Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

スコップ越しに見える未来

2011/05/23 22:59:54
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ざくり、ざくりとスコップは土色の地面に突き刺さる。
ぽたり、ぽたりと汗は地面を濡らす。
ぜぇはぁ、ぜぇはぁと息は上がってゆく。
段々深まってゆく穴に私は心は躍る。


私は穴を掘っている、何故かって?
そこに地面があるから、じゃ駄目かな。
既に自らの背丈を越すほどになり、頬には土がつく。
毎度毎度、ご苦労な事だが自分の仕事であり生き甲斐なのだ穴掘りは。
昔は大勢でやっていたが、時が経つにつれ皆はやらなくなった、長く続いた平和でもう興味が無くなったのだろうか。

「…ちょいと休憩しよう」

言って、腰を降ろす。
じっとりと汗が浮かび、服の色は変わる。
私は地面にスコップを突き刺して軍手を外しヘルメットを脱ぎ萎れてしまった自慢の耳を伸ばし、水筒に口を付けた。

『塹壕で一番人を殺したのは銃剣でもピストルでも何でもない、ただのスコップなの、知ってた?』

突き刺しているスコップを眺めているとふとそんなあの子の言葉を思い出す。
勉学好きの彼女らしい、少し興味が出ると書庫に籠ってたもんなぁ。
確かにこんな重い金属の塊に殴られたら痛い、それに土を掘り起こしたり岩を退けて行くと鋭くなって刃物にもなってしまうから、怖いよ。
何処だかの世界の格闘技の最終奥義はこのスコップで首をたたっ切るとか聞いたけど…考えたく無いなぁ、やっぱり。

「お腹、すいたな」

呟いて腰に提げているポーチから携帯糧食を取り出しかじる。
味気は無いけど腹にたまる、こんなもん食べて戦おうと言う気は失せるだろうけど。
でも確か今はもっと進化しているとか聞いたなぁ、お湯を注ぐだけで生野菜の新鮮さが手軽に再現できたり。
…ひょっとしてあの子だけこんなもん食わされていたんだろうか、そう考えると可哀そうになってきた。

「まぁ良いか、続けよ」

残りを口に押し込み、腰を上げ、更に掘り進める。
そう言えば、あの子もこんな風に穴を掘ったんだろうか。
汗水たらして、スコップ振るって、こんな風に。
掘り進めていると、またもや思い出す。

『スコップの先からは未来が見える、こんな言葉知ってる?』

どんな未来が見えるんだか。
でも、興味があるかな、スコップ越しに見える未来。

「よっこら…せっと」

掘り下げた、満足いくまで掘り下げた。
後はそこらから拾ってきた小枝や葉っぱを被せて土をかけてカモフラージュ。
さぁ、完成。後は引っかかるのを家で待っていれば良い。
泥だらけの彼女は見ものだろう。
だがここで私は帰ろうと思った足を止め、スコップを掲げる。
所々に錆が浮き、土が付着しているそれを通してたった今偽装し終えた穴を見た。
すると、見えて来た。

『痛ったぁ~、またてゐね、全く』

長く伸ばした銀の髪を土で汚し穴の中で尻もちをつく彼女。

「スコップ越しの未来、ねぇ」

未来が、見えたのだ。
落とし穴には『現実』と言う名の住人が住んでいる。

誰かによって掘られたと言う『過去』
誰かによって隠匿されている『現在』
誰かによって踏まれるはずの『未来』

これらが、落とし穴に住まう三人だ。
異なるように見えて、その実深く繋がっている。


落とし穴、考えてみれば久しく作って無いなと思いつつ投げ槍がお送りいたしました。
投げ槍
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
深いなぁ・・・落とし穴だけに・・・

何言ってんだ自分、ちょっくら落とし穴に落ちてきます
2.名前が無い程度の能力削除
いい大人がマジに作った落とし穴は本気で痛い事を知ったあの日の夏。

うどんちゃん苦労してるんやな…
3.奇声を発する程度の能力削除
こういう考え方が出来るって凄い