「……あの、ミスティアさん。今なんとおっしゃいました?」
「だから、焼き鳥はじめましたって」
「ふざけないでください!」
射命丸は真正面からミスティアをにらみつけた。
文字通り刹那、縦にかまえた握り拳がシミだらけの木板をぶち破る。その衝撃で配膳されたばかりの皿とコップも、熱々のおでんも、串焼き用の炭も、見さかいなく地面へとぶちまけられた。
それでもおさまらない烏天狗の怒気に応じてどこからともなく暴風が吹き荒れ、「八目鰻」と書かれた赤ちょうちんを連れ去っていく。
「ちょっとちょっと。暴れるなら他所へ――」
「これが暴れずにいられるかってんです! ミスティアさん、あなたは今、よりにもよって焼き鳥と言ったのですよ! その言葉の意味が分かっているのですか!?」
声を張り上げまくし立てようと、ミスティアはますます首をかしげるばかり。
射命丸も賛同した焼き鳥反対の意思表明はどこへ消え失せてしまったというのか。いくら鳥頭といえど、自らの矜持を、鳥妖怪の魂を忘れるとは何事だ。
のれんに腕押し、柳に風でやり場のない怒りは、次第に失望へと変わっていった。
取材に次ぐ取材で身も心も疲れきった時、空っぽの頭に浮かぶのはいつもここの八目鰻の味のことだった。続いて妙ちくりんな歌声が内側から鼓膜を震わせて、今夜もあの夜雀と笑いながら一杯やろうかと、そういう気持ちになるのだった。
認めなければならない。いつの間にか、この屋台をかけがえなく感じていたことを。
胸中に空いた風穴は、とてつもなく大きかった。
「どうして、どうして焼き鳥なんか……」
「そう言われても。やっぱり人気じゃない、焼き鳥って。だから、お客さんも来てくれると思うの。屋台をやるからには、それを望むのは当たり前じゃないの? 新聞だって似たようなものでしょう?」
「そ、そんな……」
「とりあえず落ち着いて。今おいしい焼き鳥つくったげるから」
そうして向けられた背中に、射命丸はすぐさまなにか声をかけるべきだった。けれど頭の中でぐるぐると言葉がうずまいて、相応しいものが、のど元までやってきてくれない。
人気。確かに射命丸はそれを追い求めていた。
だが、それは果たして自らの初心を捨て去ってまで手に入れるべきものだっただろうか。
そもそもこの屋台は言うほど客足がとぼしいものでもなかったはずだ。それなのに、一体なにがあってミスティアが道を踏み外すまでに至ったというか。
踏み外す。そう、今のミスティアは間違った道を歩んでいる。
八目鰻屋を盛りたてるために焼き鳥を売るなど、新聞に紙幣の絵を並べて刷り上げたものをさあ購読しろと迫るも同じ。
手段と目的を、志と欲望を履き違えてはならない。
これだ、自分が言うべきだった言葉は。射命丸はうなずき、そして決心した。
ちょうどよく出来上がったのか、ミスティアが振り向く。
焼き鳥一丁と言った次の瞬間が勝負――!
「へいお待ち! 室蘭焼き鳥一丁!」
「って、豚肉じゃないですか!」
「だから、焼き鳥はじめましたって」
「ふざけないでください!」
射命丸は真正面からミスティアをにらみつけた。
文字通り刹那、縦にかまえた握り拳がシミだらけの木板をぶち破る。その衝撃で配膳されたばかりの皿とコップも、熱々のおでんも、串焼き用の炭も、見さかいなく地面へとぶちまけられた。
それでもおさまらない烏天狗の怒気に応じてどこからともなく暴風が吹き荒れ、「八目鰻」と書かれた赤ちょうちんを連れ去っていく。
「ちょっとちょっと。暴れるなら他所へ――」
「これが暴れずにいられるかってんです! ミスティアさん、あなたは今、よりにもよって焼き鳥と言ったのですよ! その言葉の意味が分かっているのですか!?」
声を張り上げまくし立てようと、ミスティアはますます首をかしげるばかり。
射命丸も賛同した焼き鳥反対の意思表明はどこへ消え失せてしまったというのか。いくら鳥頭といえど、自らの矜持を、鳥妖怪の魂を忘れるとは何事だ。
のれんに腕押し、柳に風でやり場のない怒りは、次第に失望へと変わっていった。
取材に次ぐ取材で身も心も疲れきった時、空っぽの頭に浮かぶのはいつもここの八目鰻の味のことだった。続いて妙ちくりんな歌声が内側から鼓膜を震わせて、今夜もあの夜雀と笑いながら一杯やろうかと、そういう気持ちになるのだった。
認めなければならない。いつの間にか、この屋台をかけがえなく感じていたことを。
胸中に空いた風穴は、とてつもなく大きかった。
「どうして、どうして焼き鳥なんか……」
「そう言われても。やっぱり人気じゃない、焼き鳥って。だから、お客さんも来てくれると思うの。屋台をやるからには、それを望むのは当たり前じゃないの? 新聞だって似たようなものでしょう?」
「そ、そんな……」
「とりあえず落ち着いて。今おいしい焼き鳥つくったげるから」
そうして向けられた背中に、射命丸はすぐさまなにか声をかけるべきだった。けれど頭の中でぐるぐると言葉がうずまいて、相応しいものが、のど元までやってきてくれない。
人気。確かに射命丸はそれを追い求めていた。
だが、それは果たして自らの初心を捨て去ってまで手に入れるべきものだっただろうか。
そもそもこの屋台は言うほど客足がとぼしいものでもなかったはずだ。それなのに、一体なにがあってミスティアが道を踏み外すまでに至ったというか。
踏み外す。そう、今のミスティアは間違った道を歩んでいる。
八目鰻屋を盛りたてるために焼き鳥を売るなど、新聞に紙幣の絵を並べて刷り上げたものをさあ購読しろと迫るも同じ。
手段と目的を、志と欲望を履き違えてはならない。
これだ、自分が言うべきだった言葉は。射命丸はうなずき、そして決心した。
ちょうどよく出来上がったのか、ミスティアが振り向く。
焼き鳥一丁と言った次の瞬間が勝負――!
「へいお待ち! 室蘭焼き鳥一丁!」
「って、豚肉じゃないですか!」
ちょっと食べてみたいかも
いや~負けた負けた。
なんで鳥じゃないだろこれ!って途中でわかっちゃうんだろう。すごいなあ。
室蘭焼き鳥おいしいです
食ってみたいw