※注意※
・完全に自分の趣味です。
・オリキャラ注意です。
・同じくオリジナル設定注意です。
・結構オリキャラが活躍します。
・案外結構どころじゃないかも。
以上が許せない方はどうかブラウザバックをする事をお勧めします。
幻想郷、魔法の森。
以前外の書物や河童の試作品で目にした装甲車と言う乗り物に揺られながら私は屈強な兵隊たちに囲まれていた。
「…記者さん?どうした?」
「いや…初めて自分の力以外で移動するのでどうも気分が…」
「ははは、車内はすし詰めだから」
笑って流す髑髏さん、彼が今日の主役です。
何故髑髏か?それは彼が被っているバラクラバから取らせて貰いました。
「しかし記者さんも豪気な事だ、俺達について来て取材なんて」
「いやぁ、無理やり送り出されたんですけどねぇ。そんな事より幻想郷に貴方達の様な戦闘集団がいたなんて驚きです。群れて行動なんて」
私が装甲車の心張棒につかまり揺れを凌ぎながら言うと彼はバラクラバの上から頭を数度かき言葉を紡ぐ。
「…いや、白狼天狗だって戦闘集団だよな?」
「あれは警邏です。直接戦闘はしませんよ、滅多な事じゃ」
「それは俺達だって同じだ、何も好き好んで戦闘を吹っかけはしない、不戦主義なんだようちは」
「ふぅん」
彼の言葉を聞きつつ私は開け放たれた天井を見る。
装甲車の上部ハッチの区切られた四角い空からは真夏の陽光が差し込んでいた
「……それにしてもここ暑くありません?」
「それじゃいっぺん脱いでみな」
「え、えっち!変なこと言わないで下さい!」
余りにも非常識と思える発言に私は顔を赤くしながら抗議すると今度は彼が顔を赤くして声をあげた。
「ち、違う!脱ぐのは防弾チョッキだ!」
「あ、そう言う事でしたか」
周りの隊士に笑われながら防弾チョッキのジッパーを降ろすと中から猛烈な煙が噴き出る。
「な、何で煙が?」
「汗が蒸発しているんだ。水筒の水をかけろ、そのままじゃ脱水症状に陥ってしまう」
「は、はい!」
言う通りに服に水筒の水を急いでかけると、幾らかはましになった。
上半身ずぶ濡れになってしまった私を彼は持ち上げ装甲車の上部に押し上げる。
「暫くそこで休んでな。それから駐屯地に着いたら新しい防弾チョッキ支給するから」
「え?私がさっき着てたのは?」
「濡れてしまったんでもう駄目、交換交換」
濡れた体を外気に晒しながらふと考える。何で私はこんな事をしているのだろうかと。
思えば紅魔館に訪れたのはつい先ほど、美鈴さんにインタビューをしに来たのにあれよあれよと言う間に防弾チョッキに身を包み装甲車に詰め込まれた。
『ジミーについて行けば大丈夫!百聞は一見に如かずですよ~』
ジミー誰。
笑いながら送りだした美鈴さんの顔を思い出しながら呟く。
「体験入隊だったら館の警備でもよかったのに」
そっちの方が楽そうだからなぁ。
門に立って花の世話してお茶飲んで………最後は違うか。
まさか訪れた日に前線へ送られるなんて、思ってもいなかったなぁ。
これまでの事を振り返ろうとした矢先、装甲車は緩やかな制動をかけ停止した。
そして髑髏さんが顔を出して到着を告げる。
言われたとおりに装甲車から飛び降りた先は、見慣れた場所だった。
「ここって、人里………」
そう、幻想郷で最も多くの人間が住まう場所、人里だったのだ。
「さ、ここからは歩きだ、屯所まで行くぞ」
「あ、はい」
振動で固まった体を伸ばすと髑髏さんの後につき里を歩きだす。
意外や意外、里の住人達からは悲鳴では無く喜声、中には走り寄り抱き付く者さえいた。
「…人気者なんですね」
「金払いが良いからな、俺達は」
「はぁ~」
酒だけでなく駄菓子や食事、紅魔館の門番たちは里の財政にも一役買っているらしい。
暫く歩く事数十分、里の中心地から程良く外れた場所にあるベトン製の建造物に辿り着いた。
「さぁ着いたぞ、紅魔軍事顧問団の屯所だ」
「わぁ、凄い……」
髑髏さん曰く地下三階地上二階。
「引き継ぎをしてくるからついて来てくれ」
「え?あ、はい」
言われる通りについて行き入るとすっきりと片付けられた屋内に華美な装飾は無い。
「やぁベン!屯所は綺麗だな!」
「だろ?昨日一日かけて大掃除したんだ、感謝しな」
「そりゃあ感謝するよ、あんたの部下に」
「……まぁ良い。そちらのお嬢さんは?」
「あぁ、山の記者さんだ」
「射命丸文です、初めまして」
髑髏さんの紹介と私の名前を言った瞬間、目の前の彼は顔色を変えた。変な事言ったろうか。近くで見ると余計怖い。右目がつぶれ眼帯を填めていたり、首には白兵戦闘の名残だろうか巨大な切り傷、凄い怖い。
「射命丸文さん!文々。新聞の!」
「え、えぇ」
彼は顔を綻ばせ私の手を握り激しく上下させる。自分よりも何倍も大きい体に揺さぶられて視界が定まらない。
「私はあの新聞が好きなんです、購読だってしています!私の名前はベンジャミン・フラングラー、ベンと呼んで下さい!」
「あ、ありがとうございます」
「ベン、記者さんの腕をちぎるつもりかい?離してやれ」
「す、すいません記者さん。あぁ、館に帰る前に良い思い出が出来た、ありがとう!」
漸く腕を離してもらい、上機嫌に歩き去るベンに髑髏さんは話しかける。
「ベン、八雲の定期襲撃はあったか?」
「いやぁ無いよ、ここ一カ月無い。そろそろ『不』の一文字を追加した方が良い」
ベンは片手を挙げ無言で挨拶すると外へ歩き去って行った。
それをきっかけに何処から湧いて出たのか様々な部屋から一斉に荷物を持った門番たちが出てきて、外へと歩いて行く。
俄かに外が騒ぎだし、皆思い思いの会話をしているのだろう。
『よぉ兄弟!生きて帰ってこいよ』
『当り前だ!』
ほんの些細な約束や
『運が良いなぁ、今夜はプリズムリバー三姉妹の慰問団が来るんだ、僕残ろうかなぁ』
『ははっ、帰りは歩くことになるぜ、止めた方が良い』
日常のちょっとした会話。
彼らも普段の私達と変わらない妖怪だと言う事を再認識させてくれる。
ここで私は彼らに同行して初めてカメラを構え、ドア越しに門番たちの写真を撮った。
互いに抱きしめ合い、笑い合う門番たちを。
そして数枚撮り続けてふと先程の彼の一言を思い出し、髑髏さんに尋ねる。
「ん?あぁ八雲の定期襲撃。一時期八雲紫が外から掻っ攫ってきた人間に武装させて俺達をちょくちょく襲わせていたんだ。まぁ訓練の一環かな、この幻想郷の人間を的にするわけにはいかないし」
「………聞いて後悔しました」
だろうなと笑いながら髑髏さんはその目だし帽を脱いだ。
素顔を見て非常に驚いてしまった、髭は無いが顔には無数の皴、声から想像していた年齢よりもはるかに年老いている。
「…結構、老けてるんですね」
「ん?あぁ、館が外界にいた頃からいた。門番長とは案外長い付き合いさ、向こうは知っちゃおらんだろうけど」
「あの、お名前を教えて下さいませんか?」
「ジム。ジム・ヘンダーソン。皆からはジミーと呼ばれている。階級は少佐」
「あぁ、貴方が」
何だ、知られてんじゃん。
そして髑髏さん改めジムは外でたむろしている門番たちを中へ入れ、裏側の大きな庭へ天幕を設営させる。
屯所で寝起きするのではないか、そう聞くとジムは笑いながら全員中に入るのは帰る直前と着いた当日の少しの間だけだと言った。
夜の帳が降り、裏庭にちょっとしたテント村が出来上がると俄かに騒がしくなる。
中央に仮組のステージと照明、そして同じく仮組の小屋。
そう、プリズムリバー三姉妹の慰問コンサートだ。
壇上にそれぞれの楽器を携えた姉妹が登場した瞬間、会場は騒然となった。
『みなさーん!こんばんわー!』
何事にも口火を切ると有名なメルラン・プリズムリバーの言葉をきっかけに門番たちは盛大に盛りあがる。
「ルナサちゃーん!こっち向いてー!」
『…………(』
「めるぽー!」
『めるぽって言うなー!』
「リリカちゃん可愛い!」
『ありがとー!』
カメラのフラッシュが焚かれ、目から残光が消える事無く次々と小さい光が連鎖してゆく。
静かなバイオリンの音が聞こえ始め、聴衆は段々と静けさを取り戻していった。
流石鬱の音を操るルナサさん。この手の扱いはお手の物と言う訳だ。
そして次女メルランさんのトランペットが鳴り、開始を告げる。
本日演奏したのはどうやら全て新曲だったようだが、完成度が高いのは何時もの事。
門番たちは終わる頃になるといっせいに立ちあがり、皆拍手をしていた。
「……お疲れさまでした」
「どうも」
コンサート後の楽屋に上手く入り込み、ルナサさんと少しの会話をする。
彼女自身新作を上手く演奏で来たようで何時もより表情は明るかった。
「しかしルナサさん、紅魔館の門番隊の出張コンサートを何故始めたか教えて下さいませんか?」
「いや、レミリアに頼まれたんだよ『あの子たちの為にライブをしてくれないか』ってね、まるで心配性の母親が遠くに行った息子を心配するような口調で。レミリアにって彼らは家族だろ?家族の為に楽しみを考える。良い親じゃないか」
「はぁ、さいですか」
『ルナサ姉さん!門番さん達がサイン欲しいんだって、書いてあげなよー』
「じゃあ私はこれで」
「え、ちょまだ話は…」
そして部屋に残された私も出る。
外では依然として姉妹にサインや握手、写真撮影を求める門番たちで賑わっていた。
女性と言う事で天幕を一つ独り占め。
私は一人では広すぎる仮住まいで簡易ベッドに腰掛けていた。
「事件、起きないわねぇ」
そりゃそうだ、この平和な幻想郷で火器を使ったドンパチが起こっちゃひとたまりも無い。
余りにも現実味がない呟きをして軽い自己嫌悪に陥りつつベッドに寝転がる。
O.D.色の天幕の外からギターの音色が聞こえて来た。
「なに?」
出てみると焚火を囲んで小さな演奏をしている門番たち。
「……月のぉ、沙漠をぉ…あれ、コード間違えた?」
「間違えてる。もう一つ上」
「あらそう、も一回」
そしてまた弾き始める。
「月のぉ、沙漠をぉ…」
「歌、お上手ですね」
私にびっくりしたのか二人は固まって身動き一つしない。
気まずい空気が流れるがギターを抱えた門番は先程の曲名を口に出す。
「えと、さっきの曲は月の沙漠って言う曲なんだ。外の曲だよ」
楽譜を見せながらはにかむ彼と、もう一人。
「もう一曲、聞かせてくれませんか?」
「い、良いよ、外のまた外の国の歌だけど、別の曲だけど」
歌っていた彼は咄嗟に口走る。
私は頷いてお願いした。
「分かりました、多分、意味は分からないだろうけど…メロディを楽しんでくれ」
言いながらギターを構え、弾き始める。
先程よりもテンポの良い曲だ。
歌担当の彼も次第に口を開き、歌い始める。
何の事は無い、ただの英語の曲。以前山の神社で早苗さんから少しばかり教えて貰ったから、多少の意味は分かった。
歌の中の物語の主人公は詩人の少年。
父の遺した剣とハープを携え戦場へ赴く。
少年から詩人へ、詩人から戦士へ変貌を遂げた主人公は猛々しく戦い、そして命を散らせる。
そして演奏が終わり、二人は顔を僅かに綻ばせながら、こんなに上手く引けたのは初めてだと言った。
「…記者さんが聞いてくれていたからかな」
ギター担当の彼は嬉しそうに語る。
「実は、この後にも歌詞が続くらしいんだが、俺達はまだ見た事無くて」
と歌担当の彼は言った。
どうやら続きの歌詞はいまだ外から入ってこず、この駐屯が終われば二人で探しに行くため休暇を取ろうと歌の練習がてら相談していたらしい。
「探しに行くと言ってもあの古道具屋の店主と一緒に無縁塚に行くだけなんだけどね」
と二人は声をそろえ言う。
だが夢を見る二人の顔は何処までも澄んでいた。
希望に胸を膨らませ役目を果たす、そんな顔だ。
翌朝早く、私はジープと言う車に乗り込み人里外周を走っていた。
薄い靄がかかり髪に水滴が付く。
「涼しいですね」
「あぁ、夏が近いからな」
因みにジープには私とジム、そして昨日のギターさん改めトーマス・デンバー上等兵の三名。
私がジムの隣の席に座り、トムが車体後部の据え付けM2重機関銃を握る。自衛用だそうだ。
「少佐、止まって下さい」
昨日の様なのどかな口調ではなく堅めの口調。仕事の顔だ。
「どした、トーマス」
「何かいます」
重機関銃の銃口を右前方の茂みに向けながら呟く。
「何だと思う?トーマス」
「大きい…けど妖獣じゃありません。多分」
「何発か空に撃て」
「了解」
言葉と共に銃声が鳴り響き、茂みが俄かに揺れ黒い何かが飛び出した。
「………熊?」
ゆうに三メートルはあるだろう大人の熊。
大きな体を揺らしながら慌てて森へと引き返して行った。
「良くやったトーマス、危なかったな」
「熊ですよね、危険なんですか?貴方方にとって」
「いや、危ないのは当然里の人間達さ」
聞けば里に近付く熊は腹が減っている危険な状態らしく、以前もそれで里が襲われた事があったらしい。
そんな事を聞いていると車載無線に通信が入り、良く聞き知った声が聞こえてくる。
『こちら自警団の上白沢だ、聞えるか?先程銃声が鳴ったが、どうした?』
「熊を追っ払いました、自警団は出動しなくて良いっすよ慧音さん」
『ありがとう、協力感謝する』
「こちらこそどうも、オーバー」
無線機を置くとトムはガン・マウントに寄り掛かりながら口を開いた。
「寺子屋の先生ってのは案外暇なんですな、こんな時間に聞き付けた銃声にすぐ連絡だなんて」
「いやぁ、河童が開発したハンディなんちゃらだろ、あれを里の自警団と俺達も装備してるから。それよりトーマス薬莢拾え、後で再使用すっから」
「あいあいさ」
正味八時間の外周警戒を終えた午後、私とジムはテント村で冷たい飲み物で一服していた。
夏も近いため比較的温度は高く、背の高いグラスになみなみと注いでいたアイスティーの減りは早い。
「館じゃこんな贅沢は出来ないなぁ」
「そうなんですか?てっきりこっちの方が規則が厳しいと思っていたんですけど」
「んなわきゃ無いさ」
氷を噛み砕きながらジムは傍らのラジオのスイッチを入れる。
どうやらお好みの番組が始まるようだ。
『……早苗のォ、侵攻放送!in妖怪の山!』
驚いたことに私の知り合いがパーソナリティを務めているラジオ番組だった。
『それではリクエスト一曲目、CCR「Fortunate Son」!』
「お、俺のリクエスト曲だ」
陽気なイントロが流れ始め、ジムはラジオに詰め寄る。
これまた外の世界のグループの曲。
そして徐々にフェードアウトしていき、曲は終わりを告げた。
「あぁ、やっぱCCRは良いなぁ」
呟きながら今度は命蓮寺放送の周波数に合わせる。
添い寝ボイス生放送と言う中々珍しい、と言うか紳士向けの局。
あぁ、聖さんの美声は何時聞いても麗しい…眠くなってきた。
もういいや、寝ちゃおう、寝ちゃえ。
「…おやすみなさい」
最後にそう呟き、完全に目を閉じ夢の世界へ出征することにした。
目が覚めた時、満天の星の空だった。
微かに香るコーヒーの香りが私の脳を覚醒させる。
『……咲夜のぉ、サクサクラヂオォ!』
ラジオからはいつの間にか夜の番組が流れ出、ジムは雑誌を顔に乗せ鼾をかいていた。
「あ、記者さん起きられましたか」
湯気が立ち上るキャンティーンカップを二つ持ったトーマスが笑いかける。
依然として鼾をかくジムにトーマスは声をあげ起こした。
「少佐、起きて下さい。先程頼まれたコーヒーです」
「……ん、おぉすまん」
そう言ってジムは熱いはずのコーヒーを一息で飲み干し近くに置いてある拳銃をホルスターに収め指揮官用のカービンを担ぐ。
「少佐さん、どちらへ」
「夜回りだ、記者さんも来る?」
「少佐、民間人を夜警に回すのはどうかと思います」
どうやらこれからまた夜の巡回に出るそうだ。
夜間警戒、少し興味があるなぁ。
「あの、同行の許可を願いたいのですが」
「ほら、記者さんだってついて行きたいって言ってるじゃないかトム、女の子の小さなお願いを聞けないと彼女を作るのは難しいぞ」
暫く顰め面を見せながら黙りこんだトーマスはふぅと溜息を吐きだし肩を竦めた。
「分かりました、どうなっても俺は知りませんよ」
「何も起こりゃせんよ」
ジムは気軽に笑い、金星と龍の字が縫い付けられたベレー帽を被り、ジープへと歩いて行く。
私と兜トーマスもそれに続いて夜の巡視へと出発することにした。
昼間より遅い速度で進むジープは何処か遊行のような風情を醸し出す。
涼しい空気と闇に落ち着く森の木々、うん、良い夜だ。
「気持ち良いなぁ、風」
ハンドルを切るジムもご機嫌は良かった、この瞬間まで。
途端ジムのベレー帽が宙に舞い、留まった。
そして何処からか聞こえてくる笑い声。
「ねぇ驚いた~?」
蒼い髪と茄子色の傘を持った少女、多々良小傘である。
右手にベレー帽を持った彼女は私達の周りを飛び跳ねながら尋ねた。
「いきなり帽子が飛ぶなんて驚いたでしょ?ねぇねぇ」
言われながらも下を向くジム、何かを顔に被せているが。
「ねぇねぇ、無視しないで……」
「ばぁっ!」
小傘が詰め寄った瞬間、ジムは顔を挙げ小傘を睨みつける。
先程顔に被せたのは初日に被っていたスカルバラクラバ。
しばし呆然とし、小傘は次第に顔を歪め目に涙を溜め始める。
「うっ…ひっく……」
そして極め付け、下アングルからのライトアップで怖さ倍増当社比一割五分増し。
堰を切ったかのように小傘は泣きじゃくり走り出した。
「うぇ~んドクロこあいよ~」
「一昨日きやがれスットコドッコイ!」
いや、夜中に髑髏はマジで反則だと思います。下アングルのライトアップってマジ反則。
「ったく、世話掛けさせやがって。トーマス!今度あの飼い主に連絡しとけ、飼い妖怪は首輪を繋いで調教しとけと」
「分かりましたからこっち向かないで、マジ怖い」
私もそう思います。
そしてベレー帽を回収し落ち着いた私達は再び夜の巡視を再開する。
途中トーマスが取り出したレモネードですっかり機嫌を良くしたジムは鼻歌交じり。
「ん、なんだありゃ」
「どうしたんです?」
「あれ」
ジープのライトは何者かを照らし出す。
よくよく眼を凝らすと地面に伏している。倒れているのだろうか。
「トーマス、簡易救急キット」
言いながらジープを寄せ降りる。
銀の髪を伸ばした女性だ。
「おい、待てよこりゃあ…」
「この人、ひょっとして…」
ジムは慎重に近寄りうつぶせのその体をひっくり返した。
赤いモンペにサスペンダー、そして白いワイシャツを着込んだ少女。
「妹紅さんじゃないか」
そう、竹林の案内人藤原妹紅である。
「おい、起きて下さ~い、夜ですよ~」
「夜だから寝てるんじゃないすか?」
「トーマス五月蠅い」
何度目かの頬ペチペチで妹紅さんはようやく目を覚ました。
「……んぅ、けいねぇ、もう飲めにゃい~」
「惚気は良いからシャキッとしようか」
酒で霞んだ目をしばつかせた妹紅さんは段々と周囲の状況を理解し始めたのだろう、途端に顔を赤く染め弁明を始める。
「やぁジミーじゃないか……あ、あのこれはだな、慧音に酒を飲まされてだな…」
「あぁ、大丈夫だ。妹紅さん、酒は良いけど飲まれちゃ駄目だよ」
「………はい」
「道案内してくれれば家まで送って行くけど、乗る?」
「ありがたくそうさせて貰うよ」
眠たげな眼をして妹紅さんは後席に乗り込み、ジープはまたもやその車体を滑らせ始めた。
「なぁ、水かなんか無いかな、喉乾いちゃって」
「魔法瓶にレモネードがありますけど、飲みます?」
「そりゃあ良い、一杯貰うよ」
「底の赤い瓶です」
「お、これだな」
後ろから聞こえる妹紅とトーマスの会話を聞きながら前を見やる。
丁度良く私の家、妖怪の山が虚空にその威容をぽっかりと映し出していた。
「でかいな、妖怪の山は」
「はい、幻想郷一ですから」
「一体何メーターあるんだい、高さ」
「さぁ、分かり兼ねます」
そうかい、と呟いてジムは口を閉じた。
途端計っていたかのように妹紅が口を開く。
「ん!このレモネード旨い!誰が作ったの?」
「俺です、トムです」
「旨いよ、今度作り方教えてちょうだいな」
「あいよ何時でも」
その瞬間場の空気が変わった。
勿論彼の発言によるものではない。
ジムはジープを止め周りを注意深く見る。トーマスも重機関銃を回し周囲警戒。妹紅さんも酔いが醒めたようだ。
場所は迷いの竹林の入り口付近。
「……何か、いるね」
「あぁ」
妹紅さんの言葉に頷くジム。
トーマスが銃口を竹林へ向けた瞬間、竹を押し倒し何かが現れた。
「な、なんだありゃ味方か?」
確か、最初に乗ってきた奴と同じ……
「……戦闘装甲車両だ」
言った途端、突然現れた車両の銃塔が火を吹き周りに砂柱を築き上げる。
「ウソだろ?マジかよ!」
ジムはジープを発進させトーマスは後ろに向かい機関銃を発砲。
その時の私はと言うと頭を抱えてうずくまってました。情けない。
「本部聞えるか、機甲隊から誤射されている!」
『現在その地点を活動中の機甲戦力は無いぞジミー、何を言っている』
無線から聞こえて来た会話が耳に入った瞬間、私は理解した。
これが初日に聞いた……
「Fuck!八雲の定期襲撃だ!」
『なんだって?おい、ジミー、今なんて言った!』
「何聞いてたんだ!八雲の定期襲撃だ!」
『分かった、今すぐ増援を出す、持ちこたえてくれ!』
「早くしてくれ、こっちは民間人二名、門番二名の大所帯だ!」
『何でCPが二名も?』
「一人は随行記者、もう一人は行き倒れだ!早くしてくれ!オーバー!」
無線機を乱暴に置き、加速させる。
金属と金属がぶつかり合う音がしてミラーが飛び、フロントガラスは砕け、車体に銃弾が突き刺さる嫌な音と空薬莢とベルトリンクが落ちる音が響く。
「トーマス!撃ち続けろ!」
「分かってます!」
「妹紅さん!大丈夫か?」
「私は何とか…それより随分久しぶりだね、八雲の」
「あぁ一か月ぶりだ!」
ハンドルを切り曲がり元の道を急ぐ。
またもや音が響き魔法瓶に穴が開きレモネードが撒かれる。
「俺たちゃ門番だー!ドンパチするために来たんじゃねー!」
連続する銃声に被せトーマスは叫ぶ。
そしてふと思い出す、彼らが門番であった事を。
「凄いですね、これが門番の仕事ですか?」
「こんな仕事好き好んでやりたくないよ、ハッハハハ!」
「少佐!笑ってる場合ですか!」
「笑う門には福来る!」
遠くに微かな明かりが見え始めた頃、希望が見えた。
里に帰って来たのだ。
しかし依然として敵の追撃は止まない。
「しつこいねぇ、あの装甲車」
「それにめちゃんこ堅い、何あれ、五十口径を跳ね返してるんですけど」
顔をあげ見やるとトーマスの言葉通り傷一つ付いていない。
その瞬間俄かにジープが浮き上がったかと思うと中に放り出されていた。
やけに遅い視界の隅には燃え盛る車体と同じように宙を舞うジムとトーマスと妹紅。
次の瞬間に私は湿った草地にその体を横たえていた。
叩き付けられた衝撃で息が上手くできない。視界が……霞む…………。
「…………さん………者さん!……………記者さん!」
上手く働いていない耳と目がジムを捉える。
そして気付けば何者かに体を引きずられていた。
誰だろう…誰が私を引きずって……一人しかいないか。
横を見れば妹紅さんらしき人に引きずられるトーマスらしき人影。あんたら立場逆じゃないの?普通。
先程まで風を切っていた銃弾が土に着弾し音を立てている所を見ると、どうやら私達は狙われてしまったらしい。
ぼやけた耳にジムのカービンの銃声が聞こえ、排出された空薬莢が服の上に落ちその部分だけ温度が上がる。
「……妹紅さん!二人を連れて逃げ切れるか?」
「分からないけど………やってみる!」
え?何で民間人を戦闘に巻き込んでるの?それより何であなたは逃げないの?
背中から握られていた手が離れ、もう一つ別の腕が私を担ぎ、先程よりも早い足取りで戦場を離れ始めた。
「じゃあな、妹紅さん、トム…それに記者さん」
じゃあな?なんでその言葉が出るの?まるで別れの言葉みたいじゃないですか。
それに、なんでジムが私から離れているの?あぁ、妹紅さんが私を引きずっているからか。
ってそうじゃない、あなた逃げないと死にますよ?分かってます?
そんな事を思いつつも自由に動かない体ではどうする事も出来ない。
段々ジムとの距離が離れて往き、戦闘音も聞こえなくなった頃、私はその意識を手放すことにした。
目を覚ました時は屯所の医務室の白い天井が目の前に広がっていた。
「…お、起きたか」
「妹紅……さん…?」
「あぁ、私だよ」
そして痛む体に気付いた、先程まで戦闘の中に身を置いていた事を。
何より、気になるのは彼の事。
「しっ、少佐さんは?」
「え?ジミー?」
「はい!」
妹紅さんの言葉を聞き、医務室を飛び出て向かった先はテント村。
痛む体を引きずりながら彼の居るはずの天幕へ近づき、開けると
「お、記者さん、もう体は良いのかい?」
考えていた以上に元気そうなジムがそこにいた。
昨日の午後と同じく背の高いグラスになみなみと注がれたアイスティーを飲みながら。
全く同じ光景に安堵しながら、私は近くの椅子に腰かけ、同じようにアイスティーを呷る。
どうやら昨日の襲撃者は目論見通り八雲紫が差し向けた仮想敵。
しかし以前と違ったのは装甲車が式神による自動操縦、装填されている銃弾は全て模擬弾。
後日紫さんにお伺いを立てた所。
『式が機械にも応用できるかやってみた。反省はするが後悔はしない』
と返してくれた。
なんとも騒ぎ好きの妖怪だ。
そしてその後の一ヶ月間、傷が治るまで私は顧問団のお世話になっていた。
だがその分新聞のネタは出来たし新しい友人もできた。
例を挙げさせて貰うなら先程のジミーことジム・ヘンダーソン少佐はあだ名で呼び合う仲にもなったし、トーマス・デンバー上等兵とは妹紅さんといっしょにお菓子や料理を習う間柄に。
兎に角、今回は行き当たりばったりにも拘らず重大な事故が起こらずに済んだのは奇跡と言えるだろう。
そうだ、トムと言えば彼の趣味も語らねば。
駐屯が終わった彼と彼の相棒は願望通り休暇を取得して香霖堂の森近霖之助さんと無縁塚への遠征を決行し、見事続きの歌詞を見つけだそうだ。
この前手作りのクッキーが添えられた手紙に曲が完全に歌える頃にもう一度出しますと書いてあった。今から楽しみだ。
またジミーは民間人の護衛を最優先にしたとして昇級が決まったともその手紙にあった。
少佐から見事中佐、更には紅魔名誉勲章受賞が決まったらしい。
新聞のネタに困らないで済む。一面の大見出し『紅魔の誇れる盾』で良いだろうか。
「ふわぁ…疲れた…」
自宅の窓から外を見やる。
今日も門番たちが呑気にテント村と門でそれぞれの大切なものを守っているのだろうと考えながら。
髑髏の目だし帽とか、思いっきりゴーストだ、って思いました
合ってますよね?ww
姿は出てないけど、お母さんレミリアに和んでしまった。