「パーマかけてみようよ。パーマ」
「……ごめんなさい。どうしてそうなったのかお姉ちゃん想像も付かないわ」
とはいっても妹のこういった突拍子も無い提案はいつものことだった。
しかしながら毎回結構本気で言っているらしきことが恐ろしいことである。
「どうして?」と、読んでいた本のページをなぞりながら聞いてみると、こいしは私の髪をわしゃわしゃとかき乱しながら。
「お姉ちゃんの髪の毛って結構硬いよね。軽くパーマが掛かってるみたいだって言ってた」
「……そうね。それは認めるけれど」
「ちょいワルのほうがモテるんだって。流行に敏感なこいしちゃんがいうことに間違いはないよ。だからせっかくだから極めてみようよ。パーマ」
「別にモテたいと思ったことはないけれど……」
「うそ。もっと好かれたいと思ってる」
「むぅ」
返しの言葉を許さないほど言い切られる。
本当にそんなつもりはないのだけれど。
「ほのかに香るワルの香り」と、こいしは私の目の前でクルクルと回った。
「ちょいと猫背で佇む背中に漂う過去。今も背負う大きなもの。そういうのを感じさせる大人が持ってるオーラ? みたいなのが心にキュンってなるんだって。キュンってやろーよ。キュンキュンって。モテモテだよ? モテモテ」
こいしは目を輝かせてはいるが、随分と局地的なイメージである。
私は肩を落して溜息を吐いた。
……まったく、だれの影響なんだか。
「駄目よこいし。私にそんなの似合わないわ」
「えー。やってみなくちゃわかんないじゃん。もしかしたら奇跡の超融合が起こるかもしれないよ?」
「わかるわ。朝起きたときに鏡を見たらわかる。見たことあるでしょう?」
「うん。頭がボーン! ってなってる。ボーン! って」
こいしは身体をいっぱいに広げてみせる。
寝起きは私が一番見られたくない姿である。だから出来るだけ先に起きて髪を整えるのである。
これはくせ毛だと自分を説得しながら。
これでも、整えているのである。寝癖ヘアなんていわれているけれど。
「お姉ちゃんストレートパーマをかけたいくらいなのよ? そういうことが出来る人が居ないからやらないけど」
「……似合うと思ったんだけどなぁ」
「他の人にお願いしてみたらどう? 似合う人はきっといるわ」
「たとえば?」と、こいしは尖らせた唇を弾きながらこちらを見た。
「自分で考えて御覧なさい。きっとすぐに見つかるわ」
私はこいしの頭に手を乗せた。私よりもずっと伸ばされているのに、ふわふわとして心地いい。
地上の光をたくさん浴びているからなのだろうか。それとも運動が何かしらの影響を及ぼしてくれるのだろうか。どちらにせよ妬ましい髪の毛である。
原因探求のため、更に深くに触れてみた。
わしゃわしゃと掻き回すと、こいしはくすぐったそうに、しかし嬉しそうに笑った。
「……やっぱり、お姉ちゃんにちょいワルは無理かな」
「ほんと、おかしな事を言う子ね。物事には、いろんな壁があるのよ」
「それじゃあ他のことでもダメ? もっとこう、言葉遣い変えてみたり」
「あら、貴方のお姉ちゃんはこれでも威厳たっぷりに話しているつもりなのよ?」
「ただの下手っぴな敬語でしょ?」
「そんなこと思われてたのね。お姉ちゃんショックだわ……」
正直、結構効いた。
これでも公私混同はしない。デキる上司を演じているつもりだったのに。
肩を落して座り込む私をよそに、可愛い妹はせっせと身支度を整えていた。
他をあたれと言ったのは他でもない私自身である。もう止めるつもりはない。
せいぜい彼女は、自業自得を味わえばいいのだ。
「じゃ、行ってきますおねえちゃん」
「ええ、気をつけてね」
「ほーい」
~~~~~~~~~~~~~
何よりも重要なのは常に物静かであることだ。
言葉はそれほど重要ではない。重要なのはその人物が纏う雰囲気である。人を観察すればそのものの姿はおぼろげだが見えてくる。第一印象でその人物の評価は決まる。不必要にベラベラと過去を話す奴は愚か者だ。ミステリアスは、大人の女を際立たせる調味料なのだ。
「ふふ……」
冷たい風が吹いていた。地上から吹き込む風はいつだって冷え切っている。世界が違うのだ。太陽の輝きを存分に浴びた風。地獄の灼熱に焼かれた風。どちらとも違う風の吹く場所でひとり、ミステリアスな空気を纏う女が佇んでいる。
喧騒は遠く、静寂には届かない。私の場所だ。
「ぁぁ……これが橋姫の、あるべき姿」
「この嘘つき!」
「ィぶ!」
呼吸が停止した。
「嘘つき!」
追加攻撃が繰り出させた。避ける術なんて無い。見事な正拳突きだった。
「………ぁ、あ……こいしあんた…グーで殴ること、ない……じゃない」
橋の上にうずくまる私を見下ろしながら、こいしはなにやら言っていたが何のことだかわかるはずも無い。わかるのは、ようやく五月蝿い小娘を追い払って橋姫的な午後の一時を堪能していたら、何故かいきなり殴りつけられたということだけである。
「バカぁ!」
「なによ……さっき帰ったじゃないの……」
「おねえちゃんヤダって!」
「なにが!?」
詰まった呼吸で出来うる限りの大声をあげた。
こいしの言葉は、最初の勢いを殺さなければこちらが殺される。
「嘘つきには鉄拳制裁!」
「だから何のことかわからないってのよ!」
「おねえちゃんパーマなんてヤダって言ってた!」
「あぁ!?」
重い体を無理矢理に起こして、吐き捨てるように咳をした。
こいしは冬を越せそうなほど頬を膨らませてから、白い歯を見せ付けてきた。
記憶を引き出してみる。
なんてことは無い。数時間前のことだった。
「もっとおねえちゃんのこと好きになりたいな。どうしよー」とこいしが訳のわからないこと言った。
「ふぅん」と私は割とどうでもよかった。耳が千切れそうになった。
「新しい一面を見つけるともっと好きになれるかもしれない」と私は適当に言った。だからさっさと帰ってべったりとくっついてなさいとも。そっちが本音だった。
こいしは居なくなっていた。
「あー、そんなことも言ったかしらね」
「でしょ? 責任とってよ」
「ハッ、なんで私がそんなことしなきゃならないのよ」
空気が震える音がしたが、三回も同じ攻撃に当たってやるほど私は甘くなかった。
「言われたとおりにしたらおねえちゃんに嫌われたんだよ? 責任問題だと思うんだけどなー」
「そんなことであんたを嫌ったりしないわよ、あいつは」
「だけど、おかしなことを言う子だって言われたし」
「へぇ……自覚が無かったのね。驚きだわ」
放たれた張り手を、私は身を引いてかわした。
続けて繰り出された右足も後ろに飛んで避けた。
靴が古くなった木を叩く音が数度続いた。
「不意打ちじゃなきゃあんたの動きなんて大したことないのよね。最近やっと気付いたわ」
「ふん、……自分だってパーマみたいな髪の毛してるくせに」
「そもそもパーマ言い出したのはあんたじゃない。私は関係ないわ」
「パーマを見たらパーマだったの!」
「失礼ね、これはくせ毛よ。伸ばしたらこうなるの」
私は軽く跳ねている後ろ髪を弄ってみせた。
「おねえちゃん言ってたもん、『パルスィの髪の毛は偶にちくちくしてゴワゴワして痛いわ』って。……へへん、なーんだ、結局同じなんだ。私の髪の毛羨ましいんだ」
「……なんでそうなるの」
「おねえちゃんったら私の頭を撫でるときにすごく妬ましそうな顔してるもん。このさらさらふわふわロングヘアーが羨ましいんだぁね。きっと」
こいしはじっとりとした目で私を見つめた。
心を読みきったつもりになったときの目だ。
……まったく、面倒なところばかりに似ているんだから。
「……あーもう、それでいいわ。それで解決ね。私達はあんたの髪の毛が妬ましいのよー」
もの凄く適当だった。
しかしこいしは「むふふ」なんて笑うと、軽い足取りでこちらへ駆けて来る。
「えへへ……撫でていいよ」
「ハァ?」
「こいしちゃんの髪を撫でる権利を君にあげよう」
「……ふん」
こいしは更に頭を突き出した。ゆらゆらと揺れる髪の毛は、風に吹かれる草原のようだった。
私は明後日の方向を見ながら、こいしの頭に手を伸ばした。
雲を掴んだような感覚。日の光を存分に浴びた、暖かい香りが漂ってきた。
吸い付いてきて離れてくれない。
なるほど適当に言ってはいたが、これは確かに妬ましい。
「…………すき…あり!」
「──ッガ!」
圧倒的油断。
これで三度目だった。
私は腹を押さえて、身体を折り曲げた。
これ以上無いほどの笑顔からすばやく伸ばされた両手が、私の両耳を確かに捕らえた。
「ァ痛タタタタ! 待って! 耳はダメだって! 痛い! 痛いから!」
「ダーメ! さあ付いて来て! 一緒におねえちゃんに『大好きだー!』って言うの! 手伝って! さあ、さあ……さあ!」
「なんで私がそんな……あぁもう! ひとりでやりなさいよそんなこと!」
「ヤダ! みんなお姉ちゃんを好きになるの! モテモテなの!」
「分かったから! いってあげるから! 離して、ほんと痛い!」
こいしは不満そうな表情をしながらも、耳を離してくれた。
不満そうな顔をしながら、うずくまる私の手を握った。
「逃げないでね」
訂正。締め上げた。
「うふふ……おねえちゃん驚くぞー」
「あー、そうねー……」
こいしが無駄に大きく腕を振るものだから、釣られて私の身体も大きく揺れた。
痛みでフラフラした頭のまま、私達は地霊殿までの道のりを歩いた。
「……ごめんなさい。どうしてそうなったのかお姉ちゃん想像も付かないわ」
とはいっても妹のこういった突拍子も無い提案はいつものことだった。
しかしながら毎回結構本気で言っているらしきことが恐ろしいことである。
「どうして?」と、読んでいた本のページをなぞりながら聞いてみると、こいしは私の髪をわしゃわしゃとかき乱しながら。
「お姉ちゃんの髪の毛って結構硬いよね。軽くパーマが掛かってるみたいだって言ってた」
「……そうね。それは認めるけれど」
「ちょいワルのほうがモテるんだって。流行に敏感なこいしちゃんがいうことに間違いはないよ。だからせっかくだから極めてみようよ。パーマ」
「別にモテたいと思ったことはないけれど……」
「うそ。もっと好かれたいと思ってる」
「むぅ」
返しの言葉を許さないほど言い切られる。
本当にそんなつもりはないのだけれど。
「ほのかに香るワルの香り」と、こいしは私の目の前でクルクルと回った。
「ちょいと猫背で佇む背中に漂う過去。今も背負う大きなもの。そういうのを感じさせる大人が持ってるオーラ? みたいなのが心にキュンってなるんだって。キュンってやろーよ。キュンキュンって。モテモテだよ? モテモテ」
こいしは目を輝かせてはいるが、随分と局地的なイメージである。
私は肩を落して溜息を吐いた。
……まったく、だれの影響なんだか。
「駄目よこいし。私にそんなの似合わないわ」
「えー。やってみなくちゃわかんないじゃん。もしかしたら奇跡の超融合が起こるかもしれないよ?」
「わかるわ。朝起きたときに鏡を見たらわかる。見たことあるでしょう?」
「うん。頭がボーン! ってなってる。ボーン! って」
こいしは身体をいっぱいに広げてみせる。
寝起きは私が一番見られたくない姿である。だから出来るだけ先に起きて髪を整えるのである。
これはくせ毛だと自分を説得しながら。
これでも、整えているのである。寝癖ヘアなんていわれているけれど。
「お姉ちゃんストレートパーマをかけたいくらいなのよ? そういうことが出来る人が居ないからやらないけど」
「……似合うと思ったんだけどなぁ」
「他の人にお願いしてみたらどう? 似合う人はきっといるわ」
「たとえば?」と、こいしは尖らせた唇を弾きながらこちらを見た。
「自分で考えて御覧なさい。きっとすぐに見つかるわ」
私はこいしの頭に手を乗せた。私よりもずっと伸ばされているのに、ふわふわとして心地いい。
地上の光をたくさん浴びているからなのだろうか。それとも運動が何かしらの影響を及ぼしてくれるのだろうか。どちらにせよ妬ましい髪の毛である。
原因探求のため、更に深くに触れてみた。
わしゃわしゃと掻き回すと、こいしはくすぐったそうに、しかし嬉しそうに笑った。
「……やっぱり、お姉ちゃんにちょいワルは無理かな」
「ほんと、おかしな事を言う子ね。物事には、いろんな壁があるのよ」
「それじゃあ他のことでもダメ? もっとこう、言葉遣い変えてみたり」
「あら、貴方のお姉ちゃんはこれでも威厳たっぷりに話しているつもりなのよ?」
「ただの下手っぴな敬語でしょ?」
「そんなこと思われてたのね。お姉ちゃんショックだわ……」
正直、結構効いた。
これでも公私混同はしない。デキる上司を演じているつもりだったのに。
肩を落して座り込む私をよそに、可愛い妹はせっせと身支度を整えていた。
他をあたれと言ったのは他でもない私自身である。もう止めるつもりはない。
せいぜい彼女は、自業自得を味わえばいいのだ。
「じゃ、行ってきますおねえちゃん」
「ええ、気をつけてね」
「ほーい」
~~~~~~~~~~~~~
何よりも重要なのは常に物静かであることだ。
言葉はそれほど重要ではない。重要なのはその人物が纏う雰囲気である。人を観察すればそのものの姿はおぼろげだが見えてくる。第一印象でその人物の評価は決まる。不必要にベラベラと過去を話す奴は愚か者だ。ミステリアスは、大人の女を際立たせる調味料なのだ。
「ふふ……」
冷たい風が吹いていた。地上から吹き込む風はいつだって冷え切っている。世界が違うのだ。太陽の輝きを存分に浴びた風。地獄の灼熱に焼かれた風。どちらとも違う風の吹く場所でひとり、ミステリアスな空気を纏う女が佇んでいる。
喧騒は遠く、静寂には届かない。私の場所だ。
「ぁぁ……これが橋姫の、あるべき姿」
「この嘘つき!」
「ィぶ!」
呼吸が停止した。
「嘘つき!」
追加攻撃が繰り出させた。避ける術なんて無い。見事な正拳突きだった。
「………ぁ、あ……こいしあんた…グーで殴ること、ない……じゃない」
橋の上にうずくまる私を見下ろしながら、こいしはなにやら言っていたが何のことだかわかるはずも無い。わかるのは、ようやく五月蝿い小娘を追い払って橋姫的な午後の一時を堪能していたら、何故かいきなり殴りつけられたということだけである。
「バカぁ!」
「なによ……さっき帰ったじゃないの……」
「おねえちゃんヤダって!」
「なにが!?」
詰まった呼吸で出来うる限りの大声をあげた。
こいしの言葉は、最初の勢いを殺さなければこちらが殺される。
「嘘つきには鉄拳制裁!」
「だから何のことかわからないってのよ!」
「おねえちゃんパーマなんてヤダって言ってた!」
「あぁ!?」
重い体を無理矢理に起こして、吐き捨てるように咳をした。
こいしは冬を越せそうなほど頬を膨らませてから、白い歯を見せ付けてきた。
記憶を引き出してみる。
なんてことは無い。数時間前のことだった。
「もっとおねえちゃんのこと好きになりたいな。どうしよー」とこいしが訳のわからないこと言った。
「ふぅん」と私は割とどうでもよかった。耳が千切れそうになった。
「新しい一面を見つけるともっと好きになれるかもしれない」と私は適当に言った。だからさっさと帰ってべったりとくっついてなさいとも。そっちが本音だった。
こいしは居なくなっていた。
「あー、そんなことも言ったかしらね」
「でしょ? 責任とってよ」
「ハッ、なんで私がそんなことしなきゃならないのよ」
空気が震える音がしたが、三回も同じ攻撃に当たってやるほど私は甘くなかった。
「言われたとおりにしたらおねえちゃんに嫌われたんだよ? 責任問題だと思うんだけどなー」
「そんなことであんたを嫌ったりしないわよ、あいつは」
「だけど、おかしなことを言う子だって言われたし」
「へぇ……自覚が無かったのね。驚きだわ」
放たれた張り手を、私は身を引いてかわした。
続けて繰り出された右足も後ろに飛んで避けた。
靴が古くなった木を叩く音が数度続いた。
「不意打ちじゃなきゃあんたの動きなんて大したことないのよね。最近やっと気付いたわ」
「ふん、……自分だってパーマみたいな髪の毛してるくせに」
「そもそもパーマ言い出したのはあんたじゃない。私は関係ないわ」
「パーマを見たらパーマだったの!」
「失礼ね、これはくせ毛よ。伸ばしたらこうなるの」
私は軽く跳ねている後ろ髪を弄ってみせた。
「おねえちゃん言ってたもん、『パルスィの髪の毛は偶にちくちくしてゴワゴワして痛いわ』って。……へへん、なーんだ、結局同じなんだ。私の髪の毛羨ましいんだ」
「……なんでそうなるの」
「おねえちゃんったら私の頭を撫でるときにすごく妬ましそうな顔してるもん。このさらさらふわふわロングヘアーが羨ましいんだぁね。きっと」
こいしはじっとりとした目で私を見つめた。
心を読みきったつもりになったときの目だ。
……まったく、面倒なところばかりに似ているんだから。
「……あーもう、それでいいわ。それで解決ね。私達はあんたの髪の毛が妬ましいのよー」
もの凄く適当だった。
しかしこいしは「むふふ」なんて笑うと、軽い足取りでこちらへ駆けて来る。
「えへへ……撫でていいよ」
「ハァ?」
「こいしちゃんの髪を撫でる権利を君にあげよう」
「……ふん」
こいしは更に頭を突き出した。ゆらゆらと揺れる髪の毛は、風に吹かれる草原のようだった。
私は明後日の方向を見ながら、こいしの頭に手を伸ばした。
雲を掴んだような感覚。日の光を存分に浴びた、暖かい香りが漂ってきた。
吸い付いてきて離れてくれない。
なるほど適当に言ってはいたが、これは確かに妬ましい。
「…………すき…あり!」
「──ッガ!」
圧倒的油断。
これで三度目だった。
私は腹を押さえて、身体を折り曲げた。
これ以上無いほどの笑顔からすばやく伸ばされた両手が、私の両耳を確かに捕らえた。
「ァ痛タタタタ! 待って! 耳はダメだって! 痛い! 痛いから!」
「ダーメ! さあ付いて来て! 一緒におねえちゃんに『大好きだー!』って言うの! 手伝って! さあ、さあ……さあ!」
「なんで私がそんな……あぁもう! ひとりでやりなさいよそんなこと!」
「ヤダ! みんなお姉ちゃんを好きになるの! モテモテなの!」
「分かったから! いってあげるから! 離して、ほんと痛い!」
こいしは不満そうな表情をしながらも、耳を離してくれた。
不満そうな顔をしながら、うずくまる私の手を握った。
「逃げないでね」
訂正。締め上げた。
「うふふ……おねえちゃん驚くぞー」
「あー、そうねー……」
こいしが無駄に大きく腕を振るものだから、釣られて私の身体も大きく揺れた。
痛みでフラフラした頭のまま、私達は地霊殿までの道のりを歩いた。
なでなでされたくなければパルスィとちゅっちゅするんだな
パルスィに好きって言われるさとりの反応が気になるぜ……
こいしちゃん……なんという魔性の女っ……!