拝啓
話し合いが、必要だと思います。どうか一度、正門を叩いていらっしゃってください。歓迎いたします。いえ、あなたが思っているような、ひどいことは、何一つとして考えていません。紅茶と茶菓子も用意してありますし、時間はいつでもかまいません。だから、どうか、不法進入、泥棒のような真似をなさらず、正々堂々おいでください。パチュリー様とあなた様がいがみ合っているのを、私はもう見ていられないのです。同じテーブルを囲めば、今のぎくしゃくしたような関係も、お二人の人柄ですから滞りなく、建設的な話し合いができること、私は確信しております。
それに、何か勘違いされているようですが、パチュリー様は別に怒っていません。確かにあなた様が来られたときに限って、不機嫌なのは私も承知ですが、それはあなた様のされてきたことが、あまりにも無慈悲で、暴力的だからでしょう。いえ、すみません。こんなことを書くつもりはないのです。ただ、あの方がどれほど悲しんでおられるのか、あなた様にもご理解頂けるでしょうか。そもそもこの手紙などを読まなくても、分かっておられると思いますが、それでも書かなければならないのは、あまりにもパチュリー様が不憫だからなのです。
あの、隙間だらけの書棚のせいなのです。数年前までは、数多の書物できっちりと埋め尽くされて、それは荘厳で、思わずお辞儀をしたくなるほどの、まばゆいばかりの知識の宝庫、といえば少しおおげさかもしれませんが、何やら普段、本を読まない私のような者でさえも畏怖を覚えるような、重厚な雰囲気の書棚の群が、今やどうなっているのか知らないとは言わせません。あなた様が盗っていったのですから。あなた様が、ご自分の利益だけを優先した結果の光景なのですから。
でも早急に全ての書物を返してくれなどと申すつもりはありません。今回の話し合いに持ってこられる必要もありません。ただ一冊、たった一冊ずつでもよいのです。日常の過ぎてゆく中で、書棚の隙間を一つずつでも埋めてくれるのならば、私ごときの浅はかな考えでも、パチュリー様がご安心なさるのは想像に難しくありません。恐れ多くも私の妄想を書きますが、書物が一つも戻ってこないことが、あの方にとっては恐ろしく、このままゆけば、いつしかこの大図書館から全ての書物が消えてしまう、そんな結末を思い描いて、不安になられているのではないか。繰り返しますが、これはあくまで私個人の妄想にすぎません。しかし、まるで息を吸うかのごとく文章を読まれるお方ですから、もはや命に関わる重大事であるのは明白で、実際、パチュリー様は近頃は体調も優れないようで、頭を抱えてらっしゃることもあり、咳もひどく、書棚の隙間に手を置いては、そこに何があったのか思い出そうと、しばらく立ち止まられていることも珍しくありません。私ごときの不躾な妄想も、あながち的をはずしていないのだと思わざるを得ないのです。
いらぬことばかり書いてしまいました。すでにパチュリー様には話を通してあります。この提案したとき、あの方の普段、滅多に動かない表情が、少し和らいだように見えたのは錯覚ではなかったと思います。どうかおいでください。お待ちしています。
前略。
我が家にはポストなんて洒落たものがないから、ドアの隙間か何かに挟まっていたのか、私が気づいたときには手紙が庭に転がっていて、風雨に曝されてくしゃくしゃになっていたんだが、どうにか、にじむインクの文字列を追っていくと、私を招待してくれているようで光栄な話であると思う。しかし、今は研究が忙しく、そちらへ行くことができない。そっちから来いと言いたいが、やはりパチュリーは怒るだろうな。けど、司書殿には分かって欲しい。私が本を返さないのは、何も面倒臭いとか、あわよくば借りたまま自分のものにしてしまおうとか、そういった不埒な考えからではない。
お前が言うように、パチュリーは不健康だ。図書館に忍び込んでも、あいつの咳ばかり聞こえるから集中して本も読めやしない。だから持って帰るという結果になる。と、この話は置いといて。あいつが不健康なのは図書館のせいだと私は思っている。あの大図書館、地下にあるせいで随分とカビ臭いし、明かりも心許ない程度、それに日光も届かないっていうんじゃ、どんなやつだって不健康になるさ。加えて一切、椅子から動こうともしないだろ。いつか図書館と同化してしまうぞ。私はな、パチュリーの健康を気遣っているんだ。本を拝借するのも、その一環だと考えてくれ。このままいけば、あいつ自身が、ここに乗り込んでくる他ない。そうなれば、晴れて図書館から解放されて、少しでも気晴らしになるだろうさ。それでいいんだよ。
お前が、主人に忠実で優秀な従者であることは、手紙を読んだだけで分かるし、どれほどパチュリーを心配しているのかも分かるが、あまりあいつをあのままの状態にするな。最終的に、寿命を縮めているだけだろう。お前の苦心も分からないでもないが、もっと別の方角へ向きを変えたほうがいい。一生、あのままにしておく気か。だから私は本を返しに行くつもりはない。ずっと拝借し続けるつもりだ。ということだから、上手くパチュリーには言っておいてくれ。間違ってもこの手紙のことを、そのまま伝えるなよ。あいつとは、いがみ合っているほうがやりやすいんだから。草々。
謹啓
返事を頂いてから、しばらく私なりに考えました。返事が遅くなったのはそのためです。まさかあなた様がそこまでパチュリー様のことを考えていらっしゃるとは、露知らず、大変失礼な手紙を書き綴ったこと、まずは深く謝罪いたします。
確かにこの大図書館の環境は、お世辞にも心地よいとは申せません。いつもじめじめしていますし、無数の蝋燭の煤で壁や天井は黒く変色しています。あなた様の仰るように、パチュリー様のお身体にとっては、酷なものが多すぎるのでしょう。もちろん私も気づいておりましたが、しかし、あの方をここから動かすというのは、難しいことでございます。ご友人のレミリア様もどうにかパチュリー様をお外に連れ出そうとされるのですが、全く聞く耳を持たれないですし、いつぞやは、ここで死ぬなら本望と言われる始末でして、もはやテコでも動かないご様子でした。ですが、あなた様のお考えになっていることを、もし本当に実行し続けたらどうなるのでしょうか。図書館から書物がなくなれば、それはもう図書館ではなく、ただの広く汚れた部屋にすぎません。さすがのパチュリー様も、外に出て行く、つまりはあなた様の屋敷に行かれること、まず間違いないと思われます。そのとき、パチュリー様が穏やかな顔をされているかと言えば、また別の話ですが、ともかく晴れて、外出されることになるでしょう。多少なりともお身体の療養になると存じます。 まさに目から鱗とはこのことでしょうか。あなた様の考えには驚かされるばかりでした。私などでは到底思いつかないことです。ただただ、私は書物さえあれば、パチュリー様のご機嫌が麗しい、そのことばかり気にしすぎて、物事の本質が見えていませんでした。私は恥ずかしいです。あの方のことを本当に心配していたのは、あなた様だったのですね。せめて私としても何かお手伝いできないかと思いまして、勝手ではありますけれど、図書館の書物を続々とそちらへ郵送しております。この手紙を読まれている頃には、相当数の書物がそちらのお屋敷に届いている頃かと。これで近い未来、図書館の書物は枯渇するでしょう。すでに、パチュリー様は空っぽになった本棚に頭を打ち据えて、半狂乱になっております。そちらへ行かれるのも時間の問題であると思います。そうそう、今朝は賢者の石を懐にしまわれて、何やら物騒な言葉を呪文のように唱えておられました。どうか覚悟して、お待ちください。それでは、パチュリー様の健康を祈って、そして、あなた様のご無事を願って、筆を置きたいと思います。
追伸 この手紙を書き終わったときには、すでにパチュリー様は出かけられたようでした。主人のいない椅子を見るのは、はじめてでございます。
話し合いが、必要だと思います。どうか一度、正門を叩いていらっしゃってください。歓迎いたします。いえ、あなたが思っているような、ひどいことは、何一つとして考えていません。紅茶と茶菓子も用意してありますし、時間はいつでもかまいません。だから、どうか、不法進入、泥棒のような真似をなさらず、正々堂々おいでください。パチュリー様とあなた様がいがみ合っているのを、私はもう見ていられないのです。同じテーブルを囲めば、今のぎくしゃくしたような関係も、お二人の人柄ですから滞りなく、建設的な話し合いができること、私は確信しております。
それに、何か勘違いされているようですが、パチュリー様は別に怒っていません。確かにあなた様が来られたときに限って、不機嫌なのは私も承知ですが、それはあなた様のされてきたことが、あまりにも無慈悲で、暴力的だからでしょう。いえ、すみません。こんなことを書くつもりはないのです。ただ、あの方がどれほど悲しんでおられるのか、あなた様にもご理解頂けるでしょうか。そもそもこの手紙などを読まなくても、分かっておられると思いますが、それでも書かなければならないのは、あまりにもパチュリー様が不憫だからなのです。
あの、隙間だらけの書棚のせいなのです。数年前までは、数多の書物できっちりと埋め尽くされて、それは荘厳で、思わずお辞儀をしたくなるほどの、まばゆいばかりの知識の宝庫、といえば少しおおげさかもしれませんが、何やら普段、本を読まない私のような者でさえも畏怖を覚えるような、重厚な雰囲気の書棚の群が、今やどうなっているのか知らないとは言わせません。あなた様が盗っていったのですから。あなた様が、ご自分の利益だけを優先した結果の光景なのですから。
でも早急に全ての書物を返してくれなどと申すつもりはありません。今回の話し合いに持ってこられる必要もありません。ただ一冊、たった一冊ずつでもよいのです。日常の過ぎてゆく中で、書棚の隙間を一つずつでも埋めてくれるのならば、私ごときの浅はかな考えでも、パチュリー様がご安心なさるのは想像に難しくありません。恐れ多くも私の妄想を書きますが、書物が一つも戻ってこないことが、あの方にとっては恐ろしく、このままゆけば、いつしかこの大図書館から全ての書物が消えてしまう、そんな結末を思い描いて、不安になられているのではないか。繰り返しますが、これはあくまで私個人の妄想にすぎません。しかし、まるで息を吸うかのごとく文章を読まれるお方ですから、もはや命に関わる重大事であるのは明白で、実際、パチュリー様は近頃は体調も優れないようで、頭を抱えてらっしゃることもあり、咳もひどく、書棚の隙間に手を置いては、そこに何があったのか思い出そうと、しばらく立ち止まられていることも珍しくありません。私ごときの不躾な妄想も、あながち的をはずしていないのだと思わざるを得ないのです。
いらぬことばかり書いてしまいました。すでにパチュリー様には話を通してあります。この提案したとき、あの方の普段、滅多に動かない表情が、少し和らいだように見えたのは錯覚ではなかったと思います。どうかおいでください。お待ちしています。
敬具
図書館司書
図書館司書
前略。
我が家にはポストなんて洒落たものがないから、ドアの隙間か何かに挟まっていたのか、私が気づいたときには手紙が庭に転がっていて、風雨に曝されてくしゃくしゃになっていたんだが、どうにか、にじむインクの文字列を追っていくと、私を招待してくれているようで光栄な話であると思う。しかし、今は研究が忙しく、そちらへ行くことができない。そっちから来いと言いたいが、やはりパチュリーは怒るだろうな。けど、司書殿には分かって欲しい。私が本を返さないのは、何も面倒臭いとか、あわよくば借りたまま自分のものにしてしまおうとか、そういった不埒な考えからではない。
お前が言うように、パチュリーは不健康だ。図書館に忍び込んでも、あいつの咳ばかり聞こえるから集中して本も読めやしない。だから持って帰るという結果になる。と、この話は置いといて。あいつが不健康なのは図書館のせいだと私は思っている。あの大図書館、地下にあるせいで随分とカビ臭いし、明かりも心許ない程度、それに日光も届かないっていうんじゃ、どんなやつだって不健康になるさ。加えて一切、椅子から動こうともしないだろ。いつか図書館と同化してしまうぞ。私はな、パチュリーの健康を気遣っているんだ。本を拝借するのも、その一環だと考えてくれ。このままいけば、あいつ自身が、ここに乗り込んでくる他ない。そうなれば、晴れて図書館から解放されて、少しでも気晴らしになるだろうさ。それでいいんだよ。
お前が、主人に忠実で優秀な従者であることは、手紙を読んだだけで分かるし、どれほどパチュリーを心配しているのかも分かるが、あまりあいつをあのままの状態にするな。最終的に、寿命を縮めているだけだろう。お前の苦心も分からないでもないが、もっと別の方角へ向きを変えたほうがいい。一生、あのままにしておく気か。だから私は本を返しに行くつもりはない。ずっと拝借し続けるつもりだ。ということだから、上手くパチュリーには言っておいてくれ。間違ってもこの手紙のことを、そのまま伝えるなよ。あいつとは、いがみ合っているほうがやりやすいんだから。草々。
霧雨 魔理沙
謹啓
返事を頂いてから、しばらく私なりに考えました。返事が遅くなったのはそのためです。まさかあなた様がそこまでパチュリー様のことを考えていらっしゃるとは、露知らず、大変失礼な手紙を書き綴ったこと、まずは深く謝罪いたします。
確かにこの大図書館の環境は、お世辞にも心地よいとは申せません。いつもじめじめしていますし、無数の蝋燭の煤で壁や天井は黒く変色しています。あなた様の仰るように、パチュリー様のお身体にとっては、酷なものが多すぎるのでしょう。もちろん私も気づいておりましたが、しかし、あの方をここから動かすというのは、難しいことでございます。ご友人のレミリア様もどうにかパチュリー様をお外に連れ出そうとされるのですが、全く聞く耳を持たれないですし、いつぞやは、ここで死ぬなら本望と言われる始末でして、もはやテコでも動かないご様子でした。ですが、あなた様のお考えになっていることを、もし本当に実行し続けたらどうなるのでしょうか。図書館から書物がなくなれば、それはもう図書館ではなく、ただの広く汚れた部屋にすぎません。さすがのパチュリー様も、外に出て行く、つまりはあなた様の屋敷に行かれること、まず間違いないと思われます。そのとき、パチュリー様が穏やかな顔をされているかと言えば、また別の話ですが、ともかく晴れて、外出されることになるでしょう。多少なりともお身体の療養になると存じます。 まさに目から鱗とはこのことでしょうか。あなた様の考えには驚かされるばかりでした。私などでは到底思いつかないことです。ただただ、私は書物さえあれば、パチュリー様のご機嫌が麗しい、そのことばかり気にしすぎて、物事の本質が見えていませんでした。私は恥ずかしいです。あの方のことを本当に心配していたのは、あなた様だったのですね。せめて私としても何かお手伝いできないかと思いまして、勝手ではありますけれど、図書館の書物を続々とそちらへ郵送しております。この手紙を読まれている頃には、相当数の書物がそちらのお屋敷に届いている頃かと。これで近い未来、図書館の書物は枯渇するでしょう。すでに、パチュリー様は空っぽになった本棚に頭を打ち据えて、半狂乱になっております。そちらへ行かれるのも時間の問題であると思います。そうそう、今朝は賢者の石を懐にしまわれて、何やら物騒な言葉を呪文のように唱えておられました。どうか覚悟して、お待ちください。それでは、パチュリー様の健康を祈って、そして、あなた様のご無事を願って、筆を置きたいと思います。
敬白
追伸 この手紙を書き終わったときには、すでにパチュリー様は出かけられたようでした。主人のいない椅子を見るのは、はじめてでございます。
図書館司書
魔理沙は本気でパチュリーを心配してるのか、ただのでまかせなのか
小悪魔は本気で魔理沙に協力する気でやったのか、魔理沙の手に乗った振りした報復なのか
それぞれがわからんから、オチをどうとらえればいいのかわからない
小悪魔ちゃん、完璧にパチュリーさんを煽ったよ!
絶対わざとだろ(笑)
魔理沙逃げて。出来れば潜って。地面潜って。
いい悪魔ですね。小悪魔さんw