「ラリアット」
「うげふ」
亡き王女の為のラリアット。
そんな酒の席で脳みそのふやけた連中に言ってみた所で冷笑を買うのが関の山である冗談を実行するにあたって、咲夜がどれほどの労力を費やしたのかはそのシオマネキもかくやとばかりに発達した右腕を見ただけで容易に伺い知れた。一発ネタの為に往年のスタン・ハンセンを彷彿とさせるラリアットを体得するに至らせた咲夜の執念を恐ろしく感じると共に、そんな彼女を従者としている私も鼻が高くなる思いであった。
そんなわけねえだろ。どこの世界に従者が繰り出したラリアットで頸骨を粉砕されて鼻を高くする吸血鬼が居ると云うのか。ピノキオだってそんな変態ではあるまい。私は頭がおかしいのか。
「お嬢様。どうして何も仰らないのですか?」
お前に首の骨をブチ折られたからだよ、と声を大にして言ってやりたかったが、それも叶わない。だって首が折れてるんだもの。泡が口から漏れてるんだもの。残念だ。もしも口が利けたのなら、先の言葉に加えて「そんなだから嫁の貰い手がねーんだよ」って言ってやるのに。ああ、言ってやるとも。
……いや、私は嘘を吐いた。例え私の首を支えるか細い骨が未だ健在であり自由に語を発する事が可能だったとしても、私は咲夜に文句一つ言うことなく「あら、流石ね咲夜」などと涼しい顔でのたまうのだろう。そして想像の中で咲夜を打ちのめすのだ。現実は無理。こいつはキレると何をするか分からない。正気でも何をするか分からないのだが。
「イメージするのは常に最強の自分だ」とは誰の言葉であっただろうか。実に私と気が合いそうではないか。人里で猫耳を着けた咲夜とパチェを連れ回して辱める妄想を常日頃から抱いている私にとっては、モットーとも言える至言。フラン? あいつは無理。想像の中でも所構わず私を爆破しようと企てている。あいつの前世はボンバーマンか何かなのだろうか。開始早々ブロックと爆弾に挟まれてみそボンになってしまえばいいのに。
ふと、そこで思い至った。
口を利けぬ、というのは必ずしも不利に働くものなのだろうか。いや違う。その素晴らしい思いつきは、思わず反語を使ってしまうくらいに私を舞い上がらせたのであった。
今こそ、溜まりに溜まったこの鬱憤を外の世界へ向けて放つ時なのである。つまり、咲夜への悪口をごぼごぼとした呼吸音に変えて言ってしまおうと云うのである。そこ、結局放ってないじゃんとか言うな。甘噛みするぞ。
ああ、楽しみだ。きっとこの女は私が血の泡に紛れて何を言わんとしているのかも知らずに、冷ややかな眼で私をじいっと見つめ続けるのだろうな。よおし。やってやる。
「バーカ! さくやのあんぽんたん! 自称十代! ガッチャ!」
「ほう」
しまった。すっかり失念していたが、私は吸血鬼なのだ。蝙蝠の一匹でも残っていればそこから蘇生できる嘘くさい再生力の持ち主なのだ。ああ、この身に流るる高貴な血が憎い。
「ちがうの! さくや、今のはちがうの!」
「亡き王女の為のラリアット」
「うげふ」
二度目のラリアットは、血と涙と後悔の味がした。
短いのにツッコミが追い付かんww
なんだこれwww
「そんなだから嫁の貰い手がねーんだよ」ってつまり
そんなことされても平気な私が咲夜を嫁にするわと言ってるようなもんじゃね?
咲夜さんの「ほう」が良かった
でも最後息切れしてオチない。