「何やってんの」
私こと秋 静葉に向かって――もっと正確に言えば私の両胸のあたりに手をかざしてうんうんと唸っている穣子に、私はそう問いかけた。
少しだけ心配だった。何しろこの陽気だ。元々おめでたい穣子の頭が更に温まって、帽子に乗っかっているブドウがマスカットにでも進化してしまったら目も当てられない。
いや、何を考えているんだ私は。ブドウがマスカットの進化前みたいに言ったら、全国のブドウ農家さんに失礼だ。ごめんなさい。春の陽気に頭がやられているのは私の方かもしれない。
「お祈りしてるの」
穣子の一言が、私をどうでもいい思考の泥沼から掬い上げた。紅葉みたいに赤い瞳をこちらに向けて、にへらと笑ったかと思うと、またもや私の胸に向かってぶつぶつ呟き始めた。
鬼気迫る、というのは過ぎた表現だろうけど、そうして一心に何かを念じている穣子の顔は真剣そのものだ。毎年の秋に、豊穣の祈りを捧げている時と同じくらい。
もしかしてこの子は、私の為に祈ってくれているのだろうか。そうだとしたら、嬉しいな。何故かは知らないけれど、こんなに一生懸命に祈ってくれているんだもの。
「……れ~」
耳が慣れてきたのだろうか。蚊が飛ぶような小さな声で呟かれているその内容が、徐々に明瞭さを帯びてきた。
なんだろうか。私は微笑ましく思いながら、耳をそばだてる。
「みのれ~。お姉ちゃんの胸、みのれ~」
私は無言で穣子の帽子のブドウを毟り取った。
みのるな~