「弟子にしてください! うらめしやー!」
住みかへ戻ったリグルの鼻先に、茄子色の傘が突きつけられた。
真っかな一つ目としばしの間見つめ合う。無論、見覚えなどない。
「ええと、どちらさまだったかしら」
「よくぞ聞いてくれました! わちきこそは幻想郷一の驚かせ上手、からかさお化けの多々良小傘でありんす! うらめしやー!」
「はあ、そう。帰ってちょうだい」
どうやら時代に取り残されたせいで気のふれてしまったかわいそうな妖怪が、勝手に上がりこんでいたらしい。
そう片付けて、リグルはその横を通りすぎようとした。
瞬間、しっかと足首がつかまれた。見れば、小傘が涙を浮かべてしがみついている。
ついでに言うと、彼女がたずさえていた傘も涙目だった。その上、空いている方の足をぺろぺろと巨大な舌でなめている。かなり気持ち悪い。
「待ってくださいい! あなたの力が必要なんですうう! 弟子にしてくれるまでは帰りませんん! ここ探すのに三日三晩かかったのにあんまりですうう!」
「志望動機も述べないまま面接で受かろうだなんてムチャクチャにもほどがあるわよ!?」
それをそのまま迎え入れるほど、リグルはお人好しでもブラックでもない。
「とりあえず落ち着いて。理由だけなら聞かないこともないから」
「それが先日、寝床に選んだゴミ捨て場で、とある新聞を私めは見かけましてですね」
「切り替え早っ」
安定しない口調も相まって、普通ならばすわ演技かと疑うところだが、この必死な様相を見るにその線は薄いように思えた。
だとすれば、へこたれる事に慣れているのだろうか。何だかふびんな妖怪である。
そんなリグルの内心など察しもしないままに、小傘は懐から薄汚れた古新聞を引っぱり出した。
文字はかすれて読み取れそうにもなかったが、写真だけは刷り立てホヤホヤの時の面影をわずかながら感じさせなくもない。
なんだか見覚えがあるようで、リグルはしばしあごに手をやって記憶をまさぐった。
「……ああ、それ、虫の知らせサービスの記事? 懐かしいなあ」
いくら王でも虫は虫。足りないおつむからしてみれば、思い出せたのは僥倖と言えた。
「で、それが弟子入りと称して人の住みかに押しかけた理由とどう関係あるの?」
「いやもう、いたく感銘しまして! 人を驚かせるのにこんな方法があったのかと! いくら私でもこのままじゃいずれ時代に取り残されるかもしれないと思っていた矢先に、もうこの人に教えをこうしかないと! 傘をかかげてたら雷が当たった心地でした!」
「それ自滅してるし、あなたの傘じゃ雷も落ちないから」
「ほへー! 物知りですねえ、さすが師匠!」
「ま、まあね。高いところにある金属は雷を引き寄せるって、け、けい、ええと。けいおん? とかなんとかが言ってた。ような」
どうやらリグルの頭では虫の知らせサービスだけで容量がいっぱいいっぱいらしい。
しかし、小傘はそれでも尊敬のまなざしを向けていたし、リグルもまんざらでもなさそうだった。普段さんざコケにされている虫の王は、おだてられることにトコトン弱い。
「こ、こほん。でも小傘。これは私の蟲を操る程度の能力があるからできたことであって、真似するのは無理だと思うわよ?」
「のーぷろぶれむです、師匠!」
えっへんと胸を張る小傘。
その横でからからと笑う傘。セットなのかこいつら。
「私の能力は、人間を驚かす程度の能力ですから! 驚かせるためならきっとなんだってできます!」
「いや、それなら私からは何も教えることなんてないんじゃ」
「なんと! もう免許皆伝ですか! 話していることが既に修行だったなんて凄い!」
「もう段々疲れてきた……」
こうなりゃ、適当にあしらってさっさと帰ってもらうしかない。
頭をかかえながら、リグルは静かに決心した。
「あのねえ、小傘。この虫のなんたら? でやった驚かせ方はその名のとおり、虫にしか出来ないの。人間は虫を嫌うものだから。それが寝起きの枕元にでもいたら尚更ってだけで」
「うん? なんで虫は嫌われてるのですか?」
「さあ。それは私にも分からないけれど。姿形がダメなのかなあ。中には見るのも嫌って人もいるし。……それなのに、力が弱いから恐れられるというよりはすぐに駆除されちゃうし。私だって蚊取り線香だの、斬り潰すだの。虫が何したってのよ、もう。だいたい――」
「え、ええと、師匠?」
「――ハッ、私は何を」
「の」の字の秒間筆記記録を樹立する体勢に入る寸前で、リグルは我にかえった。
「とにかく、そういうわけだから。諦めたほうがいいよ」
「むう。確かに私も見るのも嫌と言われるような見ためになるのは……」
「甘ったれてんじゃねェ!」
「ひでぶ!?」
リグルの飛び蹴りがキレイにみぞおちへと炸裂する。
師としての愛や思いやりなど微塵も感じられない、黒いオーラを足へとまとった一撃だった。
倒れふしてビクともしない小傘を鬼の形相で見下ろして、リグルはツバを撒き散らし怒鳴る。
「人気なんてなあ、そんなのは所詮見せかけのものでしかねえんだよォ! お前なんて良いご身分じゃねえか、新作にだって三面中ボスで出演して将来も安泰だろゥ? 私なんか、私なんかなァ……!」
「し、師匠……」
「――ハッ、私はまたまた何を。ご、ごめん、小傘!」
「い、いえ、いいんです! おかげで目が覚めました!」
立ち上がらないまま、それでも引き締まった表情で小傘は自らの意志をリグルに伝えようとしていた。骨が数本持っていかれた痛みに耐えているというもある。
「私、大事な事を忘れてました。人気なんて二の次。今はどうやって人を驚かせるべきかだって!」
「小傘……。で、でも、どうすれば」
その時、リグルは初めて小傘を弟子として認めた。それと同時に、自分が師としてあまりにも不甲斐なく感じられたのだった。
弟子に道を示せずして、何が師匠か。何が王か。
「……パリィ! じゃない、キュピーン!」
「キュピーン!?」
「ひらめいたわ、小傘! これならいける!」
頭上に電球を輝かせ、その光を瞳にもたたえてリグルは意気揚々と言った。
「他でもない、あなたと私だからこそこの作戦は成立するわ。でも、その代わりにさっきあなたが言った人気だとかを一瞬で失うかもしれない。……その覚悟は出来てる?」
「師匠、そんなの、今更ですよ」
「……そう、よね。ごめんなさい。私としたことが、弟子を少しでも疑うだなんて」
「いいんです、師匠。……お願いします」
「ええ、行くわよ。蟲の王たる私、リグル・ナイトバグと!」
「からかさお化けである私だからこそ出来る!」」
「「究極合体妖怪変化!!!!!」」
カサカサ
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カサカサ
百目の蟲……でいいのかな?
と言った直後に修正されましたが、これだと今度はどのへんに小傘分があるのか……
から「かさ」お化けということでしたが、
伝わらなかったのはこちらの手落ちですね。
コメントありがとうございました。以後精進いたします。
※名前云々で再びコメントさせていただきました。
申し訳ありません。
上の説明だけじゃよく分からん
Gの大きさ云々によっては人里を恐怖のどん底まで落とせるな。
↓
倒れ伏してピクリともしない小傘
では?
しかしこれは驚かれるかもしれないけど驚異の死亡率を叩き出すな