旧都に架かる橋。今日も今日とて緑の目が光っている。
陰鬱とした地霊殿の雰囲気をよそに、旧都は盛り上がっているようだ。
橋に住む私には関係のないことだが。
私にとって旧都はうるさすぎる。特に鬼のあいつが。
飲みたくもないお酒を飲まされて、後片付けもしないで放置するのが癇に障る。
それを気付かない鈍感な鬼に、尻拭いをしてしまう私。断れない私にも、非があるのだろう。
「あー! イライラするわ!」
近くにある石を思いきり蹴る。が、それはあり得ない方向に飛んだ。
というよりも石の感覚がなかったと言う方が正しいのか。
その感覚はさておいて、私は空を仰ぎ見る。冷ややかな空気が心地いい。
このままの孤独な雰囲気を楽しみたいと思っていたのも束の間、何かわけのわからない奇声が聞こえてきた。
「ぬぇ~ぬぇーぬぇ~ん」
「……はぁ?」
間抜けすぎるその声はせっかくの空気をぶち壊してくれた。
その声の主はまさに、アンバランスであり風体がおかしい。
この妖怪は地底のものじゃなく、間違いなく地上のものだった。
「独りは寂しくないの?」
涙を流しながらの唐突な投げかけ。さっきの阿呆丸出しの奇声はなんだったのか。
「寂しくないわ」
もちろん、一人の方がいいに決まっている。
「ぬえは、寂しいよ。私地底で封印されていて独りぼっちだった。だから独りは嫌」
思い出した。鵺の妖怪か……今回の異変の騒ぎの際に出てきた妖怪なのか。それまでは封印されていたのだろうか。
「貴方、連れはいないの?」
肩をがっくり落としている。
何か核心に触れるようなことを聞いてしまった気はする。それでも聞かずにはいられない。
「ううん、いると言えばいる。でも、私は少し違う」
訳ありの様だ。いささか説明をしている時の声のトーンも低い。
周りが少し重くなった気がしないでもない。蝙蝠がキーキー鳴いているのも気には留めない。
「待っていてくれる人がいる分、嫉妬するわ」
嫉妬は感じる。正体不明の力を持っていながら、それを認識して待っていてくれている人がいることに。
例え訳ありだとしても、それは嫉妬に値するものだ。
「君にはいないの……? 待っていてくれる人」
真っすぐな質問。茶化して答えてもいいのだけれど、何か嘘は言いたくない気分。
「どっかの鈍感なやつは……私を連れていこうとするわね」
それが面倒な事この上ないのだけれど。と心の中でつけ足しておこう。
「ふぅん。君にもいるんだね。大切な人」
何かを勘違いしているようだけれどもいいか。それでこの子の気持ちが晴れるなら。
「そうでもないけどね、ほら」
そう言って淡い緑色のハンカチを差し出す。
あぁ、ちょっとお気に入りだったんだけどなぁ。
「ふぇ?」
「いいから、涙を拭きなさい。みっともないわ」
今気付いたように、手で目元を触っている鵺。
あわててハンカチでごしごしと拭き始める。
その仕草が少し可愛いと思ってしまった。思いたくなかったけど。
「ありがとう。えーっと……」
「水橋パルスィ……パルスィでいいわよ」
洞窟に反響しないような声で告げる。
幸いにも誰にも聞かれてはいないはずだ。この子以外には。
「ありがとっパルスィ!」
満面の笑み。少し、ほんの少しだけ可愛いはずだ。
いや、うん、間違いなく可愛いのか。ちょっと思考が正体不明になってきた。
「えへへ、ちょっと暇つぶしだったけどそろそろ戻るねっ!」
そう言って手を振り、地上へと戻っていくあの子。
と思ったらぐるりと身をひるがえして戻ってきた。
「あ、そうだ! ハンカチは今度返すねっ」
先程の声のトーンよりは上がっている。むしろこれが素の状態なのだろうか。
私は多分、面倒そうに手を振ったのだろう。ちょっとでもときめいたのが無性に妬ましかったから。
またねと手を振り今度こそいなくなる。
また……ということは、二度目もあるのだろう。
その時に私はどんな反応をするのだろうか。
それも楽しみであり、恥ずかしさもある……と思う。
この感情の置きどころが難しい。
それこそがあの子の残していった正体不明という感情なのだろうか。
そうだとしたら、たっぷりと嫉妬してあげましょう。また会うときにしっかりと。
ピクッ
鵺パルめっちゃアリです!てか私得だわw
ぬえ語で言うとぬぇっぬぇぬぇぇんぇ
2さん>ありですよねー!次に何か新しいのを考えておきますー!
3さん>ぬぇーん?ぬぇっぬえっ!ぬーええええぇぇん!
ちょっと行間あけて修正してみました。こっちのほうが見やすいのかな?
十分見やすいですよ+