Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

膝枕

2011/05/13 16:49:43
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ちょっと一杯頂ける?
ええ、いつもの。おかみさん相変わらず忙しそうね。
え?私にはかなわないって?そうね。幻想郷に医者が一人とかってたまにどういうことなのとは思うけど。
うん、そう。
特に今週は本当に忙しかったの。
何が忙しかったかって、私の話を聞いて欲しいわ。
まず豊胸剤、媚薬、生える薬の精製に始まり……え?何が生えるかですって?
もちろん髪の毛よ。それ以外にないじゃない。愚問だわ。
大体生やすなんて論外と思うの。事に及ぶにあたっては指と舌。これを使いなさい。私の持論よ。例外は商売上認めるけれども。
あらごめんなさい。私ったらついカッとなって違う話を。ちょっと脱線してしまったわね。
幻想郷は人外が多いでしょ。里の人は竹林の案内人がいないとココへは辿りつけないからちゃんと診療時間を守るけれど、妖怪や魔女なんていう輩は竹林上空を飛んできては朝夕関係無く薬を求めに来るのよ。まさしく人でなしの所業よね。
それに妖夢が主を連れて「うちのエンゲル係数がもうリミッター振り切れて限界MAXで某雲山さんを食べさせようと思い詰める程です。しかしながら外の世界には手術して食欲を抑制する術があると伝え聞いてきました」とやって来たのを「幽霊には無理」と丁重にお断りして追い返したり、
にとりが発明したばかりの新型電球をありえない所に入れた挙句、割ってしまって急患で運びこまれたり、咲夜が「豊胸剤が効かない」といちゃもんをつけに来たから「効能には個人差があるの」と断っても不服そうだったので「なら豊胸手術すれば?」とパンフレット渡して食塩水にするかシリコンにするか悩む彼女の相談に付き合ってあげたり……
とまあ、本当に色々とあったの。
なあに?言いたい事が多々あるような顔ね。
いいの、分かるわ。
私は大丈夫よ、心配しないで。あら、私の心配じゃないの?
なんにせよ、そういう事で私はあの日疲れていたのよ。





「ああ、少し疲れたわね……」

昼休み。
左肩をとんとんと右手で叩きながら、縁側に腰を下ろした。うーんと伸びをして、ほぅっと息を吐く。
ずっと張っていた気を緩めて、最近青さが増した庭の光景を眺める。どこか遠くから幼い兔達の声が響いてきて平和そのものだった。
腰掛けた縁側はぽかぽかとした日差しが優しく降りそそいでいて、その心地よい陽気にふっと眠気を覚えた。
ああいけない、眠ってしまっては。午後からも診療があるのに眠ってなどいられない。
そんな事を思いつつも、たまにはこんな時間も必要と右隣の柱に寄りかかり座ったまま瞼を閉じた。

(少しだけ、ね)

うつらうつらとうたた寝をしていると、近くに人の気配を感じた。
その誰かが私の左側に座り、私の頭をよしよしと撫でてから横に倒しその膝に乗せてくれた。
目を閉じたままされるがままにそれを受け入れる。
白く靄のかかったようなぼんやりした頭で誰だろうと思ったものの、折角なので甘えさせてもらおうと起きる事もせずその膝枕で眠る事にした。

(ん……?)

どのくらい経ったのだろう。
左の頬に感じる温かい体温は変わらずにそこにあり、ずっと誰かさんの膝枕で寝ていた事に気がついた。
今更ながら疑問に思う。
そういえば一体この膝は誰のものだろう。

姫?
うどんげ?
てゐは……この大きさから違うとして。

まず姫の可能性。
いつもありがとう永琳、お疲れ様って膝枕を?ふふふ、何だかお母さんみたいね。たまにしてもらうけど、この膝は違うと感じる。感覚で分かるもの。慣れ親しんだ感じが全くしない、いわゆる違和感を感じる。
次にうどんげの可能性。
たまには休んでください私を頼ってもいいんです、師匠みたいな?まずその前に私が頼れる位になって欲しいわね。でも大丈夫、きっとうどんげならなれるわ。
でも、うどんげでもない。匂いが違う。医療に携わる者特有の消毒薬の匂いがしないから。
輝夜でもうどんげでもてゐでもないとしたら……では一体全体この膝は誰のものなの?

(誰かしら)

たまに遊びに来る人物を思い返す。魔理沙にアリスに慧音……
慧音かしら。
彼女だったらこんな所で寝ていたら風邪ひくぞ、って怒られそうね。しょうがない甘えん坊だな、膝枕してやるよって。そういう優しい所があるから。
ああ、意外に慧音かもしれない。

(まだもう少し膝枕に甘えていたいけれど)

そろそろ起きなくちゃ。
すでに眠気よりこの膝は誰なのかという好奇心の方が強くて、目をそうっと開けた。
ぱちり、ぱちくり。
目の前の顔が信じられなくて夢でも見ているのかしらと何度も瞬きをした。
私が起きた事に気付いた『誰か』は私と目が合った途端ニヤニヤした。
どうやら夢ではないようだ。
?!?!……???

(って何故あなたがここにいるのーーーーっ!!)

その意外すぎる人物を脳が正確に把握した瞬間物凄い勢いでズザザザァッと後ずさり、その名前を口にした。

「ゆ、紫?!あなた、何で……っ」

叫んだはずみで、縁側から落ちる。

「きゃあっ」

落下の浮遊感に目を閉じる。
来るはずの衝撃は無く、真下にくぱあと開いた隙間に飲み込まれて瞼を開けば真近にまたニヤニヤした紫の顔が……

「ひぃっ」

また後ずさろうとした所を手で抑えられた。

「貴女、無限ループする気なの?」

「今あなた私にひ、ひ」

「膝枕?」

「してなかった?」

「してたわよ。貴女最近疲れてるんじゃないかって思って」

「あの紫が私の心配をしている」

「あのって何よ。失礼しちゃう」

「やっぱり世界の終焉が近いんだわ。紫を早く医者に見せていれば……ああ私が医者だったんだわ。私が早く気付いてあげれば」

とうとう幻想郷が終わる時が来たのか。
そうだ、そうに違いない。
結界だっていつか綻びが出来る。森羅万象はこの世の理には逆らえない。人は死に、形ある物は壊れ、言葉だってゲシュタルト崩壊する世界なのだ。
ありえない。あの紫が膝枕とか。
八雲紫にも終わりが来たようだ。

「あああああ」

私は紫に膝枕されたまま、身も世も無く泣いた。






「それでどうしたんですか?」

「いざ鎌倉って事よ」

「……?意味がよく……?」

「ひざまくらを10回言ってみたらどうかしら。いざ鎌倉に……つまり一大事って事にならない?」

「なりません」
このSSは、とあるスレの素晴らしいネタを頂いて書いたものです。
ほのぼのと仲の悪いゆかえーが好きです。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
そそわでゆかえーが読めるなんて!!
すごい永琳がかわいくてよかったです!紫の顔が目に浮かびます
2.名前が無い程度の能力削除
仲が悪いっていいよね
端から見るとじゃれあってるように見えて
3.名前が無い程度の能力削除
膝枕はしてもらったままなんだw