ごきげんよう、森羅万象でございます。
今回は大分季節外れではございますが冬の季節で魔理霖です、季節外れは本当に申し訳ありません。
保護者で兄貴分で面倒見がよくて甘やかし上手で鈍感な霖之助。
乙女で可愛い妹分で一途で甘え上手で健気な魔理沙。
そんな感じで甘めの魔理霖を目指して執筆しました、糖尿病に掛かるくらい甘いといいですね、魔理霖は。
皆様の糖分になれますように…。
それではどうぞごゆっくりとお楽しみください…。
「ううー寒い寒い……直ぐにでも温まりたいぜ…」
吹雪が荒れ狂い命の気配が絶えて行く冬の空、黒白の魔法使い・霧雨魔理沙は愛用の箒で空を飛ぶ。
赤いマフラーが風に靡いてカッコいいなと思いながら、目的地へ飛ぶ。
目的地は香霖堂、自分に魔法使いという夢を教えてくれた、半人半妖の古道具屋店主の元へ…。
魔砲使いと古道具屋店主の暖の取り方
箒に括り付けたバスケットと大き目の水筒が二つ、ぶら下げながら魔理沙は彼を想像する。
バスケットの中身は自慢の茸料理と御結び、水筒にはこれまた茸味噌汁と香ばしい紅茶。引き篭りがちでまともに食事を摂ろうとしない彼への差し入れだ。
(香霖は出不精だし寒いのが大の苦手だからな、だから冬の間はこうして私が面倒を見てやらなきゃな!確か、最後に香霖のところに行ったのは……三日前だったか…?)
自分の兄貴分が、何時ものカウンターで腰掛けて、本を読みながら、ストーブの恩恵でぬくぬくしてる、その姿が容易に想像ついた。
こうして自分が甲斐甲斐しく大雪の中会いに行っても
『雪を払ってから入りなさい』
『冷やかしなら出口はそちらだ、帰れ』
『いい加減に借りていったものを返せ』
とか言ってまともに構ってくれないのも容易に想像ついた……が、直ぐに忘れる事にする。いくら彼でもこんなに寒い思いをしてでも会いにきてくれた少女にそんなに無情な対応はしないと。
ましてや、昔馴染みの自分なら少しは優しく対応してくれると。
(でも……香霖にとっては私はずっと[霧雨のお嬢様]なんだよなぁ…)
自分の予想と妄想の空しさに魔理沙は落ち込む。
(やっぱ香霖にとって私は妹みたいにしか見えないのか…)
魔理沙には霖之助が自分に遠慮してる様にしか見えない、そうとしか感じなかった。
(あいつの朴念仁は今に始まった訳じゃ無いけど…でも、これだけしてれば少しは気付いてくれても良いのに…)
毎日の様に香霖堂に訪れるのは霖之助に会いたいから、新しい魔法を開発したら直ぐに霖之助に自慢するのも彼に褒めて欲しいから。
(恋色魔法使いが自分の恋を成就出来ないなんて…香霖も本当に罪な男だぜ…)
霧雨魔理沙は恋をしてる、ずっと昔から…。
自分に魔法使いと言う夢を教えてくれた男に。小さな頃から傍に居て何かと面倒を見てくれた男に。
口を開けば長ったらしい薀蓄ばかりで、無愛想で、宴会に誘っても来なくて……でも本当は優しくてカッコよくて賢くて頼りになる、憧れる古道具屋店主に。
霧雨魔理沙は恋をしてる、古道具屋・香霖堂の半人半妖店主、森近霖之助に。
――――――
「寒い……ストーブが使えない冬がこんなに寒いとは…」
香霖堂の店内、店主の森近霖之助はカウンター席で寒さに凍えていた。全身がガクガクと震え、吐く息は白く。
冬の香霖堂はストーブで暖まりながら読書をするのが通常、雪見で酒を呑むのが平常である。しかし、今日の香霖堂はそんな通常とも平常とも違っていた。
動かないストーブ言う異常に苛まれていた…。
ストーブはうんともすんとも言わず、動くことなく只々静かにそこに在るだけ。
ストーブが動かないのは燃料が無いからだ、こればかりはどうしようもない。
初冬のうちに冬眠前の妖怪の賢者が取引で確かに燃料をくれた、対価は相変わらず理不尽で意味不明だったが…。
未開封のPSP-1000、こち亀初版、日本万国博覧会記念切手、ビリーズブートキャンプ入隊編、その他諸々…。
…どれもが霖之助にはどれほどの価値があるかは見出せなかった。
寧ろ、気にすべきは紫が言った言葉だった。
『ウフフ……今年も良い取引ですわ、ありがとうございます。霖之助さん』
『それは何より。妖怪の賢者から礼を言われるとは、古道具屋として光栄の極みだよ…』
『ですから今年は少し、サービスをさせて頂きますわ……暖をとるのに最適の方法で、ね…』
そんな会話のやり取りで霖之助が紫と会ったのはそれが最後だった、少量の燃料を受け取って。
(今にして思えば……あの台詞はきっとフラグだったんだな…)
一度冬眠した紫は来店の頻度が極端に減る、せいぜい一月に一度だけの燃料の確認くらいだ。しかし今年の冬はあれ以来、一度も霖之助は紫と会っていない。
故に、少量の燃料を補給してもらう事が出来ないでいた。ストーブ以外の火炉を持っていない霖之助はそれが動かない以上、完全にお手上げで紫に情けを施してもらう以外に暖をとる方法が無い。
(紫の言うとおり、今年の冬は確かに良い暖をとれた…)
どう言う訳か、今年は冬になっても霊夢と魔理沙は香霖堂へ通い詰めだった。
ツケは全く払う気は見せない上に勝手にお茶を飲んだり黙って店の商品を持っていく二人だがやはり可愛い妹分、例えストーブの温もりと家の食料が目当てでも余り強く言って追い返す気にはなれない。
寧ろ、少量の燃料であろうと出し惜しみなどせず
『風邪を引くといけないだろ』
なんて言ってケチらずにストーブを焚いていた。
こうも寒いと霊夢と魔理沙に纏わりつかれる日々が暖かい物だと思い知らされる。
(もしそうなら確かに僕は今年は暖かい冬を過ごしていただろう…)
なんて思うほどに霖之助は寒さで思考が弱気になっていた、平素なら思いつかない思考だ。
その弱気が新たな疑念を抱かせた、だが今の彼ならこの疑念は恐怖へと膨れ上がる…。
ストーブで暖かく過ごせるのも…
あの子達と穏やかな日々を過ごせるのも…
好きな道具に囲まれながら暮らせるのも…
外界に思いを馳せながら幻想郷で生きていけるのも……
『私のお陰よ。感謝してくださいね、霖之助さん?』
「っ!!??」
一瞬、霖之助は紫の声を聞いた気がした。勿論、気がしただけで実際に聞いた訳ではない。
しかし、気のせいにしては恐怖感が強すぎた。霖之助は紫への畏怖を改めるには充分過ぎるほどに…。
燃料を口実に尊敬と畏怖を高める為なら…
外界の道具を触れる事の引き換えに監視下に入るなら…
草薙と言う幻想郷を滅ぼしかねない神器を所持させる代わりに屈服する事を要求してるなら…
霧雨の魔法使いに施したミニ八卦炉と博麗の巫女の衣服を製作する知識力と技術力を容認する代わりに隷属させたいなら…
全てが紫の思惑通りなら
(駄目だ……悪い方向に考えすぎだ…これ以上は止そう…)
確かな証拠が在る訳でない、第一にあの胡散臭い妖怪の賢者の知能はどう足掻いてもしがない半妖には計り知れない。彼はそう結論付ける事で思考を放棄した、今年の冬はこれ以上紫から燃料を貰えないと落胆しながら…。
無縁塚に供養という仕入れに赴いていない以上、彼女と取引出来る商品は無い。
常連二人のようにツケが出来る相手とは思えない、出来たとしても後が怖い。
ならばもうストーブを諦めるしかなかった…。
「絶望した…ストーブが使えない冬に絶望した…ストーブを使わせない紫に絶望した…」
霖之助は戦慄した、冬を火炉を無しに過ごす事に。ここで自分を亡き者にしようとする紫の知略に。
以前使ってた火炉はミニ八卦炉として魔理沙に贈ってしまった以上、手元に火炉は無い…。
非情な現実的未来を認識した瞬間、霖之助は虚無感に見舞われた。自分の全身から力が抜け落ちて逝くのが感じた、意識にも靄が掛かってきた…。
これだけ寒い部屋で寝れば風邪を引くだけですまない、最悪死んでしまいかねない。いくら半分が妖怪といっても半分が人間である以上、案外間抜けな死に方をする可能性だってある。
しかし鉛のように身体が重くてだるい彼には動こうとする気力は微塵も無かった…。
(眠い……まさ、か………じ…の、み……とう、しす…)
「お…!こー……お、てる…か!いき……!ね、な!…」
誰か知った声が聞こえる気がする、なんて思い霖之助は意識を手放した。
――――――
いつの間にか雪は止んでいた、今は丁度お昼時なのか太陽の陽光が燦々と積もった雪を溶かすように照らす。
居間に敷かれた布団の中で霖之助は目を覚ました、不思議なことに先程まで感じた寒さは感じられなかった。
(てっきり自分の店で凍死するかと思ったがどうやら僕は生きているようだ…)
最初は夢かと思ったが余りに見慣れた自分の住まい、テーブルの上に誰かが用意したであろう茸料理の食欲が滾る匂い。夢と切り捨てるにはリアリティが過ぎた。
(死ぬかと思ったが……やっぱりこの子のお陰で助かったんだな…)
およそ彼らしからぬ穏やかな笑顔を浮かべて霖之助はそっと彼女の頭を撫でた。『ありがとう』、と言いながら。
布団の中には霖之助に抱きつき、すやすやと気持ち良さそうに眠る魔理沙がいた。
恐らく意識を失う瞬間に聞こえた少女の声は魔理沙だったのだろう、と霖之助は分かった。
凍死寸前の霖之助を部屋まで運んで布団に寝かせ、ミニ八卦炉の火で部屋を暖めてくれた様だった。
茸料理は昼食の差し入れと察しをつける、そこで魔理沙は目を覚ましたようだ…。
「…んぁ…?こー、りん……?」
「やあ、おはよう魔理沙。それともこんにちはかな?」
「寝起きの挨拶はおはようだぜ……ふぁー…って香霖大丈夫かよ!?」
霖之助としては爽やかな挨拶をしたつもりだがどうやら魔理沙には不評のようだった、魔理沙の驚愕に染まったその顔に霖之助は少なからずショックを受けた。
やはり自分には笑顔だなんて似合わない、と教えられた気分で霖之助は泣きそうになるが泣けなかった。代わりに魔理沙が泣いていたからだ。
「うう、ぐすっ……香霖…」
「ま、魔理沙!?何で泣いてるんだい?……そんなに僕は君に悪い事をしてしまったかい?」
「だっでぇ、えぐ!ごーりんがどうじずるがどおもっだんだもん!!」
「なに言ってるかよく聞き取れないが……ごめんよ、魔理沙…」
「えぇーんごーりんのばがぁ!いぎででよがっだよぉ…!」
「だから何を言ってるか分からないが………一応、礼を言っとくよ。ありがとう、魔理沙…。君のお陰で助かったよ」
霖之助はずっと困った顔をしながらも突き放したりせずそっと頭を撫でながら優しい声であやし続けた。
魔理沙は霖之助の胸で泣き晴らした、普段の彼女とは思えぬ程泣きじゃくり声を押し殺したりもせず。
結局、魔理沙が泣き止むまで暫く時間が掛かったが何とか魔理沙は落ち着いたようだ。
魔理沙の顔は涙の痕が残り、顔もまだ赤い。
(うう~……いくら安心したからだといっても流石に恥ずかしいのぜ…)
魔理沙の表情はまさに恋する乙女の顔だった。
霖之助もどこかバツの悪そうな顔をしていた、彼の服の胸の部分は魔理沙の涙やら鼻水やら唾液やらでずぶ濡れだった。
(魔理沙を泣かせてしまうとは……兄貴分として情けない…不覚!)
恐らく彼は心の中で霧雨の親父さんに土下座をしてるだろう。
「ああ、ところで魔理沙?机に並んでる料理は食べていいのかな?」
「う、うん!食っていいのぜ!引き篭もりな香霖の為にこの私が作ってきた自信作だ!!!」
「一言余計だがありがたく頂くよ」
「本当のことを言っただけだぜ」
気まずい沈黙が居た堪れなくなり霖之助は話を逸らした。
魔理沙も『助かった』と思いながら普段の調子で返す事が出来た。
霖之助は食器棚から味噌汁と紅茶を入れる御椀とティーカップを取り出し、魔理沙も自分と霖之助の分のお箸を並べてゆく。
そして二人同時に食卓について挨拶をし、遅めの昼食を摂る。
「「いただきます」」
昼食を食べ終えれば霖之助は店間に戻らずそのまま居間で魔理沙とお茶を飲みながら会話に耽っていた、凍死寸前まで寒さに追い込まれた霖之助にはストーブも無しに店間に戻る気にはなれなかった。
「ミニ八卦炉を自分でストーブの代わりに使う羽目になるとは思わなかったよ」
「これ一つで冬は暖かく過ごせるんだ、良い物貰ったぜ!」
「夏なら涼しく過ごせる用途もあるんだがね」
「火炉なんだろ?だったら火を点けてこそのミニ八卦炉さ」
「やれやれ、これではこいつを使いこなすにはまだ時間掛かりそうだね…」
「私の【マスタースパーク】に貫けない物なんか無いぜ!!!」
「ミニ八卦炉の力はそれだけではない、文より速い風を起こしレティより冷たい冷気も出せるさ」
二人の間には先程の気まずさは無く、何時も通りの他愛も無い会話が繰り広げられていた。
――――――
「おや、話し込んでる内にもう夜みたいだね」
「あちゃー、雪もまた降ってきたぜ…」
「ふむ、ならこのまま泊まってくかい?寒い夜空は堪える物があるだろ」
「そう言って気使ってるつもりで本音はミニ八卦炉が目当てなんだろー?」
「そんなことは無い、いい酒が手に入ったから一緒に呑もうかと思ったが仕方ない。魔理沙が帰るなら僕一人で呑むしかない」
「香霖!今から私が良い酒の肴を作ってきてやるからちょっと待っとけよ?」
宵の入り、気が付けば辺りには夜の帆が降り雪がゆっくりと踊っていた。
霖之助と魔理沙はあれからずっと会話に夢中で時間が経ってる事に気付いていなかった。
「魔理沙が来てくれて本当に助かったな…」
台所で何か摘みを作っている魔理沙の後姿を眺めながら霖之助は呟く、やはりその表情は穏やかだった。
昔は包丁を握らせるのも危なっかしくて見てられなかったが今では慣れた手つきで食材を捌いてゆく、その姿に魔理沙の成長を感じた。
「魔理沙、僕は店仕舞いをしてくるから肴が出来たら先に食べててくれ」
あいよー、と魔理沙からの返事を聞きながら霖之助は立ち上がり店間に足を運ぶ。
扉に掛けた【商い中】の札を【閉店中】に変えて簡単に商品棚をチェックしていく、その時聞き覚えがある声が話しかけてきた。
「うふふふふ………私からのサービスはお気に召しましたか?」
「……何時も言ってる事だが扉から入ってきてくれないかい、紫?」
「あら、それはごめんなさい。【閉店中】と書かれてたので隙間でお邪魔させて頂きましたわ」
境界の妖怪・八雲紫。
彼女が現れただけで霖之助は一気に気が滅入った、それ程に彼はこの少女妖怪が苦手だった。
無礼だと承知の上で彼は溜息を盛大に吐くがそれすらも彼女は面白そうに眺める。
「確りと対価を払ったのに殺されかけたんだ、君に文句の一つでも言う権利くらいはあるだろうか?」
「ふふふ、そんなに眉間に皺を寄せた顔をしちゃ駄目ですわ。折角の美形が台無しですことよ?」
「話を逸らさないで貰いたいな、今なら本気で君に牙を向けられるんだがね…」
「おお怖い怖い、それなら本題に入りましょうかしら」
微塵も怖がる素振りを見せずに相変わらず胡散臭い笑みを浮かべながら紫は何も無い場所に扇子で線を引くと隙間を開いた、その隙間から赤いポリタンクが出てきた。
ストーブの燃料だと直ぐに分かった霖之助は手放しに喜ぶより警戒の色をより強くした。紫の真意を測りかねていた。
「燃料の追加です、そろそろ欲しい頃合かと思いまして用意いたしましたわ」
「それはありがたいが、それだけで君への疑念は晴れないんだがね」
「まぁ!それはなんて悲しいことでしょう、私は信用されてないのですね。およよ…」
バレバレの嘘泣きをしながら霖之助にしな垂れかかる紫に霖之助は驚く間も無く彼女を受け止めてしまった。
隙間を弄って急接近した事を推測したときには既に床に組み伏せられていた、痛みを感じなかったのもまた隙間を弄ったのだろう。
「もっと早めに贈れなくてごめんなさい、最近は外界でも石油は手に入れるのは結構難しいので思いの外、時間が掛かってしまいましたわ」
「その言葉を信用しろと?」
「うふふ、勿論、嘘です」
「ならば何故、今になって燃料を渡す気になったのかな?」
「最適な暖を満喫した様でしたのでもう宜しいかと思ったので」
言われて霖之助はハッとする、ストーブが使えなくとも暖かく過ごした時間を。
それすらも見通した少女妖怪の賢さに霖之助は完全に負かされた。
「生かさず殺さず、か。賢者様の策略には恐れ入る、確かに良い暖はとれたよ…」
「うふふ、お褒め預かり光栄ですわ」
「皮肉のつもりなんだ、しかし困ったね、燃料を受け取る為の対価が用意できてないんだが…」
「ご安心を、既に対価は受け取ってますわ……私も良い暖がとれてますもの、貴方という暖を…」
そう良いながら紫は更に霖之助に身体を密着させる、霖之助の視界に紫の顔だけが映っていた。
無抵抗の霖之助は拒否こそしなかったが顔には明確に嫌そうな表情が出てた、全身の体温が奪われてゆく感覚さえ覚えた。
紫は構わず更に身体を押し付けた、顔が触れ合うのもあと僅か。
「折角ですし、このまま貴方の唇も、心も頂いてしまおうかしら?」
「対価としてはもう充分だろう?これ以上はいくら君でも横暴さ」
「少しは動揺したり慌てたりしませんこと?私には女として魅力が無いのかしら?」
「奥に可愛い妹分が居なかったらまだ分からないがね……何より、寒いのさ」
「………本当に鈍感で無神経なお方ね、ならば少しばかりお仕置きしようかしら」
「紫っ!なにやってんだよ!?それ以上私の香霖に手を出すな!!!」
紫が霖之助に口付けをしようとする刹那、魔理沙の怒号が響いた。
魔理沙は手にミニ八卦炉を構え、今にも爆発寸前なまでに魔力を漂わせていた。
「あらら、貴女の大好きな霖之助さんが捕られるのに憤慨するのは分かるけどここでマスタースパークなんて撃って良いのかしら?」
「だったら直ぐに香霖から離れろ!直ぐにだ、でなきゃ撃つ!!!」
「……頼むから撃たないでくれよ……紫、もう退いてくれ」
紫は緩慢な動作で名残惜しそうに霖之助から離れた、霖之助も緩い動作で立ち上がりながら紫と距離を置く。
やはり心配なのか、それとも嫉妬か?魔理沙は直ぐに霖之助に駆け寄る。
「香霖大丈夫か!?紫に何かされなかったか!?!?」
「ああ、寧ろ君のお陰で無事で済んだ。ありがとう、今日は君に助けてもらってばかりだね」
「え、えへへへへ……まあ、私と香霖の仲だからこれ位はしてやらないとな…」
霖之助が魔理沙に礼を言い、魔理沙は照れくさそうに顔を赤くしていた。
紫はそんな二人を見やり、また何か企んだような胡散臭い笑みを浮かべる。
「ところで魔理沙、さっきどさくさに紛れて『私の香霖』だなんて言ってたわね~?」
「そ!それは!?」
「確かにそんなこと言ってたね、僕は魔理沙の所有物じゃないんだが…」
「『貴女の大好きな霖之助さん』と言ったら否定しなかったわね~?」
「まあ、魔理沙のブラコン意識は今に始まった訳じゃないがね」
「うわぁぁお前黙れ!この朴念仁!!気付いて欲しいけど気付くなぁ!!!」
「あべしっ!!!」
叩いた、勢い良く魔理沙は手に持っていたミニ八卦炉で霖之助の顔を殴った。
世紀末なやられ声を上げて倒れる霖之助を見て紫は、あら痛そうね、何て思いながら口にも顔にも出さなかった。
代わりに更なる追い討ちを紫は掛ける。
「ブラコン呼ばわりされてる様じゃ魔理沙もまだまだ大変ね」
「うっせ!いずれは私と同じ恋色に染めてやるさ!!!」
「あんまりのんびりしてる時間は無いわよ?同じ位置には霊夢が居るし」
「……あいつにだけは負けたくないのぜ…」
「なら頑張りなさいな、恋色魔法使いさん?」
折角、ここまでお膳立てしたのよ?
言いながら額からドクドクと血を垂れ流し床に突っ伏す霖之助を紫は起こしに掛かる。
霖之助に身体を寄せたのも、キスを迫ったのも魔理沙を後押しする為の紫の演技。
大事な場面で恥ずかしがって強がりを言う魔理沙に見かねてあえて、追い込む形で恋心を爆発させるのが紫の目論見だった。
そもそもが事の発端である石油を少なく渡してストーブを使わせなかった所から仕込んでいたのだった。
………紫自身も霖之助に好意を寄せてるがそれらを押し殺し、彼からの反感を承知の上で魔理沙に肩入れをしていた…。
「他にも咲夜やレミリアが彼の中で好印象ね」
「香霖の事を何も知らない奴らじゃ相手にならないぜ」
「妖夢や名無しの本読み妖怪が妹ポジションを奪っていきかねないし」
「そんときゃ、私は既に香霖の嫁になってるさ…多分…」
「旧知の好で文や幽香が一歩進んだ関係になってるかしら」
「付き合いの長さだったら私だって負けてない…はずだ…」
「旧地獄の妖怪の会話相手も楽しそうにしてたわ。あ、あと妖精達にはかなり甘いのよね」
「そんなに私の不安を煽って楽しいのかお前は!?」
「あら?良かった、霖之助さんが目覚めたわ」
「ううーん、僕は一体…」
霖之助は状況が分からず、何故額から血がダラダラと流れてるか思い出そうとしていた。
魔理沙が一人、悶々と悩むが紫はあえて無視して霖之助に話しかける。
「災難でしたわね、霖之助さん?まだ傷は痛みまして?」
「紫か…?僕はどうして頭から血を出してるんだい…?」
「覚えてないのですか?」
「ああ、全く理解不能だよ…」
「………本当に罪作りな方ですわ」
「…あの、紫?怒ってるのかい…?」
霖之助は本日、二度目の死ぬ予感がした。紫は綺麗な笑顔をしていたがこめかみには青筋が浮かんで何時もの胡散臭さは無かった。
(ヤバイ!何故か知らんが殺される!!!)
(私が嫌われる覚悟をしてまで布石を敷いたのにこの朴念仁も魔砲使いも…!!!)
(はっ!私の恋色香霖センサーが反応してる!紫が香霖を襲おうとしてる!!!)
三者三様で皆、考えることは違った。
霖之助は床に胡坐を組みながら冷や汗を流し、紫は猟奇的な目で霖之助を見下し、魔理沙は何時の間に復帰してミニ八卦炉を何時でも撃てる状態。
(……魔理沙には悪いけど私が先手を打たせて貰おうかしら)
そんな一触即発の空気で紫が最初に動いた、まだ魔理沙はミニ八卦炉を構えたままだ。
「とりあえず傷口を塞ぎましょ。霖之助さん、顔をこちらに向けて?境界を操れば直ぐに塞げますわ」
「あ、ああ……頼むよ…」
「…んむ…」
「んっ!?」
「なっ!?!?!?」
キスだ、ちゅーだ、口付けだ、マウストゥマウスだ。
霖之助は何が起きたか理解できず、魔理沙は口をパクパクさせていた。
紫は直ぐに離れたがその顔は魔理沙と同じく、恋する乙女の表情だった。
「ゆかりぃっ!お、おまえぇ!!!」
「うふふ、確かに傷口は塞ぎましたわ」
「……随分と刺激的な境界の弄り方だ…」
「香霖から離れろ!近寄るな!もう帰れよ!私だってまだしてないのに!!うわあぁぁん!!!」
「ひでぶっ!ま、魔理沙…苦しい…」
「それでは私はそろそろお暇しますわ、また訪れますわ。ごきげんよう、霖之助さん」
「もう二度と香霖に近寄るな!次ここにきたら殺す!!!」
癇癪を起こす魔理沙を尻目に霖之助に挨拶をし帰る為の隙間を開いてその中に半身を入れた所で動きを止めて魔理沙に話しかけた。
魔理沙は霖之助にしがみ付き、紫を睨み付けていた。半ベソで目尻に涙を浮かべて全然怖くないが。
「良いこと魔理沙?朴念仁の彼にはこれ位はしないと気付いて貰えないわ」
「…」
「…」
「何時までも妹ポジションで甘えてばかりではいずれは誰かに出し抜かれるわよ?」
「……そんなこと………分かってるぜ…」
「…頑張りなさい、恋色魔法使い。……そんな訳で霖之助さん?」
「……何かな…?」
「うふふ、私への気持ちの答え……魔理沙の寿命分は待ちますからその時にはちゃんと教えてくださいね?」
「覚えていたらね…」
「…」
「それでは、今度こそ帰りますわ。今月の末にでも燃料の補給に訪れますわ」
言うだけ言って紫は帰った。
後に残された魔理沙と霖之助はまた気まずい沈黙が満たされそうだが魔理沙がすぐに切り出した。
「香霖……私の気持ち、わかったよな…?」
「…ああ」
「……ずっと昔から好きだったんだぜ?この朴念仁……すっとこどっこい…」
「…気付かなくて悪かったと思うよ」
「小さい頃に言った事だけどもう一度言ってやろうか…大分、ハズいけど…」
「確か『大きくなったらこーりんのお嫁さんになる!』とか言ってたね」
「何でそんな事を覚えてるのに大事なことに気付けないんだよ!?」
「だから悪かったって……でも、僕はこの約束を信じて待ってたんだがね…」
「え?…それって…」
『大きくなったらこーりんのお嫁さんになる!』
霖之助は待っていた、魔理沙が大きくなって約束を果たせる時を。
「そんな子供の頃にした約束をまだ覚えててくれてるとは思わなかったぜ」
「僕は一時も忘れてなかったんだがね、君が覚えててくれて安心だよ」
「……えへへ、じゃあ香霖。約束通り、私を…香霖のお嫁さんにしてくれるか?」
「ふむ……2年、いや、5年はまだ後だな…」
「何だとー!約束を破るのかよ!?しかもこの空気で!!」
「そんなことはしないさ。只、君がまだ子供だからもう少し待つだけさ」
それだけ言うと魔理沙に反論を言わせる暇も与えず霖之助は魔理沙を抱きしめた、その早業に魔理沙は何が起きたか分からなかった。
だから今はこれで我慢してくれ、と言うと霖之助は魔理沙に口付けをした。
「……ん…」
「んん!?……んむ…」
かなり深くキスをした二人が口を離したときはお互いに銀の糸を引いていた…。
魔理沙は恥ずかしさに顔を背けるが霖之助は追い討ちを掛けるように彼女の耳元で言葉を掛ける。
「あ、あ…う、こ……こーりん…」
「好きだよ…僕の可愛い魔理沙……大好きだよ…」
「ひゃう!?……は、恥ずかしいよ………」
「ふふふ、恥ずかしがってる魔理沙も可愛いな」
「ふぇぇ!?!?ば、ばかぁ……も…やめ、て…」
「おや?もう良いのかい?まあ、魔理沙が嫌がるのならこれ以上は…」
「ぁ…」
「ん…何かな?」
「ぁ……あの…やめ、ないで……もっと…す、好きって言って…き…き、キス…して…」
魔理沙は完全に乙女になっていた、霖之助も火が点いていた。
「魔理沙…今までも、そしてこれからも君が愛おしい…」
「ぅ……うん…私も、大好き…」
そんな事を繰り返した二人は縁側でも仲睦まじく晩酌で盛り上がっていた。
二人の様子は友人の様であり、兄妹の様であり、恋人同士の様であり、夫婦の様だった。
結局、完全に亡我するまで呑んだ霖之助と魔理沙は片付けもおざなりに、昼間から引きっぱなしの居間の布団で二人一緒に寝てしまった。
愛する人という最高の暖でお互いに暖まりながら…。
今の二人は幻想郷で一番、暖かい冬を過ごしていた…。
翌朝、お茶を飲みに着た霊夢が同じ布団で眠る二人を見て大号泣したらしい…。
今回は大分季節外れではございますが冬の季節で魔理霖です、季節外れは本当に申し訳ありません。
保護者で兄貴分で面倒見がよくて甘やかし上手で鈍感な霖之助。
乙女で可愛い妹分で一途で甘え上手で健気な魔理沙。
そんな感じで甘めの魔理霖を目指して執筆しました、糖尿病に掛かるくらい甘いといいですね、魔理霖は。
皆様の糖分になれますように…。
それではどうぞごゆっくりとお楽しみください…。
「ううー寒い寒い……直ぐにでも温まりたいぜ…」
吹雪が荒れ狂い命の気配が絶えて行く冬の空、黒白の魔法使い・霧雨魔理沙は愛用の箒で空を飛ぶ。
赤いマフラーが風に靡いてカッコいいなと思いながら、目的地へ飛ぶ。
目的地は香霖堂、自分に魔法使いという夢を教えてくれた、半人半妖の古道具屋店主の元へ…。
魔砲使いと古道具屋店主の暖の取り方
箒に括り付けたバスケットと大き目の水筒が二つ、ぶら下げながら魔理沙は彼を想像する。
バスケットの中身は自慢の茸料理と御結び、水筒にはこれまた茸味噌汁と香ばしい紅茶。引き篭りがちでまともに食事を摂ろうとしない彼への差し入れだ。
(香霖は出不精だし寒いのが大の苦手だからな、だから冬の間はこうして私が面倒を見てやらなきゃな!確か、最後に香霖のところに行ったのは……三日前だったか…?)
自分の兄貴分が、何時ものカウンターで腰掛けて、本を読みながら、ストーブの恩恵でぬくぬくしてる、その姿が容易に想像ついた。
こうして自分が甲斐甲斐しく大雪の中会いに行っても
『雪を払ってから入りなさい』
『冷やかしなら出口はそちらだ、帰れ』
『いい加減に借りていったものを返せ』
とか言ってまともに構ってくれないのも容易に想像ついた……が、直ぐに忘れる事にする。いくら彼でもこんなに寒い思いをしてでも会いにきてくれた少女にそんなに無情な対応はしないと。
ましてや、昔馴染みの自分なら少しは優しく対応してくれると。
(でも……香霖にとっては私はずっと[霧雨のお嬢様]なんだよなぁ…)
自分の予想と妄想の空しさに魔理沙は落ち込む。
(やっぱ香霖にとって私は妹みたいにしか見えないのか…)
魔理沙には霖之助が自分に遠慮してる様にしか見えない、そうとしか感じなかった。
(あいつの朴念仁は今に始まった訳じゃ無いけど…でも、これだけしてれば少しは気付いてくれても良いのに…)
毎日の様に香霖堂に訪れるのは霖之助に会いたいから、新しい魔法を開発したら直ぐに霖之助に自慢するのも彼に褒めて欲しいから。
(恋色魔法使いが自分の恋を成就出来ないなんて…香霖も本当に罪な男だぜ…)
霧雨魔理沙は恋をしてる、ずっと昔から…。
自分に魔法使いと言う夢を教えてくれた男に。小さな頃から傍に居て何かと面倒を見てくれた男に。
口を開けば長ったらしい薀蓄ばかりで、無愛想で、宴会に誘っても来なくて……でも本当は優しくてカッコよくて賢くて頼りになる、憧れる古道具屋店主に。
霧雨魔理沙は恋をしてる、古道具屋・香霖堂の半人半妖店主、森近霖之助に。
――――――
「寒い……ストーブが使えない冬がこんなに寒いとは…」
香霖堂の店内、店主の森近霖之助はカウンター席で寒さに凍えていた。全身がガクガクと震え、吐く息は白く。
冬の香霖堂はストーブで暖まりながら読書をするのが通常、雪見で酒を呑むのが平常である。しかし、今日の香霖堂はそんな通常とも平常とも違っていた。
動かないストーブ言う異常に苛まれていた…。
ストーブはうんともすんとも言わず、動くことなく只々静かにそこに在るだけ。
ストーブが動かないのは燃料が無いからだ、こればかりはどうしようもない。
初冬のうちに冬眠前の妖怪の賢者が取引で確かに燃料をくれた、対価は相変わらず理不尽で意味不明だったが…。
未開封のPSP-1000、こち亀初版、日本万国博覧会記念切手、ビリーズブートキャンプ入隊編、その他諸々…。
…どれもが霖之助にはどれほどの価値があるかは見出せなかった。
寧ろ、気にすべきは紫が言った言葉だった。
『ウフフ……今年も良い取引ですわ、ありがとうございます。霖之助さん』
『それは何より。妖怪の賢者から礼を言われるとは、古道具屋として光栄の極みだよ…』
『ですから今年は少し、サービスをさせて頂きますわ……暖をとるのに最適の方法で、ね…』
そんな会話のやり取りで霖之助が紫と会ったのはそれが最後だった、少量の燃料を受け取って。
(今にして思えば……あの台詞はきっとフラグだったんだな…)
一度冬眠した紫は来店の頻度が極端に減る、せいぜい一月に一度だけの燃料の確認くらいだ。しかし今年の冬はあれ以来、一度も霖之助は紫と会っていない。
故に、少量の燃料を補給してもらう事が出来ないでいた。ストーブ以外の火炉を持っていない霖之助はそれが動かない以上、完全にお手上げで紫に情けを施してもらう以外に暖をとる方法が無い。
(紫の言うとおり、今年の冬は確かに良い暖をとれた…)
どう言う訳か、今年は冬になっても霊夢と魔理沙は香霖堂へ通い詰めだった。
ツケは全く払う気は見せない上に勝手にお茶を飲んだり黙って店の商品を持っていく二人だがやはり可愛い妹分、例えストーブの温もりと家の食料が目当てでも余り強く言って追い返す気にはなれない。
寧ろ、少量の燃料であろうと出し惜しみなどせず
『風邪を引くといけないだろ』
なんて言ってケチらずにストーブを焚いていた。
こうも寒いと霊夢と魔理沙に纏わりつかれる日々が暖かい物だと思い知らされる。
(もしそうなら確かに僕は今年は暖かい冬を過ごしていただろう…)
なんて思うほどに霖之助は寒さで思考が弱気になっていた、平素なら思いつかない思考だ。
その弱気が新たな疑念を抱かせた、だが今の彼ならこの疑念は恐怖へと膨れ上がる…。
ストーブで暖かく過ごせるのも…
あの子達と穏やかな日々を過ごせるのも…
好きな道具に囲まれながら暮らせるのも…
外界に思いを馳せながら幻想郷で生きていけるのも……
『私のお陰よ。感謝してくださいね、霖之助さん?』
「っ!!??」
一瞬、霖之助は紫の声を聞いた気がした。勿論、気がしただけで実際に聞いた訳ではない。
しかし、気のせいにしては恐怖感が強すぎた。霖之助は紫への畏怖を改めるには充分過ぎるほどに…。
燃料を口実に尊敬と畏怖を高める為なら…
外界の道具を触れる事の引き換えに監視下に入るなら…
草薙と言う幻想郷を滅ぼしかねない神器を所持させる代わりに屈服する事を要求してるなら…
霧雨の魔法使いに施したミニ八卦炉と博麗の巫女の衣服を製作する知識力と技術力を容認する代わりに隷属させたいなら…
全てが紫の思惑通りなら
(駄目だ……悪い方向に考えすぎだ…これ以上は止そう…)
確かな証拠が在る訳でない、第一にあの胡散臭い妖怪の賢者の知能はどう足掻いてもしがない半妖には計り知れない。彼はそう結論付ける事で思考を放棄した、今年の冬はこれ以上紫から燃料を貰えないと落胆しながら…。
無縁塚に供養という仕入れに赴いていない以上、彼女と取引出来る商品は無い。
常連二人のようにツケが出来る相手とは思えない、出来たとしても後が怖い。
ならばもうストーブを諦めるしかなかった…。
「絶望した…ストーブが使えない冬に絶望した…ストーブを使わせない紫に絶望した…」
霖之助は戦慄した、冬を火炉を無しに過ごす事に。ここで自分を亡き者にしようとする紫の知略に。
以前使ってた火炉はミニ八卦炉として魔理沙に贈ってしまった以上、手元に火炉は無い…。
非情な現実的未来を認識した瞬間、霖之助は虚無感に見舞われた。自分の全身から力が抜け落ちて逝くのが感じた、意識にも靄が掛かってきた…。
これだけ寒い部屋で寝れば風邪を引くだけですまない、最悪死んでしまいかねない。いくら半分が妖怪といっても半分が人間である以上、案外間抜けな死に方をする可能性だってある。
しかし鉛のように身体が重くてだるい彼には動こうとする気力は微塵も無かった…。
(眠い……まさ、か………じ…の、み……とう、しす…)
「お…!こー……お、てる…か!いき……!ね、な!…」
誰か知った声が聞こえる気がする、なんて思い霖之助は意識を手放した。
――――――
いつの間にか雪は止んでいた、今は丁度お昼時なのか太陽の陽光が燦々と積もった雪を溶かすように照らす。
居間に敷かれた布団の中で霖之助は目を覚ました、不思議なことに先程まで感じた寒さは感じられなかった。
(てっきり自分の店で凍死するかと思ったがどうやら僕は生きているようだ…)
最初は夢かと思ったが余りに見慣れた自分の住まい、テーブルの上に誰かが用意したであろう茸料理の食欲が滾る匂い。夢と切り捨てるにはリアリティが過ぎた。
(死ぬかと思ったが……やっぱりこの子のお陰で助かったんだな…)
およそ彼らしからぬ穏やかな笑顔を浮かべて霖之助はそっと彼女の頭を撫でた。『ありがとう』、と言いながら。
布団の中には霖之助に抱きつき、すやすやと気持ち良さそうに眠る魔理沙がいた。
恐らく意識を失う瞬間に聞こえた少女の声は魔理沙だったのだろう、と霖之助は分かった。
凍死寸前の霖之助を部屋まで運んで布団に寝かせ、ミニ八卦炉の火で部屋を暖めてくれた様だった。
茸料理は昼食の差し入れと察しをつける、そこで魔理沙は目を覚ましたようだ…。
「…んぁ…?こー、りん……?」
「やあ、おはよう魔理沙。それともこんにちはかな?」
「寝起きの挨拶はおはようだぜ……ふぁー…って香霖大丈夫かよ!?」
霖之助としては爽やかな挨拶をしたつもりだがどうやら魔理沙には不評のようだった、魔理沙の驚愕に染まったその顔に霖之助は少なからずショックを受けた。
やはり自分には笑顔だなんて似合わない、と教えられた気分で霖之助は泣きそうになるが泣けなかった。代わりに魔理沙が泣いていたからだ。
「うう、ぐすっ……香霖…」
「ま、魔理沙!?何で泣いてるんだい?……そんなに僕は君に悪い事をしてしまったかい?」
「だっでぇ、えぐ!ごーりんがどうじずるがどおもっだんだもん!!」
「なに言ってるかよく聞き取れないが……ごめんよ、魔理沙…」
「えぇーんごーりんのばがぁ!いぎででよがっだよぉ…!」
「だから何を言ってるか分からないが………一応、礼を言っとくよ。ありがとう、魔理沙…。君のお陰で助かったよ」
霖之助はずっと困った顔をしながらも突き放したりせずそっと頭を撫でながら優しい声であやし続けた。
魔理沙は霖之助の胸で泣き晴らした、普段の彼女とは思えぬ程泣きじゃくり声を押し殺したりもせず。
結局、魔理沙が泣き止むまで暫く時間が掛かったが何とか魔理沙は落ち着いたようだ。
魔理沙の顔は涙の痕が残り、顔もまだ赤い。
(うう~……いくら安心したからだといっても流石に恥ずかしいのぜ…)
魔理沙の表情はまさに恋する乙女の顔だった。
霖之助もどこかバツの悪そうな顔をしていた、彼の服の胸の部分は魔理沙の涙やら鼻水やら唾液やらでずぶ濡れだった。
(魔理沙を泣かせてしまうとは……兄貴分として情けない…不覚!)
恐らく彼は心の中で霧雨の親父さんに土下座をしてるだろう。
「ああ、ところで魔理沙?机に並んでる料理は食べていいのかな?」
「う、うん!食っていいのぜ!引き篭もりな香霖の為にこの私が作ってきた自信作だ!!!」
「一言余計だがありがたく頂くよ」
「本当のことを言っただけだぜ」
気まずい沈黙が居た堪れなくなり霖之助は話を逸らした。
魔理沙も『助かった』と思いながら普段の調子で返す事が出来た。
霖之助は食器棚から味噌汁と紅茶を入れる御椀とティーカップを取り出し、魔理沙も自分と霖之助の分のお箸を並べてゆく。
そして二人同時に食卓について挨拶をし、遅めの昼食を摂る。
「「いただきます」」
昼食を食べ終えれば霖之助は店間に戻らずそのまま居間で魔理沙とお茶を飲みながら会話に耽っていた、凍死寸前まで寒さに追い込まれた霖之助にはストーブも無しに店間に戻る気にはなれなかった。
「ミニ八卦炉を自分でストーブの代わりに使う羽目になるとは思わなかったよ」
「これ一つで冬は暖かく過ごせるんだ、良い物貰ったぜ!」
「夏なら涼しく過ごせる用途もあるんだがね」
「火炉なんだろ?だったら火を点けてこそのミニ八卦炉さ」
「やれやれ、これではこいつを使いこなすにはまだ時間掛かりそうだね…」
「私の【マスタースパーク】に貫けない物なんか無いぜ!!!」
「ミニ八卦炉の力はそれだけではない、文より速い風を起こしレティより冷たい冷気も出せるさ」
二人の間には先程の気まずさは無く、何時も通りの他愛も無い会話が繰り広げられていた。
――――――
「おや、話し込んでる内にもう夜みたいだね」
「あちゃー、雪もまた降ってきたぜ…」
「ふむ、ならこのまま泊まってくかい?寒い夜空は堪える物があるだろ」
「そう言って気使ってるつもりで本音はミニ八卦炉が目当てなんだろー?」
「そんなことは無い、いい酒が手に入ったから一緒に呑もうかと思ったが仕方ない。魔理沙が帰るなら僕一人で呑むしかない」
「香霖!今から私が良い酒の肴を作ってきてやるからちょっと待っとけよ?」
宵の入り、気が付けば辺りには夜の帆が降り雪がゆっくりと踊っていた。
霖之助と魔理沙はあれからずっと会話に夢中で時間が経ってる事に気付いていなかった。
「魔理沙が来てくれて本当に助かったな…」
台所で何か摘みを作っている魔理沙の後姿を眺めながら霖之助は呟く、やはりその表情は穏やかだった。
昔は包丁を握らせるのも危なっかしくて見てられなかったが今では慣れた手つきで食材を捌いてゆく、その姿に魔理沙の成長を感じた。
「魔理沙、僕は店仕舞いをしてくるから肴が出来たら先に食べててくれ」
あいよー、と魔理沙からの返事を聞きながら霖之助は立ち上がり店間に足を運ぶ。
扉に掛けた【商い中】の札を【閉店中】に変えて簡単に商品棚をチェックしていく、その時聞き覚えがある声が話しかけてきた。
「うふふふふ………私からのサービスはお気に召しましたか?」
「……何時も言ってる事だが扉から入ってきてくれないかい、紫?」
「あら、それはごめんなさい。【閉店中】と書かれてたので隙間でお邪魔させて頂きましたわ」
境界の妖怪・八雲紫。
彼女が現れただけで霖之助は一気に気が滅入った、それ程に彼はこの少女妖怪が苦手だった。
無礼だと承知の上で彼は溜息を盛大に吐くがそれすらも彼女は面白そうに眺める。
「確りと対価を払ったのに殺されかけたんだ、君に文句の一つでも言う権利くらいはあるだろうか?」
「ふふふ、そんなに眉間に皺を寄せた顔をしちゃ駄目ですわ。折角の美形が台無しですことよ?」
「話を逸らさないで貰いたいな、今なら本気で君に牙を向けられるんだがね…」
「おお怖い怖い、それなら本題に入りましょうかしら」
微塵も怖がる素振りを見せずに相変わらず胡散臭い笑みを浮かべながら紫は何も無い場所に扇子で線を引くと隙間を開いた、その隙間から赤いポリタンクが出てきた。
ストーブの燃料だと直ぐに分かった霖之助は手放しに喜ぶより警戒の色をより強くした。紫の真意を測りかねていた。
「燃料の追加です、そろそろ欲しい頃合かと思いまして用意いたしましたわ」
「それはありがたいが、それだけで君への疑念は晴れないんだがね」
「まぁ!それはなんて悲しいことでしょう、私は信用されてないのですね。およよ…」
バレバレの嘘泣きをしながら霖之助にしな垂れかかる紫に霖之助は驚く間も無く彼女を受け止めてしまった。
隙間を弄って急接近した事を推測したときには既に床に組み伏せられていた、痛みを感じなかったのもまた隙間を弄ったのだろう。
「もっと早めに贈れなくてごめんなさい、最近は外界でも石油は手に入れるのは結構難しいので思いの外、時間が掛かってしまいましたわ」
「その言葉を信用しろと?」
「うふふ、勿論、嘘です」
「ならば何故、今になって燃料を渡す気になったのかな?」
「最適な暖を満喫した様でしたのでもう宜しいかと思ったので」
言われて霖之助はハッとする、ストーブが使えなくとも暖かく過ごした時間を。
それすらも見通した少女妖怪の賢さに霖之助は完全に負かされた。
「生かさず殺さず、か。賢者様の策略には恐れ入る、確かに良い暖はとれたよ…」
「うふふ、お褒め預かり光栄ですわ」
「皮肉のつもりなんだ、しかし困ったね、燃料を受け取る為の対価が用意できてないんだが…」
「ご安心を、既に対価は受け取ってますわ……私も良い暖がとれてますもの、貴方という暖を…」
そう良いながら紫は更に霖之助に身体を密着させる、霖之助の視界に紫の顔だけが映っていた。
無抵抗の霖之助は拒否こそしなかったが顔には明確に嫌そうな表情が出てた、全身の体温が奪われてゆく感覚さえ覚えた。
紫は構わず更に身体を押し付けた、顔が触れ合うのもあと僅か。
「折角ですし、このまま貴方の唇も、心も頂いてしまおうかしら?」
「対価としてはもう充分だろう?これ以上はいくら君でも横暴さ」
「少しは動揺したり慌てたりしませんこと?私には女として魅力が無いのかしら?」
「奥に可愛い妹分が居なかったらまだ分からないがね……何より、寒いのさ」
「………本当に鈍感で無神経なお方ね、ならば少しばかりお仕置きしようかしら」
「紫っ!なにやってんだよ!?それ以上私の香霖に手を出すな!!!」
紫が霖之助に口付けをしようとする刹那、魔理沙の怒号が響いた。
魔理沙は手にミニ八卦炉を構え、今にも爆発寸前なまでに魔力を漂わせていた。
「あらら、貴女の大好きな霖之助さんが捕られるのに憤慨するのは分かるけどここでマスタースパークなんて撃って良いのかしら?」
「だったら直ぐに香霖から離れろ!直ぐにだ、でなきゃ撃つ!!!」
「……頼むから撃たないでくれよ……紫、もう退いてくれ」
紫は緩慢な動作で名残惜しそうに霖之助から離れた、霖之助も緩い動作で立ち上がりながら紫と距離を置く。
やはり心配なのか、それとも嫉妬か?魔理沙は直ぐに霖之助に駆け寄る。
「香霖大丈夫か!?紫に何かされなかったか!?!?」
「ああ、寧ろ君のお陰で無事で済んだ。ありがとう、今日は君に助けてもらってばかりだね」
「え、えへへへへ……まあ、私と香霖の仲だからこれ位はしてやらないとな…」
霖之助が魔理沙に礼を言い、魔理沙は照れくさそうに顔を赤くしていた。
紫はそんな二人を見やり、また何か企んだような胡散臭い笑みを浮かべる。
「ところで魔理沙、さっきどさくさに紛れて『私の香霖』だなんて言ってたわね~?」
「そ!それは!?」
「確かにそんなこと言ってたね、僕は魔理沙の所有物じゃないんだが…」
「『貴女の大好きな霖之助さん』と言ったら否定しなかったわね~?」
「まあ、魔理沙のブラコン意識は今に始まった訳じゃないがね」
「うわぁぁお前黙れ!この朴念仁!!気付いて欲しいけど気付くなぁ!!!」
「あべしっ!!!」
叩いた、勢い良く魔理沙は手に持っていたミニ八卦炉で霖之助の顔を殴った。
世紀末なやられ声を上げて倒れる霖之助を見て紫は、あら痛そうね、何て思いながら口にも顔にも出さなかった。
代わりに更なる追い討ちを紫は掛ける。
「ブラコン呼ばわりされてる様じゃ魔理沙もまだまだ大変ね」
「うっせ!いずれは私と同じ恋色に染めてやるさ!!!」
「あんまりのんびりしてる時間は無いわよ?同じ位置には霊夢が居るし」
「……あいつにだけは負けたくないのぜ…」
「なら頑張りなさいな、恋色魔法使いさん?」
折角、ここまでお膳立てしたのよ?
言いながら額からドクドクと血を垂れ流し床に突っ伏す霖之助を紫は起こしに掛かる。
霖之助に身体を寄せたのも、キスを迫ったのも魔理沙を後押しする為の紫の演技。
大事な場面で恥ずかしがって強がりを言う魔理沙に見かねてあえて、追い込む形で恋心を爆発させるのが紫の目論見だった。
そもそもが事の発端である石油を少なく渡してストーブを使わせなかった所から仕込んでいたのだった。
………紫自身も霖之助に好意を寄せてるがそれらを押し殺し、彼からの反感を承知の上で魔理沙に肩入れをしていた…。
「他にも咲夜やレミリアが彼の中で好印象ね」
「香霖の事を何も知らない奴らじゃ相手にならないぜ」
「妖夢や名無しの本読み妖怪が妹ポジションを奪っていきかねないし」
「そんときゃ、私は既に香霖の嫁になってるさ…多分…」
「旧知の好で文や幽香が一歩進んだ関係になってるかしら」
「付き合いの長さだったら私だって負けてない…はずだ…」
「旧地獄の妖怪の会話相手も楽しそうにしてたわ。あ、あと妖精達にはかなり甘いのよね」
「そんなに私の不安を煽って楽しいのかお前は!?」
「あら?良かった、霖之助さんが目覚めたわ」
「ううーん、僕は一体…」
霖之助は状況が分からず、何故額から血がダラダラと流れてるか思い出そうとしていた。
魔理沙が一人、悶々と悩むが紫はあえて無視して霖之助に話しかける。
「災難でしたわね、霖之助さん?まだ傷は痛みまして?」
「紫か…?僕はどうして頭から血を出してるんだい…?」
「覚えてないのですか?」
「ああ、全く理解不能だよ…」
「………本当に罪作りな方ですわ」
「…あの、紫?怒ってるのかい…?」
霖之助は本日、二度目の死ぬ予感がした。紫は綺麗な笑顔をしていたがこめかみには青筋が浮かんで何時もの胡散臭さは無かった。
(ヤバイ!何故か知らんが殺される!!!)
(私が嫌われる覚悟をしてまで布石を敷いたのにこの朴念仁も魔砲使いも…!!!)
(はっ!私の恋色香霖センサーが反応してる!紫が香霖を襲おうとしてる!!!)
三者三様で皆、考えることは違った。
霖之助は床に胡坐を組みながら冷や汗を流し、紫は猟奇的な目で霖之助を見下し、魔理沙は何時の間に復帰してミニ八卦炉を何時でも撃てる状態。
(……魔理沙には悪いけど私が先手を打たせて貰おうかしら)
そんな一触即発の空気で紫が最初に動いた、まだ魔理沙はミニ八卦炉を構えたままだ。
「とりあえず傷口を塞ぎましょ。霖之助さん、顔をこちらに向けて?境界を操れば直ぐに塞げますわ」
「あ、ああ……頼むよ…」
「…んむ…」
「んっ!?」
「なっ!?!?!?」
キスだ、ちゅーだ、口付けだ、マウストゥマウスだ。
霖之助は何が起きたか理解できず、魔理沙は口をパクパクさせていた。
紫は直ぐに離れたがその顔は魔理沙と同じく、恋する乙女の表情だった。
「ゆかりぃっ!お、おまえぇ!!!」
「うふふ、確かに傷口は塞ぎましたわ」
「……随分と刺激的な境界の弄り方だ…」
「香霖から離れろ!近寄るな!もう帰れよ!私だってまだしてないのに!!うわあぁぁん!!!」
「ひでぶっ!ま、魔理沙…苦しい…」
「それでは私はそろそろお暇しますわ、また訪れますわ。ごきげんよう、霖之助さん」
「もう二度と香霖に近寄るな!次ここにきたら殺す!!!」
癇癪を起こす魔理沙を尻目に霖之助に挨拶をし帰る為の隙間を開いてその中に半身を入れた所で動きを止めて魔理沙に話しかけた。
魔理沙は霖之助にしがみ付き、紫を睨み付けていた。半ベソで目尻に涙を浮かべて全然怖くないが。
「良いこと魔理沙?朴念仁の彼にはこれ位はしないと気付いて貰えないわ」
「…」
「…」
「何時までも妹ポジションで甘えてばかりではいずれは誰かに出し抜かれるわよ?」
「……そんなこと………分かってるぜ…」
「…頑張りなさい、恋色魔法使い。……そんな訳で霖之助さん?」
「……何かな…?」
「うふふ、私への気持ちの答え……魔理沙の寿命分は待ちますからその時にはちゃんと教えてくださいね?」
「覚えていたらね…」
「…」
「それでは、今度こそ帰りますわ。今月の末にでも燃料の補給に訪れますわ」
言うだけ言って紫は帰った。
後に残された魔理沙と霖之助はまた気まずい沈黙が満たされそうだが魔理沙がすぐに切り出した。
「香霖……私の気持ち、わかったよな…?」
「…ああ」
「……ずっと昔から好きだったんだぜ?この朴念仁……すっとこどっこい…」
「…気付かなくて悪かったと思うよ」
「小さい頃に言った事だけどもう一度言ってやろうか…大分、ハズいけど…」
「確か『大きくなったらこーりんのお嫁さんになる!』とか言ってたね」
「何でそんな事を覚えてるのに大事なことに気付けないんだよ!?」
「だから悪かったって……でも、僕はこの約束を信じて待ってたんだがね…」
「え?…それって…」
『大きくなったらこーりんのお嫁さんになる!』
霖之助は待っていた、魔理沙が大きくなって約束を果たせる時を。
「そんな子供の頃にした約束をまだ覚えててくれてるとは思わなかったぜ」
「僕は一時も忘れてなかったんだがね、君が覚えててくれて安心だよ」
「……えへへ、じゃあ香霖。約束通り、私を…香霖のお嫁さんにしてくれるか?」
「ふむ……2年、いや、5年はまだ後だな…」
「何だとー!約束を破るのかよ!?しかもこの空気で!!」
「そんなことはしないさ。只、君がまだ子供だからもう少し待つだけさ」
それだけ言うと魔理沙に反論を言わせる暇も与えず霖之助は魔理沙を抱きしめた、その早業に魔理沙は何が起きたか分からなかった。
だから今はこれで我慢してくれ、と言うと霖之助は魔理沙に口付けをした。
「……ん…」
「んん!?……んむ…」
かなり深くキスをした二人が口を離したときはお互いに銀の糸を引いていた…。
魔理沙は恥ずかしさに顔を背けるが霖之助は追い討ちを掛けるように彼女の耳元で言葉を掛ける。
「あ、あ…う、こ……こーりん…」
「好きだよ…僕の可愛い魔理沙……大好きだよ…」
「ひゃう!?……は、恥ずかしいよ………」
「ふふふ、恥ずかしがってる魔理沙も可愛いな」
「ふぇぇ!?!?ば、ばかぁ……も…やめ、て…」
「おや?もう良いのかい?まあ、魔理沙が嫌がるのならこれ以上は…」
「ぁ…」
「ん…何かな?」
「ぁ……あの…やめ、ないで……もっと…す、好きって言って…き…き、キス…して…」
魔理沙は完全に乙女になっていた、霖之助も火が点いていた。
「魔理沙…今までも、そしてこれからも君が愛おしい…」
「ぅ……うん…私も、大好き…」
そんな事を繰り返した二人は縁側でも仲睦まじく晩酌で盛り上がっていた。
二人の様子は友人の様であり、兄妹の様であり、恋人同士の様であり、夫婦の様だった。
結局、完全に亡我するまで呑んだ霖之助と魔理沙は片付けもおざなりに、昼間から引きっぱなしの居間の布団で二人一緒に寝てしまった。
愛する人という最高の暖でお互いに暖まりながら…。
今の二人は幻想郷で一番、暖かい冬を過ごしていた…。
翌朝、お茶を飲みに着た霊夢が同じ布団で眠る二人を見て大号泣したらしい…。
魔理沙の敵は多いですなぁ。
いやはやお熱いねぇ…
甘くてよかったと思いマスヨ?
そして霊夢は救われないのですか?(チラッ
さらに紫様のキラーパスがなんとも言えない味を出している!
つまり、何が言いたいかというと... あなたが神k(ゴパァッ.:*砂糖