彼女はずるいと思う。
「あ、今お茶入れるね」
「あら、もうできてるわよ」
何でもかんでもあっという間にやってしまう。
「今晩のおかずは煮物にしよっかな。あ、でも今から買い物は…」
「そんなこともあろうかともう用意してたりして」
自惚れかもしれないけど、私は要領がいいほうだと自負してる。
朝起きてから夜眠るまでの行動はすべて効率よく、的確に高速に。でも、
「…おはよ」
「おはよう。朝ごはんできてるからちゃっちゃと食べちゃってよ」
それ以上に彼女は生産的で、正確に迅速に物事をなしてしまう。
それってなんだかずるい。そんなこと言っても意味はないけど、ついつい子供みたいに駄々をこねてしまう。
「育った環境の違いよ。あなただって磨けばもっとできるでしょう?」
そのたびに彼女はこう言う。ずるい回答だと思う。肯定も否定もしづらいこの回答に私はいつも口をつぐんでしまうから、すぐ
その話題が終了するんだ。ずるい。
「ずるい」
「隣の芝生は青く見えるのよ」
そんなこと言ったって、そもそも人口芝生と天然芝生は根本的に違うんだから。私のこれは芝生違い。だって無いものねだりな
んだもの。
「それを言うなら私だって無いものねだり。うらやましいわよ」
その上いつも会話の主導権を握ってはぐらかしてくる。ずるいったらありゃしない。
「それこそあなたなら磨けば手に入るでしょ?」
「たぶん時間が足りないわ」
何が時間が足りないだ。皮肉のつもりかな。その気になれば限りなく広い時間を支配できるくせに。持てるものの傲慢だ。ずる
い。
「こっちに来れば手取り足取り教えてあげるって」
「そんなことよりあなたとこうしてくっちゃべってたいわ」
そんなお下品な言葉使ったってごまかされない。何があってもあなたは私と同じ時間を生きてくれないんだ。私は本気なのに。
ずるい、ずるい、ひどい。
「むぅ」
「そんなに慌てないの。ほらクッキー焼いたから」
そんなに子ども扱いしないでって。私の方が年上なのにって。言ってもあなたは聞いてくれない。そんなに対等でいることが怖
いんだ。置いていかれるよりも追い抜かされるほうが楽だもんね。でも、ね。
「でも、あながち間違いじゃないかも」
「何が」
磨けばできるってのはたぶん力がつくってことじゃない。宝石は磨くと周りの光を反射して輝くようになる。その輝きは万華鏡
みたいに変化して覗き込む方向によっては全く違う形に見えたり。それってつまり、色んな見方ができるようになるってこと。
「私にはそんな便利な力ないけど」
「んっ」
ずるいって見方を変えると相手を惹きつけるための魅力。
ひどいって見方を変えると相手を汚させないための自傷。
見方一つで、磨き方一つで私だってやろうと思えばやれるんだ。
「私だって時間を止められるのよっ」
唇を押さえたまま目を見開いて、じっと硬直してしまったあなた。目が潤んでいるのも頬が紅くなっているのもきっと磨かれて
見方が変わったからなんだろうなって。
キャラ分が少し薄かったですけど悪くなかったです。
なんてわくわくしながら読めました、面白かった!
と思って読んでたら良い意味で裏切られたw咲アリ素敵すぎるでしょう…
うむ、まごうことなき咲アリだ。
>>アリス・マーガトロイドさま
ミスったー!最後の最後でこんな誤字なんてぶち壊しですね…。
ご指摘ありがとうございます。
>>那津芽さま
こんな短い作品にワクワクしていただけるとは…!
作者冥利に尽きるというものです!
>>3さま
私だってレイアリ以外書くんですよ?……たまに。
咲アリも胸が熱くなりますな。
>>4さま
よろしい、ならば咲アリだ(え
>>5さま
親馬鹿な(子煩悩?)なお嬢様がお許しになられるのはもう少し先なんでしょうね…きっと。
すると、とたんに咲夜さんがかわいくなる