※注意※
この作品は拙作『若者』の続きに様なものです。先にそちらを読んで頂ければ分かりやすくなると思います。
更にオリ設定と作者の願望と妄想が詰まっています。
書きたいから書きました。
注意はしたぞな、中傷は止めておくんなもし。
まことに弱き集団が、活気を帯びていた。
幻想郷、取り分け人里の主人公は大きく見れば数百人、小さく絞れば数十人となるが、兎も角我々は二人の人間の後を追わねばならない。
一人は後に幻想郷の教育の平等化に努め、初の幼年教育機関を設立した上白沢慧音。
そしてもう一人は幻想郷に置いて珍しい外界の道具を売る古道具商、森近霖之助である。
二人は、決して平穏とは言えない幻想郷で出会い、そして友人となった。
この物語は、霧雨魔理沙も、博麗霊夢も生まれていない。
紅魔館も命蓮寺も移り住む前の頃の幻想郷の若い二人の記録である。
朝の人里、慧音と霖之助は学問会に出席するために歩いていた。
そして唐突に慧音が口を開き、霖之助に話しかける。
「キリサメ、今日活動写真を見に行かないか?里に出来たらしいんだ」
「活動写真?なんだそれは」
「お前、活動写真を知らないのか?動く写真だ」
「成る程、もっと分からん」
鞄の紐を額に乗っけながら溜息をつく慧音。
それを見た霖之助は慧音の鞄をずらしながら言う。
「跡がつくぞ、止めた方が良い」
「んー?うん」
言われ鞄を襷がけに直した慧音は霖之助に向き直り更に話しかける。
一度は見ておいた方がいいと。
「まぁ、良いよ、今日は店も休みだし」
「よし!じゃあ講義が終わったら霧雨道具店で待ち合わせだぞ」
「あぁ」
「絶対だからな!」
恐らくこれが、森近霖之助の人生経験上初の、異性との約束だったに違いない。
だが当時の彼は、慧音を一人の女性とは見ておらず、気の置けない友人程度の認識であったのが、最大の欠点かも知れない。
そして時は過ぎ講義が終わり霖之助は店の前で慧音を待っていた。
友とは言え何処かへ二人きりで行くため、それなりの恰好をして。
「おめかしして何処行くんですか」
「あぁ親父さん、慧音と活動写真を見に行くんでここで待ち合わせです」
頬笑みを崩さぬまま、親父は口を再び開く。
「そうですか、慧音さんとはそんな関係でしたか。活動写真デート、若い二人にぴったりですねぇ」
「僕と慧音ですよ?そんな関係じゃありません」
「甘ァい!良いですか?男女に芽生えた友情は何時しか愛情へと変わるのです!」
「そんなもんですか?」
そう言うものですと胸を張って言う親父は何処か誇らしげでした。
「待たせたな、キリサメ」
そして丁度良く店に来た所で、霖之助は慧音を見て驚いた。
いつもの和服では無く、洋服。それも上下分かれないワンピースタイプの。
「…何か、変か?」
「変じゃないと、思うけど。いや似合ってるよ」
極々平凡な答えを返した霖之助に慧音は安心そうな顔を見せる。
「じゃあ親父さん、行ってきます」
「うん、楽しんでくださいね」
「それでは店主、キリサメ借りるぞ」
そんなこんなで二人は里を歩いて行った。
店から歩くこと数分、地下式の倉庫を改装した活動写真館『天狗』はそこにある。
「さて、着いたぞ」
「人があまりいないんだが、大丈夫なのか?地下だし」
「臆するなキリサメ、お前それでも男か?」
言いながら慧音は券売所へ向かい売り子さんに声をかけた。
「やぁ慧音さん。あら?あの方は彼氏さんとかですか?」
「違う、活動写真を知らない可哀そうな奴だ。なんか新しい作品は来てないか?」
「来てませんねぇ…あっ!思い出した、昨日来たんだった」
「良し、その券を二枚くれ」
「はい毎度ありー」
黒い髪を短く切りそろえた売り子の何やら裏がありそうな笑顔に見送られ慧音は霖之助を引っ張って中に入る。
「良かったな、今日封切りだそうだ」
「はぁ、新作が出るのに人がいないんだが?」
「気にするな、貸し切りみたいなものだ!」
言いつつ慧音は今度は銀髪の小柄な少女が店番をしている売店へ向かい話しかけ何かを小脇に抱え戻ってきた。
「なんだい?それ」
「これを見るときはサイダーとぽっぷこーん。これが中々旨いんだ」
「へぇ」
券をもぎりの少女に渡し、中へと入る。
上映はまだされていないため中は仄かに明るい。
「さ、座ろう」
「あ、あぁ」
間にポップコーンを置き、椅子を開き座り込む。
そしてブザーが鳴り、映画の上映開始を告げた。
「始まるぞ」
慧音の一言を境に場内の照明は落とされ、予告が流れ、次いで本編が流れ出す。
何の事は無い、学園モノで恋愛もの、良くある話だ。
『……、良いのか?俺なんかで』
『うん、私が決めたんだから…』
クライマックスのシーン。最初からお互いを気に掛けていた二人は放課後の教室で邂逅する。
『初めてのキスなんだからね、分かってる?』
『分かってるさ、大丈夫』
男は少女を抱き寄せ、少女も求めるように男に顔を近づける。
そして極限まで近付き、斜陽が差す教室で二人は重なり合う。
『………しちゃったね、キス』
『あぁ』
どちらともなく離れた二人は顔を赤らめ、笑う。
まるでタイミングを合わせていたかのように。
『好きよ』
『好きだ』
お互いの気持ちを伝え、物語は幕を閉じる。
スタッフロールが流れ始め、場内は明るさを取り戻す。
「……これが活動写真か」
「あぁ、中々面白かっただろ?」
「まぁ、ね」
「それは良かった」
言いながら慧音は空になったポップコーンの箱とサイダーのカップを持ち上げ出る。
霖之助も目を軽く揉むとそのあとに続いた。
写真館を出た時は既に夕方だった。
「……それにしても姫海棠監督は良い画をとるなぁ」
「姫海棠?誰だい」
映画と同じく斜陽が差す道を歩きながらの会話。
幾分か膨れた腹を撫でつつ霖之助は思う。
「あの映画を撮った天狗だ。私はあの天狗が撮る恋愛ものの映画が好きでな」
「はぁ、天狗が撮った映画ねぇ」
「良い話だったろ?」
「口ん中が甘ったるいよ」
霖之助らしい素っ気無い返答を受けた慧音はいきなり歩みを止め、口を開く。
『…キリサメ、私は貴方の事がずっと好きでした』
いきなり変った口調と芝居がかった演技を見て霖之助は先程の活動写真のクライマックスのワンシーンを真似しているのだとすぐに分かった。
面白いから乗ってやろう、そんな気を起こした霖之助も先程の男と同じ口調で演技を始める。
『慧音、良いのか?俺なんかで』
『うん、私が決めたんだから』
演技とは言え中々勇気のいる行動を起こした慧音の頬は若干朱に染まっていた。
そして慧音は霖之助に詰めより、腕を回し呟く。
『初めてのキスなんだからね、分かってる?』
こりゃ面白いと心の中で楽しむ霖之助も乗り気で
『分かってるさ、大丈夫』
と真似をする。
勿論キスをして初めて終わり、だが実際本当にしないだろうと霖之助は高を括っていた、が。
「(な、何で距離が詰まっているんだ!?)」
先程より近くなった慧音の顔を見て霖之助の心臓は否応なく跳ね上がる。
「(おい冗談だろ慧音?冗談なら早く腕を離………)」
心ですら言いきる事無く、霖之助の唇は慧音によって塞がれ、活動写真よりも長い時間二人は斜陽差す道で重なる。
大凡何分経ったろうか、息が継がなくなった所で二人は離れた。
唇を拭う事すらしない慧音を霖之助はただ黙って見つめる。
そして慧音はゆっくりと口を開き、言葉を紡ぐ。
「……甘ったるいか?」
「いや、酸っぱい」
霖之助の答えに満足したのか慧音は手を取り歩き始めた。
「お腹すいたなキリサメ!お前ん家でご飯食べてって良いか?」
夏に近い夕暮れの中、慧音の笑顔は輝いていた。
ニヤニヤさせて貰いましたw
>言い訳なんて良い訳無いよねぇ。
あれおかしいな冬はもうとっくに終わったのにこの気温の下がりようは何なんだろう
腹切ってきます