へと戻った。
備え付けてあるバスタオルを借りて体を拭き、服を着直そうと脱いだものを入れたかごを見る。
すると、そこには見慣れない浴衣が畳まれて置いてあった。
服はすでにお節介な巫女さんに回収されてしまったようだ。
仕方ないのでそれを着ると、霊夢が居るのであろう居間に向かって歩き出した。
そこだけ電気の付いている居間に入ると、霊夢がお茶をすすりながら座っていた。
「あ、おかえり。温まった?」
私は適当に頷くと、テーブルを挟んだ向かいに座った。
「ごめんなさいね、そんな服しかなくて」
霊夢は苦笑いしながら言うと、テーブルに置かれていた空の湯呑に急須からお茶を注いだ。
「はい、どうぞ」
私の前に差し出すと、霊夢は急須の中に残っていたお茶を全部自分の湯呑に注ぐ。
お茶好きな霊夢らしい行動だ。
「ありがとう」
「お礼なんていいわよ」
霊夢は得意げに言うと、お茶をすすり、テーブルの中央に置かれていたお皿から煎餅を取ると一齧りした。
私も淹れてもらったお茶を啜ってみる。
苦みの強い緑茶は、何となく気持ちを落ち着かせる効果があるのだろう。
「あんな雨の中一人で立っててどうしたのよ?」
興味本位なのか、お茶をすすりながら世間話をするような勢いで霊夢が聞いてきた。
「……実は」
話そうか一瞬躊躇したが、別に話した所で何も変わるまいと思い、私は話し出した。
「へぇ……自立型の人形ねぇ」
全て話し終える頃にはお茶がすっかり冷めてしまっていた。
霊夢がつまんでいたお煎餅も既に彼女のお腹の中に仕舞われている。
「私は別に必要無いと思うけどねぇ、生きているように動かせる訳だし」
そう言いながら霊夢はお煎餅を掴もうと手を伸ばし、途中で全部食べてしまった事を思い出したのか手を引いた。
「そんな訳にもいかないわ、自立型の人形を作るのは私の長年の目標なの」
「そりゃそうなんでしょうけど」
手持無沙汰なのか霊夢はテーブルに肘を立て、それに顔を載せてこちらを見ている。
「まぁきっとアリスなら大丈夫よ、何時か完成するでしょ」
気安く言う彼女を見ていると、無性にイライラしてきた。
「何時か? 何時かって何時よ? よくそんな簡単そうに言ってくれるわね、私にだって出来るか出来ないかすらわからないのよ?」
「アリスなら出来るわよ」
「何も知らないくせに! 何を根拠にそんな事!!」
言いだしてしまうとそれは止まる事を知らず、いつの間にか私は関係も無い霊夢に向かって怒鳴り散らしていた。
(しまったっ……!!)
そう思った時には既に遅く。
私はどうしていいのか分からず、気まずさから俯く事しかできなかった。
「大丈夫よ、アリスなら出来るわ」
「え……?」
と、俯く私に向けて霊夢は再び優しい言葉をかけてきた。
驚いて顔をあげると、まっすぐにこちらを見つめる霊夢と目が合う。
「どうして、そんな自信ありげに言えるのよ」
それでも素直になれない私は、言い返す。
「悩んでいるって言うのは諦める事とは程遠いのよ、まじめに悩んでいるあなたは絶対にあきらめない。それだけの強い意志のあるアリスなら何時か完成させられるわ」
一点の曇り無く、真っすぐに私を見つめながら霊夢は言った。
その視線に私は『ああ、私はこの人にだけはどうしても敵わないんだな』と、心の中で強く思った。
☆★☆
気が付けば雨雲は何処かに流れ去っており、辺りは夕日で綺麗なオレンジ色に染め上げられていた。
「ありがとう霊夢。叫んだらなんだかすっきりしたわ」
「気にしなくていいわよ。その代わり自立型の人形が出来上がったらお手伝いさんに1台欲しいわ」
雨上がりの神社はあちこちに水溜りが出来ている。
そのどれにも綺麗な夕日が写り込み、私の目の前に居る霊夢の背景を綺麗に染め上げている。
「ふふふ、霊夢、あなたはまるで夕日ね。私を優しく包み込んでくれる」
「なっ、やめてよ恥ずかしい。そんなんじゃないわ」
人の事はべた褒めする癖に自分が褒められると霊夢は顔を赤く染めて恥ずかしがった。
「それじゃあまた来るわ」
「ええ、わかったわ。またね」
そう言って私は空に飛び上がると、自分の家がある魔法の森の方へ向かって飛んで行った。
~End~
これは自立人形完成もさほど遠くないかも?
>自立型の人形が出来上がったらお手伝いさんに1台
る~ことのことかーーーっ!!!
作者の意図をそのままキャラへ写したような構成でしたが
返って端的にまとめているのでくどさが過ぎず良かったです。
最初から最後まで流れがスッとまとまっていて淀みなく読む事が出来ました。
雨に打たれるっていう感覚も感じとれます。
こんな雰囲気が好きなので気持ちが良かったです。
よかったです。
レイアリはどっかで見て、これもアリだなと思ったのが始まりですね。
やはりアリスは誰と組ませてもおいしい。
今回もコメントありがとうございました( ゚∀゚)
>>2
コメントありがとうございます!
きっとアリスは自立型の人形を近いうちに完成させるでしょうね。
そのうちそんなお話も書いてみたいものです。
>>3
ありがとうございます、気に入って貰えたようでとてもうれしいです。
これからもがんばるので気が向いたら読んでやってください。
自立人形が「る~こと」だとすると、アリスと霊夢は古くから大変仲がよろしい訳だ。これは妄想がひろg(ry
コメントありがとうございました!
>>4
コメントありがとうございます!
グダグダさせずに短くまとめるのが苦手な俺としてそう言っていただけると嬉しい限りです。
これからもへたくそながらに頑張っていきたいのでよろしくお願いします!
>>5
アリスさんは悩みが多そうだな~みたいな感じで書きました。
ちなみにこれ書いた時外が雨降ってて思いついたんですよ(笑)
雨は好きなので、こういう描写はかいてても楽しかったです。気に行っていただけて一石二鳥ですね!
コメントありがとうございました!
>>6
コメントありがとうございます!
タイトルは毎回毎回悩みます……
正直1番時間かけてるかもしれない(´・ω・`)
楽しんでいただけたら書いている身としては嬉しい限りなので、またよかったら読んで行って下さいね!
レイアリを書いてくれる作者さんが増えてくれてうれしいなー
アリスにほめられて赤くなる霊夢を想像しただけお腹がいっぱいになりますよw
>>生きてるように動かせるだし
誤字かな?
コメントありがとうございます!
レイアリ俺の中でもトップを争うカップリングですよ!!
誤字指摘ありがとうございます、全く気付かなかった(´・ω・`)