【注意】
モブキャラ男が出てきます。
そういうのがダメな方はバックスペースをぽちっと押して下さいな。
それが許容範囲な方はそのまま下へとスクロールをどうぞ。
「んぅ……よく寝た」
長い夢の世界を脱出し、現実世界へと戻ってきた僕。
今日も一日、学校に追われる憂鬱な一日が始ま─
「あら、目覚めたのね、お兄さん」
「おはよう、お兄ちゃん」
「コーヒー、入ってるわよ、兄さん」
あぁ、何だ、まだ夢か。寝ぼけてるんだな。
僕は自らの頬を目覚まし程度に一発ばしっと叩く。
「朝からどうしたの? いつもと様子が違うわよ?」
「目覚めが悪いお兄ちゃんらしいけど…」
「コーヒー飲んだら目も覚めるわよ、兄さん、はい」
うん、これは夢じゃないようだ。
「朝ごはん、トーストでいいかしら」
「スターに任せるわー」
「私もサニーに同じくー」
「じゃあ、僕もトーストで…」
流れに乗るということも大事。
全くもって状況を理解できていないけどとりあえず今は頭を整理しないと。
今の状況はこうだ。
・目が覚めたと思ったら、自分は小さな女の子三人と暮らしていた
・三人とも自分のことを兄として慕っているらしい?
というところか。
「トーストできたわよー」
「あ、はーい、ルナー、お兄ちゃん、テーブルに行きましょ」
「はいはい、あ、私コーヒーね、兄さんは何飲む?」
「あ、えっと、何でもいいよ」
「スター、兄さんの分のコーヒーもお願い」
「はーい」
そして、食卓に4人分のトーストと、各自それぞれの飲み物が置かれ。
「いただきまーす」
「…いただきます」
何ともよく分からない一日が始まったのだった…。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
東方三月精
~ If Story ~
とある青年の幻想郷移住記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
用意されたトーストを食べ終え、ゆっくりとコーヒーを飲む。
そして、目の前の三人が誰なのかを真剣に考える。
一人は黒髪ストレート、先ほどから「スター」と呼ばれている子。
一人はオレンジ色のツインテール、「サニー」と呼ばれている子。
そして、最後は黄色のくるくる髪、「ルナ」と呼ばれている子。
いずれもどこかで会ったことがあるような気がするのだが、どこで会ったのか思い出せない。
彼女たちをじっと見つめつつ、考え込んでいると─
「ねぇ、お兄さん。今日は何か変よ?」
「そうだよね、私もお兄ちゃん、変だと思うの」
勘付かれた? いや、そんなことはないはず。
自分の特技はポーカーフェイスが得意だから早々ばれる自信はない。
「そんなことないよ、僕はいつも通りだと思うけど」
「いや、何か隠してるわね、ルナ、お兄さんと散歩に行ってあげて」
「今から新聞読もうと思ったのに?」
「いつもルナが一番彼のことを分かってるじゃない、頼むわよ」
「仕方ないわね、兄さん、行きましょ」
「え、ちょっと」
半ば強引にルナに手を握られ、家を飛び出す。
「いってらっしゃーい」
後ろから2人がのんきな声で見送ってくれる、こっちはそれどころじゃないのに…。
家からしばらく歩き、何もないのどかな風景を臨もうとしたとき、前を歩いていたルナが振り向く。
「さてと─ 家から追い出されたわけだけど、兄さん、一つ聞いていいかしら?」
「ん、どうしたの?」
「兄さん、私たち三人のこと……忘れてる─ わよね?」
「え…そんなことないよ」
「目が泳いでる! 兄さんが嘘をつく時はその癖が出るから分かるわよ」
この子は一体何者なんだ、僕のこの癖を知ってるのは家族くらいだぞ…。
「正直に話してみて。 私は怒らないわよ」
話さないと、いけないような。
まるで、悪事を働いた後の母親の追及のような感覚を覚えてしまう。
「確かに、君の言うとおり…僕は記憶がないよ、全く君たちが誰なのか、分かっていない」
「やっぱりね。 朝からおかしいと思ったのよね─」
「しかし、僕の癖まで読み取るなんて不思議だよ…君は一体何者なんだ?」
この癖を見破ると言うことは相当長く僕と居る、そうでもないと分からないはずなのだが─
「そうね、私はルナチャイルド。 貴方の奥さん『だった』人よ」
「え、え…えぇぇ!?」
「驚くのも無理はないわよね」
「驚くのもそうだけど、余りにも驚いたというか、なんと言うか─ 」
しかし、『だった』と言うのが気になるわけだけど。
「貴方の記憶が戻るまでは『だった』という位置づけで居させてもらうわ」
「別にそんな気遣いは─」
「……不安なのよ、貴方がスターとサニーに浮気しないか」
案外、この子可愛いな、記憶が失う前の僕は判断を誤っていないのかもしれない。
そして、それと同時に名前の出てきた、今は家で待っているであろう二人のことを思い出す。
「──そうだ、あの二人、あの二人のことについてもルナの知っている範囲で教えてくれないかな」
「あの二人のことも忘れてるのよね、本人から聞くのが一番だけどまぁ、少しくらいならいいわよ」
「うん、お願い」
「二人とも私の仲間というか幼馴染というか、まぁ生まれた頃からずっと一緒にいるようなものかしら」
「そして、黒髪の方がスターサファイア、オレンジ色の髪の子がサニーミルク」
「一緒に住んでるのは昔からの付き合いからね。 あの子達が兄さんのことをそう呼ぶのは私がそう呼んでるから」
「─っと、このくらいでいいかしら?」
「うん、十分だよ、ありがとう、ルナ」
「……そんな面と向かってありがとうなんて言われると恥ずかしいじゃない……///」
赤面するルナが予想外に可愛い。
本当に記憶を失う前の僕の判断は間違ってなかった。
「とりあえず、戻ろうか…あまり遠出もあれだし、一旦家に戻ろう、ルナ」
「そうね、時間もそろそろお昼時だし、戻りましょうか」
僕はルナと共に家への帰路へ着く。
ただ、彼女が僕の奥さんだった人とは言え、やはり手を繋ぐのは恥ずかしい。
「家に帰ったら、なるべく普通を装ってね。 じゃないと私が後でサニー達に問い詰められるし」
「うん、分かったよ」
話したことといえばこれくらい。
気恥ずかしさと戸惑いでほぼ無言のままであった。 我ながら情けない…。
そうして二人で並んで歩いていると家にたどり着いた。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい、お兄さん」
「おかえりー、お兄ちゃん」
何事もなかったかのように迎えられ、とりあえず僕はテーブルの椅子に座る。
その一方、ルナは二人に呼ばれて部屋へと行った様だ。
一時的に一人になり、状況を大体把握した僕は椅子から立ち、リビングをうろついてみる。
写真がたくさんある棚。 三人の小さな人形。 茸の盆栽? よく分からないものまでたくさんある。
その写真の棚の一つに僕の写真があった。
隣にはウェディングドレスを着たルナが居て、周りにはスター、サニー、他に知らない人達も居る。
本当に僕はあの子と結婚していた、という事実を知って、
そして、そんな大切なことを忘れていた、という事実を知って胸の中がいっぱいになる。
僕はなんて罪作りな男なんだろう。
「あれ、お兄ちゃん、何見てるの? あぁ、ルナと結婚した時の写真?」
「──! びっくりした、サニーか」
「あの結婚式はホントにすごかったよねー。 今でも全部覚えてるよ」
「サニー、ちょっとだけ詳しく教えてくれない?」
「別にいいけど、お兄ちゃん覚えてないの、せっかくの結婚式?」
我ながら地雷を踏んだかもしれない。
「いや、そんなことはないけど、やっぱり自分以外の人の思い出も聞きたいものだし」
「それなら別にいいけど─ どこから話せばいい?」
「手短に最初から話してくれると助かるよ」
「うん、あれは今から半年前だったかなー」
サニーによる語りが始まる。
ウェディングドレスを着たルナが可愛かったこと、みんながお祝いに来てくれたこと。
そして同じくタキシードを着た僕がかっこよかったこと。 とても幸せな様子だったこと。
その全てを聞いた僕は本当に自分の記憶が飛んでいることに悲しい気持ちになる。
「ありがとう、サニー。 久しぶりに話を聞けてよかった」
「こっちも久しぶりに思い出して恥ずかしくなっちゃったよ…」
そうこうしているとスターとルナも戻ってきて、みんなで少々遅めのお昼ご飯ということになった。
お昼はスターが作ってくれた茸のパスタ。 料理担当はどうやらこの子らしい。
「いただきまーす」
4人で食べるご飯も二回目。
状況も大分分かったこともあり、朝ほど戸惑うこともなく普通にパスタを完食した。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまー」
「お粗末様でした」
いつもと違う生活に慣れない自分は何をすればいいのか全くもって分からない。
縛られない生活っていうのはこんなに楽しくて、そしてこんなに過ごすのが難しいものなのか。
テーブルに座って怠惰な時間を過ごしているとスターから名を呼ばれる。
「お兄さん、ちょっと話があるから私の部屋まで来てくれるかしら」
「あぁ、分かったよ」
スターについていき、彼女の部屋へと向かう。
そして、部屋に入り、ドアを閉めた。 直後─
壁を背に押し付けられる状況に。
逃げ場のないこの空間に二人。
そして、スターがぽつり、と言葉を零す。
「お兄さん、ルナから事情は聞いたわよ、記憶喪失なんだってね」
「あぁ、確かにそうだけど……」
「私ね、チャンスだと思ったの。いつもルナばっかりに夢中だった貴方がこんなことになってくれて」
「……どういうことだ」
「偶然とはいえ、ルナに対する罪悪感もあるけど、今だけならお兄さんを独占できるって、そう気づいたの」
「ねぇ、いつもルナとばかりいるけど、たまには私もどう? 悪くないとは思うわよ?」
まさかこんなことで呼ばれるとは思わなかった。
ルナが言っていた、浮気するかもしれなくて不安っていうのが理解できた。
自分が浮気するんじゃなくて、あっちから近づいてくるのか。
「返事がないのは肯定の証かしら? たった一回のことよ、大丈夫」
「いや、その誘いには残念ながら答えられないよ」
「やっぱりね、ルナと結婚する前の貴方だってそうだったものね。いつもルナしか見てなかった」
「記憶を無くしても本能のどこかでルナを大好きなのかしら─、悔しいけど、私の負けだわ」
ただ、危なかったのも事実。
もしもお酒とか入っていたら、本当に一回だけならば…危なかった。
「改めてスターに迫られて、ルナを愛してるってのに気がついたけどね」
「もしかして、最初から記憶喪失じゃなかったりしたの?」
「そんなことはないよ、ただ少しずつ記憶が戻ってきている感じではあるけども─」
「まだ肝心な、自分の名前を思い出せていないんだから」
「そうだったのね……私たちが変に干渉するのもどうかと思うし、気長に待っててもいいと思うわよ」
「あぁ、そうするよ」
スターの誘惑を振り切って、そして時間が経ち、夜。
夕食も食べ、そろそろ寝ようかと思っていた頃。 今度はルナに呼ばれた。
「兄さん、少しだけ私の部屋に来てくれる? 話したいことがあるの」
「ん、分かった」
何か夕食前のスターの一件の時とデジャヴを感じたけど、今度はルナだし大丈夫だろう。
そう自分の中で結論をつけ、ルナの部屋へと向かう。
部屋に入り、ドアを閉めて、ルナと向き合う。
「ねぇ、兄さん。 今だから言えることだけど私は悲しいの」
「兄さんが記憶を失って、私との思い出が全部消えたみたいで」
「そんなことはないよ、ルナとの思い出だって今日の思い出が十分……」
「それじゃダメなの、もっと、ちゃんと私を覚えて欲しいの」
「あなた。 もう一度、私の中にあなたを刻んで、そして私を覚えて」
「ルナ──、本当にいいのか? 後悔しても知らないよ」
「後悔なんてあるわけがないじゃない。 だって私とあなたは夫婦だったのよ」
「ルナ……うん、分かったよ」
「…っ、大好き、愛してる……」
その瞬間、何かが自分の頭を駆け巡った。
今まで過ごしてきた時間の過去が頭の中を駆け巡って、閉じられていた扉が開かれた。
「──、思い出した。全部思い出した、僕の名前は──」
「あなた! 思い出したの!?」
「うん、僕の名前は、 」
あぁ、全てを思い出した途端に目の前のこの子がもっともっと愛しく見える。
今日だけじゃない、これから先、未来永劫永遠に離したくない存在へと。
「ルナ、愛してる」
「私もよ…… 」
そのまま僕たちはベッドへとなだれこんだ。
艶めいて見えるルナの頬、唇、そして鎖骨へとキスの嵐を落とす。
「…っ、愛して、もっと私の中にあなたを注いで」
電灯が消えて、そして僕たちはゆっくりと二人の夜を過ごすのだった──。
それから1ヶ月後。
僕はすっかり自分の立場にも慣れ、生活にも慣れ、平和な日々を送っている。
こちらでの仕事というか、そういうものも見つけて、毎日忙しい。
しかし、それでも家に帰ると、僕を迎えてくれる人たちがいる。
「ただいま」とドアを開けて言えば、
「おかえり、お兄さん」
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
「お帰りなさい、 」
と返してくれる愛しい三人が居る。
そして、三人はもう少ししたら四人になる。
「ルナ、今日はどうだった?」
「ふふ、5回だったかしら、お腹蹴ったわ」
「あぁ、待ち遠しいなぁ…名前はどうしようか?」
「まだ早いわよ─、男の子か女の子かも分かってないのに」
「それもそうだね…愛してるよ、ルナ」
「私も愛してる─、 」
「ずるいわ、私たちにも何かないのかしら」
「そうだよ、お兄ちゃん」
「サニーも、スターもいつもありがとう、大好きだよ」
「ねぇ、 」
「ん、どうしたの、ルナ」
「私、ルナチャイルドは誓います」
「あなたと、サニー、スター、そして生まれてくるこの子。 みんなを平等に愛し続けることを誓います」
「あなたも誓ってくれる?」
「もちろんだよ、ルナ」
愛しい日々は今日も過ぎていく。
思い出は思い出のまま、過去へと積み重なっていく。
そう、愛しい今の日々の思い出として。
そうして、また新しい一日が始まる。 幸せな一日が。
-The moon is beautiful- END
モブキャラ男が出てきます。
そういうのがダメな方はバックスペースをぽちっと押して下さいな。
それが許容範囲な方はそのまま下へとスクロールをどうぞ。
「んぅ……よく寝た」
長い夢の世界を脱出し、現実世界へと戻ってきた僕。
今日も一日、学校に追われる憂鬱な一日が始ま─
「あら、目覚めたのね、お兄さん」
「おはよう、お兄ちゃん」
「コーヒー、入ってるわよ、兄さん」
あぁ、何だ、まだ夢か。寝ぼけてるんだな。
僕は自らの頬を目覚まし程度に一発ばしっと叩く。
「朝からどうしたの? いつもと様子が違うわよ?」
「目覚めが悪いお兄ちゃんらしいけど…」
「コーヒー飲んだら目も覚めるわよ、兄さん、はい」
うん、これは夢じゃないようだ。
「朝ごはん、トーストでいいかしら」
「スターに任せるわー」
「私もサニーに同じくー」
「じゃあ、僕もトーストで…」
流れに乗るということも大事。
全くもって状況を理解できていないけどとりあえず今は頭を整理しないと。
今の状況はこうだ。
・目が覚めたと思ったら、自分は小さな女の子三人と暮らしていた
・三人とも自分のことを兄として慕っているらしい?
というところか。
「トーストできたわよー」
「あ、はーい、ルナー、お兄ちゃん、テーブルに行きましょ」
「はいはい、あ、私コーヒーね、兄さんは何飲む?」
「あ、えっと、何でもいいよ」
「スター、兄さんの分のコーヒーもお願い」
「はーい」
そして、食卓に4人分のトーストと、各自それぞれの飲み物が置かれ。
「いただきまーす」
「…いただきます」
何ともよく分からない一日が始まったのだった…。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
東方三月精
~ If Story ~
とある青年の幻想郷移住記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
用意されたトーストを食べ終え、ゆっくりとコーヒーを飲む。
そして、目の前の三人が誰なのかを真剣に考える。
一人は黒髪ストレート、先ほどから「スター」と呼ばれている子。
一人はオレンジ色のツインテール、「サニー」と呼ばれている子。
そして、最後は黄色のくるくる髪、「ルナ」と呼ばれている子。
いずれもどこかで会ったことがあるような気がするのだが、どこで会ったのか思い出せない。
彼女たちをじっと見つめつつ、考え込んでいると─
「ねぇ、お兄さん。今日は何か変よ?」
「そうだよね、私もお兄ちゃん、変だと思うの」
勘付かれた? いや、そんなことはないはず。
自分の特技はポーカーフェイスが得意だから早々ばれる自信はない。
「そんなことないよ、僕はいつも通りだと思うけど」
「いや、何か隠してるわね、ルナ、お兄さんと散歩に行ってあげて」
「今から新聞読もうと思ったのに?」
「いつもルナが一番彼のことを分かってるじゃない、頼むわよ」
「仕方ないわね、兄さん、行きましょ」
「え、ちょっと」
半ば強引にルナに手を握られ、家を飛び出す。
「いってらっしゃーい」
後ろから2人がのんきな声で見送ってくれる、こっちはそれどころじゃないのに…。
家からしばらく歩き、何もないのどかな風景を臨もうとしたとき、前を歩いていたルナが振り向く。
「さてと─ 家から追い出されたわけだけど、兄さん、一つ聞いていいかしら?」
「ん、どうしたの?」
「兄さん、私たち三人のこと……忘れてる─ わよね?」
「え…そんなことないよ」
「目が泳いでる! 兄さんが嘘をつく時はその癖が出るから分かるわよ」
この子は一体何者なんだ、僕のこの癖を知ってるのは家族くらいだぞ…。
「正直に話してみて。 私は怒らないわよ」
話さないと、いけないような。
まるで、悪事を働いた後の母親の追及のような感覚を覚えてしまう。
「確かに、君の言うとおり…僕は記憶がないよ、全く君たちが誰なのか、分かっていない」
「やっぱりね。 朝からおかしいと思ったのよね─」
「しかし、僕の癖まで読み取るなんて不思議だよ…君は一体何者なんだ?」
この癖を見破ると言うことは相当長く僕と居る、そうでもないと分からないはずなのだが─
「そうね、私はルナチャイルド。 貴方の奥さん『だった』人よ」
「え、え…えぇぇ!?」
「驚くのも無理はないわよね」
「驚くのもそうだけど、余りにも驚いたというか、なんと言うか─ 」
しかし、『だった』と言うのが気になるわけだけど。
「貴方の記憶が戻るまでは『だった』という位置づけで居させてもらうわ」
「別にそんな気遣いは─」
「……不安なのよ、貴方がスターとサニーに浮気しないか」
案外、この子可愛いな、記憶が失う前の僕は判断を誤っていないのかもしれない。
そして、それと同時に名前の出てきた、今は家で待っているであろう二人のことを思い出す。
「──そうだ、あの二人、あの二人のことについてもルナの知っている範囲で教えてくれないかな」
「あの二人のことも忘れてるのよね、本人から聞くのが一番だけどまぁ、少しくらいならいいわよ」
「うん、お願い」
「二人とも私の仲間というか幼馴染というか、まぁ生まれた頃からずっと一緒にいるようなものかしら」
「そして、黒髪の方がスターサファイア、オレンジ色の髪の子がサニーミルク」
「一緒に住んでるのは昔からの付き合いからね。 あの子達が兄さんのことをそう呼ぶのは私がそう呼んでるから」
「─っと、このくらいでいいかしら?」
「うん、十分だよ、ありがとう、ルナ」
「……そんな面と向かってありがとうなんて言われると恥ずかしいじゃない……///」
赤面するルナが予想外に可愛い。
本当に記憶を失う前の僕の判断は間違ってなかった。
「とりあえず、戻ろうか…あまり遠出もあれだし、一旦家に戻ろう、ルナ」
「そうね、時間もそろそろお昼時だし、戻りましょうか」
僕はルナと共に家への帰路へ着く。
ただ、彼女が僕の奥さんだった人とは言え、やはり手を繋ぐのは恥ずかしい。
「家に帰ったら、なるべく普通を装ってね。 じゃないと私が後でサニー達に問い詰められるし」
「うん、分かったよ」
話したことといえばこれくらい。
気恥ずかしさと戸惑いでほぼ無言のままであった。 我ながら情けない…。
そうして二人で並んで歩いていると家にたどり着いた。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい、お兄さん」
「おかえりー、お兄ちゃん」
何事もなかったかのように迎えられ、とりあえず僕はテーブルの椅子に座る。
その一方、ルナは二人に呼ばれて部屋へと行った様だ。
一時的に一人になり、状況を大体把握した僕は椅子から立ち、リビングをうろついてみる。
写真がたくさんある棚。 三人の小さな人形。 茸の盆栽? よく分からないものまでたくさんある。
その写真の棚の一つに僕の写真があった。
隣にはウェディングドレスを着たルナが居て、周りにはスター、サニー、他に知らない人達も居る。
本当に僕はあの子と結婚していた、という事実を知って、
そして、そんな大切なことを忘れていた、という事実を知って胸の中がいっぱいになる。
僕はなんて罪作りな男なんだろう。
「あれ、お兄ちゃん、何見てるの? あぁ、ルナと結婚した時の写真?」
「──! びっくりした、サニーか」
「あの結婚式はホントにすごかったよねー。 今でも全部覚えてるよ」
「サニー、ちょっとだけ詳しく教えてくれない?」
「別にいいけど、お兄ちゃん覚えてないの、せっかくの結婚式?」
我ながら地雷を踏んだかもしれない。
「いや、そんなことはないけど、やっぱり自分以外の人の思い出も聞きたいものだし」
「それなら別にいいけど─ どこから話せばいい?」
「手短に最初から話してくれると助かるよ」
「うん、あれは今から半年前だったかなー」
サニーによる語りが始まる。
ウェディングドレスを着たルナが可愛かったこと、みんながお祝いに来てくれたこと。
そして同じくタキシードを着た僕がかっこよかったこと。 とても幸せな様子だったこと。
その全てを聞いた僕は本当に自分の記憶が飛んでいることに悲しい気持ちになる。
「ありがとう、サニー。 久しぶりに話を聞けてよかった」
「こっちも久しぶりに思い出して恥ずかしくなっちゃったよ…」
そうこうしているとスターとルナも戻ってきて、みんなで少々遅めのお昼ご飯ということになった。
お昼はスターが作ってくれた茸のパスタ。 料理担当はどうやらこの子らしい。
「いただきまーす」
4人で食べるご飯も二回目。
状況も大分分かったこともあり、朝ほど戸惑うこともなく普通にパスタを完食した。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまー」
「お粗末様でした」
いつもと違う生活に慣れない自分は何をすればいいのか全くもって分からない。
縛られない生活っていうのはこんなに楽しくて、そしてこんなに過ごすのが難しいものなのか。
テーブルに座って怠惰な時間を過ごしているとスターから名を呼ばれる。
「お兄さん、ちょっと話があるから私の部屋まで来てくれるかしら」
「あぁ、分かったよ」
スターについていき、彼女の部屋へと向かう。
そして、部屋に入り、ドアを閉めた。 直後─
壁を背に押し付けられる状況に。
逃げ場のないこの空間に二人。
そして、スターがぽつり、と言葉を零す。
「お兄さん、ルナから事情は聞いたわよ、記憶喪失なんだってね」
「あぁ、確かにそうだけど……」
「私ね、チャンスだと思ったの。いつもルナばっかりに夢中だった貴方がこんなことになってくれて」
「……どういうことだ」
「偶然とはいえ、ルナに対する罪悪感もあるけど、今だけならお兄さんを独占できるって、そう気づいたの」
「ねぇ、いつもルナとばかりいるけど、たまには私もどう? 悪くないとは思うわよ?」
まさかこんなことで呼ばれるとは思わなかった。
ルナが言っていた、浮気するかもしれなくて不安っていうのが理解できた。
自分が浮気するんじゃなくて、あっちから近づいてくるのか。
「返事がないのは肯定の証かしら? たった一回のことよ、大丈夫」
「いや、その誘いには残念ながら答えられないよ」
「やっぱりね、ルナと結婚する前の貴方だってそうだったものね。いつもルナしか見てなかった」
「記憶を無くしても本能のどこかでルナを大好きなのかしら─、悔しいけど、私の負けだわ」
ただ、危なかったのも事実。
もしもお酒とか入っていたら、本当に一回だけならば…危なかった。
「改めてスターに迫られて、ルナを愛してるってのに気がついたけどね」
「もしかして、最初から記憶喪失じゃなかったりしたの?」
「そんなことはないよ、ただ少しずつ記憶が戻ってきている感じではあるけども─」
「まだ肝心な、自分の名前を思い出せていないんだから」
「そうだったのね……私たちが変に干渉するのもどうかと思うし、気長に待っててもいいと思うわよ」
「あぁ、そうするよ」
スターの誘惑を振り切って、そして時間が経ち、夜。
夕食も食べ、そろそろ寝ようかと思っていた頃。 今度はルナに呼ばれた。
「兄さん、少しだけ私の部屋に来てくれる? 話したいことがあるの」
「ん、分かった」
何か夕食前のスターの一件の時とデジャヴを感じたけど、今度はルナだし大丈夫だろう。
そう自分の中で結論をつけ、ルナの部屋へと向かう。
部屋に入り、ドアを閉めて、ルナと向き合う。
「ねぇ、兄さん。 今だから言えることだけど私は悲しいの」
「兄さんが記憶を失って、私との思い出が全部消えたみたいで」
「そんなことはないよ、ルナとの思い出だって今日の思い出が十分……」
「それじゃダメなの、もっと、ちゃんと私を覚えて欲しいの」
「あなた。 もう一度、私の中にあなたを刻んで、そして私を覚えて」
「ルナ──、本当にいいのか? 後悔しても知らないよ」
「後悔なんてあるわけがないじゃない。 だって私とあなたは夫婦だったのよ」
「ルナ……うん、分かったよ」
「…っ、大好き、愛してる……」
その瞬間、何かが自分の頭を駆け巡った。
今まで過ごしてきた時間の過去が頭の中を駆け巡って、閉じられていた扉が開かれた。
「──、思い出した。全部思い出した、僕の名前は──」
「あなた! 思い出したの!?」
「うん、僕の名前は、 」
あぁ、全てを思い出した途端に目の前のこの子がもっともっと愛しく見える。
今日だけじゃない、これから先、未来永劫永遠に離したくない存在へと。
「ルナ、愛してる」
「私もよ…… 」
そのまま僕たちはベッドへとなだれこんだ。
艶めいて見えるルナの頬、唇、そして鎖骨へとキスの嵐を落とす。
「…っ、愛して、もっと私の中にあなたを注いで」
電灯が消えて、そして僕たちはゆっくりと二人の夜を過ごすのだった──。
それから1ヶ月後。
僕はすっかり自分の立場にも慣れ、生活にも慣れ、平和な日々を送っている。
こちらでの仕事というか、そういうものも見つけて、毎日忙しい。
しかし、それでも家に帰ると、僕を迎えてくれる人たちがいる。
「ただいま」とドアを開けて言えば、
「おかえり、お兄さん」
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
「お帰りなさい、 」
と返してくれる愛しい三人が居る。
そして、三人はもう少ししたら四人になる。
「ルナ、今日はどうだった?」
「ふふ、5回だったかしら、お腹蹴ったわ」
「あぁ、待ち遠しいなぁ…名前はどうしようか?」
「まだ早いわよ─、男の子か女の子かも分かってないのに」
「それもそうだね…愛してるよ、ルナ」
「私も愛してる─、 」
「ずるいわ、私たちにも何かないのかしら」
「そうだよ、お兄ちゃん」
「サニーも、スターもいつもありがとう、大好きだよ」
「ねぇ、 」
「ん、どうしたの、ルナ」
「私、ルナチャイルドは誓います」
「あなたと、サニー、スター、そして生まれてくるこの子。 みんなを平等に愛し続けることを誓います」
「あなたも誓ってくれる?」
「もちろんだよ、ルナ」
愛しい日々は今日も過ぎていく。
思い出は思い出のまま、過去へと積み重なっていく。
そう、愛しい今の日々の思い出として。
そうして、また新しい一日が始まる。 幸せな一日が。
-The moon is beautiful- END
誤字脱字以前の問題です、注意書きすら読む気は無しですか。そうですか。
でもここに載せるのに相応しくないと言わざるをえない
脳内だけにとどめておきましょう