Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

無と虚の音

2011/05/27 00:29:32
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※注意・季節感がおかしいです。
それでも良いという方は↓よりどうぞ。









 幻想郷は冬から春に季節が変わる際、冬の白から徐々に色彩を取り戻す。
 しかしそれもほんの一時の事で、幻想郷は再び山の頂上から白く染まる。冬の白から、春の白へと。
 春の白とは、即ち桜の白である。

「……やれやれ、今年も見事に咲いたものだ」

 呟き、窓から見える裏の桜に目を向けた。
 数年前から急に白くなった桜の花は、今年も窓から見える景色を押し潰さんとばかりに白い波を作り出している。
 桜は散り易い花なのだが、こうも咲き誇られると綺麗を通り越して少々不気味である。

 ……また今年も、紅を呼んで人を集めるのだろうか。

 ふと、そんな事を思った。
 最近……というか毎年この時期だが、霊夢達は神社で毎日の様に花見をする。
 先日は魔理沙が、その前は妖夢が、更にその前は咲夜が……と花見に誘いに来たから、頻度はかなりのものと察する事ができる。
 そしてうちの桜が満開になると、霊夢は神社ではなく店の裏で宴会を開く。その時最初に店を訪れるのは、決まって霊夢。そう、彼女は桜の魔力に操られているのだ。
 霊夢が来る事も、それに続き様々な者が来る事も、全て家の白い桜が持つ魔力の所為である。
 うちの桜は自分の白に原初の色である紅を合わせて紅白となり、様々な色である人妖を引き寄せるのだ。
 これが毎年の様に行われているのだから恐ろしい。桜は自身を中心として宴会を開かせる事により、擬似的にとはいえ祀りを行っているのだ。
 普通の人間が集まるだけでも結構な力が得られるが、集まるのは幻想郷でも名の通った妖怪達。それらが桜を祀るとなると、桜の魔力は膨大な量に増える事だろう。

 宴会を止める様子が無いのを見る限り、誰もこの妖怪じみた桜の考えに気付いてはいないのだろう。気付いているのは僕だけである。


 ――カランカラン。

 扉の鈴の音で一時考察を中断し、扉の方へ目を向けた。

「霖之助さん、今年も裏の桜借りるわよ」

 ……嗚呼、矢張りこの桜は紅を呼んだ。
 楽しそうに笑みを浮べる霊夢を見て、僕は内心溜息を吐いた。

「全く……此処は商店なんだがね」

「あら、人や妖怪が沢山来るんだからお店としても喜んで迎えてほしいんだけど」

「来はするが何も買わないだろう。そういう者を客とは呼ばないよ」

「まぁ別に良いじゃない。ひょっとしたら誰かが何か買うかもしれないし」

「……ハァ」

 今まで結構な数の商談を様々の者としてきたが、どうもこの少女には口で勝てる気がしない。
 空を飛ぶ……如何なるものにも縛られず囚われない彼女の能力故か、それとも僕が彼女に甘いのか。……恐らくは、両方なのだろう。

「……片付けはそっちでやってくれよ」

「はいはい」

 これからの宴会が楽しみなのだろうか、喜々とした表情で霊夢は奥へと歩いていった。裏口から桜の所へ行くつもりなのだろう。
 騒がしいのは苦手だが、別に参加しなければならないという訳でもないし、何時も通り読書に耽るとしよう。
 思い、本棚から数冊の本を取りだした。





***





 すぐ近くで多くの人妖が騒ぐのが聞こえてくる。大体の面子が集合して、宴会も盛り上がって来た頃だろう。先程から楽器の演奏が聞こえてくる。騒霊楽団が演奏でもしているのだろう。

 さっきから数人が宴会に出たらどうかと誘いに来たが、全て断った。
 喧騒に包まれて飲む酒よりは、店の中で静かに飲む方がいい。
 魔力を集めている桜も、傍で見るよりはこうやって窓から覗く僅かな枝に開いた花を見る方が、趣があっていいというものだ。

 そんな考えから、僕はつい先程から読書を中断して、花見酒を愉しんでいた。
 酒を飲むなら宴会に出ろと言われそうだが、とてもあの中で静かな花見は期待出来ない。

「……矢張り、僕はこっちの方が合っているな」

 馬鹿みたいに騒ぎ、浴びる様に飲むのは好きじゃない。
 景色を肴に酒の味を愉しむ。この落ち着いた一時は、何とも言い難い風情がある。

 この良さを理解してくれるのは西行寺の亡霊嬢や花の大妖、それと幼馴染の半獣くらいのものか。

 ……いや、もう一人いた。
 そう思った時だった。

 ――カランカラン。

 扉が開き、僅かな喧騒の音と共に一人の少女が店の中へと入ってきた。
 また宴会へ参加させようという輩か。そう思って窓から視線を外し、扉に目を向ける。

「……こんにちは、店主さん」

「……あぁ、君か」

 今度は魔理沙辺りが来たのだろうか。
 そう思って振り向くと、黒い服と金色の髪が目に入る。
 ……ここまでだと魔理沙かと思うが、最大の違いは傍らに浮かぶヴァイオリン。
 プリズムリバー三姉妹の長女、ルナサ・プリズムリバーだ。

「今回もこっちにいるのかい?」

「……はい。どうもあの雰囲気は馴染めなくて」

「まぁ、それもそうだろうね」

 彼女は鬱の音を使う。宴会場の様に鬱とは無縁の場所では居心地も悪いだろう。
 故に彼女は毎年香霖堂での宴会に参加すると、演奏を終えた後は店の中へとやってくる。 
 店の中も鬱とは無縁だが、あの騒がしい場所よりは幾分か居心地が良いのだろう。

「……あの、迷惑ですか?」

「ん? いや、そんな事は無いよ」

 彼女は商品を壊すような事もしないし、偶にだが小物等を買ってくれる上客の部類に入る。
 それに彼女は、先程挙げた「花見の風情を理解している一人」だ。いや、理解しているというよりも、落ち着いた空気を好むという感じか。
 とにかく、彼女は香霖堂を商店として訪れてくれるし、騒霊という名とは反対に騒がしくない子だ。
 歓迎こそすれ、拒む理由は無い。
 ……まぁ、香霖堂は如何なる者が客であろうと拒む事は無いのだが、客以外は出来るだけお帰り願いたいものだ。

「飲むかい?」

「あ……頂きます」

「分かった」

 近くにあった盃に僕の物と同じ酒を注ぐ。……あー、この盃は売り物だったが、まぁいいだろう。後で洗えば何も問題は無い。

「はい、演奏お疲れ様」

「……どうも」

 そう言いながら、なみなみと酒の注がれた盃を手渡す。
 おずおずとした様子でそれを受け取り、ルナサは両手で杯を傾ける。

「……しかし、あれだね」

「?」

「演奏が終わってからよく無事にこっちまで来れたね」

 言って、窓の外へと目を向ける。
 白い桜の下で行われている様々な色達の宴会は丁度いい具合に盛り上がっており、皆桜の魔力に操られているようだった。

「えぇ……ちょっと絡まれましたけど、もう慣れました」

「……フム、それもそうか」

 まぁそれも当然と言えるだろう。彼女は香霖堂での宴会で演奏をした後は必ずといっていい程ここへ避難するのだ。絡まれた際の対処法も十分にあるという事なのだろう。
 出来れば幾つか教えてほしいものだ。

「……まぁ、妹達は巻き込まれたみたいですけど」

「みたいだね」

 窓の外を見ながらそう呟く。ルナサの言葉通り、彼女の妹であるリリカとメルランは酒の強い連中……主に神や鬼や天狗に飲み比べをさせられている。

「……あんな所には巻き込まれたくないね」

「……ですね」

 言いながら、少し窓を開けた。外で行われているどんちゃん騒ぎが店内へと流れ込んでくる。


 ――あぁー! リリカがぁー!

 ――まぁ無理ないね。相手が相手だし。

 ――あー、やっぱり潰れたかー。

 ――よーし! んじゃ次はアタシとやろうか!

 ――おー! いったれ萃香ー!

 ――フハハハ、精々頑張るんだな!

 ――にゃにおう!? 鬼と天狗と騒霊を潰したからって調子に乗るなー!


 ……騒がしい。騒がしい事この上ない。
 あんな飲み方では酒もいい気はしないだろう。酒の神は怒りそうだが……って、今飲み比べをしているのは酒の化身か。なら仕方ないな。

「……凄い事になってますね」

「……全くだ。あんな喧騒を聞きながらよりは、落ち着いた雰囲気の曲でも聴きながら酒を飲みたいものだね」

 騒がしくては楽しめるものも楽しめない。そしてその喧騒の矛先はいずれ自分へと向けられ、記憶が無くなるまで飲まされるのだ。だから宴会というものは嫌いだ。

「……あの」

「うん?」

 とそんな事を考えていると、ルナサが声を掛けてきた。
 彼女から話し掛けてくると言う事は珍しいので何かと思い、耳を傾ける。
 少し言おうかどうか迷っているような様子だったが、やがて意を決したかの様にルナサは言った。

「演奏……しましょうか?」

「……演奏?」

「は、はい……」

「……ム」

 一瞬何事かと思ったが、恐らくは今の僕の言葉を聞いての事だろうか。
 『落ち着いた雰囲気の曲でも聴きながら酒を飲みたい』。喧騒から逃げたいという思いから出た独り言だったが、どうやら聞かれていたらしい。

「……じゃあ、お願いしようかな」

「……はい」

 言うと、ルナサは傍らに浮べたヴァイオリンを手に取り静かに音を奏で始めた。
 曲は彼女のオリジナルだろうか。低く、静かで、それでいて暗くは無い。落ち着ける様な曲だ。

「………………」

 少し彼女の演奏を聞いていると、開けたままだった窓から散った数枚の桜を乗せた風が入ってきた。
 数枚の花弁が舞う様子を見て、僕はふと思った。

「…………ム」

 ……よくよく考えれば、今の状況は凄い事ではないのだろうかと。

 以前述べた事だが、白という色は色として認識されていない。そしてそれは対極である黒も同様だ。白とはゼロであり、黒は虚なのだ。
 白と黒が合わさると、ゼロと虚の境界には何も無い。即ちそこからは何も生まれないという事である。
 しかし今店の中は強大な力を持つ桜の『白』、そして先程の演奏という擬似的な祀りで力を得たルナサの『黒』に満たされているにも関わらず、確かな音……即ち、無から有が生み出されているのだ。

 零と虚から生み出された音。
 それと桜の景色を肴に、僕は盃を傾ける。

 ……矢張り、桜の魔力に操られるのも存外悪くないものだ。

 そんな事を思いながら。
Q.何で五月なのに桜咲いてんの?
A.五月? 閏四月の間違いだろ?



あれこれルナ霖じゃねぇ。

どうも、唯です。
前回の投稿から随分と間が開いてしまいました。

最初に書いた通り、季節感がおかしいです。五月の頭ならまだしも、もうすぐ六月だというのに桜が咲いてていいんでしょうか?w
原案作ったのが四月だから仕方ないんですがね……

ルナ霖はイチャついてるより程好く話し合ってる方がらしいかなぁと思って書いてたら、結果ルナ霖成分が物凄く薄いという結果に!どうしてこうなった。
しかも書いてる途中にテスト期間に入りPCが触れず、テストが終わった今日深夜脳をフル稼働させて書き上げたというgdgdっぷり。

上記の通り、深夜脳で後半書いたので色々と酷い部分があると思います。まぁ、笑い飛ばして頂けたなら幸いです。

今回も誤字脱字その他ありましたらご報告下さい。
最後に、ここまで読んで頂き有難う御座いました!

※追記・注意書きを追加、あとがきを少し修正、タグを変更

http://yuixyui.blog130.fc2.com/
コメント



1.投げ槍削除
良いんじゃないすか?ネットに季節なんて関係ないし。

>ルナ霖はイチャついてるより程好く話し合ってる方がらしいかなぁ
わかる、すっごい分かる。
イチャつかない、だがそれが良い。
2.淡色削除
幻想郷でこういう落ち着いた雰囲気を醸し出せる人って、
個人的にはあまりいないような気がしますね。
物静かな二人で花見酒……イイじゃないですか!
3.削除
コメント返信ですー。

>>投げ槍 様
良いん……ですかね……?
分かって頂けますか!

>>淡色 様
私も幻想郷には物静かな人は少ないと思いますw

読んでくれた全ての方に感謝!